SANSUI AU-X1111MOS VINTAGE
MASTER INTEGRATED AMPLIFIER ¥400,000

1988年に,サンスイが発売したプリメインアンプ。サンスイのプリメインアンプのトップモデルで,セパレート
アンプにも匹敵する中身をもったアンプとして,1979年のAU-X1に始まり,1981年のAU-X11,そして
1984年のAU-X111MOS VINTAGEと続き,4世代目のモデルがAU-X1111MOS VINTAGEでした。

AU-X1111(ダブルイレブン)MOS VINTAGEは,07シリーズをはじめとするそれまでのサンスイのアンプ
技術の集大成的な内容をもっていました。基本的な特徴として,バランス回路,バランス構成の全面的な採用
強力な電源部,パワーMOS FETの出力段などがありました。

通常のアンバランス構成のアンプは,アースを基準として,アンプ出力とアース間でスピーカーをドライブするた
め,アースからのノイズや歪の影響を受けやすく,音質劣化を生じるという問題点があります。この問題点を根
本的に解決するのが,アースを基準としないバランス回路といわれています。バランス回路では,スピーカーの
−側も+側と同じ条件で両方向からドライブするダブル・プッシュプルとなるため,ノイズや歪といった不要高周
波成分がキャンセルされ,低歪でパワフルなスピーカードライブが可能となっていました。さらに,電源系から
のノイズも混入せず,スピーカーからの逆起電力による歪も発生しにくく,スピーカーのインピーダンス変化や
位相変化にも十分な対応が可能となっていました。

パワーステージは,MOS FETを,パワー段の左右および+−の4カ所にダブルプッシュプルで各4個ずつ,合
計16個搭載し,バランス回路を構成していました。MOS FETは,蓄積効果の発生がなく,リニアリティが良く,
しかも高速な増幅が可能となるので,パワー素子としてすぐれた性能をもち,バランス回路でさらにその特性を
活かしていました。

このころ主流になってきたデジタルソースは,その機器を接続することによるデジタル系ノイズの心配が出てき
ました。これは,主にアースラインとACラインを介して伝達され,いわゆるデジタルっぽい音になる原因となって
いました。これに対して,接続するデジタル機器に対する対策はもちろん,アンプ側でもラインフィルターなどのノ
イズ対策が試みられていましたが,逆に音質への悪影響の恐れがあります。AU-X1111MOS VINTAGEで
は,パワー段を含む信号回路から電源回路に至るまで一貫したバランス伝送方式が採用され,信号経路にお
いては,+側,−側をバランス伝送することで,ハムやノイズ成分がキャンセルでき,しかもアースは−側から
分離されているため,ハムやノイズ成分の影響を避けることができていました。

バランス回路を動作させる電源回路は,上述のように,アース回路と無関係なクローズドループとしたバランス
電源構成が採用されていました。容量からコア材質や巻き線の材質などに至るまで,多角的に検討を加えた
新開発の重量級トランス,カスタムメイドの高性能オーディオ用電解コンデンサー,ファーストリカバリーダイオー
ドの選択により,電源部全体の低インピーダンス化,ハイスピード化が実現されていました。

内部構造は,セパレートパワーアンプの構造を受け継ぐツイン・モノラル・コンストラクションが採用されていまし
た。大型のトランスを中心とする電源部を中央に置き,大型ヒートシンカーにマウントされたパワーアンプ部を左
右対称に分離して配置した内部構造は重量バランス等からも安定性が高く,L・Rユニット間のクロストークや電
源系の振動と音楽信号の干渉においても効果的な改善が図られていました。
さらに,ボリュームも,マスターボリュームおよび左右それぞれのボリュームを完全に独立構成とすることで,プリ
メインアンプでありながらセパレートアンプに匹敵するセパレーション,音像定位が実現されていました。
そして,信号経路,放熱,強度すべてにわたって配慮が徹底され,ステージ間のシールド特性の向上が図られ
信号の相互干渉を排除するとともに,外部からのデジタル性電磁波ノイズ,磁気歪の影響も徹底的に追放され
ていました。


外部振動,内部振動に対応するため,パワーMOS FET,電源トランス,マスターボリュームなどの取付部に純銅
板を使用し,底板には銅メッキシールドを施すとともに,フェルト地を張った純銅ムクの大型インシュレーターを採用
して,接地面からの音質への影響を抑えていました。そして,これらは,アンプに定格出力でスイープ信号を加えた
マルチモード振動解析から各部の振動を極小とする最適材料が綿密に吟味して選ばれたものでした。

AU-X1からスタートしたこのシリーズは,もともとパワーアンプに簡単なコントロール部が付いたといった構成が特
徴でした。そのため,L・R独立のパワーアンプ・レベルコントロールが設けられているのに対し,トーンコントロール等
は省略され,PHONO入力もMM対応のみで,単体パワーアンプとして使用することを考慮された設計になっていま
した。プリ部,メイン部の切り離しも前面スイッチで操作可能になっていました。そして,時代とともに,特に,3代目モ
デルのAU-X111MOS VINTAGEより,デジタルソース,映像ソース等ソースの多様化や変化に対応した設計へ
と変化してきており,AU-X1111MOS VINTAGEでも継承されていました。

入力は,PHONO,CD,TUNERに加えLINE入力が2系統備えられていました。CD,DAT,BSチューナーなど,ハイ
レベルのLINE系信号が通過するプリアンプの基本サーキットは,C-2301と同様な純A級上下差動プッシュプルの贅沢
なものが採用されていました。
パワーアンプとして使用するためのパワーダイレクト機能の入力端子は,ノーマル2系統,バランス1系統の3系統が装
備されていました。また,入力をFETによるカスケード構成としたNEWダイヤモンド差動回路が採用され,パワーダイレ
クト時の入力機器に対する影響を少なくすると同時に,インテグレート時でも安定した音質が確保されていました。

上述のように,LINE系の入力の充実が図られており,当時,頭角を現していたHi-Fi VTRやLDなどの映像系のソースの
接続も考慮され,映像信号の切り換えやダビングにも対応した映像端子が装備されていました。そのため,映像信号の高
周波成分が音質に悪影響を与えることを防ぐため,映像信号に関してはシャーシ内での配線引き回しを一切行わず,リアパ
ネルのピンジャック背面でICにより処理するようになっていました。また,このIC用の電源もオーディオ系とは別のトランスか
ら給電され,さらに単独のON/OFFスイッチを用意してオーディオ信号と映像信号のクロスポイントを,物理的にも電気的に
も徹底分離していました。
その他,機能的には,中低域をわずかに持ち上げるプレゼンス・コントロールスイッチ,OFFポジション付RECセレクター,
バランスコントロール,ヘッドホン端子なども装備されていました。

スピーカー出力は,極太コードの接続も容易な金メッキのターミナルタイプが2系統装備されていました。さらに,グラフィック
イコライザー等の各種プロセッシング機器が接続できるプロセッサー入出力も2系統装備され,それぞれ単独でも,あるいは
1→2のシリーズ接続でも使用可能になっていました。そして,背面の入出力端子類はすべて金メッキが施されていました。

フロントパネルは,漆黒のガラスパネルが使用され,シャワーライトがボタン類を照らすデザインは,新たにリアルローズウッド
を使用したサイドウッドパネルが採用され,サンスイらしさをもった高級感のあるものでした。そして,その筐体は,強力なパ
ワーアンプ,多彩な入力機能などをできるだけミニマムにまとめた形でもありました。

以上のように,AU-X1111MOS VINTAGEは,3代目モデルAU-X111MOS VINTAGEをほぼ継承した後継機で,よ
りブラッシュアップが図られた最終モデルとなりました。重厚かつMOSならではの華やかさもある音は高い完成度を示してい
ました。そして,そのパワー部をベースに,単体パワーアンプB-2102が作られ,この後はパワーアンプとして続いていくこと
になりました。



以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。




1111ダブルイレブン・・・・それが私たちの
           音のクオリティへの解答です。

バランス回路,ツイン・モノラル・コンストラクション
クオリティ・パーツ,そのすべてが洗練の域に。
ここに,MOS FETの本領が発揮されます。

◎バランス回路ならではのダブル・プッシュプルドライブが
 原音のままにパワフルなスピーカードライブを実現します。
◎超高性能・大容量を誇る電源部,バランス電源構成として,
 カスタムのトランスや電解コンデンサーを採用しています。
◎デジタル機器などからのノイズやハムからの影響に対応,
 入力からスピーカーまでをバランス伝送で貫いています。
◎パワーアンプの思想を受け継いだ理想の配置ポジション,
 ツイン・モノラル・コンストラクションが完成度を高めています。
◎無振動,無共振化をあらゆる部分で徹底追求しています。
◎パワーステージ出力段に,パワーMOS FETを採用。
 微小信号レベルでの静粛感を,大幅に向上させています。
◎音質にこだわって,基本入力系統も充実を極めています。
◎NEWダイアモンド差動回路により,パワーダイレクトの
 理想的音楽再生システムの醍醐味を存分に満喫できます。
◎映像入力にも,電源トランスからオーディオ信号とは別の
 専用回路で対応。単独で映像信号のON/OFFが可能です。
◎多彩な音楽表現を可能にする入出力端子を備えています。
◎”マスター”の名にふさわしい気品と風格を備えています。

●小音量時での再生でも,音色を変化させないで中低域の
 エネルギーをわずかに上げるプレゼンス・コントロール機能。
●プリ部メイン部の切り離しをフロントパネルで操作。左右独
 立のパワーアンプ入力レベルを装備。
●スピーカー切り替えは2系統,極太ケーブルも接続できる
 超大型スピーカー端子を装備。
●LINE-2はフロント部とリア部に装備し,切り換えはフロント
 パネルで可能。
●パワーアンプ・ダイレクト入力3系統(ノーマル1,2,バランス)。
●外部機器接続に起因する負荷の影響を受けないOFFポジ
 ション付RECセレクター。
●プロセッサーは2系統,単独およびシリーズ接続可能。
●極性表示付極太電源コード。
●バランス・コントロール。
●ヘッドホン端子。





●主要規格●



■パワーアンプ部■

実効出力 6Ω負荷(10Hz〜20kHz,両ch駆動)150W+150W 
8Ω負荷(10Hz〜20kHz,両ch駆動)110W+110W 
ダイナミックパワー 2Ω負荷 320W+320W 
4Ω負荷 240W+240W 
6Ω負荷 190W+190W
全高調波歪率 0.008%(8Ω,10Hz〜20kHz,実効出力時) 
混変調歪率 0.008%(8Ω,60Hz:7kHz=4:1,SMPTE)
ダンピングファクター 200 (8Ω)
周波数特性 DC〜300kHz+0dB,−3dB(1W)
入力感度/入力インピーダンス(1kHz) 1V/5kΩ
SN比(Aネットワーク) 115dB以上
エンベロープ歪 測定限界値以下
TIM歪(Sawtooth法) 測定限界値以下
スルーレイト ±150V/μsec(8Ω)
ライズタイム 0.5μsec
ヘッドホン出力 400mW(33Ω)
負荷インピーダンス 4〜16Ω



■プリアンプ部■

入力感度/入力インピーダンス(1kHz) PHONO-MM)         2.0mV/47kΩ 
TUNER              150mV/47kΩ 
CD                 150mV/47kΩ 
TAPE PLAY-1,2,3        150mV/47kΩ 
LINE -1,2            150mV/47kΩ 
PHONO最大許容入力 PHONO-MM         200mV (1kHz)
出力電圧 150mV/47kΩ(1kHz,TAPE REC,PIN)
出力インピーダンス 600Ω以上(1kHz,TAPE REC,PIN)
SN比(Aネットワーク) PHONO-MM         88dB以上 
CD,TUNER,LINE-1,2  110dB以上 
TAPE PLAY-1,2,3              110dB以上
サブソニック・フィルター 16Hz(−3dB,6dB/oct)
プレゼンス +2dB(200Hz,Volume−40dB)
オーディオ・ミューティング −20dB



■その他■

定格消費電力(電気用品取締法) 350W
寸法 470(W)×178(H)×486(D)mm
重量 35.1kg
※ 本ページに掲載したAU-X1111MOS VINTAGEの写真,仕様表等は1988年1月の
SANSUIのカタログより抜粋したもので,山水電気株式会社に著作権があ ります。したがっ
て,これらの写真等を無断で転載・引用等することは法律で禁じら れていますのでご注意
ください。


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