TEAC A-650
STEREO CASSETTE DECK ¥119,000
1975年に,ティアックが発売したカセットデッキ。当時のティアックの最上級機にあたり,同社初の
コンポーネントスタイルカセットデッキA-400同様に重ね置き可能なコンポーネントスタイルを採用
し,さらにこの後,主流となっていく正立透視型メカニズムを搭載するなど,画期的な内容を持って
いました。
カセットテープのハーフは,もともと横置きにした水平な状態で使うことを前提にしていたため,カセッ
トテープを用いた録音機器は,当初すべて水平型でした。1968年頃から登場し始めたオーディオ
用カセットデッキもすべて水平型でした。しかし,コンポーネントタイプのステレオシステムが主流に
なってくる時代になり,前面パネル部に操作系,表示系,テープ駆動部を集中させたいわゆるコン
ポ型のカセットデッキが求められるようになり,各社がカセットハーフを斜めにセットするスラント型
や横向きに立ててセットするタイプなどいろいろな形で実現していきました。ティアックも,この年・
1975年にA-400で,横向きに立ててセットするタイプのメカニズムを搭載して,コンポーネントス
タイルを実現しました。しかし,前年の1974年にソニーが,TC-5350SDで,テープ面を下に向け
て立てて駆動させるいわゆる正立透視型のメカニズムを実現し,これが後のカセットデッキの主流と
なっていくことになりました。そうした中,ティアックが発売した正立透視型カセットデッキがA-650で
した。
A-650は,ワンウェイ2ヘッドのオーソドックスなデッキですが,当時としては画期的な正立透視型
のメカニズムに加え,当時のカセットデッキでは数少ない2モーター構成が採用されていました。キャ
プスタン駆動用モーターには,PLLサーボDCモーターが搭載されていました。モーターに直結した
周波数発電機(FG)からの交流信号を,独立した基準発振器の交流信号と位相比較する,PLL(位
相同期回路)によりモーターの回転を制御する方式で,すぐれた制御精度をもち,負荷変動や温度
変化に強く,正確な回転を実現していました。リール用モーターには,トルクの大きいメカニカルガバ
ナー方式DCモーターが搭載されていました。それぞれ専用のモーターを役割に応じて使い分ける2
モーター方式の採用により,プーリーやアイドラーなどの伝達機構が簡略化でき,耐久性,操作性が
大きく向上していました。
さらに,この2モーター構成により,従来のピアノキー式に代わり,プッシュボタン式の操作系が搭載
されていました。ストロークわずか2mmの信頼性の高いマイクロスイッチによる操作系は,ソフトでス
ムーズな操作感覚を実現していました。また,ロジックコントロールにより,どのモードからどのモード
へも安全にスムーズにダイレクトチェンジが可能となっていました。
正立透視型のカセットホルダーは,オイルダンプイジェクトが採用され,ヘッドクリーニングなどのメイ
ンテナンス時には,カセットホルダーカバーが簡単に着脱できるようになっていました。
録再ヘッドは,HD(ハイ・デンシティ)フェライトヘッドを搭載していました。このヘッドは,厳選したフェ
ライトを素材に超精密ダイヤモンドカッターで高精度加工されたもので,ギャップの直線性が良く,ク
ロストークが少なく,高域に至るまで位相特性のすぐれたヘッドでした。また,テープと接触するコアー
部は前面フェライトで覆われたハイパーボリック(双曲線)形状で,コンターエフェクトが少なく,鏡面
仕上げにより安定したヘッドタッチを実現し,しかもフェライトならではの高い耐摩耗性を確保してい
ました。
テープセレクターは,クローム,フェリクローム,ノーマルそれぞれに合った専用ポジションが設けら
れた,バイアス,イコライザー独立切換の3ポジションのものが搭載されていました。
ノイズリダクションとしてはドルビーNRが搭載されていました。
レベルメーターは,針式のピークレベルメーターが搭載されていました。検波回路に両波整流方式を
採用した本格的なもので,正負が非対称な実際の音楽信号でも適切にピークを指示できるようになっ
ていました。アタックタイム10ms,リカバリータイム750msに設定され,目盛の指示範囲も-40dB
まで拡大され,低レベルの信号まで監視できるようになっていました。
機能的には,比較的シンプルでオーソドックスな構成で,カウンターを”000”にプリセットしておけば,
巻き戻し時に”999”の位置で自動的にストップ,またはプレイになるメモリーカウンター機能,録音時
にプッシュボタンを押していると無信号録音ができるREC MUTE機能,,過大入力時に信号を自動
的に減衰させ,飽和による音質劣化を防ぐリミッタースイッチ,タイマー録音機能などが搭載されてい
ました。
また,入力は,LINEとMICが搭載され,独立したレベルボリュームが装備され,ミキシング録音も可
能となっていました。MIC入力は,L・R端子が前面パネルに設けられ,Lチャンネルの端子にジャック
を差し込むと自動的に信号がL・Rに振り分けられ,センターマイクとしてモノラル録音ができるようにも
なっていました。
以上のように,A-650は,当時のティアックのカセットデッキの最上級機として,また,最後の2ヘッド
構成の高級機としてしっかりと技術と物量が投入され,しっかりとした完成度をもっていました。測定器
を思わせるような精かんなデザインに,優れた操作性と安定した性能を実現していました。
TEAC A-630
STEREO CASSETTE DECK ¥99,800
また,A-650には,シングルウェイ2ヘッド,2モーター,プッシュボタン式操作系といった,ほぼ同じ基
本構成をもつ弟機のA-630が発売されていました。
違いとしては,(1)キャプスタンモーターがPLL方式ではない通常のFGサーボモーターが搭載されてい
る。(2)テープセレクターがバイアス,イコライザー独立のそれぞれ2ポジションになっており,この組み
合わせでフェリクロームテープにも対応する。(3)レベルメーターのレンジが-20dB~になっている。
(4)タイマー機構が録音のみになっている。(5)過大入力に対応するリミッタースイッチが省略されてい
る。といったものがありました。
以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。
A-650
カセットの枠を超えて理想の音質を
追求した2モーターカセット
A-630
9万円台の2モータープッシュボタン
オペレーション
◎軽快なプッシュボタンオペレーション
◎操作性,耐久性で差がつく
2モーターメカニズム
◎定速走行用モーター
●PLLサーボDCモーター(A-650)
●FGサーボDCモーター(A-630)
◎本格的な両波整流検波による
ピークレベルメーター
◎ワンタッチで無信号録音ができる
REC MUTE(レックミュート)
◎留守録音ができるタイマー機構
◎曲の頭出しや,くり返し演奏に便利な
メモリーカウンター
◎フェリクロームテープが使える
バイアス,イコライザー独立切換機構
◎マイク,ラインミキシング機構
◎マイクミキシングに便利な
マイクジャック連動のモノ/ステレオ切換
◎過大入力によるひずみを防ぐリミッター(A-650)
◎テープヒスを減少させるドルビーシステム
◎耐摩耗性のすぐれたHDフェライトヘッド
◎ソフトに開閉するオイルダンプイジェクト
◎メインテナンスが簡単な,
とり外し式カセットホルダーカバー
A-650 | A-630 | |
トラック形式 |
4トラック・2チャンネル |
4トラック・2チャンネル |
ヘッド構成 |
消去,録音/再生2ヘッド |
消去,録音/再生2ヘッド |
使用カセットテープ |
C-60,C-90カセットテープ |
C-60,C-90カセットテープ |
モーター構成 |
PLLサーボDCモーター (キャプスタン用)×1 メカニカルガバナー方式DCモーター (リール用)×1 |
FGサーボDCモーター (キャプスタン用)×1 メカニカルガバナー方式DCモーター (リール用)×1 |
ワウ・フラッター (WRMS) |
0.06% |
0.06% |
早巻時間 (C-60テープ) |
90秒以内 |
90秒以内 |
周波数特性(総合) |
30~16,000Hz(クロームテープ) 30~16,000Hz(フェリクロームテープ) 30~13,000Hz(ハイファイテープ) |
30~16,000Hz(クロームテープ) 30~13,000Hz(ハイファイテープ) |
SN比 (3%THDレベル,WTD) |
57dB ドルビーシステムにより録音・再生において 1kHzで5dB,5kHz以上で10dBの 雑音低減が可能 |
57dB ドルビーシステムにより録音・再生において 1kHzで5dB,5kHz以上で10dBの 雑音低減が可能 |
入力 |
マイク:0.25mV/-72dB (適合インピーダンス600Ω以上) ライン:60mV (入力インピーダンス50kΩ) |
マイク:0.25mV/-72dB (適合インピーダンス600Ω以上) ライン:60mV (入力インピーダンス50kΩ) |
出力 |
ライン:0.3V (負荷インピーダンス10kΩ以上) ヘッドホン:8Ω |
ライン:0.3V (負荷インピーダンス10kΩ以上) ヘッドホン:8Ω |
外形寸法 |
440W×177H×325Dmm |
440W×177H×325Dmm |
重量 |
13kg |
11kg |
※本ページに掲載したA-650,A-630の写真,仕様表等は
1977年3月のTEACのカタログより抜粋したもので,ティアッ
ク株式会社に著作権があります。したがって,これらの写真等
を無断で 転載・引用等することは法律で禁じられていますので
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