Victor A-X5
STEREO INTEGRATED AMPLIFIER ¥69,800
1979年に, ビクターが発売したプリメインアンプ。いわゆる「ノンスイッチングアンプ」で,ビクターは「スーパーA」
の名称をつけて,この年「ノンスイッチングアンプ」の1号機として,パワーアンプM-7050を発売しました。そして
同じ年,「スーパーA」方式のプリメインアンプとしてA-X9,A-X5を発売しました。
A-X5の最大の特徴である「スーパーA」は,ノンスイッチングとか可変バイアス方式とか高効率A級等と呼ばれる回
路方式で,1975年にアメリカのスレッショルド社が発売したパワーアンプ800Aに採用されていた「ダイナミックバ
イアス・クラスA」という回路がオリジナルとなるものでした。そして,A-X9とA-X5は,こうした方式を採用したプリメ
インアンプの国産第1号の製品でした。
プッシュプル方式のアンプでは,交流波形のプラス側とマイナス側を独立して別の出力トランジスターで増幅し,波形
を合成するようになっています。その際,常にプラス側からマイナス側という風に切り替えのスイッチングが行われて
いるため,合わせ目で歪みが発生していました。スレッショルドの方式は,バイアスを少し可変とすることでコントロー
ルし,常に電流が両波形のトランジスターに流れるようにしてスイッチングをなくしたものでした。「スーパーA」はほぼ
この方式と同様の方式と考えられ,高速動作の「スーパーAバイアスサーキット」によるバイアス電流のコントロール
と高速なスイッチング特性を持つハイfTパワートランジスターの採用でB級アンプの高効率での高出力と,A級アン
プ並の歪み特性を実現したものでした。
全体の回路構成は,プリメインアンプという形を生かし,MC・MM/DCサーボイコライザーとハイゲイン・スーパーA/
DCパワーアンプというシンプルな2アンプ構成となっていました。当然,ハイレベル入力からスピーカー出力までは,
カップリングコンデンサーを持たない完全DC(ダイレクト・カップル)の1アンプ構成でした。
プリアンプ部は,ビクター独自のローノイズ・ペアEL(エル)-FETを駆使したダブル差動増幅のICL(インプット・コン
デンサーレス)のハイゲインDCサーボ・イコライザーとなっていて,DC安定度を高め,従来は不可能だったハイゲイ
ンを可能にし,ヘッドアンプ等を要さずに,1アンプでMMカートリッジに加え,低出力MCカートリッジにも対応した低
歪み・高S/Nのイコライザーアンプとなっていました。
パワーアンプは,初段にデュアルFETを配し,広帯域かつ高速スイッチングのハイfTパワー・トランジスターを採用し
たシングルプッシュプル構成で,上述の応答スピードの速い「スーパー-Aバイアスサーキット」によるドライバーステー
ジと合わせて,TIM歪0(LPFfc=100kHz)という低歪みで,70W+70W(8Ω,20Hz~20jHz)のハイパワーを
実現していました。
電源部は,大型のEIコアトランスを搭載し,2次側を電圧増幅段用と電力増幅段用にセパレートして各回路と直結さ
せて広帯域に電源インピーダンスを低減し,「ダイレクト・パワーサプライ方式」と称していました。
さらに,大型ヒートシンクを電源とドライブ回路間のシールドに使用して,大電流にともなう磁力線の飛びつきを防止
し,磁気歪みを抑えていました。
入力は,PHONO2系統,TUNER,AUX,TAPE2系統が装備されていました。TAPE2は,リアとフロント両方に端子
が装備されていました。パネルデザインは,ボリュームノブと電源スイッチ,ミューティング,入力切替以外はシーリング
パネル内に収められ,シーリングパネルを閉じるとすっきりとしたシンプルなデザインになっていました。シーリングパネ
ル内には,PHONO1,2の切替,サブソニックフィルター,ラウドネススイッチ,ステレオ/モノ切替,BASS/TREBLE
のトーンコントロール,スピーカー1/2切替,TAPE2端子など,しっかりとプリメインアンプとしての機能が搭載されてい
ました。また,ボリュームは,ノブの摺動部にテフロンシートを挿入し,カメラのレンズを回したときのような精密な操作
フィーリングを実現しつつ,クリアランスを無くした新開発のノン・クリアランス・ボリュームが採用されていました。トーン
コントロールは,不要な超低域・超高域の変化量を抑えた音質の良い,新開発オーディオ帯域用トーンコントロールを
搭載していました。
以上のように,A-X5は,A-X9とともに,「スーパーA方式」のプリメインアンプとして発売され,中級機としてシリーズの
中核を担う1台でした。クリーンなデザインの印象そのままに,クリーンで滑らかな音は,「スーパーA」の音の片鱗を
感じさせるものでした。
以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。
スーパーAの音質がダイレクトに生きる,
クリーンな多機能アンプです。
◎音のよさで知られたAクラス動作,
しかも大出力70W+70Wの
スーパーAサーキット採用。
◎MCカートリッジ入力からスピーカ出力まで,
もっともシンプルな2アンプ構成の
ダイレクト・イン・ダイレクト・アウト設計。
◎MCヘッドアンプを不要にした
ハイゲインDCサーボAクラス・イコライザ
◎独立2電源とダイレクト・パワーサプライ
方式の電源重視設計。
◎ハイfTパワー・トランジスタによる
ワイドレンジ・ハイスピード伝送で
TIM歪ゼロ(LPFfc=100kHz)を実現。
●不要な超低域・超高域の変化量をおさえた
音質のよい新開発オーディオ帯域用トーン
コントロール(PAT.PEND)
●親しみやすさと多機能を両立させたフロント・
パネルのシーリング・ドアと,LEDファンクション
インジケータ。
●レコード再生時の超低域ノイズを低減する
イコライザ・サブソニック・フィルタ。
●小さな音量で聴くときの聴感特性をフラット化
するラウドネス・スイッチ。
■回路方式■
イコライザー・アンプ部 | DCサーボ・ペアEL-FETダブル差動ICL MC・MMイコライザー・アンプ |
パワー・アンプ部 | スーパーA・完全デュアルFETカスコード接続ICL
ハイゲイン・パワー・アンプ |
電源部 | 独立2電源全段ダイレクト・パワー・サプライ方式 |
■総合特性■
実効出力
(TUNER,AUX,TAPE→SP OUT) |
70W+70W(20Hz~20kHz,8Ω,THD0.005%) 73W+73W(1kHz,8Ω,THD0.0008%) |
全高調波歪率
(TUNER,AUX,TAPE→SP OUT) (PHONO MM→SP OUT) |
0.005%(実効出力時,20Hz~20kHz,8Ω)
0.0008%(実効出力時,1kHz,8Ω, BY HP・IB AUDIO ANALYZE SYSTEM) 0.02%(実効出力時,20Hz~50kHz,8Ω) 0.008%(実効出力時,20Hz~20kHz,8Ω,VOL-30dB) |
混変調歪率
(TUNER,AUX,TAPE→SP OUT) |
0.004%(60Hz:7kHz=4:1,実効出力時,8Ω) |
スイッチング歪 | 0 |
TIM歪 | 0(LPF fc=100kHz) |
出力帯域幅
(TUNER,AUX,TAPE→SP OUT) |
5Hz~70kHz(IHF,両ch動作,8Ω,THD0.02%) |
周波数特性
(TUNER,AUX,TAPE→SP OUT) |
DC~100kHz +0,-3dB(8Ω) |
ダンピングファクター
(TUNER,AUX,TAPE→SP OUT) |
75(1kHz,8Ω) |
入力感度/インピーダンス(1kHz) | PHONO(MM) 2.5mV/47kΩ(PHONO-1,2) PHONO(MC) 200μV/100Ω(PHONO-1,2) TUNER,AUX,TAPE-1,2 200mV/47kΩ |
SN比 | PHONO(MM) 85dB(IHF-A,ショートサーキット) 82dB(新IHF)
PHONO(MC) 69dB(IHF-A,ショートサーキット) 75dB(新IHF) TUNER,AUX,TAPE 110dB(IHF-A,ショートサーキット) 85dB(新IHF) |
トーン・コントロール | BASS 100Hz ±8dB
TREBLE 10kHz ±8dB |
サブソニック・フィルター | 18Hz -6dB/oct(イコライザ・サブソニック) |
ラウドネス | 100Hz +6dB,10kHz +4dB(VOL:-30dB) |
ミューティング | -20dB |
■イコライザーアンプ部■
(PHONO→REC OUT)
PHONO最大許容入力 | PHONO(MM) 250mV(1kHz,THD0.005%) PHONO(MC) 18mV(1kHz,THD0.005%) |
PHONO RIAA偏差 | ±0.2dB(20Hz~20kHz) |
全高調波歪率 | PHONO(MM) 0.005%(10V出力時,20Hz~20kHz) PHONO(MC) 0.02%(10V出力時,20Hz~20kHz) |
REC出力電圧/インピーダンス | 200mV/1kΩ |
■電源部・その他■
電源電圧 | 100V 50/60Hz |
定格消費電力 | 160W(電気用品取締法基準) |
電源コンセント | SWITCHED 2コ
UNSWITHCED 1コ |
寸法 | 450W×139H×422Dmm |
重量 | 11.5kg |
Victor A-X5D
STEREO INTEGRATED AMPLIFIER ¥69,800
1980年に,A-X5は,A-X5Dにモデルチェンジされました。A-X9とA-X5に次いで発売されたA-X7Dの技
術を新たに投入し,基本的な構成等はほぼ同一ですが,いくつかの改良・強化が施されたモデルでした。
最大の改良点は,「ピュアNFB回路」の採用でした。当時,多くのアンプでは,1~2kHz付近から上の周波
数で急激に歪率が大きくなる傾向がありました。これは,オープンループの周波数特性がその付近から劣化
し始め,NFB量が減少するためであり,高域のドライブ能力が低下するということになっていました。このよう
なNFB量の減少は,主に増幅回路の位相補償が原因で起こっていました。「ピュアNFB」では,増幅素子の
ハイスピード化とスーパーA方式によって大きく改善された裸特性を生かすために,増幅側での位相補償を
ゼロに近づけ,NFB回路側で位相補償を行うというものでした。具体的には,従来のNFBでは,トランジスター
側に付加されていた位相補償用コンデンサーを,ピュアNFB回路側に移していました。この結果,NFBをか
ける前のオープンループの周波数特性は可聴帯域内でほぼフラットになり,NFB量も均等化されていました。
可聴帯域内の歪率が一様に極少化され,ダンピングファクター特性も平坦になり,NFBの弊害とされるTIM
歪も抑えられていました。また,「スーパーAバイアスサーキット」は新たにIC化されて搭載されていました。
次に,電源部の改良も行われていました。大容量トランスに加え,整流ダイオードと2種類のオーディオ用ハ
イデンシティ・キャパシターをパワートランジスターの近くには位置し,さらに銅板バスバーによる給電ラインで
電源インピーダンスを広帯域に低減していました。また,電流増幅段と電圧増幅段の電源回路を整流回路か
ら別にして相互干渉を防いでいました。そして,重要部品の非磁性体化や部品配置の検討などの配慮によ
り磁気歪を抑えていました。
さらに,デザイン面での変更がありました。ボリュームには,ボリューム位置を読みとるためのポイントに,自
照式のイルミネート・ポインターが採用されていました。このポインターはプロテクション・インジケーターも兼
ねており,電源投入時や保護回路が動作すると点滅するようになっていました。また,ファンクションのON/
OFFを示す自照式インジケーターも,ファンクション・スイッチに組み込まれた形に変更され,よりすっきりと
したデザインになっていました。
以上のように,A-X5Dは,価格は据え置きながら,A-X5をベースに,上級機の技術を投入した改良が行わ
れ,音の面でも,素直で落ち着いた音は受けつがれつつも,よりクリアさや切れ込みが増した音になってい
ました。当時,このクラスのプリメインアンプの中でも高い評価を受けていたことを思い出します。
以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。
新技術ピュアNFBを加えた
スーパーAアンプの第2作,
全可聴帯域極低歪率
0.003%(20Hz~20kHz),75W/ch
音はトータルな完成度で決まる,
全可聴帯域純一駆動。
◎Aクラス時代をひらいた,
ビクターのスーパーAアンプ。
◎広帯域な極低歪率と
ダンピング・ファクターのフラット化
を可能にしたピュアNFB。
◎もっともシンプルな 2アンプ構成。
◎ダイレクト・サプライ方式の
独立2電源。
◎オーディオ帯域用トーンコントロール。
◎プロテクション・インジケーターを
兼ねたイルミネート・
ボリューム・ポインター。
◎TAPE-2端子を
フロントとリア・パネルに装備。
●A-X5D型規格●
■回路方式■
イコライザー・アンプ部 | DCサーボ・ペアEL-FET・ICL MC・MMイコライザー・アンプ |
パワー・アンプ部 | スーパーA・デュアルリード・ピュアNFBサーキット 完全DC・FETカスコード接続ICL ハイゲイン・パワー・アンプ |
電源部 | 独立2電源ダイレクト・パワー・サプライ方式 |
■総合特性■
実効出力
(TUNER,AUX,TAPE→SP OUT) |
75W+75W(20Hz~20kHz,8Ω,THD0.003%) 78W+78W(1kHz,8Ω,THD0.0007%) |
全高調波歪率
(TUNER,AUX,TAPE→SP OUT) (PHONO MM→SP OUT) |
0.003%(実効出力時,20Hz~20kHz,8Ω) 0.0007%(実効出力時,1kHz,8Ω, BY HP・IB AUDIO ANALYZE SYSTEM) 0.02%(実効出力時,20Hz~60kHz,8Ω) 0.007%(実効出力時,20Hz~20kHz,8Ω,VOL-30dB) |
混変調歪率
(TUNER,AUX,TAPE→SP OUT) |
0.003%(60Hz:7kHz=4:1,実効出力時,8Ω) |
スイッチング歪 | 0 |
TIM歪 | 0(LPF fc=100kHz) |
出力帯域幅
(TUNER,AUX,TAPE→SP OUT) |
5Hz~70kHz(IHF,両ch動作,8Ω,THD0.02%) |
周波数特性
(TUNER,AUX,TAPE→SP OUT) |
DC~300kHz +0,-3dB(8Ω) |
ダンピングファクター
(TUNER,AUX,TAPE→SP OUT) |
100(1kHz,8Ω),90(DC~20kHz,8Ω) |
入力感度/インピーダンス(1kHz) | PHONO(MM) 2.5mV/47kΩ(PHONO-1,2) PHONO(MC) 160μV/100Ω(PHONO-1,2) TUNER,AUX,TAPE-1,2 160mV/47kΩ |
SN比 | PHONO(MM) 88dB(IHF-A,ショートサーキット) 85dB(新IHF) PHONO(MC) 70dB(IHF-A,ショートサーキット) 76dB(新IHF) TUNER,AUX,TAPE 110dB(IHF-A,ショートサーキット) 84dB(新IHF) |
トーン・コントロール | BASS 100Hz ±8dB
TREBLE 10kHz ±8dB |
サブソニック・フィルター | 18Hz -6dB/oct(イコライザ・サブソニック) |
ラウドネス | 100Hz +6dB,10kHz +4dB(VOL:-30dB) |
ミューティング | -20dB |
■イコライザーアンプ部■
(PHONO→REC OUT)
PHONO最大許容入力 | PHONO(MM) 250mV(1kHz,THD0.004%) PHONO(MC) 18mV(1kHz,THD0.008%) |
PHONO RIAA偏差 | ±0.2dB(20Hz~20kHz) |
全高調波歪率 | PHONO(MM) 0.004%(10V出力時,20Hz~20kHz) PHONO(MC) 0.008%(10V出力時,20Hz~20kHz) |
REC出力電圧/インピーダンス | 160mV/660Ω |
■電源部・その他■
電源電圧 | 100V 50/60Hz |
定格消費電力 | 165W(電気用品取締法基準) |
電源コンセント | SWITCHED 2コ
UNSWITHCED 1コ |
寸法 | 450W×139H×422Dmm |
重量 | 10.5kg |
※ 本ページに掲載したA-X5,A-X5Dの写真,仕様表等は1980年2月,
1980年9月のVictorのカタログより抜粋したもので,JVCケンウッド
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