SONY CDP-MS1
CD PLAYER ¥220,000
1998年に,ソニーが発売したCDプレーヤー。ソニーは,「ESシリーズ」のCDプレーヤーを代々作り続け,CDプレー
ヤーのオリジネーターらしい高い技術を示していました。1993年には,光学系固定メカニズムをCDP-R10で開発し
「ESシリーズ」にも搭載していました。そうした「ESシリーズ」とは異なる方向性,コンセプトをもって開発・発売された
個性的な1台がCDP-MS1でした。
CDP-MS1は,ディスクから引きだす音の最終的なチューンアップをユーザー自身が行える機能が特徴で,ソニーは
当時,「ユーザー参加型のCDプレーヤー」と称していました。再生システムやCDごとの音の違いに対して,ディスクご
とにレベルやバランスを調整できるデジタルイコライザーでチューンアップし,設定したチューニングデータを記憶させて
おくことで,それぞれのディスクに適した,好みの音で再生できるようになっていました。
CDP-MS1では,ディスクから読み取った直後に,デジタル処理によりイコライジングを行うデジタルイコライザーが配
置されており,それは,データを24ビット化した上で,BASS(低域),MID(中域),TREBLE(高域)をそれぞれ独自
に調整できる3バンドのパラメトリックイコライザーでした。BASSとTREBLEは,シェルビング型,MIDはピーキング
型で,ピーキング型のMIDは,スロープ(Q値)もW(ワイド),M(ミッド),N(ナロー)の3段階から選択できるようになっ
ており,3バンドを組み合わせてチューニングすることで,アナログのグラフィックイコライザーをはるかに上回るきめ細
かな音質バランスの調整が可能となっていました。そして,デジタル処理であるため,音質の劣化も極少となっており
付属のリモコンで,リスニングポジションからのチューニングも可能となっていました。

そして,CDP-MS1は,デジタルフィルターに大きな特徴がありました。ディスクから得られた本来のデータに演算処理
で生成した補間データを加え,D/Aコンバーターに送るのがデジタルフィルターですが,CDP-MS1では,ディスクから
得られたデータとデータの中間点に最初の補間データを生成し,できたデータを使って次の補間データをつくるという,2
倍型のデジタルフィルターを3段階連結した方式がとられていました。その際に,生成された補間データには,元になっ
たデータよりはるかに細かな値が含まれており,回路の処理能力の関係で,通常は演算結果の下位ビットを四捨五入
し上位ビットだけが次に送られていました。CDP-MS1の「FF(フル・フィードフォワード)方式デジタルフィルター」では,
四捨五入された下位ビットを別ルートで伝送しメモリー,次段の演算結果と合成する「フル・フィードフォワード演算」が行
われ,下位ビットを反映したオーバーサンプリング演算が実現されていました。この結果,下位ビットの四捨五入の誤差
等によって生じる可聴帯域内での再量子化ノイズがほぼ完全に除去され,レベルの小さい信号のクオリティが大きく改
善されていました。
さらに,遮断特性や位相特性を計算式によって設定できるデジタルフィルターの特性を利用した可変(V.C.)デジタルフィ
ルターが採用されていました。デジタルフィルター用のICに,特性の異なる4種類のの計算式を登録し,選択できるよう
にしたもので,音色の微妙な調整が可能となっていました。CDP-MS1では,この可変デジタルフィルター用のディバイ
スとして新開発の「VC24」を使用した24ビット可変(V.C.)デジタルフィルターが搭載されていました。演算語長を24ビッ
トに高めるとともに,演算スピードの高速化,係数の拡張を行うことで,より高音質での音色の変化が可能となっていまし
た。
これらのデジタルイコライザーのチューニングデータと24ビット可変(V.C.)デジタルフィルターの選択ポジションは,ディス
ク500枚分まで,カスタムファイル機能で記憶可能となっており,ディスクをセットするだけで,記憶させた設定がメモリー
から呼び出され,チューニング済みの状態ですぐに再生できるようになっていました。
D/Aコンバーターには,ソニー自慢の「カレント・パルスD/Aコンバーター」が搭載されていました。これは,入ってきたデ
ジタルデータを,きわめて高密度のパルス列に変換し,得られたパルス列をローパスフィルターを通すことでオーディオ信
号に再現するという1ビット系の「パルスD/Aコンバーター」をベースに改良されたものでした。「カレント・パルスD/Aコン
バーター」は,カレントの名の通り,デジタルデータのパルス列を電圧から電流に転換したものでした。従来の「パルスD/A
コンバーター」では,パルスが電圧で表現される方式であるため,パルスの高さを表す電圧値は,コンバーターICに加えら
れている電源電圧そのものとなります。ところが,電源電圧は,消費電流の変動によりその値が変動し,それとともに電圧
値であるパルス列のわずかながら高さが変動してしまう問題点が生じてしまいます。また,電圧パルスであるために,演算
回路等が発生する電圧ノイズの混入を完全に防止することが難しいという問題もありました。これらの問題点を電流パルス
への転換で解決しようとしたものでした。まず安定したきれいな電流源を用意し,パルス生成器の出力を利用してスイッチ
ングすることで電流パルスを生成していく仕組みになっていました。この転換により,電圧変動の影響や演算回路のノイズ
の影響を受けないことになり,音質向上特に低音域の表現力の向上が図られました。さらに,オーディオ信号に変換する際
に,「カレント・パルスD/Aコンバーター」の出力を差動合成することで歪みを減らす「コンプリメンタリーPLM(Pulse Length
Modulation)方式」がとられ,歪みが極めて少ない出力波形が実現されていました。
CDP-MS1には,プレステージモデルCDP-R10で新開発・搭載された光学系固定メカニズムが搭載されていました。軽
量な光学ピックアップを強固なベースに固定してしまい,逆にディスク側がメカベース上を移動する機構になっており,光学
ピックアップの受ける振動は大幅に減少し,サーボに必要な電流はディスクのゆがみや偏心に対する補正を行う比較的ゆっ
くりとした動きで済むようになります。このため,サーボ電流がグランド等に流れて音質に悪影響を与える度合いが抑えられ
ていました。さらに,ディスクは,スタビライザーを使って,上からプレスする仕組みになっており,ディスクの振動が抑えられ
ブレの少ない安定した回転が確保されていました。また,ディスクを回転させるモーターには,回転ムラの少ないBSLモー
ターが搭載されていました。光学ピックアップのサーボには演奏ディスクごとにサーボ量を調整することで,ディスクのコンディ
ションをより的確に反映したサーボコントロールを実現する「ハイプレシジョン・デジタルサーボ」が採用され,安定した読み取
りが実現されていました。
また,ディスクを上面パネルの蓋をスライドさせて装着し,スタビライザーで固定するトップローディング方式が採用されてい
ました。さらに,平行面を音波(振動)が往復することで発生する定在波を抑え,部品等の鳴きを抑えるためセットしたディス
クと蓋,およびシャーシの位置,シャーシ内の基板と天板などを平行でなく,それぞれ異なる角度になるように設計されたASC
(Anti Standing Wave Construction)構造が徹底されていました。
シャーシ全体を支えるインシュレーターには,取付穴の位置をセンターからずらした偏心インシュレーターが使用されていま
した。モードの異なる振動が相互に打ち消しあい,シャーシに振動が伝わりにくくなっていました。



そして,ディスク回転系および光学ピックアップのドライブ回路を,バランスプッシュプルで構成したファインドライブ方式が採
用され,同相ノイズを打ち消し,アースラインへのノイズ混入を防いでいました。また,デジタル回路を小さくまとめた上でオー
ディオ回路基板から分離したデジタルミニマム基板が採用され,デジタル系のオーディオ部への影響を少なくしていました。さ
らにディスプレイの表示部には,表示に変化のない部分は点滅しないスタティック方式のFL管が採用され,表示部で発生す
るノイズも低減してオーディオ部への影響を抑えていました。
電源部には,トランスの鉄芯を切れ目が無くしかも断面が円形のドーナツ型にすることで,磁束漏れと振動を大幅に減少させ
た「Rコアトランス」が搭載されていました。
出力端子は,アナログに加えて,デジタルも,光,同軸,バランスの3系統を装備していました。これらの端子からはデジタルイ
コライザーによる音質調整後の信号を出力することも可能で,これにより,MDデッキ,DATデッキなどのデジタル録音機と組み
合わせて,好みに合わせてチューニングしたサウンドをデジタル録音することができるようになっていました。また,使用しない
デジタル出力はOFFにすることができ,アナログ出力や他のデジタル出力への干渉を防ぐことができるようになっていました。
以上のように,CDP-MS1は,ソニーのCDプレーヤー,いやCDプレーヤー全体の中でも,個性的な1台でした。ソニーのすぐ
れたデジタルオーディオに関する技術がしっかり投入されているだけでなく,音をチューニングできるという機能は,他にないも
のでした。当時,同価格帯のライバルが音質重視の重量級の実力機が揃っていたこともあり,機能面にコストを振り向けたこと
が評価されなかった面もありましたが,印象的な1台ではなかったかと思います。


以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。



最後の音のチューンアップはご自身の耳で。
アナログレコードを楽しんだあの感覚で
愛聴盤の魅力が存分に引き出せるCDプレーヤー。

◎ユーザー参加型CDプレーヤー
◎3バンドのデジタルイコライザーを搭載
◎24ビット可変(V.C.)デジタルフィルター搭載
◎設定値はディスク500枚分まで記憶可能
◎ASC構造のシャーシを採用
◎音質調整後の音の出力も可能な
 デジタル出力装備
◎トップローディング方式
 光学固定方式メカニズム
◎カレントパルスD/Aコンバーター搭載
◎クリーンな電源を供給,Rコアトランス搭載
◎偏心インシュレーター採用

●ハイプレシジョン・デジタルサーボ
●ファインドライブ&デジタルミニマム基板
●シャッフルプレイ/デリートシャッフル
●スタティック点灯FL管
●3段階音量切り替えヘッドホン端子(背面)




●CDP-MS1の主な仕様●

メカデッキ
光学系固定方式
モーター
BSLモーター
D/Aコンバーター
カレント・パルスD/Aコンバーター
デジタルフィルター
可変デジタル
電源トランス
Rコアトランス
シャーシ構造
メタルシャーシ
インシュレーター
偏心インシュレーター
周波数特性
2〜20,000Hz±0.3dB
全高調波ひずみ率(EIAJ)
0.003%
ダイナミックレンジ(EIAJ)
100dB以上
ワウ・フラッター(EIAJ)
測定限界(±0.001% W・Peak)以下
デジタル出力
光/同軸/バランス(ON/OFFスイッチ付)
アナログ出力
可変(金メッキ・ピンジャック)
出力レベル
アナログ:0.5Vrms〜2.1Vrms(可変)
デジタル(光):−18dBm(発光波長660nm)
デジタル(同軸):0.5Vp-p(75Ω)
      (バランス);5V(50kΩ)
ヘッドホン:28mW(32Ω抵抗)
電源電圧
AC100V 50/60Hz
消費電力
18W
外形寸法
430W×125H×260Dmm
質量
約7.5kg
※ 本ページに掲載したCDP-MS1の写真・仕様表等は
 1998年11月のSONYのカタログよ り抜粋したもので,
 ソニー株式会社に著作権があります。したがってこれらの
 写真等を無断で転載,引用等をすることは法律で禁じられ
 ていますので,ご注意くださ い。

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