LUXMAN 5K50
STEREO CASSETTE DECK ¥280,0001979年にラックスが発売した高級カセットデッキ。ラックスは,ドコーダーの工場を買収してカセットデッキ
の分野に参入し,音質重視の高性能なカセットデッキを次々に発売していきました。その初期に発売され
たデッキの中でも別格ともいえる超高級デッキが5K50でした。走行系は,テープテンションが一定に保たれ,レベル変動やドロップアウトの少ない,クローズド・ループ・
デュアル・キャプスタン方式が採用されていました。キャプスタン軸には,焼き入れ処理をして硬度をより高
めた硬質ステンレスが使われ,さらに軸径も通常の約1.5倍と太くされていました。また,キャプスタンの
真円度は0.2ミクロン以下におさえられ,ピンチローラーやフライホイールなどの工作精度も高められてい
ました。
キャプスタン用,送り出しリール用,巻き取りリール用それぞれに独立したモーターを配した3モーター構成
がとられ,特に,キャプスタン駆動用には,クォーツPLLダイレクトドライブ型モーターが搭載されていました。
これらの高精度な走行系,駆動系により,ワウ・フラッターは0.03%以下と高精度なテープ走行を実現し
ていました。
操作系は,ロジックICを使用したフェザータッチでのテープ走行操作となっていました。さらに,テープにたる
みがあると,自動巻取り機構が作動し,ゆるみ取りが完了してから次の操作に移るようになっていました。
ヘッドは,3ヘッド構成がとられ,コンビネーション型ではなく,独立型3ヘッド構成となっていました。再生ヘッ
ドにはギャップ1ミクロンのセンダスト材使用ヘッドが搭載され,録音ヘッドには4ミクロンギャップのフェライト
ヘッドが搭載されていました。また,消去ヘッドにはフェライトヘッドがキャプスタンの外側に搭載されていま
した。
これらのヘッドは,剛性の高いヘッドハウジングに搭載され,オプションで用意されるヘッドハウジングとバイ
アスブロックの交換でメタル対応も可能となっていました。事実,後にヘッドハウジングとバイアスブロックを
交換したメタル対応モデル5K50M(¥298,000)が発売されました。
また,5K50では,録音ヘッドのアジマス調整機構が搭載されていました。内蔵発振器を6kHzにセットして
2つのアジマスビーコンが点灯するように,ヘッドハウジング前面のネジを調整することでアジマスの調整が
できるようになっていました。
5K50の最大の特徴といえるのが完全DC化された録音・再生アンプでした。通常のデッキの録音では,加算
回路により信号電流とバイアス電流を重畳して録音ヘッドをドライブするもので,録音における高域補正にはピ
ーキングコイルやトラップ回路が必要で,コイルやコンデンサーが録音アンプのNFBループ内に挿入されていま
した。5K50では,ブリッジ回路のバランスをくずすと負荷に電流が流れることを利用して,一定に流れるバイア
ス電流を信号電圧でスイングさせ,信号電流との重畳電流を得て録音ヘッドをドライブするという独自の「BRBS
(Bridge Recording by Bias current & Signal current)方式)が採用され,録音アンプの完全DC化
が実現していました。あわせて再生アンプもピュアDCアンプが搭載され,再生ヘッドと直結されていました。
この録音アンプ,再生アンプの完全DC化は,そりのあるアナログレコードの録音時に場合によってはトラブルを
起こすこともありましたが,すぐれた録音・再生性能を実現しようとするラックスの熱意を感じさせるものでした。
バイアス発振回路には低歪みのものが搭載され,録音バイアス用出力ラインと消去バイアス用出力ラインを
別系統化し,相互干渉の防止による消去信号の低歪み化を図り,消去時に残りやすい残留バイアスノイズを
除去していました。
バイアス値はテープや音質の設定に合わせられるバイアス可変ツマミが搭載され,内蔵発振器の信号をもと
に調整できるようになっていました。レベルメーターは,24ドットの蛍光表示管によるピークメーターが搭載され,−40dB〜+6dBまでをすぐれた
応答性で表示するようになっていました。ピークホールド機能も持ち,メタルテープ使用時には,最大+10dB
となるように別スケールで表示するようになっていました。
テープカウンターは電子式の4桁LED表示のものが搭載され,通常はふつうの4桁表示のカウンターで,LUX
のカセットテープを使用したときに限り時間表示になるようになっていました。これは,LUXが当時発売してい
たLUXブランドのテープは,専用のハーフが開発使用されていたためで,カセットハーフ本体に時間検出用の
ローラーが設けられていて,このローラーの回転を光学的に検出して走行時間をリアルタイムで表示するように
なっていました。
機能としては,キュー,レビュー機構,レコーディングミュート機能,内蔵発振器(400Hz,6kHz),キャリ
ブレーション付きドルビーNRシステムなど,オーソドックスで音質重視のものが搭載されていました。以上のように,5K50は,新たにカセットデッキに挑戦したラックスの熱意が感じられる高性能デッキでした。
カセットデッキにおけるラックスのブランドイメージの弱さからヒットしたとは言えませんが,印象に残る1台だ
ったと思います。
以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。
◎デュアル・キャプスタンと3モーター構成
デッキにおける最高の走行メカニズム。
◎独立3ヘッド構成。メタル対応はヘッド・ハウジング
&バイアスブロック交換で・・・・
◎独自の新レコーディング・ドライブ方式(BRBS方式)
による録音アンプの完全DC化。
◎当然のことながら,再生アンプもDC化。
◎バイアス発振回路の歪みを極限まで抑え,
残留バイアスノイズを完全追放。
◎最適バイアス値はもちろん,好みのバイアス
値に設定できるバイアス可変方式。
◎独立3ヘッド構成には必需。正確なテープ走行を
可能にするアジマス調整機構。
◎ロジック・コントロールによるフェザー・タッチ感覚の
キーボード操作部。
◎精度の高いテープ・カウンター。
LUXカセット・テープでは時間表示に・・・・
◎最大ピークとリアルタイムのピークレベルを
同時に表示する正確なレベルメーター。
◎愛好家好みの多彩な付属機能。
トラック型式 | 4トラック・2チャンネル・ステレオ方式 |
ヘッド構成 | 独立3ヘッド方式
録音:フェライト・ヘッド 再生:センダスト材使用ヘッド 消去:フェライト・ヘッド |
モータ構成 | 独立3モーター方式
キャプスタン用:水晶制御PLL・DDモーター 送り出しリール用:コアレス・モーター 巻き取りリール用:コアレス・モーター |
テープ駆動方式 | デュアル・キャプスタン方式 |
使用テープ | ノーマルテープ,クロームテープ,(メタルテープはヘッドハウジングなど交換にて可能) |
テープ速度 | 4.75cm/sec |
ワウ&フラッタ | 0.03%以下(W.R.M.S) |
操作方式 | ロジック・コントロール方式 |
周波数特性 | CrO2:20〜20,000Hz(30〜18,000Hz±3dB)
normal:20〜18,000Hz(30〜16,000Hz±3dB) metal (20〜22,000Hz±3dB ※5K50Mのデータより) |
総合歪率 | 1.2%以下(LHテープ,1kHz,0dB)
(0.3%以下,Real Analized Distortion) |
SN比 | CrO2:67dB以上(Dolby on,CCIR補正)
58dB以上(Dolby off,JIS-A補正) normal:65dB以上(Dolby on,CCIR補正) 55dB以上(Dolby off,JIS-A補正) |
入力感度 | line:100mV
mic:0.25mV(最適Z:600Ω〜10kΩ) |
出力レベル | line:580mV headphone:1mW(8Ω負荷) |
カウンター | 電子カウンター方式(一般テープ),走行時間カウンター方式(LUX専用テープ) |
ピーク・メーター | 24dot蛍光表示管式(ピーク・ホールド可能) |
付属機能 | 連続可変式バイアス・コントロール
アジマス調整機構(インジケーター付) サーチ機構(キュー&レビュー可能) レコーディング・ミュート機能 イコライザー3段切替(CrO2,normal,EX) テープモニター回路(tape,source,off) タイマ録再機能(市販のタイマーにて) リモート操作機能(オプションのリモート・コントロール・ユニットにて リモコンユニットではオート・リワインド,オート・プレイ可能) ドルビーNRシステム(オッシレーター・キャリブレーション, レコーディングキャリブレーション可能) 内蔵オッシレーター(400Hz&6kHz) |
電源 | AC100V(50Hz/60Hz) |
消費電力 | 75W |
寸法・重量 | 442W×146H×389Dmm・12.5kg |
※本ページに掲載した5K50の写真,仕様表等は1979年の
LUXMANのカタログより抜粋したもので,ラックス株式会社
に著作権があります。したがって,これらの写真等を無断で
転載・引用等することは法律で禁じられていますのでご注意
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