Victor AX-1100
STEREO INTEGRATED AMPLIFIER ¥150,000
1986年に,ビクターが発売したプリメインアンプ。1984年発売の同社のプリメインの当時のトップモデルA-X1000
をモデルチェンジしたもので,当時の物量投入型アンプの流れの中で,大幅な重量アップが示すように,回路,コンス
トラクションなど多くの面でグレードアップが図られた力作でした。
AX-1100では,A-X1000から,全段Gmサーキットという回路構成が継承されていました。「Gmサーキット」の技術
は,もと
もと電流増幅素子であるトランジスターをストレートに機能させるための,電圧・電流変換増幅方式という技術で
イコライザーアンプを含む全増幅段に採用されていました。

A-X1000では,さらに大きな特徴として,様々な妨害や干渉による音質の劣化を防ぐために,内部を4つのブロックに
分けて,各部の信号伝送をスムーズに行えるように設計された「ピュア・シグナル・トランシービング・4ブロック・コンスト
ラクション」が採用されていました。プリアンプ部,コントロール部,パワーアンプ部,電源部をそれぞれが他からの影響を
受けずに機能でき,スムーズに信号の受け渡しが行えるように配慮をし,4つのブロックに独立配置したコンストラクショ
ンが特徴でした。
プリアンプ部では,外来の妨害や干渉のうち,デジタルソースの時代に即し,デジタルノイズ等の音質への悪影響への対
策がとられ,「P.S.R.(ピュア・シグナル・レシービング)サーキット」と称されていました。これは,CD-1とDATというデジタ
ルソース入力2系統に,差動アンプを配し,アースラインから流れ込むコモンモードノイズをキャンセルするようになってい
ました。さらに,アンプ本体と入力機器のグラウンド端子をアースワイヤーで接続することにより,信号ケーブルに雑音電流
が流れ込みを防ぐようになっていました。CD-2の端子は,他のAUX,TUNERなどの端子と同様に通常の構成になって
おり,用途や音質の好みにより使い分けるようになっていました。そのため,当時のビクターのCDプレーヤーには,アース
ターミナルの装備がありました。(逆に言うと他のCDプレーヤーでは,シャーシの止めビスなどからアースラインを引きだし
て,このP.S.R.サーキットを活用することになります。)

ボリュームは,「Gmボリューム」が搭載されていました。「Gmボリューム」は,減衰量可変型である一般のボリュームと違い
連続可変型ゲインコントロールとでもいえるもので,電圧・電流変換回路を応用したボリュームアンプのことで,信号が抵抗
体であるボリュームを通らないため,「音質劣化が少ない」「音量を絞るとノイズも同時に減少する」という,一般のボリュー
ムにはない優れた特徴を持ち,特に小レベル時のSN比を改善していました。また,パワーアンプ側から見ると,ボリューム
の位置によるインピーダンスの変化や音質の変化がなく,実使用時のクロストークが極めて少ないという特長も持っていま
した。
このようなP.S.R.サーキットとGmボリュームを合わせて,4ブロックコンストラクションの1つを成す入力信号を受ける部分・
「インターフェースアンプ部」と称されていました。

PHONO入力は1系統で,安定性にすぐれたDCサーボ方式のGmイコライザーが搭載されていました。Gmイコライザーは
電圧・電流変換のGm回路を使ったNF型のイコライザー回路で,電流変換動作により,ほぼ
RIAA特性に近い,低歪のオー
プン特性を得ているため,RIAA素子によるフィードバック量を均一にすることが可能に
なり,広帯域にわたる低歪みとCR
型に負けない優れた過渡特性を合わせ持つものとなっていました。
初段には,EL-FETが使用され,カップリングコンデン
サーをもたない直結回路で構成され,MCカートリッジにも対応していました。

パワー段は,余裕のあるパラレルプッシュプル構成で,負荷インピーダンスに関係なくドライブ電流を維持できるGmドライバー
Uとあいまって4Ω以下の負荷に対してもすぐれたパワーリニアリティが確保されていました。このようなパワー段をデジタル
に対応した「H.D.(ハイ・ドライバビリティ)Gmサーキット」と称して,4ブロックコンストラクションの1つを成していました。
また,パワー段には「Gmセレクター」が搭載されていました。「Gmセレクター」は,3段階のパワー段のゲイン切換スイッチで,
実使用時におけるアンプの不要増幅度をカットして残留ノイズを5〜10dB低減させることができるということでした。前段にあ
る「Gmボリューム」との併用により,実使用時のS/N比は大幅に向上し,特に,小レベルでの実性能が高められていました。
電源部は,電源トランスとダイオードの接続ラインから放射される整流ノイズを抑えるために,整流回路をトランスに直結して
ワンブロック化し,また,電源部全体を独立ボックスにシールドして配置することで信号回路への電磁的な干渉を徹底して排
除していました。また,AC電源ラインから混入するノーマルモード・ノイズに対しても,電源トランスの特殊バランス巻線構造
によって広帯域において大きく低減していました。大容量のコンデンサーや銅板プレートなどにより低インピーダンス化も図ら
れていました。このような電源部をC&D(クリーン&ダイナミック)パワーサプライと称して,4ブロックコンストラクションの1つを
なしていました。
電源トランスの磁気振動や外来振動などが回路素子を振動させて音質に与える悪影響を抑えるために,振動対策がとられ
H.S.(ハイ・ソリディティ)コンストラクションと称され,4ブロックコンストラクションの1つを成していました。電源部やヒートシンク
など,振動の発生源を厚さ1.6mmの制振鋼板にマウントし,また,シャーシ全体の高剛性化や2重構造のボトムプレート,ダ
ンピングプレートの付加を行うなど,入念な振動対策が施されていました。
入力は,PHONO,AUX,TUNER,CD1,CD2,DAT,TAPE1,TAPE2の,デジタル3系統,アナログ5系統の合計8系
統が装備され,上述のように,PHONO以外にデジタル2系統にもアース端子が装備されるのが特徴的でした。また,AUX
入力は,背面だけでなくフロントパネル上にも端子が設けられていました。これら全ての入力は,ライン・ダイレクト・スイッチ
によって,バランス・ボリューム,モード・スイッチをバイパスすることができるようになっていました。また,全ての端子は金メッ
キが施されていました。RECセレクターは,SOURCE,OFFに加え,TUNERのポジションがあり,録音系では,DAT→
TAPE1/2,SOURUCE→TAPE1→DAT/TAPE2,TAPE2→DAT/TAPE1というように,DATとTAPE2系統の相互ダ
ビングを考慮したポジションが設けられていました。トーンコントロールは,BASS,TREBLE独立形で,BASSは200Hz/
400Hz,TREBLEは3kHz/6kHzのターンーオーバー周波数の切換が装備されていました。その他,アナログディスク対応
のサブソニックフィルター,100Hz,+4dBのローブーストスイッチが装備されていました。
以上のように,AX-1100は,当時のビクターのプリメインアンプのフラッグシップモデルとして,しっかりと物量が投入され,自
慢のGmサーキットともあいまって,しっかりとした音を聴かせてくれる1台でした。強力な電源部が支える音は,同社のプリメ
インアンプの中でも最も低音が力強いもので,ローブーストスイッチを入れずとも十分な低音を聴くことができました。

Victor AX-990
STEREO INTEGRATED AMPLIFIER ¥79,800
また,AX-1100には,外観も大きさも見分けが付かないくらい似ている弟機AX-990が同時に発売されました。基本設計も
共通点が多く,その意味では,当時激戦区であった798クラスに投入された戦略モデル的プリメインアンプでした。

AX-1100と比較すると,電源部をはじめ,出力などは小さくなっていました。また,P.S.R.サーキットは,CD1入力のみとなり
トーンコントロールは,ターンオーバー周波数の切換が省かれていました。イコライザー部も,DCサーボOCLではないなど,回
路構成が一部変更されていました。物量の違いもあり,それは重量の差(22.0kg→15.0kg)にも表れていましたが,コスト
パフォーマンスの高い1台でした。


以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。



デジタルにピュア・コンタクトする,
コンポーネントの新拠点。

◎無干渉ピュア伝送思想が
 生んだ必然のフォルム,
 4ブロック・コンストラクション。
◎入力部の外来ノイズを断ち切る,
 デジタル対応P.S.R.サーキット。
◎機械振動を断ち切る,
 H.S.コンストラクション。
◎電源からのノイズも断ち切る,
 C&Dパワーサプライ。
◎低インピーダンス負荷に強い,
 H.D.Gmサーキット。
◎デジタルの高S/Nが活きる
 GmボリュームとGmセレクター。

●高性能で安定性にもすぐれたDCサーボ方式の
 Gmイコライザー(PHONO)を搭載。
●デジタルソース対応3系統をはじめ,
 合計8系統の豊富な金メッキ入力端子。
●6ポジションのフルRECセレクター。
●全入力を最短コースでパワーアンプに導く
 ライン・ダイレクトスイッチ付き。




●主な仕様●

■回路方式■

 
AX-1100
AX-990
イコライザーアンプ部 ICL,初段EL-FET,MC/MMDCサーボOCL
Gmイコライザーアンプ
ICL,初段EL-FET,MC/MM
Gmイコライザーアンプ
インターフェースアンプ部 ピュア・シグナル・レシービング・サーキット(CD1,DAT)
Gmボリュームサーキット(+22〜−∞dB)
ピュア・シグナル・レシービング・サーキット(CD1)
Gmボリュームサーキット(+22〜−∞dB)
パワーアンプ部 Gmセレクターサーキット(0,−6,−12dB 3step)
ハイドライバビリティGmサーキット
Gmセレクターサーキット(0,−6,−12dB 3step)
ハイドライバビリティGmサーキット
電源部 クリーン&ダイナミックパワーサプライ クリーン&ダイナミックパワーサプライ

■総合特性■

 
AX-1100
AX-990
定格出力   (CD1,2,TUNER,AUX,DAT,TAPE1,2)
180W+180W(1kHz,6Ω,THD0.0007%)
BY JVC ANALYZER SYSTEM
170W+170W(20Hz〜20kHz,6Ω,THD0.005%)
150W+150W(20Hz〜20kHz,8Ω,THD0.003%)
  (CD1,2,TUNER,AUX,DAT,TAPE1,2)
140W+140W(1kHz,6Ω,THD0.0007%)
BY JVC ANALYZER SYSTEM
130W+130W(20Hz〜20kHz,6Ω,THD0.005%)
110W+110W(20Hz〜20kHz,8Ω,THD0.003%) 
全高調波歪率   (CD1,2,TUNER,AUX,DAT,TAPE1,2)
0.003%(定格出力時,20Hz〜20kHz,8Ω)
  (CD1,2,TUNER,AUX,DAT,TAPE1,2)
0.003%(定格出力時,20Hz〜20kHz,8Ω)
混変調歪率   (CD1,2,TUNER,AUX,DAT,TAPE1,2)
0.001%(60Hz:7kHz=4:1,定格出力時,8Ω)
  (CD1,2,TUNER,AUX,DAT,TAPE1,2)
0.001%(60Hz:7kHz=4:1,定格出力時,8Ω)
出力帯域幅   (CD1,2,TUNER,AUX,DAT,TAPE1,2)
7Hz〜60kHz(IHF,両ch動作,8Ω,THD0.05%)
  (CD1,2,TUNER,AUX,DAT,TAPE1,2)
7Hz〜60kHz(IHF,両ch動作,8Ω,THD0.05%)
周波数特性   (CD1,2,TUNER,AUX,DAT,TAPE1,2)
3Hz〜100kHz(+0,−3dB)
  (CD1,2,TUNER,AUX,DAT,TAPE1,2)
3Hz〜100kHz(+0,−3dB)
ダンピングファクター 150(1kHz,8Ω) 150(1kHz,8Ω)
入力感度/インピーダンス
 (1kHz)
PHONO(MM) 2.5mV/47kΩ
PHONO(MC) 140μV/470Ω
その他(CD2,TUNER,AUX,TAPE1,2) 200mV/43kΩ
     (CD1,DAT) 200mV/220kΩ
PHONO(MM) 2.5mV/47kΩ
PHONO(MC) 140μV/470Ω
その他(CD2,TUNER,AUX,TAPE1,2) 200mV/43kΩ
     (CD1) 200mV/220kΩ
SN比 PHONO(MM) 86dB(IHFショートサーキット)
           82dB(EIAJ)
PHONO(MC)  70dB(IHFショートサーキット,250μV入力)
           76dB(EIAJ)
その他(CD2,TUNER,AUX,TAPE1,2)
           110dB(IHFショートサーキット)
           100dB(EIAJ,Gmセレクター−12dB)
     (CD1,DAT)
           106dB(IHFショートサーキット)
           100dB(EIAJ,Gmセレクター−12dB)
PHONO(MM) 86dB(IHFショートサーキット)
           81dB(EIAJ)
PHONO(MC)  70dB(IHFショートサーキット,250μV入力)
           74dB(EIAJ)
その他(CD2,TUNER,AUX,TAPE1,2)
           110dB(IHFショートサーキット)
           100dB(EIAJ,Gmセレクター−12dB)
     (CD1)
           106dB(IHFショートサーキット)
           100dB(EIAJ,Gmセレクター−12dB)
トーンコントロール BASS   ±8dB(100Hz)ターンオーバー周波数400Hz
       ±8dB(50Hz)ターンオーバー周波数200Hz
TREBLE  ±8dB(10kHz)ターンオーバー周波数3kHz
        +7.5dB(20kHz)ターンオーバー周波数6kHz
        −7.0dB(20kHz)ターンオーバー周波数6kHz
BASS   ±8dB(100Hz)

TREBLE  ±8dB(10kHz)

イコライザー・サブソニック
フィルター
18Hz(−6dB/oct) 18Hz(−6dB/oct)
ローブースト 100Hz+4dB 100Hz+4dB

■イコライザーアンプ部■

 
AX-1100
AX-990
PHONO最大許容入力 MM 140mV(1kHz,THD0.002%)
MC 7.7mV(1kHz,THD0.002%)
MM 140mV(1kHz,THD0.002%)
MC 11mV(1kHz,THD0.003%)
PHONO RIAA偏差 MM ±0.2dB(20Hz〜20kHz)
MC ±0.2dB(20Hz〜20kHz)
MM ±0.2dB(20Hz〜20kHz)
MC ±0.2dB(20Hz〜20kHz)
全高調波歪率 MM 0.002%(5V出力時,20Hz〜20kHz)
MC 0.002%(7V出力時,20Hz〜20kHz)
MM 0.002%(5V出力時,20Hz〜20kHz)
MC 0.003%(7V出力時,20Hz〜20kHz)

■電源部その他■

 
AX-1100
AX-990
電源電圧 AC100V(50/60Hz) AC100V(50/60Hz)
定格消費電力 290W(電気商品取締法基準) 230W(電気商品取締法基準)
電源コンセント SWITCHED    1コ
UNSWITCHED 2コ 
SWITCHED    1コ
UNSWITCHED 2コ
寸法/重量 435W×168H×450Dmm/22.0kg 435W×166H×444Dmm/15.0kg
その他 アース線(1.2m×2本)付属 アース線(1.2m×1本)付属

※ 本ページに掲載したAX-1100,AX-990の写真,仕様表等は1986年
 10月のVictorのカタログより抜粋したもので,JVCケンウッド株式会社に
 著作権があります。したがって,これらの写真等を無断で転載・引用等する
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