SANSUI AU-α907i MOS LIMITED
REFERENCE INTEGRATED AMPLIFIER ¥260,000
1987年に,サンスイが発売したプリメインアンプ。サンスイはプリメインアンプ「07シリーズ」が高い
評価を受け,ロングセラーを続け,何世代にもわたりモデルチェンジしていきました。そうした中,
1947年に創立したサンスイが創立40周年記念モデルとして発売した「07シリーズ」の限定モデル
がAU-α907i MOS LIMITEDでした。

AU-α907i MOS LIMITEDの最大の特徴は,型番からも分かるように,パワーMOS FETを出
力段に採用していたことでした。サンスイは,1984年にAU-X111MOS VINTAGEで初めてこの
パワーMOS FETを出力段に搭載し,高評価を得ました。この東芝製のMOS FETは,独特の音
質の良さで定評のある素子で,AU-α907MOS LIMITEDにも採用されていました。このMOS
FETをサンスイ仕様で特性の揃ったものを使用し,厳密にマッチングをとったパラレルプッシュプル
構成として100W+100W(6Ω),80W+80W(8Ω)の出力を実現していました。



2つ目の大きな特徴は,「α-Xバランスサーキット」でした。サンスイは,1984年にAU-D507X
AU-D607X,AU-D707X,AU-D907Xを発売し,バランス構成のアンプを全面的に展開す
るようになりました。1987年に4世代後にあたるモデルとしてAU-α907iを発売しました。これを
ベースにした限定モデルがAU-α907iMOS LIMITEDで,バランスアンプ構成を継承・洗練させ
て採用していました。通常のアンプは,アンバランス構成で,アンプの電源回路のアース回路と増
幅回路のアース回路(出力のマイナス側)がつながっているため,この逆電流が増幅回路へ流入
し,音質に悪影響を与えます。「α-Xバランスサーキット」は,アースを基準としないバランス回路
構成で,伝送と増幅が同時に行われるため,回路自体が外来ノイズや同相歪をキャンセルするこ
とができるようになっていました。さらに,-側と+側がそれぞれの専用のアンプをもった4アンプ
構成となっており,-側も+側と同じ条件で両方向からスピーカーをドライブするプッシュプル方式
となっているため,低歪率でパワフルなスピーカードライブを実現していました。また,アースから
独立しているため,電源系からのノイズは混入せず,スピーカーからの逆起電力によるIHM
(Interface Hum Modulation)の発生も抑えられ,スピーカーのインピーダンス変化や位相変
化にも強くなっていました。



「α-Xバランスサーキット」を支える電源部には,バランス電源が搭載されていました。アースライ
ンから独立させクローズドループとした独自のバランス電源は,+側と-側で常に電流が等しく,
電源のアンバランスから生じる悪影響が排除されていました。また,ACラインからのノイズや電
源変動にも強く,クリーンな電源供給が可能となっていました。さらに,イコライザー部,プリ部,
メイン部に,マスター・レギュレータに加えてローカルパワーレギュレータを装備し,変動する音楽
信号に忠実に追従できる構成となっていました。
このバランス電源部には,高密度充填材を封入した新開発の超大型電源トランスを採用し,振動
発熱にもしっかりと対策が施されていました。また,低歪率でハイスピードな新開発LIMITED用カ
スタム電源コンデンサー,ファーストリカバリー・ダイオード,の採用ともあいまって,電源部全体の
低インピーダンス化,ハイスピード化が実現されていました。

内部のコンストラクションは,超大型電源トランスを主体とする電源部を中央に,ヒートシンカーに
マウントされたパワーアンプ部を左右対称に分離して配置したツイン・モノラルコンストラクションが
採用され,信号経路,放熱,強度に配慮されていました。
さらに,各ステージを銅メッキを施したセパレーターで分離シールドし,ステージ間のシールド特性
を向上させ,信号の相互干渉を排除するとともに,外部からのデジタル性の電磁波ノイズ,磁気歪
等の影響も徹底して排除していました。また,このセパレーターは大型ビスによりボンネットと底板
に強固に固定され,シャーシ全体をソリッドに一体構造化して,外部振動,内部振動の影響を抑え
ていました。



その他のパーツの面でも,限定モデルらしくしっかりと検討が加えられ,高品質なものが投入され
ていました。まずパワーブロック,MOS FET,電源トランス,電源ブロックコンデンサー,マスター
ボリュームなどの取付部に無酸素銅板を採用していました。また,パワー部に防振対策を施した
ディスポーシャル基板を,さらに,ヒートシンカーや純銅ムクの大型インシュレーターを採用するな
ど,振動の抑制を図っていました。これらのパーツは,すべてアンプにスイープ信号を加え定格出
力としてときのマルチモード振動解析から,各部の振動を極小とする最適な材質と形状を綿密に
吟味した結果でした。




抵抗は,各回路の特性にマッチした高音質のものを選択して使用し,コンデンサーもヒアリング
を重ねて厳選していました。その他,すべてのパーツに当時得られる最高級のものを厳選して
投入していました。インプットセレクターの後(2連)とパワーアンプ部の前(4連)とで同時にレベ
ル・コントロールできる6連マスターボリュームを採用していました。このボリュームにより,コント
ロール範囲が広がり,-90dBまで絞り込むことが可能となっており,聴感上のSN比も大きく向
上させていました。高精度ディテント型のため,音質劣化が少なく連動誤差も極めて小さく抑え
られていました。



入力は,PHONO,TUNER,LINE,CD,TAPE3系統が装備され,TAPEは1→2,3 2→1,3
の相互ダビング,TUNER入力,ダイレクト入力(ノーマル)からの録音を再生ソースとは別に選べ
REC OFFもできるRECセレクターが装備されていました。
さらに,バランスアンプ構成を生かす機能として,入力から出力まで完全にバランス伝送・増幅とな
るパワーアンプダイレクト機能が装備されていました。バランス入力とノーマル入力の2種類の専用
入力が装備され,バランス出力を持つCDプレーヤー等の機器を接続すれば,ソースからスピーカー
までバランス伝送・増幅とすることが可能でした。また,すべての入力を,ミューティング,サブソニッ
ク・フィルター,バランスコントロールのアクセサリー回路をパスしてα-Xバランスサーキットに直結
する,ソースダイレクト機能も装備されていました。

以上のように,AU-α907i MOS LIMITEDは,サンスイの「07シリーズ」の歴史の中で培われた
技術をしっかり投入し,さらに上級機のAU-X111MOS VINTAGEにも採用されたMOS FETを投
入し,より音質を追求したモデルでした。サンスイ伝統の力のある音にこくが加わったような音は,独
自の魅力のあるものでした。ベースモデルのAU-α907iは,1986年のAU-α907以来の光沢の
あるグロッシーブラックの外観が特徴的でしたが,さらにウッドパネル,アルミボンネットを装備し外観
上も,より魅力的なものとなっていました。


以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。



限界を超えなければ,音楽と
呼ばない。
AU-α907i MOS LIMITED


人間のこころから出発した
設計です。

◎限定モデルにふさわしい,最高級ディバイス・
 パワーMOS FETを採用
◎デジタル時代を予見したサンスイ独自の
 理想伝送・ 増幅方式α-Xバランス・サーキット
◎α-Xバランス・サーキットがもたらす
 理想のスピーカー・ドライブ
◎バランス出力をもつソースをα-Xバランス・
 パワー部に 直結するパワーアンプ・ダイレクト
◎すべての入力ソースの鮮度をそのまま忠実に
 α-Xバランス伝送・増幅するソース・ダイレクト


オーディオ・テクノロジーに必要
なのは哲学だと思う。

◎独自のバランス電源部には新開発の超大型
 電源トランス とカスタム電源コンデンサーを
 採用
◎信号経路の最適化を追求し,ノイズ対策を
 徹底した音質最優先のコンストラクション
◎振動およびノイズの干渉を徹底的に追放
 した高剛性ソリッド&アンチフラックス・シャーシ
◎無振動,無共振化をあらゆる部分で徹底追求
◎1000を超えるパーツの一点一点に至るまで
 厳密な音質追及を行い厳選した素材を使用
◎実装SN比を飛躍的に向上させた
 高精度ディテント型6連マスター・ボリューム採用
◎あくまでも音楽の再生を目的とする最高級機に
 ふさわしい品位と格調の高いデザイン


事実ですべてを語りたい。人間の音,
AU-α907i MOS LIMITED




●主な仕様●


●パワーアンプ部●


実効出力(10Hz~20kHz,両ch駆動) 100W+100W(6Ω)
80W+80W(8Ω)
全高調波歪率(実効出力時) 0.01%以下(8Ω)
混変調歪率(実効出力時) 0.01%以下(8Ω)
ダンピングファクター 150(8Ω)
周波数特性(1W) DC~300kHz(+0dB,-3dB)
入力感度/入力インピーダンス(1kHz) BALANCED・NORMAL:1V/3kΩ
SN比(Aネットワーク) 120dB以上 
TIM歪(Sawtooth法) 測定限界値以下
スルーレイト ±200V/μsec(6Ω)
ライズタイム 0.5μsec

 

●プリアンプ部●


入力感度/入力インピーダンス(1kHz) PHONO(MM)         2.5mV/47kΩ 
PHONO(MC)         300μV/100Ω
CD,TUNER LINE-1,2,TAPE-1,2,3  150mV/20kΩ
PHONO最大許容入力(1kHz) PHONO(MM)    250mV 
PHONO(MC)     25mV 
出力電圧/出力インピーダンス 150mV/600Ω
RIAA特性PHONO(MM) 20Hz~20kHz(±0.2dB)
SN比(Aネットワーク,ショートサーキット) PHONO(MM)       90dB以上 
PHONO(MC)        75dB以上
CD,TUNER,LINE,TAPE 110dB以上
トーンコントロール BASS最大変化量    ±5dB(50Hz) 
TREBLE最大変化量  ±5dB(15kHz) 
ターンオーバー周波数  75Hz・150Hz
サブソニック・フィルター 16Hz(-3dB,6dB/oct)
ラウドネス(ボリューム-30dB)  +6dB(50Hz),+4dB(10kHz) 
オーディオ・ミューティング -20dB(1kHz)
定格消費電力 260W
寸法 472(W)×161.5(H)×441(D)mm
重量 31kg

※本ページに掲載したAU-α907i MOS LIMITEDの写真,仕様表等
は1987年10月のSANSUIの
カタログより抜粋したもので,山水電気
株式会社に著作権があります。したがって,こ
れらの写真等を無断で転
載・引用等することは法律で禁じられていますのでご注意く
ださい。                                              
  
 

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