DIATONE 2S-3003
MONITOR SPEAKER SYSTEM ¥1,500,000
1990年に,ダイヤトーン(三菱電機)が発売したスピーカーシステム。三菱電機は,1958年に
NHKとの共同開発で放送局用モニタースピーカーの名器2S-305を発売し,そのすぐれた性能
で高い評価を受け,ロングセラーモデルとなりました。その後継機として登場した新世代のモニ
タースピーカーが2S-3003でした。

2S-305は,放送局用としては,パワーアンプ組み込みのアクティブ型として主に納入され,第1
世代のAS3001,第2世代のAS3002,第3世代のAS3002Nへと進化し,2S-305の基本設
計を忠実に継承しながら30年以上の間,放送局用モニタースピーカーとして現役を続けてきまし
た。放送局も当初はAMラジオ放送,そしてテレビ放送用(FM音声)のモニタースピーカーとして
使用していました。しかし,時代の変遷とともに,衛星放送,ハイビジョン放送と,2S-305開発当
時の音声スペックの要求を超える音声周波数帯域が用いられるようになってきました。そこで,新
しい時代のテレビ放送音声の検聴用マスターモニターとして開発されたのが2S-3003でした。

2S-3003は,その型番3003が示すとおり,2S-305系の業務用機AS3002Nの後継機とい
ったスピーカーシステムでした。それだけに,放送局等の現場では,2S-305系モニターと置き換
え,あるいは併用した際に違和感なく使用できることが設計上の大きなポイントとなっていました。
そのために,2S-305のサイズ,2ウェイというユニット構成,バスレフ型というエンクロージャー方
式等を踏襲した形をとりつつ,当時のダイヤトーンの最新のスピーカー技術を用いて各部の高性
能化が図られたという設計でした。

2S-3003の基本的な設計の考え方は,低域ユニットがウーファーというよりも,よりワイドレンジ
化された中域ユニット,大型のスコーカーといった形になっており,ワイドレンジ化された低域側ユ
ニットを中心にバスレフレックスによる低域の補強と,トゥイーターを加えることでフルレンジ再生
を行うというものでした。さらに,低域側ユニットの減衰はメカニカルにコントロールし,ネットワー
クは,高域側にバイパスフィルターが挿入されるのみで,低域側ユニットはパワーアンプに対して
直結駆動されるという,シンプルな構成となっていました。こうした構成は,2S-305と同じ独特の
ものでした。これは,放送局用モニターとして,最も重要なソースである人間の声の帯域にクロス
オーバーを入れず,1個のユニットに受け持たせるという考え方にもとづくものでした。こうした構
成の上で,デジタルソースに対応するために,再生周波数帯域の拡大と高耐入力化による出力
音圧レベルの増大,低歪化を実現することを課題として開発されていました。
実際に,前モデルにあたるAS3002Nと比較すると,2S-3003は,再生周波数帯域では,50Hz
~15kHz→39Hz~30kHzにワイドレンジ化し,最大出力音圧レベルでは,96dB/W/m,最
大入力100Wで116dB→94dB/W/m,最大入力300Wで119dBとなり,高調波歪は,1/3
-10dBの低歪化を実現していました。
ユニット構成は,2S-305と非常によく似ていて,32cm口径のコーン型ユニットと5cm口径の
コーン型ユニットによるオールコーン型の2ウェイ構成となっていました。



32cm口径の低域側ユニットは,2S-305のパルプコーンに対して,スキン材に3軸織アラミッド
を用いたハニカム振動板を採用し,エッジにも3軸織を採用していました。3軸織は,NASAの宇
宙開発計画の中で,スペースカプセルの帰還用パラシュート布のために開発された織物技術で
通常の織物の2軸織に対して,方向性に対する強度のムラがなく,振動板やエッジの高性能化
につながる技術でした。アラミッド繊維は,芳香族ポリアミド系の繊維で,高強度,高弾性の性質
と低密度と適度の内部損失を兼ね備えており,航空宇宙関係の材料として注目されているもの
で,3軸織とすることでよりすぐれた性質を実現し,この3軸織アラミッド繊維によるスキン材で剛
性が高く軽量なハニカムコアをサンドイッチした構造で,高い性能の振動板を構成し,分割振動
を抑制し,歪が少なくすぐれたレスポンスの再生を可能にしていました。
また,このユニットの特徴として,コーン中心のセンタードーム部が省かれていることがありまし
た。コーン中心部の黒いドーム状の部分はメッシュになったダストキャップでした。こうした構造
は,高域の減衰を素直にするためのもので,ネットワークから低域ユニット用のローパスフィル
ターを省略することが可能となっていました。これは,2S-305以来の構造でした。さらに,フ
レームにはフェルト等が貼られており,共振等を抑えS/Nの向上がはかられていました。

磁気回路は,アルニコマグネットを使用した内磁型で,磁気ギャップ内にボイスコイルが収まる
ショートボイスコイルの構造となっていました。これは,2S-305から引き続き採用されていまし
た。さらに,磁気回路内の磁束変動に着目した解析をもとに,交流磁束の抑制と交流磁界の制
御を行うA.D.M.C.-m(Advanced Magnet Circuit-music)を搭載し,交流磁束による歪の
低減と大振幅時のボイスコイルに対する動作中点を明確化してクリアで立上りの速い再生を実
現していました。



高域側ユニットは,5cm口径のコーン型で,2S-305がパルプコーンであったのに対し,ダイヤ
トーン独自のB4C振動板が採用されていました。B4C(ピュアボロン=炭化ホウ素)は,軍用の
装甲にも使われるほど剛性の高い素材で,チタンの5倍という結晶ダイヤモンドに次ぐ高い比弾
性率を有し,11,000m/secという高い音速を実現しつつ,ポーラス(多孔質)構造により,内部
損失は0.01と,チタンやベリリウムなどより1桁大きい値となっていました。しかし,B4Cは非常
に高融点であるため,従来,ドーム状やコーン状に成形することが非常に困難でした。ダイヤトー
ンは,プラズマ溶射法と高精度コンピュータ制御ロボットの導入により,1/100mm精度の均一膜
の製造を可能とし,ピュアボロンのコーン型振動板を実現していました。高域再生限界周波数は,
軸上で約40kHzにまで拡大されていました。



エンクロージャーは,内容積140Lのバスレフ型で,2S-305よりもやや小型化され,回析効果
をやわらげるラウンドバッフルも継承されていました。140Lのエンクロージャーに対して39Hzと
いう設計値でバスレフポートがチューニングされ,ポート部は,積層材をくりぬいた楕円に近い形
状で,大きめの断面積に対して奥行きは浅めに設定されており,ポート内部は空気の流れを考
慮したきわめて滑らかな仕上げになっていました。
フロントバッフルは38mm厚で,シベリア産カラ松合板,リアバッフルは30mm厚で,シトカスプ
ルースのランバーコア,その他の面は24mm厚で,ラワン合板が使用されていました。フロント
バッフルのラウンド部分には,マホガニーのムク材が使用され,エンクロージャーの剛性を高め
るとともに,共振をコントロールしていました。
不要な輻射を抑え,S/N感の向上と2つのユニット間の干渉を防ぐために,高域側ユニットの回
りには合成皮革が貼られ,低域側ユニットのフレーム上部にはマイクロドームスト称する称突起
が設けられていました。また,ユニット取付ボルトはチタン製で,その頭には,S/N向上のために
ゴムカバーがかぶせられていました。




リアバッフルも,滑らかで美しい木目仕上げが施され,入力端子は,業務用として不用意にケーブ
ルが外れないように4ピンのキヤノン端子が採用されていました。入力端子はくり抜いて設置され
ており,くり抜き部分にはフェルトが貼られていました。
こうしたキヤノン端子に対応した専用のスピーカーコードOP-3003(5m/¥80,000)が発売さ
れていました。6N(純度99.99997%)の高純度無酸素銅線をよりあわせたコードにオーストラ
リア製キヤノンEP-4-11と金メッキ端子を両側に配したものでした。



2S-3003には,スタジオでの使用を目的に開発された専用のワゴンMC-3003が発売されてい
ました。鉄製の角パイプに木製の制振材を組み合わせた形になっており,高い剛性をもち,100kg
という耐荷重を実現し,重量35kgというしっかりしたものでした。業務用として移動を容易にする
キャスターが装備されていました。



以上のように,2S-3003は,放送局用スタジオモニターとして,目的をはっきりさせた徹底した作りが
なされ,音楽を楽しく聴かせる美しい音というよりも,音の力を精密に描写する生々しさが特徴でした。
通常のスピーカーシステムではウーファーにあたる低域側ユニットが,,ほぼフルレンジユニットに近い
性能を持ち,それにトゥイーターをプラスしたというユニット構成がもたらした写実を追求した音は,まさ
にモニタースピーカーで,2S-305以来,ダイヤトーンが積み上げてきた技術の結晶ともいえるもので
した。


以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。



モニター,半世紀。

戦後まもない1946年,ダイヤトーンが音づくりの現場で信頼される
きっかけとなったP-50形が誕生。1947年,整合共振形フルレンジ
P-62F形を完成。愛宕山の放送博物館に,(国産初のモニター
スピーカー)として陳列されているこのスピーカーから,”音のダイヤ
トーン”という神話が始まります。以来,BTS(放送技術規格)6121
という名誉を与えられたP-610A形,放送用音声モニタースピー
カーとして高い評価を得た2S-305形などが,プロフェッショナルの
厚い信頼に応えてきました。顧みれば46年間,プロユースの試練
に鍛えられてきたダイヤトーン・モニター。そして,1990年,新たに開
発された2S-3003形の登場です。美しいラウンデッド・バッフル,
バランスのよい2ウェイ設計。そして,究極の高域振動板B4C,低
域振動板には3軸織アラミッドハニカムが採用された,かつてな
い高品位モニター。鮮烈なダイヤトーン・ファンのご要望にお応
えして,この度,2S-3003形の受注生産を承ります。プロをうなら
せたダイヤトーン・モニター半世紀の真価を,あなた自身の耳で
お確かめください。




●定格●

方式  2ウェイ2スピーカー・バスレフ方式 
使用ユニット  低音用:32cmコーン形
高音用:5cmコーン形 
公称インピーダンス  8Ω(最低インピーダンス5Ω/8kHz) 
再生周波数帯域  39~30,000Hz 
出力音圧レベル  94dB/W/m 
クロスオーバー周波数  2,400Hz 
反共振周波数  39Hz 
最大入力  300W(EIAJ) 
定格入力  80W(EIAJ) 
外形寸法  510W×840H×490D(ネット付518D)mm 
重量  54kg 
※本ページに掲載した2S-3003の写真・仕様表等は
1991年6月
のDIATONEのカタログより抜粋したもの
で,三菱電機株式会社に著作
権があります。したがって
これらの写真等を無断で転載,引用等するこ
とは,法律
で禁じられていますのでご注意ください。

 

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