SANSUI AU-707
INTEGRATED AMPLIFIER ¥93,800
1976年に,サンスイが発売したプリメインアンプ。伝統的にプリメインアンプにすぐれた製品を送り出
してきたブランドでした。そんなサンスイのプリメインアンプは,管球式プリメインアンプの名機AU-111
(1965年),サンスイ初のオールシリコントランジスターのプリメインアンプAU-777(1967年),国産
初のピュアコンプリメンタリー方式のプリメインアンプAU-666など,画期的な製品群で高い評価を得
ていました。そんなサンスイが,カップリングコンデンサーを排除するDCアンプ化の流れの中で,より
新しい高性能なプリメインアンプとして開発されたのがAU-707と弟機のAU-607でした。

AU-707の大きな特徴は,DCアンプとしての性能,安定性の向上と,大幅なワイドレンジ化を実現し
ていたことでした。多量のNFをかけて歪を改善した際に,増幅回路内での遅延などの不安定要素
(入力信号とNF信号の合成点であるサミングポイントにおいて,瞬間的にNF動作がはずれ,過大入
力がアンプに入ること等)のために発生する過渡混変調歪(TIM:Transient Inter Modulation)
分解能の悪化などを避けるため,NFをかける前の裸特性の向上(周波数特性の拡大,位相特性の
向上,歪率の低減)を行い,また,進相,遅相に対して独自の位相補正回路を適切なスタガー比で
組み合わせ,数10MHzに至る高周波数領域まで位相特性を向上し,必要最小限のNFをかけるよ
うにしていました。信号系やNFループにコンデンサを使用しないDCアンプ構成とすることで,超低域
における応答性にすぐれていることに加え,超高域における応答性も重視し,周波数特性DC~200
kHz(+0,-3dB),パワーバンドウィドス5Hz~50kHzを達成し,安定動作とワイドレンジを実現し
ていました。

パワーアンプ部は,初段デュアルFET,差動2段増幅+香蓮とミラー付電流差動プッシュプルドライブ
+3段ダーリントン接続,全段直結OCL方式のDCアンプ構成となっていました。
初段には,特性の揃った新開発のデュアルFETを使用し,従来のFETに比べ約4倍の大電流を流せ
るという特徴を生かし,スルーレイトの向上や入力信号とNF信号が合成されるサミングポイントでの
過渡混変調歪(TIM)の発生を効果的に抑制していました。
2段目は,ローノイズトランジスタによる差動アンプ構成で,ゲインは極力抑え,裸特性(特に高域で
の周波数特性)の向上が図られていました。さらに,2段目のシングルエンド出力から電流差動動作
となり,プリドライブ段を構成するようになっており,この回路はプッシュプル回路なので,第2次高調
波歪が打ち消され,裸特性での歪率特性にすぐれ,温度特性や電源変動の影響を受けにくくなって
いました。このプリドライブ段のトランジスタはhoe(エミッター接地,出力コンダクタンス)の特に小さ
なものを厳選し,さらに,エミッター側にシリーズ抵抗を付加し,リニアリティの悪化を抑えていました。
出力段は,3段ダーリントン構成で,出力インピーダンスを下げ,低歪率化を図り,出力トランジスタ
は高周波特性,パルス特性が良好で余裕ある安定動作を確保していました。
また,DCアンプで問題になる中点電位のドリフトを防ぐため,初段が出力段から影響を受けないよう
徹底的に電源変動を抑え,サミングポイントの対称性(ペア特性)を向上させていました。

イコライザー部は,初段カレントソース付差動1段,バッファーアクティブロード付A級増幅1段,終段
純コンプリメンタリーSEPP出力による8石構成となっていました。信号系には6石を使用し,パワー
アンプ部同様に裸特性を重視した回路構成で,可聴帯域外(10kHz~100kHz)の広範囲に至る
まで低歪化を達成していました。特に,差動入力部にローノイズトランジスタを厳選し,さらにカレント
ソース回路を付加し,入力信号とNF信号の合成点・サミングポイントでのCMRR(同相分除去比)を
徹底的に改善し,動特性の向上を図っていました。また,イコライザー出力段に純コンプリメンタリー
SEPP回路を採用し,十分なゲインと,高SN比,余裕あるダイナミックマージンを実現していました。
イコライザー素子には,高精度金属皮膜抵抗や容量誤差の少ないコンデンサーを使用し,RIAA偏
差±0.2dB(20Hz~20kHz)を確保し,レギュレーションのよい高電圧の±2電源供給により,入
力感度2.5mVに対し,PHONO最大許容入力は320mV(1kHz,rms,歪率0.01%)と余裕あ
るダイナミックマージンを確保していました。

トーンコントロール部の回路構成は,初段カレントソース付差動増幅+1段増幅+3石構成,差動増
幅バッファーアンプによる7石構成となっていました。BASS,TREBLE独立で±10dBの調整が行
え,さらにトーンセレクターを備え,BASSは400Hz,200Hzに,TREBLEは6kHz,3kHzにクロ
スオーバー周波数が切替えられるようになっていました。また,トーンコントロールによる調整が不
要な場合は,トーンディフィートに切替えると,トーン回路をパスし,フラットアンプによる平坦な周波
数特性が得られるようになっていました。
ボリュームは,高精度32ステップの4連ディテント型ボリュームが搭載され,実用上のSN比を大き
く高めていました。



電源部は,大型パワートランスを左右独立で搭載した完全なセパレート電源で,電解コンデンサは
大容量15,000μF×4を搭載し,レギュレーションのよい±2電源を各回路に供給するようになっ
ていました。



入力は,PHONO2系統,TUNER,AUX,TAPE2系統が装備され,TAPEは相互ダビングが可能
となっていました。スピーカー出力は2系統装備され,フロントのスイッチで切り替えられるようになっ
ていました。
機能的には,16Hz,6dB/octのサブソニックフィルタ,10kHz,6dB/octのハイフィルタ,-20dB
のオーディオミューティング,ラウドネススイッチなどが搭載されていました。また,プリ部とメイン部は
切り離し可能で,メインアンプへの入力はDC/ACが選べるようになっていました。


SANSUI AU-607
INTEGRATED AMPLIFIER ¥69,800


AU-707の弟機としてAU-607が発売されていました。外観デザインも見分けが付かないくらいそっ
くりでしたが,回路構成などの内容もほぼ継承されていました。

電源部は,ツイントランスであることは同一でしたが,やや小型のトランスとなり,電解コンデンサーも
12,000μF×4と,全体にやや容量の小さい電源部となっており,出力も85W/ch→65W/chと
やや低くなっており,イコライザアンプの最大許容入力も,320mV→300mVとやや低くなっていまし
た。
その他,ボリュームが2連型ディテントボリュームになり,トーンコントロールのクロスオーバー切換が
省かれていました。フィルター回路も,サブソニックのみとなり,オーディオミューティングも省略されて
いました。

以上のように,AU-707は,サンスイがプリメインアンプの新しいシリーズとして,同社伝統のブラック
パネルを継承しつつ,よりすっきりとした精かんなデザインを採用し,積み上げてきた持ち前のアンプ
技術をしっかりと投入し,より強化・改良を図り,物量をしっかり投入してすぐれた性能を実現していま
した。弟機のAU-607は,707を少しスケールダウンしているものの,ほぼ内容を継承した高いコスト
パフォーマンスを実現していました。同社の主力モデルとなる「07シリーズ」の原点ともいえるモデルで,
これ以降,サンスイのプリメインアンプでの大躍進がスタートしたともいえるある意味画期的なアンプ
でした。


以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。



オーディオの本質を見極めた回路構成
サンスイの新しい音,
ワイドレンジDCプリメイン。

◎周波数特性DC~200kHz
 安定動作による賄賂レンジを実現
◎オーディオ特性を大幅に向上
 DCパワーアンプ部
◎高精度な回路設計,
 8石構成イコライザー
◎2パワートランス採用
 左右チャンネル独立の強力2電源部



AU-707
実効出力85W+85W,
オーディオの動特性を高めたDCプリメインアンプ。

◎実効出力85W+85W
 DCパワーアンプ部
◎高性能8石構成イコライザー部
◎トーンコントロール部
◎トーンディフィート・スイッチ
◎16Hz,6dB/oct
 サブソニックフィルター
◎高域雑音をカットするハイフィルター
◎左右チャンネル独立した
 強力2電源部
◎電子回路による確実な保護回路
◎高精度4連型ディテントボリューム
◎プリメイン切り離し/
 DC,ACメインアンプ入力
◎テーププレイ/コピー機能
◎オーディオミューティング・スイッチ
◎大型スピーカー端子/切替えスイッチ
◎ラウドネス・スイッチ

●センタークリック式バランスコントロール
●ヘッドホン端子
●予備ACコンセント連動1回路(100W),
 非連動2回路(250W)
●大型アース端子



AU-607
斬新な回路構成と厳選した素材,
音を忠実に表現するDCプリメインアンプ。

◎実効出力65W+65W
 DCパワーアンプ部
◎高精度設計8石構成イコライザー部
◎トーンコントロール部
◎トーンディフィート・スイッチ
◎サブソニックフィルター
◎2パワートランスの強力電源部
◎高信頼度の保護回路
◎高精度2連型ディテントボリューム
◎プリメイン切り離し/メインアンプ入力
◎テーププレイ回路
◎スピーカー端子/切替えスイッチ
◎ラウドネス・スイッチ

●センタークリック式バランスコントロール
●ヘッドホン端子
●予備ACコンセント連動1回路(100W),
 非連動2回路(250W)
●大型アース端子




●規格●

■パワーアンプ部■

  AU-707 AU-607
実効出力 85W+85W
(20Hz~20kHz,THD0.03%,8Ω)
85W+85W
(1kHz,THD0.003%,8Ω) 
65W+65W
(20Hz~20kHz,THD0.03%,8Ω)
65W+65W
(1kHz,THD0.003%,8Ω)  
全高調波歪率 0.03%以下
(20Hz~20kHz,実効出力時) 
0.03%以下
(20Hz~20kHz,実効出力時)  
混変調歪率  0.03%以下(70Hz:7kHz=4:1)  0.03%以下(70Hz:7kHz=4:1)  
出力帯域幅  5Hz~50kHz
(IHF,両ch動作,THD0.03%,8Ω) 
5Hz~50kHz
(IHF,両ch動作,THD0.03%,8Ω) 
ダンピングファクター  60(IHF,両ch動作,1kHz,8Ω)  60(IHF,両ch動作,1kHz,8Ω)  
周波数特性 DC~200kHz(+0dB,-3dB,1W)  DC~200kHz(+0dB,-3dB,1W) 
入力感度/入力インピーダンス 1V/47kΩ(1kHz)  1V/47kΩ(1kHz)  
SN比  115dB以上
(IHF,Aネットワーク,ショートサーキット) 
115dB以上
(IHF,Aネットワーク,ショートサーキット)  
チャンネルセパレーション  75dB以上(1kHz,入力ショート)  75dB以上(1kHz,入力ショート)  



■プリアンプ部■

入力感度/入力インピーダンス(1kHz) PHONO-1,2:2.5mV(47kΩ)
AUX,TUNER,TAPE PLAY-1,2:150mV(47kΩ) 
PHONO-1,2:2.5mV(47kΩ)
AUX,TUNER,TAPE PLAY-1,2:150mV(47kΩ) 
PHONO最大許容入力  320mV(1kHz,THD0.01%) 300mV(1kHz,THD0.01%) 
出力電圧(1kHz)  TAPE REC-1,2(PIN):150mV(47kΩ)
PRE OUT:1V(47kΩ)
MAX PRE OUT:10V(47kΩ,THD0.05%)
TAPE REC-1,2(PIN):150mV(47kΩ)
PRE OUT:1V(47kΩ)
MAX PRE OUT:10V(47kΩ,THD0.05%) 
出力インピーダンス(1kHz)  TAPE REC-1,2(PIN):600Ω以下
PRE OUT:2kΩ以下 
TAPE REC-1,2(PIN):600Ω以下
PRE OUT:75Ω以下  
全高調波歪率(20Hz~20kHz)  1V出力時:0.01%以下
10V出力時:0.1%以下
1V出力時:0.01%以下
10V出力時:0.1%以下
混変調歪率(70Hz:7kHz=4:1) 1V出力時:0.01%以下
10V出力時:0.1%以下
1V出力時:0.01%以下
10V出力時:0.1%以下
周波数特性  5Hz~100kHz(+0dB,-1dB)  5Hz~50kHz(+0dB,-1dB) 
RIAA偏差(20Hz~20kHz)  ±0.2dB  ±0.2dB 
SN比
(IHF,Aネットワーク,ショートサーキット) 
PHONO-1,2:77dB以上
AUX,TUNER,TAPE PLAY-1,2:100dB以上
PHONO-1,2:77dB以上
AUX,TUNER,TAPE PLAY-1,2:100dB以上 
チャンネルセパレーション
(IHF,入力ショート) 
PHONO-1,2:60dB以上
AUX,TUNER,TAPE PLAY-1,2:65dB以上 
PHONO-1,2:60dB以上
AUX,TUNER,TAPE PLAY-1,2:65dB以上 
入力間セパレーション
(1kHz,入力ショート) 
PHONO-1,2-TUNER:90dB以上
PHONO-1,2-TAPE PLAY-1,2:90dB以上
TAPE PLAY-1,2-TUNER:90dB以上
TAPE PLAY-1-TAPE PLAY-2:100dB以上 
PHONO-1,2-TUNER:90dB以上
PHONO-1,2-TAPE PLAY-1,2:90dB以上
TAPE PLAY-1,2-TUNER:90dB以上
TAPE PLAY-1-TAPE PLAY-2:100dB以上  
トーンコントロール  BASS:±10dB(50Hz)
 トーンセレクター:400Hz,200Hz
TREBLE:±10dB(15kHz)
 トーンセレクター:6kHz,3kHz 
BASS:±10dB(50Hz)
 
TREBLE:±10dB(15kHz)
 
ハイフィルター  10kHz(-3dB,6dB/oct)    
サブソニックフィルター  16Hz(-3dB,6dB/oct)  16Hz(-3dB,6dB/oct) 
ラウドネス(ボリューム-30dB)  +9dB(50Hz),+7dB(10kHz)  +9dB(50Hz),+7dB(10kHz) 
オーディオミューティング -20dB    
定格消費電力(電気用品取締法)  225W  185W 
寸法  430W×168H×389Dmm 430W×168H×389Dmm 
重量  16.8kg 15.3kg 
※本ページに掲載したAU-707,AU-607の写真,仕様表等は1978年
 11月のSANSUIの
カタログより抜粋したもので,山水電気株式会社に
 著作権があります。したがって,こ
れらの写真等を無断で転載・引用等する
 ことは法律で禁じられていますのでご注意く
ださい。                                              
  
 

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