YAMAHA CA-S1
NATURAL SOUND STEREO PRE-MAIN AMPLIFIER ¥95,000
1978年に,ヤマハが発売したプリメインアンプ。ヤマハは,当時の社名・「日本楽器製造」の名の通り,1887年
に楽器製造会社としてスタートし,1967年には,オーディオ部門を創設し,当初より独自のすぐれたアンプも作っ
ていました。CAに続く型番でプリメインアンプも数多く発売し,特に,CA-1000シリーズで高い評価を得てプリメイ
ンアンプのブランドイメージを確立しました。その後CA-S1,CA-R1,CA-G1,CA-Z1,CA-A1等の「CA-※1」
の型番を持つプリメインアンプを発売し,その中で,最上級機に当たり,CA-1000シリーズのCA-1000Ⅲの技
術,さらにセパレートアンプ開発で得られた技術を継承して作り上げられたのがCA-S1でした。

イコライザー回路は,ローノイズDual FETによる差動入力カレントミラーブートストラップ,ダーリントン接続プリドラ
イブ,ピュアコンプリメンタリーSEPP-OCLというDCアンプ構成となっていました。初段のローノイズDual FETは
High-gmの2つのFETの電気的,熱的特性を揃えて1つのパッケージに収めたもので,すぐれた特性を確保して
いました。また,カレントミラー回路により充分なゲインと低歪率を得るとともに,カスコードブートストラップ回路に
より,カートリッジを接続した場合の,高域の信号源インピーダンスの上昇による歪の増加を非常に少なく抑えてい
ました。2段目はダーリントン接続定電流負荷のエミッタ接地増幅回路で,初段に対する負荷を軽くするようにして
いました。出力段は,ペア特性のよく揃った高fTのトランジスターによるピュアコンプリメンタリーSEPP-OCL回路
で出力インピーダンスと充分に低く抑え,大きな出力電圧を低歪率で確保していました。
これらの構成により,入力ショート時のSN比87dB(2.5mV),歪率0.003%(PHONO→REC OUT),RIAA
偏差が20Hz~20kHzで0.2dB以内というすぐれた特性が実現されていました。
MCカートリッジに対応したMCヘッドアンプも搭載されていました。回路は,厳選したローノイズトランジスター4石
による回路構成で,100μV入力で73dBの高SN比と20Hz~20kHzにわたって歪率0.02%以下という特性
を実現していました。そして,μVオーダーの信号経路におけるスイッチ接点のゼーベック効果やノイズなどの問
題を解決し,接続換えをせずに,フロントパネル面のPHONO SELECTORによってMM・MCの切換使用がで
きるようになっていました。さらに,PHONO SELECTORによってカートリッジの負荷インピーダンスを100Ω
33kΩ,47kΩ,68kΩとセレクトでき,多様なカートリッジに対応できるようになっていました。

フラットアンプは,イコライザーアンプとほぼ同様の回路構成で,ローノイズFETによる差動増幅回路にカレントミ
ラーとカスコードブートストラップ回路という初段→エミッタ接地増幅→ピュアコンプリメンタリーSEPP-OCL回路
というDCアンプ構成で,220Ωという低出力インピーダンスを確保していました。特性的には,TUNER→PRE
OUTでの歪率0.001%以下(PRE OUT 3V出力時:HP-1Bシステムによる参考値),カタログ値でも0.003
%以下が実現されていました。

メインアンプの初段は,特にローノイズに設計されたHigh-gmのDual FETによるソースフォロアと,カスコード
接続されたデュアルトランジスターによる平衡送り出し差動増幅回路で,2段目のプリドライブ段もカレントミラー
プッシュプル差動増幅回路となっていました。
プリドライブ段は,カスコードブートストラップ回路により,信号源インピーダンスの変化による歪率の増加が抑え
られ,カレントミラー回路は,電圧増幅段として充分なゲインを得るとともに,ふたつのトランジスターが一種のプッ
シュプル回路の働きをして,高調波歪を打ち消す働きをするようになっていました。また,Dual FETの採用とカス
コードブートストラップ回路により,DCドリフトが非常に少なく抑えられ,安定度が高くハイスルーレイトで低歪率の
電圧増幅段としていました。
電力増幅段は,High-Speed High-fTトランジスターで構成された3段ダーリントン接続ピュアコンプリメンタリー
パラレルプッシュプルOCL回路で,ペア特性のよく揃ったHigh-fTトランジスターを3段構成とすることで,充分な
電力ゲインを広帯域にわたって得るとともに,各段とも蓄積負荷の速やかな放電と無負荷時の安定度を確保し
た設計となっていました。さらに,出力トランジスターの性能を充分に引き出すために,ドライブ段のE-E間のダ
イオードと抵抗をシリーズに接続し,この抵抗の値を充分に低く抑えていました。
こうした構成により,メインアンプ部トータルで,全高調波歪率0.003%以下(MAIN→SP OUT),パワーバン
ド幅10Hz~50kHz(8Ω・45W・0.01%),SN比120dB(IHF-A)という特性を実現していました。

CA-S1の特徴的な機能として,パワーアンプB-4で新開発された,アンプの出力抵抗を+1Ω~0~-1Ωに
わたって連続可変できるRoコントロール(出力インピーダンスコントロール)回路が搭載されていました。アンプ
の出力電流を高精度なメタルクラッド抵抗で検出し,反転バッファアンプで位相反転,パワーアンプのNFB(ネガ
ティブフィードバック)回路へ,電流信号とNFB~PFB(ポジティブフィードバック)を任意に加算することにより,
Roをコントロールするという仕組みになっていました。Roコントロールにより,スピーカーのQ特性や,スピーカー
コードの直流抵抗をアンプ側から積極的にコントロールすることで,音質の調整ができるというもので,アンプの
実特性をスピーカーにまで拡大しようとしたものでした。

トーンコントロール回路は,入力差動・出力SEPP-OCLのオーディオICによるトーンアンプと,ターンオーバー周
波数を連続可変するためのトランジスター4石による疑似バリアブルキャパシタにより構成されていました。これ
により,トーンコントロールは,ターンオーバー周波数が,BASSで100Hz~500Hz,TREBLEで1kHz~5kHz
の範囲で連続可変でき,L・R独立で±10dBの連続可変ができるというものになっており,広い周波数範囲にわ
たって微妙なコントロールができるようになっていました。また,ゲイン0dBに設定されており,TONE CIRCUITス
イッチをBYPASSポジションにすることで,ゲインを変えずに信号経路からトーンコントロール回路を外すことが
できるようになっていました。
ボリュームは,実使用時のSN比を改善するために,高精度4連ボリュームを採用し,片チャンネルあたり2連の
ボリュームをフラットアンプの入力側と出力側に挿入し,使用時の実特性を大幅に改善していました。


その他,機能的には,演奏中のソースと関係なく録音信号を選べ,2台のテープデッキ相互ダビングもできるREC
OUT SELECTOR,超低音をカットするサブソニックフィルター,音量を20dB下げられるAUDIO MUTING,小音
量で音楽を聴くときのLOUDNESS,PRE OUT・MAIN IN端子(PRE OUT OFF機能付き)などが装備され,多
機能なプリメインアンプとなっていました。



内部コンストラクションは,メイン基板にアースラインのインピーダンスを低くするための銅板のアースラインを真ん
中に配して,ほぼ左右対称のレイアウトパターンが描かれ,±B電源はタテ方向とヨコ方向の両方にバランスがと
れるようにレイアウトし,負帰還をできるだけ配置上の出力側から取り出して出力インピーダンスを下げ,スピーカー
切換SWは延長シャフトによってリアパネル部にもっていってスピーカー端子と一体化し,メイン基板とは最短の結
線としていました。そして,入力側はピンジャックとアンプ部をシールド線を用いずにダイレクトに接続し,音質・特
性上重要な部分には銅板のアースを用いてインピーダンスを下げていました。
パーツの面では,歪みの発生の少ないコンデンサーや抵抗を用い,イコライザーの出力に挿入されるコンデンサー
には,ヤマハカスタムのオーディオ用カップリングコンデンサーを採用し,ケミコンにはインピーダンスの低いケミコ
ンを使用する,さらにケミコンの限界を補うためにマイラーコンデンサーをパラレルに接続して広域でのインピーダ
ンス上昇を抑えるなど,特に音質上重要なパーツは聴感でセレクトしたものを使用し,細かな配慮がなされていまし
た。

以上のように,CA-S1は,同社のセパレートアンプの技術も投入されるなど,CA-1000シリーズに匹敵するような
グレードの高いプリメインアンプとして作り上げられており,バランスのとれた上品なデザインと滑らかな質感の高い
音はヤマハらしい個性を感じさせるものでした。


以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。



C-2a,B-3の技術レベルと
0.00005%オーダーの解析で
カートリッジ→スピーカケーブル末端までの
先進したオーバーオール実特性により
”世界最高のプリメインアンプ”を自負します




●CA-S1の主な規格●

実効出力 90W+90W(8Ω・20Hz~20kHz・歪0.01%) 
パワーバンド幅 10Hz~50kHz(8Ω・45W・歪0.01%) 
出力インピーダンスコントロール  可変インピーダンス範囲(20Hz~20kHz):-1Ω~+1Ω 
0ポジションでのD.F.(1kHz・8Ω):100以上
入力感度 PHONO 1(MM):2.5mV/可変
PHONO 1(MC):100μV/100Ω
PHONO 2(MM):2.5mV/47kΩ
AUX・TUNER・TAPE 1・2:150mV/47kΩ
MAIN IN:1V/47kΩ
最大許容入力(1kHz・歪0.01%) PHONO 1(MM):250mV
PHONO 1(MC):10mV
TUNER(20Hz~20kHz・歪0.01%):15V
定格出力/インピーダンス/最大出力 REC OUT:150mV/600Ω
PRE OUT(1kHz):1V/220Ω/10V
PRE OUT(20Hz~20kHz):1V/220Ω/5Ω
周波数特性 PHONO→REC OUT:20Hz~20kHz±0.2dB(RIAA偏差)
TUNER→SP OUT:4Hz~100kHz+0,-1dB(8Ω) 
全高調波歪率(20Hz~20kHz) PHONO 1(MM),2→REC OUT 5V
                :0.003%以下〔0.001%以下 〕
PHONO 1(MC)→REC OUT 3V:0.01%以下
AUX,TUNER,TAPE 1,2→PRE OUT 3V
                :0.003%以下〔0.001%以下 〕
AUX,TUNER,TAPE 1,2→SP OUT 45W
                :0.005%以下〔0.004%以下〕
PHONO 1(MM)→SP OUT Vol.-30dB・45W
                :0.005%以下〔0.004%以下〕
MAIN IN→SP OUT 8Ω・45W
                :0.005%以下〔0.003%以下〕
※〔  〕内はHP・IBオーディオアナライズシステムによる測定値であり
第10次歪迄の高調波の合計です。
混変調歪率
TUNER→SP OUT・8Ω・45W
60Hz:7kHz=4:1
0.003%以下 
SN比 IHF-A net work PHONO 1(MM):87dB
PHONO 1(MC):73dB
AUX,TUNER,TAPE 1,2(TONE ON):102dB
AUX,TUNER,TAPE 1,2(TONE BYPASS):110dB
MAIN:120dB 
残留ノイズ
IHF-A net work Vol.MIN 
25μV以下
NDCR
1kHz・歪0.01%・Vol.-20dB
PHONO 1(MM)→SP OUT:4mW~90W 
カートリッジロード切換  100Ω,33kΩ,47kΩ,68kΩ 
トーンコントロール特性  ターンオーバー周波数 BASS:100Hz~500Hz連続可変
             TREBLE:1kHz~5kHz連続可変 
SUBSONIC FILTER  15Hz・12dB/oct 
ラウドネス(Vol.-40dB)  +6dB at 10kHz/+10dB at 100Hz 
チャンネルセパレーション(1kHz) AUX,TUNER,TAPE 1,2→SP OUT 5.1kΩショート:65dB
PHONO 1(MM),2→SP OUT 入力5.1kΩショート Vol.-30dB:65dB
PHONO 1(MC)→SP OUT Vol.-30dB:65dB 
付属機構  オーディオミューティング(-20dB)
SPEAKER A,B,A+B
ヘッドホン端子
REC OUTセレクタ,TONE BYPASS SW
AC OUTLET3系統(Switced×2,Unwitched×1) 
PRE OUT,MAIN IN
定格電圧・周波数  100V・50/60Hz 
定格消費電力  250W 
外形寸法 435W×162H×372Dmm 
重量 14.5kg 
※本ページに掲載したCA-S1の写真,仕様表等は1978年10月のYAMAHA
 のカタログより抜粋したもので,ヤマハ株式会社に著作権があります。したがっ
 て,これらの写真等を無断で転載・引用等することは法律で禁じられています
 のでご注意ください。

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