ONKYO A-820GTR
INTEGRATED STEREO AMPLIFIER ¥175,000
1982年に,オンキョーが発売したプリメインアンプ。1981年発売のA-820シリーズの初代機A-820GTがモデルチェ
ンジした2世代目のモデルで,電源部を中心に改良が行われ,重量も増え,強化された内容を持つ同社の最上級プリメ
インアンプとして登場しました。
A-820GTRの最大の強化点は,新たに搭載されたデルタターボ電源でした。A-820シリーズは,初代のA-820GTか
らツインワイド方式と称して大型の電源トランスを2基搭載した強力な電源部となっていました。A-820GTRも,この大
型の電源トランスによる2トランス方式が継承され,電解コンデンサーも69V・15,000μFのものが4基搭載された強
力な電源部となっていました。デルタターボ電源は,この強力な電源部の効果をより高めるための方式でした。電源で
発生する,音声信号(特に低域の出力電流)と充電電流との干渉による特殊な混変調歪みが,音のエネルギー感を阻
害する要因となることを防ぐために,電源回路に2個のダイオードを追加して,出力電流と充電電流のアース側の通り道
を分けるというものでした。これにより,干渉による混変調歪みが約1/10に低減されていました。
電源トランスや電解コンデンサーをできるだけ大きくした大型電源を使用すると,こうした干渉による混変調歪みが抑え
られ,低域の力強さ等も増してくることになる効果と同じ効果が得られるということで,オンキョーも,当時,大容量のバッ
テリー電源に近い安定した働きを持つ強化された電源部として「デルタターボ電源」と称していたようです。
オンキョーは当時,サーボ技術を特徴としており,A-820GTから「スーパーサーボインテグラル方式」と称された技術が
継承されていました。電流増幅段の非直線性を補正するためにNF(ネガティブ・フィードバック,負帰還)をかけ,NFで
補正しきれないところを,超低域用の+側サーボと,アースライン用の−側サーボをかけて,電源効果を上げスピーカー
の実駆動能力を上げた,A-810で開発・搭載されていたWスーパーサーボを改良したもので,電流増幅段にリニアリ
ティ補正回路による正・負帰還をかけ,この段のリニアリティを高めて時間差歪みと称する歪みを低減させるものでした。
この時間差歪みというのは,当時オンキョーが盛んに提唱していたもので,スピーカーが他のチャンネルの音の振動を
マイクのように拾い,逆起電力を生じさせることで混変調歪みが発生するもので,オンキョーが名付けたものでした。さら
に,アンプの出力側+と−の両端子からその入力側にサーボ帰還をかける,この「スーパーサーボインテグラル方式」
により,特に超周波での有害な雑音成分をカットするとともに,アースラインにあるごくわずかな各種の抵抗分が累積し
たインピーダンスに生じる雑音成分の抑圧の効果が,歪みの発生要因は,−40dB(1/100)にも低減されていました。
A-820GTRでは,当時各社が採用していた可変バイアスによる疑似A級増幅方式ではなく,バイアス固定のオンキヨー
独自の「リニアスイッチング方式」を搭載していました。スイッチング速度の速いトランジスターを使うことでスイッチング歪
みを解消し,クロスオーバー歪みは,バイアスを可変するのではなく,特殊な補正回路でバイアスを補正して対処しようと
する方式でした。基本的にはB級動作ですが,A級動作に匹敵する低歪率を実現していました。
A-820GTRの全体の構成は,MC対応のストレート・ハイゲインイコライザーとパワー部だけというシンプルな2アンプ構
成で,裸特性を高めることで,従来の1/10以下という低帰還方式にすることで,聴感上の音質向上とアンプの安定動作
が実現されていました。
トーンコントロールはオンキョー自慢の,余分なゲインとなるトーンアンプを持たずに音質に影響の少ないパッシブ素子の
みで構成された「ダイレクトトーン方式」で,トーン回路をパスしなくてもコンデンサーが信号系路に入らない方式でした。そ
のためトーンコントロ−ルのON・OFFスイッチもついておらず,トーンディフィートしなくてもすぐれた音質が確保されていま
した。そのほか,機能的な特徴としては「ソフトネス回路」がありました。これは,AM放送などのクオリティの低いソースや
極端に個性の強いスピーカーなどと組み合わせる際に,適度に分解能をコントロールして聴きやすくするもので,このアン
プ自体の高い分解能を示すものでもありました。ソフトネススイッチは2ポジションが設けられていました。
構造面やパーツにおいても,音質に配慮されていました。筐体そのものは,ウッドの側板のついたボンネット形式の分厚
い鉄板による天板,同じく分厚い底板など強靱な作りのキャビネットになっていました。内部も,コンデンサーをフレームと
ベルトでシャーシにしっかり固定し,ダイカスト製でチムニー形とくし形を組み合わせた大型のヒートシンク,回路基板を取
り付けたフレームの前後の縁に金属の角材がねじ止めされているなど,シャーシ,フレーム,トランス,ヒートシンクなどが
一体となって結合され,共振防止が徹底された強靱な構造体となっており,「スーパースタビライザー」と称していました。
また,有害な高次高調波の発生を抑えるため非磁性体材料も積極的に使用され,抵抗には特殊音質改善型抵抗器が
使用されていました。入出力端子にはすべて金メッキ端子が採用されていました。
以上のように,A-820GTRは,前モデルA-820GTをベースに改良・強化され,すぐれた性能を実現していました。23kg
というクラス最大の重量が示すように,物量・技術がしっかり投入され,オンキョーのアンプ技術の高さも示した1台でした。
その鮮明で力強い音は,当時のプリメインアンプの中でも特徴的なものでした。


以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。



磨きぬかれたオーディオの感性が
生み出した究極のプリメイン,
圧倒的なエネルギー感デリカシィ。
いまアンプは完璧の時代へ。

◎圧倒的なパワー感と高分解能を実現。
 新開発デルタターボ電源の採用。
◎時間差歪を解消,スーパーサーボ
 インテグラル方式。
◎あくまで音の純度を追求するためシンプル
 さを生かした,デュアルダイレクト構成。
◎自由に好みのトーンキャラクターを
 選べる2ポジションのソフトネス回路。
◎マイクロフォニックノイズを抑える
 スーパースタビライザ使用。
◎低歪率リニアスイッチング方式。

●有害な高調波の発生を抑える非磁性体材料の使用。
●万全を期した保護回路。
●純金メッキの入出力端子群。
●特殊音質改善型抵抗器の使用。




●A-820GTRの定格●

定格出力(20〜20,000Hz) 120W+120W(AUX→SP OUT 8Ω両ch駆動)
全高調波歪率(20〜20,000Hz) 0.008%(AUX→SP OUT 定格出力時) 
0.006%(AUX→SP OUT 1/2定格出力時) 
0.003%(PHONO MM→REC OUT 3V) 
0.01%(PHONO MC→REC OUT 3V)
混変調歪率 0.008%(AUX→SP OUT)
パワーバンドウィズス 5Hz〜100kHz(IHF-3dB  THD0.2%)
ダンピングファクター 100(1kHz 8Ω)
周波数特性 20Hz〜20kHz/±0.2dB(PHONO→REC OUT/RIAA偏差) 
2Hz〜100kHz+0dB,−3dB(AUX→SP OUT)
入力感度/インピーダンス PHONO MM=2.5mV/47kΩ,100kΩ 
PHONO HIGH MC=2.5mV/100Ω 
PHONO MC=150μV/100Ω,330Ω 
TUNER,AUX,TAPE PLAY=150mV/47kΩ
PHONO最大許容入力(0.05%) PHONO MM=300mV(1kHz)/1400mV(10kHz) 
PHONO HIGH MC=300mV(1kHz)/1400mV(10kHz) 
PHONO MC=19mV(1kHz)/90mV(10kHz)
定格出力電圧/インピーダンス 150mV/2.2kΩ(TAPE REC) 
1.5V/600Ω(PRE OUT)
SN比(IHF-A ショート) PHONO MM 88dB 
PHONO MC 70dB 
TUNER・AUX・TAPE PLAY 100dB
トーンコントロール BASS   ±8dB 70Hz(Vol−16dB) 
TREBLE  ±8dB 20kHz(Vol−16dB)
ラウドネス +4dB,+6dB 100Hz
SUBSONIC FILTER 15Hz,20Hz 6dB/oct
ミューティング −20dB
電源 AC100V 50/60Hz
消費電力(電気用品取締法規格) 200W
ACアウトレット UNSWITCHED 1個 200W 
SWITCHED    2個 合計200W
寸法/重量 471W×175H×431Dmm/23kg


ONKYO A-820RS
INTEGRATED STEREO AMPLIFIER ¥178,000
1983年に,A-820GTRはモデルチェンジされ,A-820RSが発売されました。基本的な回路構成,構造等は継承
され,電源部を中心に強化・改良が行われていました。また,フロントのパネルデザインもほぼ同一でしたが,パネ
ルのカラーがシルバーからゴールド系に変更され,イメージが変わっていました。
最大の改良点は,「スーパーターボ方式」の採用でした。これは,「デルタターボ回路」と「ターボフィルター」を組み合
わせた方式の総称で,アンプ内部の電源トランスと,増幅部分を電気的に完全分離し,トランスに起因した変調雑音
を取り除くことで音質の改善を図ろうとするものでした。
「デルタターボ回路」は,ダイオードをデルタ結線した形をしており,ダイオードのはたらきにより,電源トランスの両端
の電圧に対する電圧変動と信号回路のアースポイントへの変調雑音の流れ込みを抑えるはたらきをするものでした。
「ターボフィルター回路」は,電源トランスのところにCRによる特殊フィルターを入れたもので,このCRとトランスのイン
ダクタンスにより,等価回路のフィルターを構成し,変調雑音成分を抑えた充電エネルギーをケミコンに送り込むはた
らきをするとともに,外部のAC電源に乗っている種々の雑音等が入り込むのを防ぐはたらきをするものでした。
以上のように,A-820RSは,A-820GTRから正常進化したともいえる,しっかりと物量と技術が投入された1台で,
クリアで力強い音は,同クラスのプリメインアンプの中でも目立つものでした。当時,プリメインアンプのグレードアップ
を考え,知り合いの販売店でいくつかの同クラスのプリメインアンプを候補に挙げて聞き比べた際にも,A-820RSの
音は,力強さが際立っていた記憶があります。
そして,A-820GTから始まったA-820の系列は,これ以降発売されず,A-820RSが最後のモデルとなってしまいま
した。


以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。



プリメインの限界を,
はるかに超えたスーパーアンプ。
120W+120Wハイパワーに光る
インテグラ・最高級機。

◎圧倒的なダイナミックレンジとエネルギー感。
 しなやかさも秘めてスーパーターボ。
◎時間差歪を解消,スーパーサーボ・
 インテグラル方式の採用。
◎シンプルさが極め手,デュアル・ダイレクト
 アンプ構成とダイレクトトーン方式。
◎ソースに合わせて,トーンキャラクターを
 セレクトできるソフトネス回路の採用。
◎直接音,機械振動による影響を抑える,
 スーパースタビライザーの使用。
◎鮮烈なクリアネスを確保する,低歪率
 リニア・スイッチング方式の採用。
◎有害な高次高調波の発生を抑える,
 非磁性体材料の使用。

●大型完全2トランス方式
●純金メッキの入出力端子群
●豊かなオーディオライフを約束する,豊富なアクセサリー群。




●A-820RSの定格●

定格出力(20〜20,000Hz) 120W+120W(AUX→SP OUT 8Ω両ch駆動)
全高調波歪率(20〜20,000Hz) 0.007%(AUX→SP OUT 定格出力時) 
0.005%(AUX→SP OUT 1/2定格出力時) 
0.003%(PHONO MM→REC OUT 3V) 
0.01%(PHONO MC→REC OUT 3V)
混変調歪率 0.004%(AUX→SP OUT)
パワーバンドウィズス 5Hz〜100kHz(IHF-3dB  THD0.2%)
ダンピングファクター 100(1kHz 8Ω)
周波数特性 20Hz〜20kHz/±0.2dB(PHONO→REC OUT/RIAA偏差) 
2Hz〜100kHz+0dB,−3dB(AUX→SP OUT)
入力感度/インピーダンス PHONO MM=2.5mV/47kΩ,100kΩ 
PHONO HIGH MC=2.5mV/100Ω 
PHONO MC=150μV/100Ω,220Ω 
TUNER,AUX,TAPE PLAY=150mV/47kΩ
PHONO最大許容入力(0.05%) PHONO MM=300mV(1kHz)/1400mV(10kHz) 
PHONO HIGH MC=300mV(1kHz)/1400mV(10kHz) 
PHONO MC=19mV(1kHz)/90mV(10kHz)
定格出力電圧/インピーダンス 150mV/560Ω(TAPE REC) 
1.5V/600Ω(PRE OUT)
SN比(IHF-A ショート) PHONO MM 88dB 
PHONO MC 70dB 
CD・TUNER・AUX・TAPE PLAY 100dB
トーンコントロール BASS   ±8dB 70Hz(Vol−16dB) 
TREBLE  ±8dB 20kHz(Vol−16dB)
ラウドネス +4dB,+6dB 100Hz
SUBSONIC FILTER 15Hz,6dB/oct
ミューティング −20dB
電源 AC100V 50/60Hz
消費電力(電気用品取締法規格) 210W
ACアウトレット UNSWITCHED 1個 200W 
SWITCHED    2個 合計200W
寸法/重量 471W×175H×431Dmm/23kg

※ 本ページに掲載したA-820GTR,A-820RSの写真,仕様表等は1982年
9月,1983年9月のONKYOのカタログより抜粋したもので,オンキョー株式会
社に著作権があります。したがって,これらの写真等を無断で転載・引用等する
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