Aurex ST-420
AM/FM STEREO TUNER ¥47,800
1976年に,オーレックス(東芝)が発売したFM/AMチューナー。東芝は,1973年に,オーディオブランドとして
オーレックスを立ち上げ,オーディオ業界に本格参入し,家電系メーカーのオーディオブランドとして最後発でした
が,オーディオ研究所を立ち上げるなど,意欲を見せていました。1974年には,国産初のシンセサイザーチュー
ナーST-910を発売し,高い技術力を示していました。そんなオーレックスが中級機として発売したチューナーが
ST-420でした。
FM部のフロントエンドは,4連バリコンを搭載し,FETを使用するなど,オーソドックスに高感度を実現していまし
た。
IF部は,差動形IC3段と6極LCブロックによるリニアフェイズ・フィルターを使用し,前段のフロントエンドとともに
高感度と音質の両立を図り,再生音の帯域幅,群遅延特性を改善した新設計となっていました。そして,検波段
にはオーソドックスなレシオ検波が採用されていました。
MPX部には,PLL IC(サンヨー製LA3350)が搭載されていました。PLL(Phase Lock Loop)は,2つの信
号の位相を比較し,サーボ機構を含んだ閉ループで両者の位相関係を一定に保つようにしたもので,MPX回路
にPLLを採用することで,パイロット信号,MPX信号の正確さと安定度が飛躍的に高まり,経年変化,温度変化
による性能低下が抑えられていました。こうしたメリットより,この頃からPLL MPX ICが使われることが多くな
りました。
機能的には,オーソドックスな構成で,FM AUTO/MONO切換,FM MUTINGスイッチ,OUTPUT LEVELボ
リュームの他,440Hzの基準信号を発振するエアチェック用キャリブレーターが装備されていました。
ダイヤルスケールは,240mm長の横行タイプで,シンプルで見やすいものとなっていました。メーターは,シグナ
ル・メーターとセンターチューニング・メーターが搭載されていました。
AM部は,ディスクリート構成の本格的なもので,しっかりした性能を実現していました。
ST-420は,中級機ながら,1台ごとにFM感度,SN比,高調波歪率,ステレオセパレーションの4項目の実測
生データのシートが付属していたのも,オーレックスのこだわりが感じられました。
そして,ST-420を特徴付けるものとして,そのデザインがありました。ダイヤルスケールがフロントパネルのい
ちばん下部・底板に近い位置にあり,見やすくするためにパネルに折り目・角度を付け,少し斜め上に向けてい
るのがのがデザイン的な特徴で,他のアナログ式チューナーとは異なる,ある意味少し未来的なイメージを醸し
出していました。このデザインは,インダストリアルデザインの川崎和男氏が手がけたものとされており,1978
年のアキュフェーズT-104のデザインにも影響を与えたといわれています。(T-104のデザインは瀬川冬樹氏
が関わっていたといわれており,パネル上の配置がよく似ていますね。)
以上のように,ST-420は,中級機としてオーソドックスに作り上げられたFM/AMチューナーで,同社のプリメイ
ンアンプSB-820,SB-620,SB-420とのペアを想定してデザイン的にも統一感が図られたそのデザインは
グッドデザイン賞も受賞するなど,オーレックスの個性を見せていました。受信性能と音質,使い勝手のバランス
がとれた使いやすい1台となっていました。
以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。
ステレオ再生に重点を置いた
低歪率チューナー。
エアチェックに便利な
キャリブレーター・スイッチ付。
◎FMの高忠実度再生と録音に焦点を合わせた設計です
◎エアチェック用キャリブレーター(440Hz信号発振器)付
◎FM目盛は,等間隔目盛240mm。見やすい傾斜。
切れ長に見開いたメーターは針の動きがわかりやすい設計です。
◎実測データシート付。FM感度,SN比,高調波歪率
ステレオセパレーションの4項目。1台毎の生データ付です。
●ST-420の規格●
回路方式 | 4連バリコン,スーパーヘテロダイン PLL-IC使用ステレオ復調回路 |
使用半導体 | Tr:22,FET:2,Dio:19,IC:4 |
●FM部 | |
受信周波数 | 76~90MHz |
実用感度 | 1.9μV(IHF) |
高調波歪率 | ステレオ:0.3%,モノ:0.2% |
SN比 | ステレオ:68dB,モノ:72dB |
周波数特性 | 20~15,000Hz ±1dB |
実効選択度 | 70dB |
イメージ妨害比 | 85dB |
IF妨害比 | 90dB |
キャプチャーレシオ | 1.0dB |
スプリアス妨害比 | 100dB |
AM抑圧比 | 55dB |
ステレオ分離度 | 45dB(1kHz) |
定格出力 | 固定:450mV(1kHz・100%変調) 可変:0~800mV(1kHz・100%変調) |
アンテナ端子 | 300Ω平衡,75Ω不平衡 |
●AM部 | |
受信周波数 | 525~1.605kHz |
実用感度 | 300μV/m(IHF)バーアンテナ |
イメージ妨害比 | 35dB |
IF妨害比 | 35dB |
SN比 | 50dB |
選択度 | 30dB |
アンテナ | フェライトバーアンテナ,外部アンテナ端子付 |
●電源・その他 | |
供給電源 | AC100V,50/60Hz |
消費電力 | 15W |
外形寸法 | 450W×148H×376Dmm |
重量 | 8.3kg |
※本ページに掲載したST-420の写真,仕様表等は1976年10月のAurex
のカタログより抜粋したもので,東芝株式会社に著作権があります。したがって,
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