SANSUI CD-α607
COMPACT DISC PLAYER ¥98,000

1998年に,サンスイが発売したCDプレーヤー。サンスイはアンプのイメージが強いブランドですが,CDプレーヤー
の分野でも,発売機種数は少ないものの,当初からデジタルフィルターを搭載したモデルを発売したり,最も早く1ビッ
ト系のDACであるMASH搭載のモデルを発売するなど,実は先進的で意欲的なブランドでもありました。そうしたサン
スイが,単品の本格的CDプレーヤーとして最後期に発売したのがCD-α607でした。

D/Aコンバーターには,当時最新のバーブラウン社製の24bit BiCMOS DAC(PCM1704)をL・R独立で搭載して
いました。このDACは,アドバンスドサインマグニチュード方式が採用された24bitマルチビットタイプでした。マルチビッ
ト方式の利点は,時間軸方向の信号の揺らぎ(ジッター)成分が出にくいことですが,反面,低位のビットにおいてゼロ
クロス歪みが出やすいという弱点があります。サインマグニチュード方式というのは,マルチビット方式におけるゼロクロ
ス歪みを抑えるもので,正負を示す「サインビット(MSB)」と2SB以降の振幅情報を表す「マグニチュードビット」を分け
て変換する方式でした。具体的には,PCM1704では,23ビットのDACを2個内蔵し,バイポーラゼロを中心に上下を
それぞれ分担して動作することでゼロクロス歪みの発生を抑えていました。さらに2個のDACのゲイン誤差を防ぐために
各DACの抵抗アレーを差動構成とし,電流源を共通にしたものが,PCM1704のアドバンスドサインマグニチュード方
式でした。

CD-α607は,HDCDデコーダーを内蔵していたことも大きな特徴でした。HDCDはHigh Definition Compatible
Digitalの略で,ディザ技術,非直線量子化技術,隠しコード化技術を用いて,20bit〜24bitの音源を自然な音質でか
つノイズを抑えながら16bit化して収録・再生する技術で,アメリカのマイケル・ブラウマー,キース・ジョンソンらによって
開発され,1994年には,商品化・発売されました。1996年に設立されたパシフィック・マイクロニックス社製品が広く知
られるようになったことで,同社の開発とされる場合もあるようです。(現在は,パシフィック・マイクロニックス社のHDCD
事業は,マイクロソフト社に吸収されています。)
HDCDのエンコード時には,2倍〜4倍という低速な標本化周波数のA/D変換であるため,通常急峻な減衰特性のLPF
(ローパスフィルター)が必要となり,音質への影響が大きくなるため,高域特性の変化に応じてLPFの次数を可変させ,
高域信号が少ない場合は次数の少ない緩やかなフィルター特性にすることで,全体的な音質への影響を抑えるように
なっていました。そして,A/D変換回路で変換された20bitデータを16bitに切り詰める際には,人間の聴覚感度の低い
16kHz以上の帯域にランダムノイズを集中させる”高域集中ディザ”を用いることによって,量子化語長を丸める際のディ
ストーションを抑えていました。このディザに,上述したフィルター選択の情報やHDCD回路動作判別が隠しコード化され
て記録される仕組みになっていました。その他,テープデッキ等のノイズリダクションに近い動作を行う一種のエクスパンド
機能ともいえるピークエクステンションやローレベルエクステンションも搭載されていました。
HDCDデコーダーは,隠しコードを読み取り,再生時のフィルター動作やピークエクステンションやローレベルエクステン
ションを含めたHDCDデコーダーの動作のON/OFFを行い,HDCDディスクに対しては,16bit信号以上の再生能力が
実現されていました。

デジタル系からの出力を受けるアナログ系や支える電源部には,サンスイらしいこだわりが各部に投入されていました。
電源部には,大形のトロイダルトランスが搭載され,電解コンデンサーには,CDプレーヤーにしてはかなり大きな高品質
の4,700μFシル・ミック電源用電解コンデンサーが2本採用されるなど,クリーンで歪みの少ない電流供給が確保され
ていました。
メカコン系,アナログ系の電源部は基板レベルから完全に分離され,トランス2次側からは,アナログ系,デジタル系,駆
動系,ディスプレイ部に分離され,さまざまな干渉が電源部を通じて起こらないように配慮されていました。
出力アンプには,前段がデュアルFET入力,後段が超低歪・高速のデュアルオペアンプにより構成され,位相反転や過負
荷の問題も排除されていました。さらに,ワンポイントアースによる回路動作の明確化により定位感と音像の改善が図れ
ていました。

内部構造は,特殊ゴム材により,2mm厚の純銅インナーシャーシとアウターシャーシを緩合したダブルシャーシ構造が
採用されていました。アウターシャーシには,CDメカニズム部を,サンスイのプリメインアンプ等で使われているメカニ
カルフローティングにより振動を伝えない構造で取り付け,振動によるノイズの影響を遮断していました。純銅製のイン
ナーシャーシには,トロイダルトランス,電源のブロックコンデンサー,メカコントロール系・アナログ系に分離した基板
を取り付け,機能分離と振動対策が図られていました。トロイダルトランスには,銅板とテフロンシート,メカニカルフロー
ティングによる三重の振動対策がとられており,機械的な干渉を排除していました。ボンネット内部にも厚さ0.68mm
の純銅を特殊ゴム材で緩合され,磁気歪の低減と鳴き・共振の排除が行われていました。全体を支える脚部には,同
社のアンプにも採用されている制振性にすぐれた楕円インシュレーターが採用されていました。
CDメカニズム系は,樹脂製ベース,ギヤ式ピックアップスライド機構というごくオーソドックスなもので,サーボ系には
CDディスクごとに最適なサーボが調整されるデジタルサーボが搭載され,安定したトレースが実現されていました。

機能的には,シンプルなフロントパネルが示すようにオーソドックスなものでしたが,付属の35キーリモコンには10キー
も装備されるなど,過不足内操作性が確保されていました。特徴的なものとして,本体のツマミ及びリモコンで操作可
能なデジタルアッテネーターが装備されており,0dB〜−24dBまで1dBステップで可変可能となっていました。

以上のように,CD-α607は,中級機ながら,サンスイらしくデジタル系,アンプ系,コンストラクションなどにこだわりを
もって作り上げられた1台で,バランスのとれた音をもっていました。特にHDCDディスクを再生した音は価格を超えた
レンジや音場の広がりのワイドな魅力的な音が聴かれました。そして,サンスイブランド最後の本格的CDプレーヤー
となってしまいました。


以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。



マルチビット方式デュアル24bitDAC
&HDCDデコーダー搭載。
卓越のアナログ部との融合が,
静寂と躍動の音像を実現。

◎補正やプロセッシングが不要。微小レベル信号の再生能力が
 大幅に向上したマルチビット方式のデュアル24bitDAC
◎高解像度のデジタル処理で
 CDの再生音を飛躍的に高めるHDCDデコーダー搭載
◎超強力電源部,デュアルFET入力オペアンプなど
 サンスイテクノロジーの粋を集めた驚異のアナログ部
◎サンスイ独自のメカニカルフローティングで
 機能分離振動対策を実現したダブルシャーシ構造

●デジタルアッテネーター
●35キーリモコン標準装備
●新メカニズム採用のデジタルサーボ


●主要規格●

周波数特性 4Hz〜20kHz(±0.3dB)
全高調波歪率 0.018%以下(1kHz)
SN比 116dB以上
ダイナミックレンジ 100dB以上
デジタルアッテネーター 0dB〜−24dB
ワウ・フラッター 測定限界以下
出力電圧 2V
定格消費電力 10W
外形寸法 432W×111H×288Dmm
質量 8.0kg


※本ページに掲載したCD-α607の写真・仕様表等は
 1999年2月のSANSUIのカタログより抜粋したもので,
 山水電気株式会社に著作権があります。したがってこ
 れらの写真等を無断で転載,引用等をすることは法律
 で禁じられていますので,ご注意ください。

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