YAMAHA
A-1000
NATURAL SOUND STEREO AMPLIFIER
¥128,000
1984年に,ヤマハが発売したプリメインアンプ。前年の1983年に発売された重量級のプリメインアンプ
A-2000の弟機で,技術
的,内容的にしっかりと受け継がれたアンプでした。型番的にはヤマハの重要な
番号「1000」を受け継いでおり,プリメインアンプの名機
CA-1000シリーズも
連想させる1台でした。
回路的には,上級機A-2000とほぼ同一の構成で,DCサーボNF-CR型リアルタイムイコライザ(ツイン
RIAA素子構成)→RICHNESS回路→Dual Amp Class A with ZDRによるA級パワーアンプとなってい
ました。RICHNESS回路OFFでDIRECTスイッチONの場合はトーンコントロール回路などをパスしてプリ
→メイン直結となり,CD入力はファンクションスイッチを介してパワーアンプにダイレクトに入力されるよう
になっていました。
パワーアンプ部には,ヤマハ自慢の「Dual Amp Class A」が搭載されいました。これは,ヤマハが1983
年春,パワーアンプB−2xで発表した方式でした。当時全盛だった疑似A級アンプとは異なる方式で,純A級
アンプとAB級アンプをコンビネーションして,大出力で純A級の音質を実現しようとするものでした。負荷は,
A級アンプとAB級アンプの各々の出力と接続され,かつNFBは負荷両端からA級アンプにかけています。こ
の結果A級アンプが負荷電流をコントロールし,AB級アンプはA級アンプの音質に関わることなく電力損失だ
けを受け持つということで,特性上全出力帯域がA級動作しているという巧妙な方式でした。従来のバイアス
電流をコントロールする疑似A級方式とも,出力によりA級動作とAB級動作を切り換える方式とも異なってい
ました。
さらに,この「Dual Amp Class A」回路に,これもヤマハ自慢の「ZDR=Zero Distortion Ruleの略で(訳
すと歪みゼロの法則!)」という歪み低減回路が組み合わされていました。出力の一部を逆相にして入力側
に戻すことで歪みを低減するNFB方式に対して,ZDRの場合は,歪み検出回路がブリッジ接続され,リアル
タイムで検出した歪み成分を入力電圧に同じレベルで同相で加えることによりあらゆる歪みをゼロにしようと
いうものでした。これにより,「Dual Amp Class A」によっても残された素子の非直線性に起因するわずか
な歪をも消し,すぐれたリニアリティが確保され,120W(6Ω)/20kHzといったところでも測定系の残留歪の
みに近いレベルの低歪率が実現されていました。
プリアンプ部は,メインアンプと別電源とされた上で,1,000μF2本ずつ採用のヤマハ独自のピュアカレン
トダム方式で,リニアな伝送が実現されていました。これは,電源系の非直線成分の影響を抑える技術「ピュ
アカレントサーボ」を発展させたもので,電源に直列に入る半導体インダクタンスと大容量ケミコンによって供
給電流が数Hzでカットオフされ,電源ラインには直流成分だけが流れ,各ユニットアンプが交流的には電源
から遮断され,同時に,アースラインの電流変化をも抑えて,それぞれが独立した電源を持つのと同じ効果を
持つという技術でした。
イコライザー部はヤマハが誇るDCサーボ「リアルタイムイコライザー」となっていました。これは,RIAA素子を
2つ使用したもので,NF型とCR型を組み合わせて両者の良いところをとるという巧妙なものでした。周波数
特性的にも時間的にも優れた特性でイコライジングが行え,高域の位相ずれも少なく,位相補正も軽くてすみ
動作の安定したイコライザーとなっていました。さらに,High gm ローノイズFETによるダイレクトカップリング
のDCサーボ方式となっており,0.003%(MM→REC OUT)の低歪率,SN比86dB(MM,2.5mV)とい
うすぐれた特性が実現されていました。
電源部は,大型のトランスを中心にして,電源ケミコンも総容量146,000μFに及ぶ,強力な電源部を搭
載してました。また,電源ケミコンは,音質を重視して多分割箔マルチ端子構造が採用されていました。この
電源部に支えられ,定格出力120W+120W(6Ω),140W+140W(4Ω)が確保され,2Ω負荷時に
は,ダイナミックパワーは279Wに達していました。
アースに起因する問題についても「ノンカレントアース」と「ワンポイントアース」ということで対策を図っていま
した。先のDual Amp方式により,アースは電位を決めるだけで電流が流れなくなるため「ノンカレントアー
ス」となってアース問題からフリーとなっていました。さらに,パワー段,電源廻り,プリアンプ,プリドライブ,
トランス系などのアースを完全にセパレート化し,それぞれが1カ所に落ちる「ワンポイントアース」としたこと
で共通インピーダンスをゼロにし,アースに余計な電流が流れない設計としていました。
使用されたパーツにおいても,多分割箔マルチ端子構造の大容量ケミコン,無酸素銅線使用の極性つき10
mm径極太電源コード,無酸素銅線が多用された内部配線,大型インシュレーター,無垢アルミ削りだしツマ
ミの高精度ボリューム,金メッキPHONO,CD端子,押し出し材を使って鳴き止めを施した大型低共振ヒート
シンクなど高品質のものが採用されていました。
機能的には,A-2000と同様に「リッチネス回路」が搭載されていました。これは,スピーカーの低域を補正
する回路で,接続したスピーカーの低域周波数特性を,1オクターブ下へフラットにのばすことができる一種
のイコライザー回路でした。汎用のポジションの他,同社のスピーカーの名機
NS−1000M,
NS−2000
にはそれぞれ専用のポジションが設けられ,同スピーカーのユーザーにはうれしい機能でした。
また,AV時代に対応して,グラフィックイコライザやサラウンドアンプ等の音場コントロール機器などが接続
できるアクセサリー端子が新設されていました。このアクセサリー端子は,SENDとRECEIVEの端子間に
挿入されているショートバーを外すことで使用可能で,INPUT直後の信号を取り出せるようになっていました。
感度はAUXレベルでメインボリュームの前に位置することで,実使用時のS/Nにも有利になっていました。
外観は,ヤマハらしくCA-1000シリーズを継承したかのようなシルバーのアルミヘアラインパネルが採用さ
れ,グランドピアノと同一のポリエステル塗装4回塗り800μ膜厚のリアルウォルナットサイドウッドパネルが
装備された優美なもので,上級機のA-2000に比べてややパネル高が低くなり,重厚感よりやや軽快さが
感じられるものとなっていました。音の面でも,外観と同様に,重厚さあふれるA-2000よりもやや軽快さが
感じられるものとなっており,また違った魅力を持つ1台となっていました。