YAMAHA CD-X1
COMPACT DISC PLAYER ¥99,800
1983年に,ヤマハが発売したCDプレーヤー。1982年に商品として発売されスタートしたCDプレーヤーは,
当初20万円〜30万円ほどの価格で,かなり高額なコンポーネントでした。CDといえばラジカセが一般的と
なっている今では考えられないことですが,CDがスタートして約1年で,このCD-X1が発売され,初めてCD
プレーヤーが定価ベースで10万円を切り,CDの低価格化,普及の1つのスタート地点となりました。
CD-X1の思い切った低価格化の実現には,トランジスターにして約15,000個分に相当する,専用の大規
模LSIの開発・搭載がありました。従来数多くのIC,LSIその他のパーツにより構成されたCDプレーヤーの電
子回路の主要な部分を集積させた2つの専用LSIにより,機能性能を高めつつ,トータルで部品点数が約1/3
となり,シンプル化,信頼性の向上が実現されていました。
サーボコントロール用のLSIはC MOSタイプのYM3511で,光ヘッドや各モーターのサーボコントロールに加
え,EFM信号やサブコードの復調などの高速処理を行うものでした。もう一つのLSI,YM2201は,インターリー
ブ復調・誤り検出・誤り訂正などのデジタル信号処理機能に高性能デジタルフィルターも合わせて1チップ化され
たものでした。そして,これらは,ヤマハの自社開発で,自社製造というものでした。
現在では,オーディオメーカーが,自社で専用LSIを開発し,自社工場で製造するということはちょっと考えられ
ませんが,当時でも,オーディオブランドのヤマハが専用LSIを自社開発・自社製造したことはちょっとした驚き
でした。これには,ヤマハが世界最大の楽器メーカーであったことが大きかったということでした。当時,ヤマハ
は電子楽器の分野でも,世界の30%ほどのシェアを持っており,電子楽器用のLSI等を半導体メーカーに委託
しても自社生産しても大きくコストが変わらないということで,実際,早くから電子楽器用のLSIの自社生産に取り
組んでいました。そうしたバックグラウンドの中,開発・製造された専用LSIが,CD-X1に搭載されていました。
ピックアップ部は,ディスクの信号トラックに対して斜めに3個のスポットビームを当てる3スポット方式が採用さ
れ,サーボコントロールLSIによるサーボにより,再生系のジッター(回転変動)も十分に抑えつつ,精密なトレー
ス能力が実現されていました。信号の訂正にはCIRC二重エラー訂正方式が採用されていました。
D/Aコンバーターには,16ビットリニア型が搭載され,フィルター系は,LSIに一体化されたデジタルフィルター
と後段に7次LCフィルターが搭載されていました。
機能的にも,当時の最低価格を実現しながら,十分な多機能を搭載していました。選曲機能としては,+−キー
による順次選曲,音出し秒単位低速,3秒後は高速,ポーズ時は音無し分単位高速といった3モードの早送り・
戻し機能が搭載されていました。リピート機能は,任意2点間/全曲/全メモリーのリピートが装備され,プログラ
ム選曲は23曲までのメモリー機能が装備されていました。その他,1曲ごとのオートポーズ機能,残時間表示
機能なども装備されていました。
以上のように,CD-X1は,思い切った低価格を実現しながら,新開発素子を核とした合理的設計で,しっかりし
た性能・機能をもち,当時ベストセラーモデルとなり,また,CDプレーヤーの低価格化への一つの契機となった
画期的1台となりました。