YAMAHA
AX-2000
NATURAL SOUND STEREO AMPLIFIER
¥230,000
1987年に,ヤマハが発売したプリメインアンプ。A-2000aのモデルチェンジともいえる1台でしたが,
パネルもチタンカラーに変わり,D/Aコンバーター内蔵,HCA回路等,超高級機「10000シリーズの」
セパレートアンプ,
CX-10000,
MX-10000の技術も導入される
など,「10000シリーズ」の直系モデ
ルとして生まれ変わっていました。
AX-2000は,ヤマハのプリメインアンプ初のD/Aコンバーター内蔵のアンプで,力の入った設計でした。
D/Aコンバーター部は8fs×18bitデジタルフィルターと18bit動作ツインD/Aコンバーターで構成される
ハイビットシステムが搭載されていました。このハイビットシステムは,通常の16bitD/Aコンバーター部
と比較して,デジタル信号の分解能を時間軸に対して8倍,振幅幅にして4倍,計32倍の分解能に高め,
D/A変換の直後から極めて滑らかなアナログ信号出力が可能となり,音質的に大きな影響のあるアナロ
グローパスフィルターを後段に設けることなく,D/A変換信号をそのまま送り出すピュアDACダイレクト出
力を可能としていました。
CD,DATをはじめとするデジタルソースの再生のクオリティを上げるために,D/Aコンバーター内蔵のメ
リットを利用して,通常聴取する−22dB前後の実使用ボリュームレベルで128dBもの高S/Nを実現する
「アドバンスド・デジタル・ダイレクト機能」が搭載されていました。これは,内蔵D/Aコンバーターの出力を
一般的な2.0V(rms)から7.5V(rms)のハイレベル信号とし,後段のアンプが受け持つゲインを低減
することで増幅系のS/Nを大幅に改善したものでした。
AX-2000は,最大+22.5dBのアクティブボリューム,11.5dBのトーンアンプ,12dBのパワーアンプか
ら構成されており,デジタルダイレクトスイッチ・オン時には,トーンアンプをバイパスし,アクティブボリューム
とパワーアンプだけのシンプル&ストレートな信号伝送系になるようになっていました。増幅に必要な段数が
減るだけでなく,パワーアンプの受け持つゲインが低くなるため,従来比でS/N比を20dB以上改善すること
ができたということでした。
ボリュームコントロールには,上記のアクティブボリュームが搭載されていました。このアクティブボリューム
は可変抵抗器とリニアアンプとが組み合わされたもので,ボリューム最大を上限として,絞り込むほどにノイ
ズレベルが低下するもので,実使用時のS/Nを大きく改善(一般的なパッシブボリュームに比べて10dB以
上の低減)することができていました。
トーンコントロールは,TREBLE,BASSに加えMIDも装備された3バンドタイプが搭載され,スイッチでジャ
ンプさせることもできました。また,サブソニックフィルタも装備されていました。
パワーアンプには,「10000シリーズ」のパワーアンプMX-10000に搭載された「HCA回路」が搭載されて
いました。A級動作をより広範囲(全負荷・全出力)で実現するもので,すぐれた特性を実現していました。純
A級動作においても,基本的には直線の合成のため,どこかでカットオフし(図5),出力電流がアイドリング
電流の2倍を超すとAB級に移行して歪みの発生に至るという弱点がありました。HCAは,ハイパーボリック
コンバージョン(双曲線変換)A級動作の略で,トランジスタのIc-VBE特性がもつ対数特性を利用して全 出力
帯域でカットオフせず,しかも完全な合成特性を得るもので(図6),アイドリング電流に依存せず,デュアルト
ランジスタ2個というシンプルな回路で全負荷,全出力で純A級動作を可能にしていました。
出力段は,Hi-fTパワートランジスタによるトリプルプッシュプル構成で,定格出力150W×2(6Ω),ダイナ
ミックパワー600W×2(1Ω)を確保していました。
電源部は,420VAのシールドケース入りの大型の電源トランスと,27,000μF×2のオーディオ用大容量
アルミ電解コンデンサを搭載した大型・重量級のものでした。そして,パワーアンプ部,アナログ部,デジタル
系,ビジュアル系,コントロール&表示系のそれぞれに独立した巻線を持つ5系統独立電源として相互干渉
を排除していました。特に,アナログ系とデジタル系電源には,整流素子として高速ショットキーダイオードを
採用して有害なパルス性ノイズの発生を防いでいました。また,ビジュアル系の電源は単独でオン・オフが可
能となっており,ピュア,AVの使い分けができるようになっていました。っさらに,アナログソース選択時には
デジタル部のマスタークロックは自動停止するように工夫されていました。
内部は各部の相互干渉や外乱の影響をを抑えるために配慮された左右対称・2BOX構造となっていました。
パワーアンプ部は電源トランスをはさんでL・R完全対称設計とし,回路基板はウッドパネルに接した最外側に
配置されて電源トランス等の磁気歪みの影響を抑えていました。さらに,デジタル部からの不要輻射を防ぐた
め,デジタル部とプリアンプ部をそれぞれ独立させた2BOXコンストラクションを採用し,銅メッキシャーシ/フ
レームを全面的に採用して,磁気歪みの発生を抑え,耐振性も高めていました。
インプット/レックアウトは,低歪率,低リーク仕様のFET採用・半導体セレクタを搭載し,リアの入出力端子の
間近で切り換える構造とし,フロントとリアの間でオーディオ信号が往復するような内部配線の引き回しを排除
していました。そのほか,極性表示付き極太OFC電源コード,金メッキピンジャック端子など音質に配慮した
設計が各部に見られました。
入力系は,PHONO,CD,TUNER,DAT1,DAT2,VDP/DBS,TAPE1/VCR1,TAPE2/VCR2のアナロ
グ8系統,CD(光/同軸),DAT1(光/同軸),DAT2(同軸),VDP/DBS(光/同軸)のデジタル4系統,VDP/DBS
VCR1,VCR2の映像3系統が装備されていました。
PHONO入力は1系統ですが,MM,MCそれぞれ入力端子からアンプまで独立させ別系等としたもので,専用に
イコライザアンプが搭載され,増幅後に入力切換となる方式が採用され,SN比を初め,優れた特性を実現してい
ました。
出力系は,DAT1,DAT2,TAPE,TAPE1/VCR1,TAPE2/VCR2のアナログ4系統,DAT1(光/同軸),DAT2
(同軸)のデジタル2系統,VCR1,VCR2,VIDEO MONTORの映像3系統が装備されていました。
さらに,サラウンドプロセッサーなどの接続ができるアクセサリー端子も装備されていました。以上のように,デジタル
オーディオだけでなく,AV用途にも対応した非常に多機能なアンプとなっていました。また,ボリューム,入力セレクト
−20dBまでのミューティングの操作ができるリモコンが装備されていました。
以上のように,AX-2000は,ヤマハのプリメインアンプの最上級機として,当時考え得る限りの多機能と最新の回
路を投入して作り上げられた力作でした。癖の少ないバランスのとれた音は,音楽にも映像の音声にもしっかりと対
応できるものでした。 反面,オーディオ用,AV用の中間的なアンプとして見られ,中途半端な印象を与えたためか,
前モデルA-2000,A-2000aほど広く人気を得るまでには至りませんでした。しかし,非常にコストパフォーマンス
にすぐれた1台ではなかったでしょうか。