marantz CD-63
COMPACT DISC PLAYER ¥189,000
1982年に,マランツが発売したCDプレーヤー。マランツは,1953年にアメリカで生まれたオーディオブラン
ドですが,資金難から1964年にスーパースコープ社に買収され,1968年には,日本のスタンダード工業が
スーパースコープ社と提携することとなり,マランツブランドのオーディオ機器の設計・製造も担当するように
なって,1975年より社名も日本マランツとなりました。1980年には,スーパースコープ社からオランダフィリ
ップス社にマランツブランドが売却され,日本マランツもフィリップス傘下に入ることとなりました。ソニーととも
にCDプレーヤーのオリジネーターであったフィリップス社とともにCDプレーヤーの設計・製造にあたっていた
日本マランツは,フィリップスの技術を生かし,1982年に,フィリップスブランドの第1号機CD-100とほぼ
同一といえるCD-63をマランツブランド初のCDプレーヤーとして発売しました。

ピックアップ部のメカニズムには,フィリップス製のCDM-1が搭載されていました。CDM-1は,スイングアー
ムタイプの駆動方式が採用されていました。光ピックアップの運動軌跡が円弧を描く方式で,腕の一端に光
ピックアップを,支点後方のもう一端にバランスをとるためのカウンターウェイトを付けたスイングアームがあ
り,これに固定されているトラッキング・コイルが,円弧状磁石レールと組んでリニアモーターを構成し,スイン
グアームを円弧状に駆動するようになっていました。完全にダイナミックバランスがとれたスイングアームは,
ピックアップの軌跡をしっかり安定させ,シンプルな構造ながら確実なトレース動作が実現されるものでした。
適度なイナーシャが与えられたスイングアームの動作は,外部からのショックやCDの汚れ,キズなどに対す
る耐性を高めるものとなっていました。1ビーム型レーザーピックアップは,ドイツのローデンシュトック社製の
ガラスレンズが5枚使用されたもので,フォーカス・コイルを用いて対物レンズを上下に動かしてピントを合わ
せるシンプルな仕組みとなっていました。メカニズム全体は,アルミダイカスト製で,ピックアップベースも含め
た一体構造の剛性の高いものとなっていました。



CDM-1メカニズムは,CDM-0をもとに量産化モデルとして開発されたものでした。CDM-0は,初号機とも
いえるもので,手作りに近く,スイングアーム方式の構造は同一ながら,高剛性の鋼鉄製のベースとなってお
り,サーボ系も,ほぼディスクリートで組まれていました。
CDM-0は,フィリップスの業務用超高級機LHH-2000の初期型に搭載されていましたが,CD-63の初期
型にも搭載されていたといわれています。そして,CDM-1搭載機とは異なる音色を持つことで,独自のファ
ンがいるようです。



CDプレーヤーの第1世代でありながら,デジタルフィルターが搭載されていました。4倍オーバーサンプリン
グ,2次ノイズシェイピングという,当時として非常に先進的なフィリップス製SAA7030が採用され,D/Aコ
ンバーターには,これもフィリップス製のTDA1540が採用されていました。TDA1540は,16ビット規格の
CDでありながら14ビットタイプで,フィリップスが,14ビットを精度良く変換という考えで設計されたもので,
SAA7030の4倍オーバーサンプリング+2次ノイズシェイピングと組み合わせることで,理論上不利になる
S/N比やダイナミックレンジにおいても,当時主流の16ビット+アナログローパスフィルターのCDプレーヤー
に負けないものとなっていました。D/Aコンバーターの後のローパスフィルターは,低次でしかも位相特性に
すぐれる3次ベッセルフィルターが採用され,高域まで良好な位相特性を確保すると同時に,通過帯域を30
kHzまで広げていました。また,D/Aコンバーターは位相特性等で有利なL・R独立の2D/Aコンバーターと
なっていました。

ゴールドパネルにトップローディング方式のすっきりしたデザインは,後のCDプレーヤーの高級機にも見ら
れるもので,当時の他の第1世代機がカセットデッキやチューナー,あるいはコンピューター機器を思わせ
るデザインであったのに対し,一線を画するものとなっていました。曲番の表示も通常のデジタル数字の表
示ではなく。LEDバーによる表示でシンプルにまとめられており,いわゆるデザインのデジタル臭さを抑えて
いました。オーディオ機器としてアナログ機器のデザインを意識していたものだったのでしょう。
10キーは設けられていませんでしたが,スラントされたフロントパネル上にボタンが集中配置され,ボタンで
のスキップ選曲,15曲までのランダム・アクセスプログラム,リピートなどの選曲機能が装備されていました。

マランツは,上述の通りフィリップスの傘下にあり,CD-63もフィリップスの1号機CD-100の日本仕様とも
いえるものでした。4倍オーバーサンプリングデジタルフィルター+ノイズシェイピングのSAA7030やD/Aコ
ンバーターのTDA1540,スイングアームメカニズムなど,フィリップスの超高級機LHH-2000とも同じ構成
のものでした。当時の多くのCDプレーヤーの第1世代機がハイ上がりな堅めの音であったのに対し,アナロ
グを思わせる温かみもある独特のものでした。CD黎明期の当時の日本では,レンジが狭くかまぼこ形の音
ととらえられ,評価は高いとはいえませんでしたが,後にCDディスクのソースの特性をよく考えたバランスの
とれたものであったと逆に評価を高めていったのは面白いことだと思います。


以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。



簡単な操作でコンサートホールそのままの
スーパーサウンドを再現!

いま。高性能。多機能,世界最小の
コンパクトディスクプレーヤー・・・・・CD-63登場。

◎先進の機能・・・ランダムアクセス,デリート
 プレイバック・プログラム・・・がイージー操作

●ランダムアクセス・プログラム
●デリートプレイバック
●オールプレイバック
●リピート機能
●オールキャンセル機能

◎スリムスタイルデザインのトップローディング。
 ディスクが自動的に正確なポジションに
 セッティングできます。
◎CD-63は,現在使用しているオーディオ
 システムにそのまま接続できます。
◎世界最小のコンパクトサイズを実現。
 聴き方,レイアウトが自由自在に楽しめます。
◎CD-63のサウンド・クオリティは,
 かつて体験したことのない
 サウンド空間に導きます。
●クリスタルサウンドを再現する静寂のSN比≧90dB,
 迫力のダイナミックレンジ≧90dB,
 測定不能なワウフラッター0。
●強力なエラー訂正と完全バランス型スイングメカ採用で
 安定したプレイバックを実現。
●20Hz~20kHzのフラットな周波数特性を獲得。
●コンサートホールそのまなに再現。
 チャンネルセパレーション≧80dB




●SPECIFICATIONS CD-63●


■ディスク■

演奏時間  最大片面74分以内 
ディスク外径 120mm
チャンネル数
トラックピッチ 1.6μm
スキャンニング速度 1.2~1.4m/sec(線速度一定)



■信号フォーマット■

サンプリング周波数 44.1kHz
量子化数 16ビット・リニア
変調方式 EFM
チャンネルビットレート 4.3218Mb/sec
誤り訂正方式 CIRC
エンコード方式 2’sコンプリメント



■光学ピックアップ■

半導体レーザー波長 0.78μm
開口数(N.A.) 0.45
焦点深度 ±2μm
ディスク上ビーム径 直径約1mm


■電気特性■


出力 1.5V
再生周波数帯域 20Hz~20kHz
SN比 90dB以上
チャンネルセパレーション 80dB以上(1kHz)
高調波歪率 0.005%(1kHz)
ワウフラッター 水晶精度(測定不可能)
ディエンファシス オートマチックスイッチング



■その他■

消費電力 30W
外形寸法 320W×74H×262Dmm
重量 5kg

※本ページに掲載したCD-63の写真・仕様表等は,1982年
 10月のmarantzのカタログより抜粋したもので,日本マランツ
 株式会社(現D&Mホールディングス)に著作権があります。
 したがって,これらの写真等を無断で転載,引用等をすること
 は法律で禁じられていますので,ご注意ください。

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