LUXMAN
C-08
CONTROL AMPLIFIER ¥570,000
1994年に,ラックスが発売したコントロールアンプ。
C-05,
C-06,
C-06α・・・とコントロールアンプの
実力機を出していたラックスが,創立70周年を迎えるに当たって開発・発売したコントロールアンプで,そ
れまでのモデルと設計の方向が変わり,デザインイメージ,音のイメージにも変化が見られた1台でした。
C-08の発売された1994年頃は,オーディオソースといえばCDなどのデジタルソースなどのライン出力
が中心で,出力が十分高いため,信号経路の短縮化・単純化を重視してパワーアンプに直結する使いが
も出てくるなど,コントロールアンプ,プリアンプに対する不要論も出ていました。また,こうしたダイレクト接
続に近いコントロールアンプも増えていました。そうした中,様々な出力インピーダンスを持つ機器とのマッ
チング,信号劣化のない入力セレクター機能,パワーアンプが要求する信号レベルを充分に確保し,確実
にドライブする等の役割を重視しつつ,アナログレコードが主力ソースであった時代の,フォノイコライザー
中心の役割からの見直しが図られていたのがC-08でした。
C-08の1つ目の特徴は,「CSSC(コンプリメンタリー・シングル・スタガー・サーキット)回路」の搭載でした。
これは,広帯域でハイ・スルーレイトな増幅を実現するためのもので,回路の基本特性を練り上げ,過剰な
制御を極小化する手法がとられていました。CSSC回路は,全段直結ピュア・コンプリメンタリーの一段増
幅回路で,電圧増幅段の音質へのフィルター効果を防ぐために多段電圧増幅とせず,さらに裸特性を高め
ていました。初段は,インピーダンスを高くとった動作基準点の明確なFET差動とカスコード接続トランジス
ターのコンプリメンタリー回路が採用され,この構成で問題になる上下の非対称性は,デュアルチップのFET
やトランジスターを使用し,熱結合することで解決していました。
続くドライバー段は,電流増幅率を稼ぎ,送り出しのインピーダンスを下げたダーリントン接続のコンプリメン
タリー・エミッター・フォロワー回路として,パワーアンプへのドライブ能力を高めていました。
2つ目の特徴は,「ODβ(オプティマイズド・デュアル・NFB)サーキット」の搭載でした。理論的にDC(直流)
領域まで増幅可能なDCアンプにおいては,低域が中心の直流(DC)帰還と中高域が中心の交流帰還があ
り,通常,アンプの中高域と低域の音質を統一するために,交流域・直流域とも適量のNFBがかけられてい
ます。しかし,回路の特性が悪く,DC帰還が完全でないアンプではDCサーボアンプを使用し,多量のNFB
をかけて低域を補正する必要が出てきて,中高域と低域の音質の統一感を損なう最大の要因となります。
「ODβサーキット」では,回路の裸特性を上げ,100%のDC帰還を可能として,DCサーボアンプのない回
路構成とし,中高域の交流帰還は,回路ごとのフィードバック量を細かに最適化して全域のエネルギーバラ
ンスが整えられていました。最適化した(オプティマイズ)した交流域のNFBと,DCサーボの頼らずに直流安
定性を高めた2種類のNFBということで「ODβ(オプティマイズド・デュアル・NFB)サーキット」と名付けられ
ていました。
3つめの特徴は,「ハイ・イナーシャ電源」と称された電源部にありました。通常の安定化電源では,NFBによ
り細かく制御が行われ,電源電圧は絶えず小刻みに変動していることになり,その音質上のデメリットもある
ため,逆にNFBを極小化し,制御を軽くしてより緩やかな変動にしたもので,変動幅の少ない自然な電源供
給を行うものでした。アナログプレーヤーの重量のあるターンテーブルが,細かな制御を行わずとも安定して
回転するようになる慣性(イナーシャ)の働きになぞらえて「ハイ・イナーシャ電源」と称されていました。
電源トランスには,コア部銅シールドと外装ケースによる厳重な二重シールドが施され,2次巻き線はフラット
アンプ用,アクセサリー回路用に独立した2巻き線とされ,整流後にはL・R個別のレギュレータが配備される
など,電源を介しての相互干渉が徹底的に排除されていました。また,回路と専用レギュレーターを1枚の基
板に納めることで,電源供給ラインの最短化も図られていました。さらに,電源回路の極性を管理するための
ラックス伝統のラインフェーズセンサーも搭載されていました。
ボリュームは,通常の摺動式可変抵抗器を使用したものではなく32ポイント固定抵抗切換式のローターリー
スイッチ型アルティメート・アッテネーターが搭載されていました。これは,金メッキパターンのガラスエポキシ基
板に,ポイントごとの減衰量に応じた非磁性体抵抗を一本一本マウントし,さらにアルミダイキャスト押出材に
よるシールド構造が施されたもので,非常に高精度なものでした。
バランスボリュームにも,摺動式可変抵抗器を使わず,非磁性体抵抗を使用した固定抵抗切換式のバランス
アッテネーターが装備されていました。ON/OFFにはリレーが用いられ,L・Rそれぞれに+1dB,+2dB,+3dB
の3段階の調整ができるようになっていました。
トーンコントロールには,シーソー型トーンコントロールが搭載されていました。これはNFループ内の帰還抵抗を
可変することで周波数特性に直線的な傾向を与えるもので,低域と高域をブーストや減衰を個別に行う通常のトー
ンコントロールと異なり,1kHzを中心にエネルギーのバランスを全体的に緩やかに補正することで,位相特性に
すぐれた自然な音質補正が可能というものでした。
入力は,LINE5系統,CD,TAPE2系統という8系統が搭載され,入力切換は,音質を重視した窒素ガス封入金
接点による高品位なリレー切換が採用され,ホット側のみならずアース側も切り離すことで,グランドループを介し
て回り込むノイズも防止するようになっていました。また,フォノ入力は装備されず,E-03等のフォノアンプを別に
使うことを前提とした設計と鳴っていました。出力は,アンバランスRCAに加え,バランス出力端子も装備されてい
ました。
パーツの面でも,同社の高級機として,非磁性体抵抗,銅スチロールコンデンサー,銅製バスバー,高純度6N銅
ケーブルなどカスタムパーツが投入されていました。パーマロイコアを使用し,厳密な静電シールドと電磁シールド
が施された新設計のアウトプットトランスも搭載されていました。
C-08の内部は,各ステージをシールド板で隔離するとともに筐体の剛性を高めた9ボックス構造のシャーシが採
用され,漏洩フラックスや高周波ノイズを遮断する構造がとられていました。さらに,トランスをメインシャーシから
浮かせたメカニカルフローティング・マウント方式の採用,シールド線の全面投入,ノイズ対策パーツの積極投入な
ど,シャーシ内部のノイズ対策が徹底されていました。また,ボトムシャーシには,高剛性・高質量のFRP製の5点
接地ボトムシャーシが採用されていました。これら,強力な電源部,パーツ群,筐体などにより,コントロールアンプ
ながら25kgにも及ぶ重量級のアンプとなっていました。
以上のように,C-08はCD等のラインレベルのソースがメインとなった時代のコントロールアンプとして,入念な設
計としっかりと物量が投入された1台でした。そして,これまでのラックスのアンプ設計の特徴を受け継ぎつつ,それ
以降のラックスのアンプに見られる仕様もほぼ見られるなど,一つの転機となっているコントロールアンプでした。
多彩な入力系のインピーダンスマッチングとパワーアンプをしっかりドライブするという方向性は,それまでのラック
スアンプに比べ,力強い音になって表れていたと思います。