SANSUI AU-D907F
INTEGRATED AMPLIFIER ¥168,000
1980年に,サンスイが発売したプリメインアンプ。サンスイは,1976年に,AU-607,AU-707を発売し,「07シ
リーズ」をスタートさせました。この「07シリーズ」がロングセラーとなり,サンスイの主力となっていくことになりました。
1978年にダイヤモンド差動回路を搭載した「AU-Dシリーズ」が発売され,高い評価を受けました。その最上級機
AU-D907の次の世代のモデルとして登場したのがAU-D907Fでした。
AU-D907Fは,イコライザー部,MCヘッドアンプ部,フラットアンプ/トーンアンプ部,パワーアンプ部という構成で,
全ブロック段の入力コンデンサーを追放したダイレクトカップリングとなっていました。またDC領域の安定化を期し
ながら出力コンデンサーを除くため,DCサーボを採用し,全段とも裸特性を向上させたDCアンプ構成となっていま
した。
AU-D907Fの最大の特徴は,型番の「F」が示す「スーパー・フィードフォワード・システム」の搭載でした。通常多く
のオーディオアンプでは,出力の一部を逆相にして入力側に加えるNFB(ネガティブ・フィードバック)により,歪率,
周波数特性,SN比,入・出力インピーダンスの改善を行っていました。しかし,NFBも,歪みをゼロにできないこと
高域での効果の低下など,多くの問題点もあり,各社ともNFB技術への見直しや新しい歪み低減技術の開発など
を行っていました。そうした中,サンスイは「フィードフォワード」と呼ばれる理論の研究に取り組んでいました。「フィー
ドフォワード」は,出力に発生する歪とまったく同じ歪打ち消し信号をアンプ内部で作り出し,出力で主信号と合成し
あらゆる歪をキャンセルするという技術ですが,実現不可能な理論ともいわれていました。そこで,サンスイは,5年
間の研究の末,NFBとフィード・フォワードを組み合わせて使用する「スーパー・フィードフォワード・システム」を開発
したということでした。
「スーパー・フィードフォワード・システム」では,従来のNFBが低域から高域にかけての可聴帯域内の歪みの改
善に主に動作し,それと同時にフィードフォワードのための逆位相歪みを取り出す役割も担うようになっており,
フィードフォワードは,NFBの弱点である高域から超高域の歪みやNFBで打ち消しきれない歪みの改善に大き
くはたらくようになっていました。また,歪み打ち消し信号の増幅のためのA級増幅のエラーコレクションアンプを
設け,最新のコンピュータ技術を駆使して,2ポール(極)位相補償に対しても歪みをキャンセルできるシンメトリ
カル2ポール出力サミング(加算)ネット・ワークを開発・搭載していました。
こうした「スーパー・フィードフォワード・システム」により,パワー段で発生する高調波歪,混変調歪,スイッチング
歪,クロスオーバー歪などあらゆる歪を大きく低減すると同時に,TIM歪,エンベロープ歪などの動的歪の低減が
実現されていました。
そして,サンスイ自慢のダイアモンド差動回路も継承され,動的特性の改善が行われていました。「ダイアモ
ンド差動回路」は差動回路を上下2段重ねにしたような形になっており,通常では,2組の差動回路として動
作して大入力が入ると,上下方向にトランジスタがONになって,電流制限がない大電流対応増幅回路となる
というものでした。そのため,スルーレートは限りなく大きく出来る性能となり,ダイアモンド差動回路を搭載し
たアンプのスルーレートは200V/μsを軽く超えてしまうほどで,回路内の過渡的な入力に対しても十分な電
力供給を行い,すぐれた高速応答性を実現していました。これにより,TIM歪,全高調波歪,周波数特性を大
きく向上させていました。
パワーアンプ部は,ドライバー段の初段にカスコード・ブートストラップつきで,ローノイズで大電流を流せる
デュアルFETを用いた定電流差動回路を,2段目はデュアルコンプリメンタリーによるダイヤモンド差動回
路を採用し,パワー段の要求する電流を,十分に供給できるようになっていました。
パワー段には,スーパー・フィードフォワード・システムが搭載され,歪みを大きく低減し,さらに,出力トラン
ジスターには,新開発の高速素子・NM・LAPT(ノン・マグネティック・リニアパワートランジスタ-)が採用さ
れていました。
最短距離でシンプルな信号経路を作り上げるために,ヒートループ採用の新しい放熱システムを採用してい
ました。ヒートパイプにフィンを設けたこの放熱システムにより,従来のヒートシンクでは難しかった電源部とパ
ワー段を近づける設置が実現でき,大電流が流れる出力トランジスター付近の線材の引き回しを排除し,こ
こで発生する電磁波フラックスがプリアンプ部へ影響することを防いでいました。さらに,通常のヒートシンク
を用いる場合に対して,アンプ全体を大幅に軽量に仕上げることができていました。
イコライザー部は,ダイレクトカップル方式によるダイアモンド差動回路を搭載したDC構成を採用していま
した。初段はペア特性がよく,ローノイズ,ハイgmのデュアルFET使用の差動入力回路を採用し,入力イ
ンピーダンスによる影響を受けないカスコード・ブートストラップ回路を構成し,2~3段はドライブ能力にす
ぐれたダイアモンド差動回路+電流差動プッシュプルという構成になっていました。出力はダーリントン接
続によるSEPP回路で十分な電流余裕が確保されており,低出力インピーダンスと低インピーダンスNF回
路設計で,負荷インピーダンスの変化にも十分なダイナミックレンジがとれ,SN比も向上していました。
MCカートリッジに対しては,MCヘッドアンプを搭載していました。世界で初めて採用したプッシュプル入力
出力回路によるシンメトリカルサーキットのヘッドアンプをさらに改良した,2段ダーリントンDC構成の強力
出力部を装備したMCヘッドアンプでした。また,Highポジション(0.1mV/100Ω)とLowポジション(0.2
mV/100Ω)の切換を装備し,様々なMCカートリッジに適合できるようになっていました。
アンプの実働時の動特性を支える電源部は,「07シリーズ」伝統の非常に強力なものが搭載されていました。
コアとなる電源トランスは,トロイダル型の効率の良さとEI型の製造のしやすさを折衷させた構造のCI型で,
バランス巻線の容量266VAという大容量のものが,130×115×150mmというシールドケースに収められ
て搭載されていました。フィルターコンデンサーには,71V,8200μFの大容量・低倍率エッチング,低イン
ピーダンスでワイドレンジナカスタムコンデンサーが8本搭載され,ファストリカバリーダイオードとともに,L・R
独立,段間の干渉も徹底的に排除したトータル6電源(MCヘッドアンプ,イコライザー/トーンアンプ,Lchパ
ワー段プリドライブ,Rchパワー段プリドライブ,Lchパワー段,Rchパワー段)の強力な電源部を構成してい
ました。
素子やコンストラクションにおいても,しっかりこだわって作られていました。信号経路を最短距離にシンプル
&ストレートにという基本に従い,上述のヒートループを採用した新しい放熱システムをはじめ,信号を三次
元的に流したりするなどの工夫がなされていました。また,磁界による信号波形の変調作用”マグネティック・
ディストーション”に対しても,銅メッキシャーシ,ウッドボンネット,NM(ノンマグネティック)素子などを採用し
コンストラクション,素子の両面から対策がとられていました。
機能的には,プリメインアンプとして必要な機能が搭載され,オーソドックスにまとめられていました。入力は,
PHONO-1,PHONO-2,TUNER,AUX,TAPE-1,TAPE-2が搭載され,TAPEは相互ダビングも可能
となっていました。出力は,スピーカー出力がA,B2系統で,OFF,A,B,A+Bの切替えスイッチが装備され
ていました。また,ヘッドホン端子も装備されていました。トーンコントロールはBASS,TREBLE独立式で,
それぞれ300Hzと150Hz,6kHzと3kHzのターンオーバー周波数切替えが装備され,ディフィートイッチも装
備されていました。その他,サブソニックフィルター(16Hz-3dB,6dB/oct),スーパー・ソニック・フィルター
(20kHz-3dB,6dB/oct),オーディオミューティング(-20dB)が装備されていました。
また,AU-D907Fからは,サンスイ伝統のブラックパネルに加え,シルバーパネルのモデルも登場し,他社
の機器とも合わせやすくなりました。
以上のように,AU-D907Fは,「07シリーズ」のトップモデル「907シリーズ」としては第2世代のモデルで,正
攻法に物量を投入した看板モデルでした。そして,「スーパー・フィードフォワード」のような先進的な技術への
挑戦など,サンスイの意欲作として高い評価を得ることとなりました。力強い音の前モデルAU-D907に比べ
ると,レンジが広く歪み感の少ない繊細でやややわらかな大人向きの音になっていました。このあたりは好み
が分かれるところにもなりましたが,現在のレベルでも高い性能をもつ1台だと思います。
以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。
技術の厚さが音を語る。
スーパー・フィードフォワード・システム
◎NFBの限界への果敢な挑戦から生まれた
スーパー・フィードフォワード・システム。
◎歪を測定検知限まで追い詰めた,
スーパー/フィードフォワード・システム。
◎スーパーFF&ダイアモンド差動回路。
2つの新技術が融合した強力パワーアンプ。
◎サンスイの電源重視の伝統が生きる
LR独立,ステージ独立の強力電源部。
◎美しいコンストラクション,ノンマグネティック
ディストーション・・・音質重視の基本構造。
音の,エネルギーが充満する。
まさに,音が弾む。整然としたフォルムのなかに,
生命が満ちている。瞬間,音のエネルギーがほとばしる。
どこにも妥協は見あたらない。
あらゆる制約から解き放された,
純粋な音の世界。
◎スーパーFF&ダイアモンド差動回路。
新次元の技術が結合した強力パワーアンプ。
◎すべてのMCカートリッジの微妙なニュアンス
まで引き出すDC構成FET入力MCヘッドアンプ。
◎出力コンデンサーを排しながら超低域の
安定化を図った,ダイアモンド差動回路搭載
DCサーボOCLイコライザー。
◎LR独立,ステージ独立,トータル6電源。
サンスイの伝統が生きる強力電源部。
◎シンプル&ストレートな信号の流れ,
音質重視のコンストラクションです。
◎銅メッキシャーシ,ウッドボンネットなど
フラックスフリーの思想を徹底して貫いて
います。
◎16Hz(サブソニックフィルター)と20kHz
(スーパー・ソニック・フィルター)のフィルター
装備。
◎BASS,TREBLE,ターンオーバー周波数
切替え付きトーンコントロール。
◎2回路テープモニタ-,レコーディング
セレクター/コピー機能。
◎経年変化による音質劣化のない,金メッキ
フォノ入力端子。
●AU-D907F規格●
■パワーアンプ部■
実効出力 | 120W+120W(10Hz~20kHz,THD0.005%,8Ω) 120W+120W(1kHz,THD0.003%,8Ω) |
全高調波歪率 | 0.005%以下(10Hz~20kHz,実効出力時,8Ω) |
混変調歪率 | 0.005%以下(60Hz:7kHz=4:1,SMPTE) |
出力帯域幅 | 5Hz~80kHz(IHF,両ch動作,THD0.02%,8Ω) |
ダンピングファクター | 100(新IHF,20Hz~20kHz,8Ω) |
周波数特性 | DC~300kHz(+0dB,-3dB,1W) |
エンベロープ歪 | 測定限界以下 |
TIM歪(Sawtooth法) | 測定限界以下 |
スルーレイト | ±250V/μsec(8Ω) |
インサイド・スルーレイト | ±350V/μsec(8Ω) |
ライズタイム | 0.8μsec |
■イコライザーアンプ部■
入力感度/入力インピーダンス(1kHz) | PHONO-1,2(MM):2.5mV(47kΩ) PHONO-1,2(MC,High/Low)):100μV/200μV(100Ω) TUNER,AUX,TAPE PLAY-1,2:250mV(27kΩ) |
PHONO最大許容入力 | PHONO-1,2(MM):200mV(1kHz,THD0.01%) PHONO-1,2(MC):26mV(Low,1kHz,THD0.01%) |
出力電圧/出力インピーダンス(1kHz) | TAPE REC(PIN):250mV(47kΩ)/600Ω |
全高調波歪率 | PHONO-1,2(MM):0.005%以下(20Hz~20kHz,5V出力時) PHONO-1,2(MC):0.005%以下(20Hz~20kHz,5V出力時) |
RIAA偏差(MM,REC OUT) | 20Hz~20kHz(+0.2dB,-0.2dB) |
周波数特性 | RIAA偏差:±0.2dB(PHONO-1,2,20Hz~20kHz) AUX,TUNER,TAPE PLAY-1,2:5Hz~100kHz(+0dB,-1dB) |
SN比 (Aネットワーク,ショートサーキット) |
PHONO-1,2(MM):90dB以上 PHONO-1,2(MC):74dB以上(Low) TUNER,AUX,TAPE PLAY-1,2:110dB以上 |
PHONO入力換算雑音 (Aネットワーク,ショートサーキット) |
PHONO-1,2(MM),入力換算):-142dBV PHONO-1,2(MC),入力換算):-154dBV |
チャンネルセパレーション(1kHz) | PHONO-1,2(MM):60dB以上 PHONO-1,2(MC):50dB以上 TUNER,AUX,TAPE PLAY-1,2:80dB以上 |
トーンコントロール | BASS最大変化量:+8dB,-8dB(50Hz) トーンセレクター:150Hz,300Hz TREBLE最大変化量:+8dB,8dB(15kHz) トーンセレクター:3kHz,6kHz |
フィルター | 低域:16Hz(-3dB,6dB/oct) 高域:20kHz(-3dB,6dB/oct) |
オーディオミューティング | -20dB |
定格消費電力(電気用品取締法) | 320W |
外形寸法 | 445W×163H×443Dmm |
重量 | 17.5kg |
※本ページに掲載したAU-D907Fの写真,仕様表等は1981年6月のSANSUI
のカタログより抜粋したもので,山水電気株式会社に著作権があります。したがって
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