680ZXの写真
Nakamichi 680ZX
DISCRETE HEAD CASSETTE DECK ¥238,000

1979年にナカミチが発売したカセットデッキ。アジマスにこだわりを見せるナカミチが,最高級機1000
シリーズゆずりのオート・アジマス・アライメント機構を搭載し,20kHzを超える高域再生能力を確保した
高性能デッキでした。また,優れた高域特性を生かして,ハーフスピードでの長時間録音機能も備えて
いた,ナカミチの中でも個性的な1台でもありました。

680ZXの最大の特徴は,それまでの1000シリーズ,700シリーズで登載されていた手動のアジマス
調整機構の自動化を実現し,搭載していたことでした。同じシリーズ機の670ZX,660ZXにも搭載され
た自動アジマス調整機構は,「オート・アジマス・アライメント(自動垂直調整機構)」と称され,ナカミチの
アジマスへのこだわりをより具現化した機構ともいえました。
この「オート・アジマス・アライメント」は,テープをセットし,キャリブレーションスイッチをONにすると,内蔵
の400Hzの0dBテスト信号が録音・再生され,再生された400Hz正弦波信号を矩形波に変換,位相弁
別回路によって左右チャンネル間の進み及び遅れを検出し,この位相ずれによってスイッチング回路が働
きオペアンプの出力をコントロールするようになっていました。そして,オペアンプの出力がモーター端子に
加わり,電圧のプラスマイナスが切り替わることでモーターの回転方向も変化し,原則ギアーに連結され
たレバーが動きヘッドの傾斜角を調整するようになっていました。位相ずれがゼロになり,磁気的なアジマ
スが合うとモーターが停止し,調整が完了,PLAYボタンのインジケーターの点滅が点灯に変わり,分かる
ようになっていました。そして,このアジマス調整機構により,10〜22,000Hz±3dBという優れた周波
数特性を実現していました。

アジマス調整機構
680ZXのヘッド

ヘッド部は,ナカミチのお家芸である,完全ディスクリート3ヘッドを採用し(コンビネーション3ヘッドではなく,
録音ヘッドと再生ヘッドが完全に別になっている)自社開発のクリスタロイヘッドにより優れた録音・再生性
能を誇りました。このヘッドは非常に高性能で,磁気的になかなか飽和せず,そのためか,ナカミチのデッ
キは録音レベルを高く取ってもなかなか歪みませんでした。
録音ヘッドR-8Lは,クリスタロイのラミネートコアによる3.5ミクロンギャップで,1万時間以上のロングライ
フを誇るもので,あの1000ZXLと同じものでした。再生ヘッドP-9Fは,クリスタロイによる0.6ミクロンナロ
ーギャップヘッドで,超高域までのフラットな特性を実現していました。また,独自のヘッド形状で,コンターエ
フェクトという低域のうねりを極力おさえ,これも1万時間以上のロングライフを誇るものでした。消去ヘッドの
E-8Lは,フロントにセンダストを用いたフェライトコアーのダブルギャップヘッドで,1000ZXLと同じものでし
た。

メカニズム系は,ナカミチの伝統の技術を受け継ぐ高性能なものでした。テープの走行はフラッター周期の重
なりをさけるために,テイクアップ側とサプライ側のキャプスタンの直径及びフライホイルの直径を変えて回転
ムラの低減と変調ノイズの改善を果たしたナカミチ伝統の「周波数分散型ダブルキャプスタン」によって行わ
れ,ナカミチ独自のパッドリフターがカセットハーフのテープパッドを押し下げて,2つのキャプスタンの間には
ヘッド以外は存在しない状態におき,純粋に2組のピンチローラーとキャプスタンがテープ走行とヘッドタッチ
をコントロールする仕組みになっていました。ナカミチは,あのパッドの微少なでこぼこと押し上げているバネ
の共振も音を悪くすると考えていたそうです。

680ZXのテープパス

さらに,メカシャーシをナカミチ独自の「共振制動型シャーシ」としていました。これは,シャーシの材料として
鉄に比べて減衰特性の大きいアルミニウムアロイを使用し,樹脂をアウトサートして微振動を吸収するという
もので,すぐれた制振性能を持っていました。また,メカの駆動ギヤ等あえて樹脂製としていることも振動の
低減のためでした。
また,メカニズムの操作をC-MOSロジックコントロール回路の働きで行い,コントロールモーターがコントロ
ールカムを介してヘッドベースやピンチローラー等のメカニズムを駆動する方式を採用し,静かでスムーズな
メカニズム系にも負担をかけない操作が実現されていました。

680ZXのメカニズム系

アンプ系も充実が図られていました。録音アンプから録音ヘッドに接続されるカップリングコンデンサーを排
除して直結したDC録音アンプが採用され,録音イコライザー,再生イコライザー回路のコンデンサーにネガ
ティブフィードバック(負帰還)をかけるダブルNF回路を採用し,トータルで単体プリアンプ並の高性能を実現
していました。

機能的に最大の特徴としてハーフスピードでの録音・再生ができることがありました。680ZXの優れた録音
再生性能を生かし,ハーフスピード時にもZXテープ(メタルテープ)を使用時に,10〜15,000Hz±3dBと
いう特性を安定に得ることができるようになっていました。この機能を使用することで,従来の2倍の時間の
録音・再生が充分な特性で可能となるというものでした。このハーフスピード機能は,FMエアチェックを考慮
したものといわれ,15,000Hzまでの周波数特性もFM放送の録音を念頭に置いたものだったようです。

その他の機能として,1000ZXLにも採用された,青色に輝くFLデジタルディスプレイ(VU/PEAK切り換え
ピークホールド付き),前後18曲までの頭出しができるRAMM(Random Access Music Memory),
ドルビーBタイプNR,再生スピードを±6%変化できるピッチコントロールなどが装備されていました。

以上のように,680ZXは,新しい600シリーズとして,翌年発売された1000ZXLに通じる高い技術を駆使
した高性能デッキでした。高域の滑らかなナカミチトーンを持った名機だったと思います。
 

 
以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。
 
 


Auto Azimuth Alighment
カセットの「20kHz限界説」を破ります。
自動垂直調整機構(オート・アジマス・アライメント)が
再生帯域を10Hz〜22kHzへ拡大させました。

Diffused Resonance Transport
「耳」・・・この最も確かな測定器が育みました。
4モーター共振制動メカニズム
周波数分散型ダブルキャプスタン。

Head/Amplifier/Indicator
録/再/消ディスクリート3ヘッド,DCアンプ
マルチディスプレイ,ワイドレンジピークメーターなど,
デッキの最も基本的な部分に,
妥協を排した努力を注いでいます。
 
 

●主な規格●


 
電源 100V 50/60Hz
消費電力 最大30W
テープ速度 1-7/8ips(4.8cm/秒)
ワウ・フラッター 0.04%以下・WTDrms,0.08%以下・WTDpeak
周波数特性 10〜22,000Hz±3dB(ZXテープ)
10〜20,000Hz±3dB(SX,EXUテープ)
総合S/N比 60dB以上(400Hz,0dB,WTDrms)
66dB以上(400Hz,3%THD,WTDrms)
 ドルビーNRin,イコライザー70μs,ZXテープ
総合歪率 0.8%以下(400Hz,0dB,ZXテープ)
1.0%以下(400Hz,0dB,SX,EXUテープ)
消去率 60dB以上(飽和レベル,1kHz,ZXテープ)
チャンネルセパレーション 37dB以上(1kHz,0dB)
バイアス周波数 105kHz
入力 (ライン)50mV 50kΩ
出力 (ライン)1V(400Hz,0dB,アウトプットレベル最大)2.2kΩ
(ヘッドホン)45mW(400Hz,0dB,アウトプットレベル最大)8Ω負荷
ブラックボックスシリーズ
専用DC出力
±10V 125mA最大
大きさ 482(巾)×143(高さ)×340(奥行)mm
重量 約9kg

■ハーフスピード時規格■


 
テープ速度 15/16ips(2.4cm/秒)スイッチ切換
ワウ・フラッター 0.08%以下・WTDrms,0.14%以下・WTDpeak
周波数特性 10〜15,000Hz±3dB(イコライザー120μs,ZXテープ)
総合S/N比 60dB以上(400Hz,3%THD,WTDrms)
 ドルビーNRin,イコライザー120μs,ZXテープ
総合歪率 1.5%以下(400Hz,0dB,ZXテープ)
※本ページに掲載した680ZXの写真,仕様表等は1979年12月
 のNakamichiのカタログより抜粋したもので,ナカミチ株式会社に
 著作権があります。したがって,これらの写真等を無断で転載・引
 用等することは法律で禁じられていますのでご注意ください。
   
 
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