LUXMAN 5T10
ACCUTOUCH CLL FM TUNER ¥108,000
1978年に,ラックスが発売したFMチューナー。ラックスは,1977年より,機能単位で性能を
追求したコンポーネントシリーズ「LABORATORY REFERENCE(ラボラトリー・リファレンス)
シリーズ」を発売し,チューナーとして,最高級シンセサイザーチューナー5T50を発売しました。
その弟機ともいえるバリコン式チューナーが5T10でした。

フロントエンドは,デュアルゲートFETとシングル同調,トリプル同調,OSC同調のFM専用の5
連バリコンを搭載し,各高周波増幅回路の選択度を高め,十分な妨害排除能力を確保してい
ました。

5T10の大きな特徴は,同調機構にありました。FM受信では,時間とともに,温度その他の変
化により受信周波数がずれていくドリフトが問題になります。そのため,多くのFMチューナーで
は,受信周波数を正確に保持する機能が備えられていました。5T10では,きわめて高い同調
精度と安定性を確保するために独自のCLL(Closed Loop Lock)方式が採用されていまし
た。シンセサイザー方式においても,サーボロック式においても,局部発振器やフロントエンドだ
けをPLL回路によって部分的に制御する仕組みになっています。CLL回路では,フロントエンド
だけでなくIF段や検波段も含めてフィードバックループを構成し,放送局の中心周波数にピッタ
リ合わせるためのキャプチャ・レンジと安定な受信状態を確保するためのロック・レンジをもち,
強力なフィードバック回路の働きによって,同調周波数をロックし,正確に同調した状態を保つ
ようになっていました。また,CLL回路には,再ロック回路も内蔵されており,チューナーの電源
をOFFにしても,再びロックし直す必要がない仕組みになっていました。

CLL回路に加え,正確な同調点をとらえるためにアキュタッチ機構が搭載されていました。これ
は,キャプチャ・レンジをきわめて狭い範囲に設定したCLL回路の制御電圧を利用して正確な
センターポイントを検出し,これによって機械的なブレーキををかける機構でした。チューニング
ノブをゆっくりと回して放送局が見つかるとノブに一時的(約2秒間)に機械的ロック(電磁ソレノ
イドでフライホイールを吸着してブレーキをかける)がかかり,そこで手を離すと,RF段を含めた
正確な同調点にピタリとロックされて止まるというユニークな仕組みで,高精度な選局を可能と
するものでした。

IF段は,WIDEとNARROWの2段階の帯域切換が装備されていました。WIDEでは,特に位
相特性のすぐれた広帯域LC型ブロックフィルター(集合IFT)2個とIFアンプIC2個という構成で,
一切セラミックフィルターが挿入されない形になっており,低歪率を実現していました。このブ
ロックフィルターは,IFTを4個内蔵したもので,コストがかかっているものだそうです。
NARROWでは,これにセラミックフィルターが2組・4段挿入され,高選択度特性が実現され
ていました。

検波段は,広帯域特性のクオドラチュア検波回路で,IC(日立HA11211)として搭載されて
いました。ステレオ復調を行うMPX段は,正確なスイッチング信号の生成が可能なPLL回路
が取り入れられ,さらに,PLL回路を用いてMPX回路に入力された19kHzのパイロット信号
のちょうど逆位相のパイロット信号を正確に作り出し,プリアンプとデコーダーの間でキャンセ
ル回路を構成するパイロット信号キャンセラーも搭載され,ローパスフィルターの位相特性を
改善したMPX用IC(日立HA11223)が採用されていました。
そして,最終のオーディオ段には,DCアンプ構成が採用され,すぐれた音質を実現していま
した。

機能的には,シンプルでオーソドックスに仕上げられていました。録音用テストトーンスイッチ,
IF帯域幅切換,局間ノイズを抑えるレベル調整ができるミューティング機構などが搭載され
ていました。独特であったのが,マルチパス確認機能で,ONにして小さく聴こえる放送音を
最小になるようにアンテナの向き等を調整するとマルチパスが低い向きが分かるようになっ
ていました。シグナルメーターは,5点LEDによるもので,チューニングのセンター位置を表
すチューニングインジケーターもLEDによるものとなっていました。

以上のように,5T10は,ラックスが機能ごとに性能を追求した「ラボラトリー・リファレンス・シ
リーズ」のチューナーとして,受信性能と音質を高いレベルでバランスさせたしっかりとした作
りがなされていました。薄型の機能的なデザインの筐体に,しっかりとしたフレームと厚みの
あるアルミパネルで構成された剛性のある作りは,高級チューナーらしいもので,低音もしっ
かりと出る豊かな音を聴かせてくれる1台でした。


以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。



◎極めて高い同調精度と安定性を重視した
 ラックス独自のCLL方式
◎CLL方式同調システムを活かす
 アキュタッチ機構
◎IF帯域切替の採用
◎オーディオ段にはDCアンプ構成を採用,
 すべてに音質改善が設計のテーマ




●5T10の規格●

IHF実用感度  1.7μV(9.8dBf) 
50dBクワイティング感度  3.2μV(15.2dBf) 
SN比  80dB 
周波数特性  20Hz~17,000Hz(-0.5dB,mono&stereo) 
歪率  0.05%(wide,100Hz,mono),0.07%(wide,100Hz,stereo)
0.05%(wide,1kHz,mono),0.06%(wide,1kHz,stereo)
0.07%(wide,6kHz,mono),0.1%(wide,6kHz,stereo)
0.15%(narrow,1kHz,mono),0.4%(narrow,1kHz,stereo)
キャプチャ比  0.8dB(wide),2dB(narrow) 
2信号選択度  90dB(narrow,±400kHz),30dB(wide,±400kHz) 
スプリアス特性  100dB 
IF妨害除去比  100dB 
イメージ比  100dB 
振幅変調抑圧度  62dB 
セパレーション  45dB(wide,100Hz),50dB(wide,1kHz)
45dB(wide,10kHz),30dB(narrow,1kHz) 
出力電圧  1V(fix),0~1V(variable) 
出力インピーダンス  100Ω(fix),100Ω~1.25kΩ(variable) 
付属装置  チューニング・ロック機構,IF帯域幅切替,マルチパス確認用回路
録音用テストトーン回路,センターインジケーター
シグナルストレングス・インジケーター,FMミューティング回路
ミューティングレベル調整,タイム・ミューティング回路
出力レベルコントロール,75Ω用同軸コネクター 
電源電圧  AC100V(50Hz/60Hz) 
消費電力  20W(電気用品取締法の規定による) 
外形寸法  442W×400D×101Hmm 
重量  7kg 
※本ページに掲載した5T10の写真,仕様表等は1978年のLUXの
 カタログ
より抜粋したもので,ラックス株式会社に著作権があります。
 したがって,こ
れらの写真等を無断で転載・引用等することは法律
 で禁じられていますので
ご注意ください。
 

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