1996年に,サンスイが発売したパワーアンプ。サンスイは,1988年に,AU-X1111MOS VINTAGEのパワー部
のみをとりだした形で設計されたパワーアンプB-2102を発売し,その後2代目のB-2103と続き,3代目として発売
されたのがB-2105でした。そして,このB-2105にいたって初めてペアとなるコントロールアンプC-2105が発売さ
れ,純正ペアが実現されました。その意味でも,B-2105はシリーズの1つの完成形となったパワーアンプでした。
全体の回路構成は,サンスイらしくバランス構成で,Advaced Hyper α-Xバランス回路が搭載されていました。これ
は,実動作時に発生する伝送・増幅過程での動的歪をゼロにするために開発されたもので,ドライバー段を上下対称
バランス型のリニア電流供給方式とした回路方式で,音の入口から出口まで全系統を通してクローズドループとし,高
い安定性を誇る動作環境が実現されていました。
パワー段は,MOS FETを,左右および+−の4カ所にダブルプッシュプルで各4個ずつ,合計16個搭載し,バランス
回路を構成していました。出力素子に使われたパワーMOS FETは,東芝製の旧タイプMOS 2SK405/2SJ115
のペアで,テフロン基板にマウントされていました。この旧タイプMOSには,独自の音の魅力があるといわれ,サンス
イが在庫していたものを使ったもので,B-2105が最後の搭載モデルとなりました。
入力は,FETのカスケードとし,位相反転なしで−出力を取り出せるNEWダイアモンド差動回路が採用されていま
した。上下対称バランス型とした強力なドライバー電源部とあいまってすぐれたリニアリティと瞬時の大電源供給能力
高速応答性が実現され,±150V/μsのスルーレイトとTIM歪も測定限界以下というすぐれた特性が確保されてい
ました。
電源部は,大型・低振動のトランスを核にして,80V・8,200μF×2,85V・5,600μF×2,50V・4,700μF×4
のフィルターコンデンサーを搭載した強力なもので,アースから完全に独立させたクルーズドループ構成となっており,
Advanced α-Xバランス電源と称されていました。前モデルB-2103と容量は同一ながら,各パーツは,より高品
位なものが使用されていました。
筐体は,電源系と信号系で発生する振動の影響を効果的に排除する強化ツインモノラルコンストラクションが採用され
電源部を筐体の中央部に置き,パワーユニットを左右対称に配置することで最適重量バランスを実現し,振動の発生・
伝達を制御するとともに,回路の最短化も実現していました。
さらに,アンプを構成する各構造物やパーツをトータルな視点でとらえ,アンプの固有振動や外来振動の発生・伝達を
遮断するサンスイ自慢の「フルアイソレーテッド・メカニカル・フィードバック」の技術が各部に採用されていました。本革
を接地面に使用した金メッキ純銅楕円インシュレーターをはじめ,純銅インナーシャーシと銅メッキアウターシャーシによ
るダブルボトムシャーシ,オール銅メッキビスなどの純銅材やテフロンシートを各部に効果的に配し,電気的・機械的動
作などにより発生する様々な影響を低減していました。また,サイドパネル,ボンネット,フロントパネルには非磁性体の
アルミが使用されていました。その他,スイスノイトリック社製金メッキバランス入力端子,WBT金メッキスピーカー端子
WBT金メッキRCA入力端子,銅メッキリアパネル,金メッキ抵抗,金メッキフィルムコンデンサー,金メッキ端子装備の
電解コンデンサー,6N銅帯バスバーなど,パーツ等の面でも,金メッキ処理,非磁性体化,低インピーダンス化,ハイ
スピード化,防振対策が徹底され,音の濁りや歪みの発生を抑えていました。
ボリュームは,パラレル構成とされ,接触抵抗が半減されていました。左右独立したツマミは連動するようになっており
左右同レベルのコントロールが可能となっていました。入力系は,バリアブル入力2系統(NORMAL-1・2)に加え,固
定入力2系統(NORMAL,BALANCED)が装備され,スピーカー出力は,バイワイヤリング接続およびバナナプラグ
対応のものが1系統装備されていました。
以上のように,B-2105は,MOS FETによるバランス構成という,サンスイ伝統の自慢の技術を生かした設計と高品
位のパーツを贅沢ともいえるほど投入した作りで,コストパフォーマンスにすぐれたパワーアンプとなっていました。正攻
法の作りが生み出す音は癖のない非常にナチュラルなもので,使いやすい1台となっていました。そして,このシリーズ
のパワーアンプはこれが最後のモデルとなり,サンスイ最後のMOS搭載パワーアンプとなりました。(この後,プリメイン
アンプAU-α607MOS LIMITED・1999年)が実質的な同社最後の旧型MOS搭載アンプとなりました。)
旧型MOS FET搭載最終モデル。
圧倒的なスピーカードライブ能力が,
音楽の生命を甦らせる。
●B-2105MOS VINTAGE主要規格●
実効出力(10Hz〜20kHz,両チャンネル同時動作) | 150W+150W(6Ω) 110W+110W(8Ω) |
全高調波歪率(実効出力時) | 0.008%(8Ω) |
混変調歪率 | 0.008%(8Ω) |
ダンピングファクター | 200(8Ω) |
周波数特性(1W) | DC〜300kHz(+0dB,−3dB) |
入力感度/入力インピーダンス(1kHz) | 1V/10kΩ |
SN比(Aネットワーク,ショートサーキット) | 110dB以上 |
ダイナミックパワー | 190W(6Ω),240W(4Ω),320W(2Ω) |
エンベロープ歪 | 測定限界以下 |
TIM歪(SWATOOTH) | 測定限界以下 |
スルーレイト | 150V/μsec |
ライズタイム | 0.5μsec |
チャンネルセパレーション(1kHz) | 90dB以上 |
負荷インピーダンス | 4Ω〜16Ω |
電源 | AC100V,50/60Hz |
定格消費電力 | 350W |
外形寸法 | 460W×174H×480Dmm |
重量 | 37.0kg |
上述のように,1988年に,B-210○の型番のシリーズの初代機B-2102 MOS VINTAGEが発売されました。当
時の同社のパワーアンプB-2301L,B-2201Lの弟機としてパワーメーターもないシンプルなデザインで発売されま
した。
基本的には,同年に発売されたAU-X1111 MOS VINTAGEをパワー部のみにしたという構成で,内容的にも回路
構成,パーツなどほぼ同様なものとなっていました。
出力段は,東芝製の旧タイプMOS FET 2SK405/2SJ115のペアを,左右および+−の4カ所にダブルプッシュプ
ルで各4個ずつ,合計16個搭載し,バランス回路構成となっており,入力は,FETのカスケード構成のNEWダイアモ
ンド差動回路が搭載されていました。
電源部は,大型のトランスを核にして,80V・8,200μF×2,80V・5,600μF×2,50V・4,700μF×4のフィル
ターコンデンサーを搭載した,アース回路と無関係なクルーズドループのバランス電源構成が採用されていました。コン
デンサーの容量はAU-X1111と同一ながら,種類は異なるものとなっていました。
ボリュームは,左右独立型で,ディテントボリュームをパラレル接続で使用することで,接触抵抗を半分とし,音質劣化を
抑えていました。クラッチ機構を用いた連動タイプとすることで,左右同時の音量の微調整も容易にできるようになってい
ました。
入力系は,バリアブル入力3系統(NORMAL-1・2,BALANCED)に加え,固定入力2系統(NORMAL,BALANCED)
計5系統が装備され,スピーカー出力は,A,B2系統が装備され,2系統同時使用も可能となっていました。その他,サブ
ソニックフィルタースイッチも装備されていました。
内部構造は,電源部を筐体の中央部に置き,パワーユニットを左右対称に配置した左右対称のツイン・モノラル・コンスト
ラクションが採用され,AU-X1111と内部の見た目もほぼ同じになっていました。(フォノ部等が収められていた右端の
シールドケースもそのままで内部は空でした。)
フロントパネルは6mm厚のアルミ製で,ボンネットも3mm厚のアルミ製,サイドパネルは,不要反射音を吸収するための
8mm厚のフェルトを内装したアルミ製となっていました。底板は,純銅板と銅メッキシャーシによるダブルボトムシャーシが
採用され,直径65mm・純銅製無垢・フェルト貼りの大型インシュレーターが装備されていました。
以上のように,B-2102 MOS VINTAGEは,単体パワーアンプに近い設計の超弩級プリメインアンプAU-X1111 MOS
VINTAGEをベースに,本来の形ともいえる,より純粋にパワーアンプの形にまとめ上げたともいえるアンプでした。回路構
成等はほぼ同一ながら,アンプ設計としての純化によるものか,音の方も,旧タイプMOS FETのよさを引き出し,よりクリア
で繊細さも表現するものとなっており,独自の良さをもつものでした。
パワーアンプの,純粋さ,力強さをつきつめた。
音の新天地を拓くシンプルの美学。
●主要規格●
実効出力(10Hz〜20kHz,両チャンネル同時動作) | 150W+150W(6Ω) 110W+110W(8Ω) |
全高調波歪率(実効出力時) | 0.008%(8Ω) |
混変調歪率 | 0.008%(8Ω) |
ダンピングファクター | 200(8Ω) |
周波数特性(1W) | DC〜300kHz(+0dB,−3dB) |
入力感度/入力インピーダンス(1kHz) | 0.5V/10kΩ |
SN比(Aネットワーク) | 110dB以上 |
ダイナミックパワー | 800W(2Ω),700W(4Ω),600W(6Ω) |
TIM歪(SWATOOTH) | 測定限界以下 |
スルーレイト | 150V/μsec |
ライズタイム | 0.5μsec |
サブソニックフィルター | 10Hz(−3dB),6dB/oct |
定格消費電力 | 350W |
外形寸法 | 450W×176H×477Dmm |
重量 | 35.0kg |
1992年に,シリーズ2代目のB-2103 MOS VINTAGEが発売されました。回路構成,内部構造等はB-2102 MOS
VINTAGEをほぼ継承し,旧型MOS FET・2SK405/2SJ115を活かすべく,パーツ等の面でブラッシュアップが行われ
ていました。
左右チャンネルごとにホット/コールドの2アンプを採用したバランス回路は,さらにホット/コールドのアンプを強力に一体化
させようとするフィードバック回路・NFBを+側出力から−側入力へ,−側出力から+側入力へと交差するバランスフィード
バック構成が採用されたAdvanced α-Xバランス回路が採用されていました。
クルーズドループのバランス電源構成の強力な電源部は引き継がれ,大型の電源トランスを核に,フィルターコンデンサー
として,エルナー・スーパーゴールドシルミック・80V・8,200μF×2,日立・ピュアフォーカス・80V・5,600μF×2,50V・
4,700μF×4が搭載され,容量は同一ながら,より高品質なものが搭載されていました。
その他,パーツ等の面で,金メッキ処理,非磁性体化,低インピーダンス化,ハイスピード化,防振対策などがより強化され
ていました。
入力端子には,WBT社製の金メッキRCA端子,ノイトリック社製金メッキバランス入力端子が採用され,内部パーツとして
金メッキ抵抗(RMG),金メッキフィルムコンデンサー(GUG),OFCリード・ブチルコンデンサーなどが採用されていました。
また,MOS FETを純銅で挟み込み,トランスや底板,インシュレーター等各部に純銅材が使用され,底板とインシュレーター
の間はテフロンシートでアイソレートされるなど,徹底した防振対策・振動の発生や伝達の制御がなされた「アイソレーテッド・
メカニカルフィードバック」が採用されていました。特に,インシュレーターは,テフロンシートとフェルトを使用した新開発の純
銅製無垢の楕円型の大型インシュレーターが装備されていました。
以上のように,B-2103MOS VINTAGEは,先代のB-2102MOS VINTAGEをベースに,各部が強化され,旧型MOS
FETの音を引き出し,より繊細で輝かしい音が実現されていました。
MOS FET素子を採用し,
その能力を活かすよう設計された
ステレオパワーアンプ。
●主要規格●
実効出力(10Hz〜20kHz,両チャンネル動作) | 150W+150W(6Ω) 110W+110W(8Ω) |
全高調波歪率(10Hz〜20kHz)) | 0.008%以下(8Ω) |
混変調歪率 | 0.008%以下(8Ω) |
ダンピングファクター | 200(1kHz,8Ω) |
周波数特性 | DC〜300kHz(+0dB,−3dB) |
入力感度/入力インピーダンス(1kHz) | 1V/10kΩ |
SN比(Aネットワーク) | 110dB以上 |
エンベロープ歪 | 測定限界以下 |
TIM歪(SWATOOTH) | 測定限界以下 |
スルーレイト(8Ω | 150V/μsec |
ライズタイム | 0.5μsec |
チャンネルセパレーション(1kHz) | 90dB以上 |
サブソニックフィルター | 10Hz(−3dB),6dB/oct |
負荷インピーダンス | 4Ω〜16Ω |
定格消費電力 | 350W |
外形寸法 | 450W×173H×477Dmm |
重量 | 35.0kg |
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