A-X900の写真
Victor  A-X900
STEREO INTEGRATED AMPLIFIER ¥79,800

1983年に,ビクターが発売したプリメインアンプ。1981年に発売されたプリアンプP-L10に
初めて採用されたGmプロセッサーをベースにして「Gmサーキット」の技術を新開発し,プリメ
インアンプの各部に搭載したモデルがA-X900でした。

「Gmサーキット」の技術は,もともと電流増幅素子であるトランジスターをストレートに機能させ
るための,電圧・電流変換増幅方式という技術で,A-X900では,イコライザーアンプを除くす
べての増幅段に搭載されていました。

実使用時のアンプの音質に大きな影響のあるボリュームには,「Gmボリューム」が搭載されて
いました。電圧電流変換増幅方式によるGmボリュームは,通常の減衰量可変型の可変抵抗
に対し,ボリューム自身が増幅機能を持つボリューム回路で,マキシマム位置では従来方式の
ボリュームと同等のS/N比ですが,ボリュームを絞れば絞るほどノイズも減少し,実使用時の
S/N比がすぐれていました。また,ボリューム素子(抵抗素子) が信号経路に直接入らない形
になるため,歪みやクロストークなどの音質劣化が少ないという特長も併せもっていました。
Gmボリュームでは,さらに,3段階のパワー段のゲイン切換スイッチである「Gmセレクター」が
装備され,実使用時におけるアンプの不要増幅度をカットして残留ノイズを5〜10dB低減させ,
Gmボリュームとの併用により,実使用時のS/N比は10〜25dBの改善が実現されるというこ
とでした。

A-X900のボリューム

電力増幅段(パワー段)をドライブする電圧増幅段(プリドライブ段)には,電圧・電流変換増幅
を応用した「Gmドライバー」が搭載されていました。Gmドライバーは,パワー段を定電圧駆動
することで出力インピーダンスを低減し,周波数特性をフラットに保つ働きをするということでし
た。これにより,パワー段は,スピーカーのインピーダンス変動や逆起電力などの影響を抑え,
パワートランジスター自体の歪みも抑え,高忠実度な信号送り出しを実現していました。
パワー段は,出力トランジスターのスイッチング歪みを可変バイアス方式により抑えるビクター
自慢の「スー パーA」をさらに改良した「ダイナミック・スーパーA」を搭載し,上記のGmドライ
バーとの組み合わせにより,さらに安定したスピーカー駆動力を誇り,スペック的にも 150W+
150W(8Ω,THD0.003%)という大出力のパワー段となっていました。

全体の回路構成は,プリメインアンプという形を生かし,パワーアンプとイコライザーアンプだけ
というシンプルな2アンプ構成となっていました。イコライザーアンプは,入力にビクター自慢の
EL・FETを使用したハイゲインDCサーボイコライザーで,MCカートリッジにも対応していました。
新技術を駆使した極低歪率イコライザーが採用されDCサーボも,中低域での動作レベルをDC
領域よりもずっと低く抑えて,イコライザーの裸特性を改善した デュアル・スロープDCサーボ回
路が搭載されていました。

電源部は,大容量の電源トランスと18,000μF×2の電解コンデンサーが搭載されていました。
この広帯域ローインピーダンスの大容量電解コンデンサーをパワー段の基板上に配置したうえ
に,大電流が流れるパワー・トランジスターには太い銅板バス・バーで給電するダイレクト・パワー
サプライが採用されていました。また,電源インピーダンスによる干渉歪を排除するために,前
後段独立方式シャント・ロック電源が採用されていました。

A-X900の内部

コンストラクション,パーツの面でも,各部に配慮が行われていました。パワーアンプの電磁的・静
電的干渉でイコライザーアンプに歪を誘発することを防ぐために,大型ヒートシンクを利用して回路
基板をセパレートし,PHONO端子をはじめとするリア・パネルの入力端子はすべて基板へダイレ
クトに接続されていました。入力端子には, 時代に合わせDAD表示の端子も設けられ,テープ回
路は3系統設けられ,そのうち1系統はメタルカバー付きのフロント端子として装備されていました。
そのほか,セラミック・ケース入りの無接点・無誘導・無共振化エミッター抵抗や高速ダイオード,低
雑音ツェナー・ダイオードなど,音質重視の素子が使用されていました。

以上のように,A-X900は,プリメインアンプの中級機ながら,Gmサーキットをはじめ各部に上級
機で開発されたビクター持ち前の技術を投入し,しっかりと物量も投入された力の入った1台でした。
バランス のとれた,音楽を楽しく聴かせる音をもつ,コストパフォーマンスの高いプリメインアンプで
した。


以下に,当時のカタログの一部をご紹 介します。



Gmサーキットがアンプを
一新する。


◎デジタルソースの真価を生かす
 高S/N Gmサーキット。
 (GmボリュームとGmセレクター)
◎Gmドライバーでスピーカー実装時の
 動特性と駆動力を大幅に改善,
 ダイナミック・スーパーA
 リアル・ハイパワー・アンプ。
◎DADやフロント・テープ端子をはじめ
 充実した入力端子とコントロール機能。
◎ダイレクト・パワーサプライを基本に
 オーバーオールな極低歪率化設計。

●高級カメラ・フィーリングのノン・クリアランス・
 ボリューム・ノブ。
●不必要な超低域と超高域の変化量を抑えた,
 音のよいトーンコントロール回路。
●着脱式のメタル・カバー付きフロント・テープ
 入出力端子。




●A-X900仕様●



■回路方式■

イコライザーアンプ部 ICL,初段EL-FET,MC/MMデュアルスロープ
DCサーボ・ハイゲイン・イコライザーアンプ
パワーアンプ部 Gmサーキット+ダイナミック・スーパーAハイゲイン・パワーアンプ
電源部 ダイレクト・パワーサプライ(パワー段)



■総合特性■

実効出力
DAD,TUNER,AUX,TAPE→SP OUT=
 150W+150W(20Hz〜20kHz,8Ω,THD0.003%)
 160W+160W(2kHz,8Ω,THD0.0005% 
           BY JVC AUDIO ANALYZER SYSTEM)
全高調波歪率
DAD,TUNER,AUX,TAPE→SP OUT=
 0.003%(実効出力時,20Hz〜20kHz,8Ω)
 0.0005%(実効出力時,1kHz,8Ω
           BY JVC AUDIO ANALYZER SYSTEM)
PHONO・MM→SP OUT=
 0.007%(実効出力時,20Hz〜20kHz,8Ω,VOL−30dB)
混変調歪率 DAD,TUNER,AUX,TAPE→SP OUT=
 0.001%(60Hz:7kHz=4:1,実効出力時,8Ω)
スイッチング歪
TIM歪 0(LPF fc=100kHz)
出力帯域幅 5Hz〜60kHz(IHF,両ch動作,8Ω,THD0.05%)
(DAD,TUNER,AUX,TAPE→SP OUT)
周波数特性 2Hz〜100kHz(+0,−3dB)
(DAD,TUNER,AUX,TAPE→SP OUT)
ダンピングファクター 80(1kHz,8Ω)
(DAD,TUNER,AUX,TAPE→SP OUT)
入力感度/インピーダンス
 (1kHz)
PHONO(MM) 2.5mV/47kΩ
PHONO(MC) 200μV/100Ω
DAD,TUNER,AUX,TAPE 200mV/39kΩ
SN比 PHONO(MM) 86dB(IHF-Aショートサーキット)
           83dB(新IHF)
PHONO(MC) 70dB(IHF-Aショートサーキット,250μV入力)
           75dB(新IHF)
DAD,TUNER,AUX,TAPE 110dB(IHF-Aショートサーキット)
                     92dB(新IHF)
トーンコントロール BASS   100Hz±8dB
TREBLE  10kHz±8dB
サブソニックフィルター 18Hz−6dB/oct
ラウドネス 100Hz+4dB
ミューティング −20dB



■イコライザーアンプ部■
(PHONO→REC OUT)

PHONO最大許容入力 MM 150mV(1kHz,THD0.002%)
MC 11mV(1kHz,THD0.003%)
PHONO RIAA偏差 MM ±0.2dB(20Hz〜20kHz)
MC ±0.2dB(20Hz〜20kHz)
全高調波歪率 MM 0.002%(7V出力時,20Hz〜20kHz)
MC 0.008%(7V出力時,20Hz〜20kHz)
REC出力電圧/インピーダンス 200mV/660Ω




■電源部その他■

電源電圧 AC100V(50/60Hz)
定格消費電力 225W(電気商品取締法基準)
電源コンセント SWITCHED    2コ
UNSWITCHED 1コ
寸法/重量 435W×149H×406mm/12.6kg

AX-S900の写真
Victor AX-S900
STEREO INTEGRATED AMPLIFIER ¥79,800

1985年に,A-X900はモデルチェンジを行い,AX-S900が登場しました。基本的な部分は受
け継がれ,いくつかの改良・強化が施されていました。

第1の強化点として,新たにCDダイレクト・スイッチが設けられ,ソース切換やテープモニターなど
のファンクション・スイッチとフィルター類をジャンプして,パワーアンプ部に直接CDの信号を送る
形がとれるようになっていました。欠くことのできない入力ボリュームあるいはアッテネーターによ
る入力インピーダンスの変動の問題に対しては,電圧・電流変換増幅Gmサーキットによってアン
プそのものがボリュームの働きをし,入力インピーダンスも一定に保たれるため,すぐれた直結の
形が得られるようになっていました。
第2の強化点として,PHONOイコライザーにも電圧・電流変換増幅Gmサーキットが採用されてい
たことがありました。NF型では得難いすぐれた過渡特性とCR型では得難い高S/N,高リニアリティ
が矛盾なく両立する,一般的なNF型とCR型の長所を併せもつ高性能イコライザーとなっていまし
た。これにより上級機A-X1000と同じく全信号回路にGmサーキットが採用される形になりました。
そのほかの強化点として,電源部の見直しがありました。信号経路のなかにあるオーディオ・トラン
スと考えて,ワイドレンジ化が徹底され,高い周波数までローインピーダンスを保って損失を極小化
するとともに外乱ノイズの影響を受けにくく,みずから発生するノイズも少ない独自の構造とした,新
開発のワイドレンジ・トランスが電源部の中核にすえられていました。

新開発ワイドレンジ・トランス

外観上分かる大きな変化として,サイドウッドが装備され,増加した重量(14.1kg)を支える大型
のフットが新たに採用され,上級機のA-X1000を思わせるような外観となっていました。音質的に
も,ビクターらしい音楽を楽しく聴かせる,よりバランスのとれた音に仕上げられていました。


以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。



CD DIRECT虹色の感動,
Gmアンプへ一直線。
新電源がささえる全段Gmサーキット,
休止符まで生きている。


◎CD が生きるハイグレードの極致へ,
CDダイレクト・スイッチONで,
Gmアンプにダイレクト・イン。
◎アンプの残留ノイズを最大25dBも
低減,GmボリュームとGmセレクター。
◎電源思想を革新するニュー・トランス搭載,
広帯域,ローインピーダンス,極大容量。
◎160W+160W(6Ω)のハイパワー,
ハイクオリティGmパワーアンプ。
◎全信号回路をGmサーキット化,
Gmイコライザーでアナログ・ディスクも
MCダイレクト,極上のクオリティ。

●テープ3入出力端子をフロント・パネルに装備。また
 5ポジションのフル・モード・セレクターでモノ・ソースに
 も全面対応。デジタル/AV時代にふさわしい多彩なコ
 ントロール機能をそなえています。
●DCとPHONO入力端子は金メッキ。錆びにくく,高い
 接触効果を長時間維持します。
●総重量14.1kg(サイドウッド取付け時)のヘビィウェ
 イト・アンプをガッチリと支える大型フット。ピュアな音質
 を守ります。
 ●パラレル駆動もできる2系統スピーカー・セレクター・ス
 イッチ。



●AX-S900仕様●

■回路方式■

イコライザーアンプ部 ICL,初段EL-FET,MC/MMハイゲイン
Gmイコライザーアンプ
パワーアンプ部 Gmサーキット(Gmボリューム/Gmセレクター/Gmドライバー)
+ダイナミック・スーパーAハイゲイン・パワーアンプ
電源部 ダイレクト・パワーサプライ


■総合特性■
<(CD)はCD DIRECTスイッチON時>

定格出力
(CD)=
 160W+160W(6Ω,20Hz〜20kHz,THD0.006%)
 150W+150W(8Ω,20Hz〜20kHz,THD0.003% 
           BY JVC AUDIO ANALYZER SYSTEM)
全高調波歪率
(CD)=
 0.003%(定格出力時,20Hz〜20kHz,8Ω)
(PHONO・MM)=
 0.007%(定格出力時,20Hz〜20kHz,8Ω,VOL−30dB時)
混変調歪率 (CD)=
 0.001%(60Hz:7kHz=4:1,定格出力時,8Ω)
スイッチング歪
TIM歪
出力帯域幅 7Hz〜60kHz(IHF,両ch動作,8Ω,THD0.05%)
(CD)
周波数特性 3Hz〜100kHz(+0,−3dB)
(CD,TUNER,AUX,TAPE→SP OUT)
ダンピングファクター 80(1kHz,8Ω)
(CD,TUNER,AUX,TAPE→SP OUT)
入力感度/インピーダンス
 (1kHz)
PHONO(MM) 2.5mV/47kΩ
PHONO(MC) 200μV/100Ω
CD,TUNER,AUX,TAPE 200mV/39kΩ
SN比 PHONO(MM) 86dB(IHF-Aショートサーキット)
           83dB(’78IHF)
PHONO(MC) 70dB(IHF-Aショートサーキット,250μV入力)
           75dB(’78IHF)
CD,TUNER,AUX,TAPE 110dB(IHF-Aショートサーキット)
                     92dB(’78IHF)
トーンコントロール BASS   100Hz±8dB
TREBLE  10kHz±8dB
サブソニックフィルター 18Hz−6dB/oct
ラウドネス 100Hz+4dB
ミューティング −20dB



■イコライザーアンプ部■
(PHONO→REC OUT)

PHONO最大許容入力 MM 150mV(1kHz,THD0.002%)
MC 11mV(1kHz,THD0.003%)
PHONO RIAA偏差 MM ±0.2dB(20Hz〜20kHz)
MC ±0.2dB(20Hz〜20kHz)
全高調波歪率 MM 0.002%(5V出力時,20Hz〜20kHz)
MC 0.008%(7V出力時,20Hz〜20kHz)



■電源部その他■

電源電圧 AC100V(50/60Hz)
定格消費電力 270W(電気商品取締法基準)
電源コンセント SWITCHED    2コ
UNSWITCHED 1コ
寸法/重量 475W×157H×406mm/14.1kg(サイドウッド取付け時)

※ 本ページに掲載したA-X900,AX-S900の写真,仕様表
等は,1983年9月,1985年10月のVictorのカタログより抜
粋したもので,日本ビクター株式会社に著作権があります。
したがってこれらの写真等を無断で転載・引用等することは
法律で禁じられていますのでご注意ください。

 

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