CDP-R10の写真
SONY  CDP-R10
COMPACT DISC PLAYER UNIT ¥1,200,000

1993年にソニーは,超弩級のセパレート型CDプレーヤーとしてCDP-R10とDAS-R10
のペアを発売しました。CDプレーヤーのオリジネーターであるソニーが1982年のCD発売
10周年のモデルとして企画したもので,それだけに力の入った内容を持ち,発売も1年遅れ
たほどでした。

CDトランスポート部のCDP-R10は,メカニズムからピックアップ部まで自社生産していたソ
ニーならではの技術が投入されていました。
通常のCDプレーヤーでは,固定したモーター軸上でディスクを回転させ,読み取り用の光学
ヘッドをディスク下で内周から外周に向かって移動させる方式がとられています。この方式は
比較的軽量の光学ヘッドを動かすため,機構が簡単でランダムアクセス等の選曲も高速に
しやすい等のメリットがありますが,デリケートな光学ヘッドが外部振動などの影響を受けや
すいというデメリットを持つといわれています。

光学系固定方式と従来方式CDP-R10のメカニズム部

CDP-R10では,逆転の発想とも言える光学系固定方式を採用していたことが最大の特徴
で,振動に敏感な光学ヘッドを重量・強度の大きいメカベース本体に固定してしまい,逆にデ
ィスクがメカベース上を移動するというメカニズムが搭載されていました。従来の方式ではピ
ックアップのフォーカス及びトラッキングサーボ機構がレンズの微振動を吸収するよう,細か
で複雑な動きを行い,サーボ電流の変動が音質への影響をもたらしやすい傾向があります
が,光学系固定方式では,読み出された情報波形の振動に起因した揺らぎが少なくなり,
サーボの負担が大きく軽減され,音質の向上に寄与するというものでした。

もともと,この光学系固定方式は,1983年の業務用CDプレーヤーCDP-5000やその後
出された卓上型の業務用CDプレーヤーCDP-3000等で採用されていた方式でした。当時
の光学系は大きく,たくさんの配線を引きずっているなど,その移動のためにはギアを使わ
ざるを得ず,放送局等で求められるクイックアクセスには,ディスク側をスライドさせる方が
合理的であったことと,当時まだ安定していなかった光学系をアッセンブルごと交換できる
サービス性を要求されたこともあり,光学系固定方式が採用されていました。

CDP-5000の写真
CDP-5000Sの写真
CDP-5000S
COMPACT DISC PLAYER ¥1,800,000

発表当時,このCDP-5000の音はずば抜けたものを持ち,特に低音の再現性に優れてい
ました。その好評に応え民生用のCDP-5000S(受注生産)が発売されたほどでした。ソニー
内部でも,電源部や筐体の強力さが音質につながっていると考えられていましたが,より小
型な卓上型のCDP-3000でも同様な音質傾向があることから,共通していた光学系固定方
式に上記のような音質上のメリットがあることが分かってきたというのが事実のようです。

通常のCDプレーヤーでは1回転1.6μmピッチのピットを読み取るために,光学系が連続的
に移動していきます。この動きの制御がスレッド制御と呼ばれますが,CDP-R10ではディスク
が移動していきます。この部分に使われているスレッドサーボに外来振動が入り音質劣化の要
因になります。理想は光学系もディスクも移動しないことですが,それではピットの読み取りが
できないため,間欠的な移動をさせ,しかもできるだけ移動している時間を少なくするという方
式がとられていました。光学系は固定されていて動かなくても,ディスクの偏芯を超えながらピッ
トを追う水平方向の動き,つまりレンズのトラッキング範囲は±0.5mm(50μm)あり,30秒
前後の再生は可能であるため,スレッド制御はおよそ10秒から20秒に一度,約100μmずつ
間欠的に動き,しかも移動するタイミングはマイクロプロセッサーの指示に基づいて行うことで
スレッドサーボ自体が除去されていました。この方式では,動作時間の99%以上の間ディスク
を載せた台車=軸受けブロックは停止しており,移動機構のない理想の読み取り機構に近い
ものとなっていました。
ディスクを載せた軸受けブロックは,光学系を固定しているアルミ押し出し材のメカベースを削り
出して作られた基準レール上を移動するようになっていました。基準レールは表面の凹凸が10
μm(0.01mm)という高精度な鏡面加工が施され,移動に際してのガタつきが徹底的に排除
されていました。
ディスクを載せた軸受けブロックが基準レール上を移動する車輪は,主軸3輪とすることで平面
性を確保し,横方向の精度を保つ側輪2輪で,計5輪構成となっていました。さらに,軸受けブロ
ックとメカベースは磁気を利用して互いに吸引し合うようになっており,ディスクを駆動する軸受け
ブロックやメカベースが全体として大きな重量を持つことになるため,外来の振動に対して強く,
磁気吸着力によってガタや浮きも発生しにくい構造となっていました。

CDP-R10の内部

光学ブロックが固定方式とディスク全体の滑らかな移動が実現しても,ディスク自体の面ぶれが
あるとサーボの仕事量が減らないことになります。そのために,ディスクを中心部だけでなく,全
体で支え,ディスク面の不要振動を抑えるターンテーブル支持方式が採用されていました。
ターンテーブルはアルミ合金製で,マグネットチャッキングプーリーでディスクを圧着・固定する仕
組みで,ネオジウム系の高磁力マグネットで,ターンテーブルに強力に吸着するようになっていま
した。このターンテーブルを回転させるモーターとして,アナログ機器用として設計された3相BSL
(ブラシ&スロットレス)モーターが搭載され,滑らかな回転性能が確保されていました。そして,こ
のBSLモーターは,光学系を固定しているメカベースと一体化されて,軸受けブロックになってお
り,この軸受けブロック部は台車として,固定されている光学系に対して移動する形になっていま
した。

以上のようにCDP-R10は,逆転の発想ともいうべき「光学系固定方式」のメカニズムを搭載し,
ディスクの情報を余すところなく正確にピックアップしようとするその重量級の高度なシステムには
CD開発メーカーならではの凄みを感じさせるものがありました。

DAS-R10の写真
SONY DAS-R10
D/A CONVERTER UNIT ¥800,000

1993年にソニーが発売したD/Aコンバーターユニット。CDP-R10とのペアを想定されたD/A
コンバーターユニットで,CDのオリジネーターであるソニーならではの高度な技術が投入された
最高級機でした。

D/Aコンバーターとして,新開発の「カレント・パルスD/Aコンバーター」が搭載されていました。
ソニーは,1989年頃よりマルチビット方式から1ビット方式への転換を図り,「パルスD/A」コン
バーターを新開発し搭載していきました。「パルスD/Aコンバーター」は,1個の電子スイッチを毎
秒5000万回もの高速でON/OFFさせることで発生するパルス波形の密度の変化で音楽を表
現し,PLM(Pulse Length Modulation)方式によってD/A変換を行うというもので,微少レ
ベル再現性に優れているといわれる方式でした。これをベースに新開発されたのが「カレント・
パルスD/Aコンバーター」で,カレントの名の通り,デジタルデータのパルス列を電圧から電流に
転換したものでした。従来の「パルスD/Aコンバーター」では,パルスが電圧で表現される方式で
あるため,パルスの高さを表す電圧値は,コンバーターICに加えられている電源電圧そのものと
なります。ところが,電源電圧は,消費電流の変動によりその値が変動し,それとともに電圧値
であるパルス列のわずかながら高さが変動してしまう問題点が生じてしまいます。また,電圧パ
ルスであるために,演算回路等が発生する電圧ノイズの混入を完全に防止することが難しいと
いう問題もありました。これらの問題点を電流パルスへの転換で解決しようとしたものでした。
この転換により,電圧変動の影響や演算回路のノイズの影響を受けないことになり,音質向上
特に低音域の表現力の向上が図られました。

この電流パルスは,1本のきれいな直流の電流を2つの回路に交互に振り分けることにより作ら
れるようになっており,一方の回路に電流が流れたとき(パルスがあるとき)は,もう一方がゼロ
になるというように,互いに反転した正相と逆相のペアの(バランスの)電流が得られるようになっ
ていました。つまり,信号生成の時点からバランス伝送が可能となっており,全信号経路でのバラ
ンス伝送によるノイズの影響の低減が実現していました。
電流パルスを電圧波形に変換する複素電流電圧変換回路(CIV回路)にもノイズ除去機能が備
わっているため,出力信号のノイズが少なく,後段のローパスフィルターへの負担も少なくなり,
低次の群遅延特性の優れたものが使用されていました。CIV回路自体も帯域内の群遅延特性
が優れているため,定位感,鮮度感に影響する位相特性にも優れた性能を実現していました。

DAS-R10のもう一つの大きな特徴として,大規模なDSP回路が搭載されていたことがありまし
た。既にRシリーズの前作DAS-R1,DAS-R1aにも,デジタルフィルターの内部に,2系統の
DSP回路が搭載されていましたが,DAS-R10では,8系統ものDSPが搭載されていました。
デジタルフィルターには,オーバーサンプリングによって帯域外ノイズをさらに大きく帯域外へ
追いやり後段のアナログフィルターの役割を軽減することだけでなく,オリジナルデータの存在
しない時間領域部分に,演算により補間データを作りだし,データの数を増やしてよりスムーズ
な変換を可能にする役割があります。DAS-R10発売当時は,データ量を8倍に補間する方式
が主流となっていましたが,補間データの作成には,2倍にして中間データを作り出す動作を繰
り返して結果として8倍とするシリアル方式が通常とられていました。しかし,この方式では,処理
時点での誤差が演算を繰り返すたびに集積するという問題点がありました。CDP-R10では,単
独でもデジタルフィルターより演算能力の大きなDSPを8個使用し,一気に8倍のデータを作り出
すパラレル型演算回路が採用されていました。これにより演算誤差の大幅な低減が実現し,フィ
ルターとしての性能が大きく高められていました。

DAS-R10の内部

DSP回路による演算は,その演算プログラムを変えることで様々な結果を得られます。もともと
DAS-R10の開発時,ソニーではDSPをデジタル段での音質のコントロールに生かそうという
発想があったようです。DSPのための演算プログラムを数多く作り,実験を繰り返し音質をコン
トロールしようとして思った方向にコントロールできず苦労したというエピソードも残っています。
DAS-R10には,24ビット入力の単体DSPを8台搭載し,並列駆動で阻止帯域減衰量が168dB
という極めてシャープなフィルターを実現していました。当時すでに,海外のワディア,セータ,ク
レルなどがDSPでフィルターを構成したCDプレーヤー,D/Aコンバーターを発売しており,その
ような中で,DSPの特徴を生かしてフィルターとしての特性を可変として,シャープロールオフの
ノーマル以外にスローロールオフのオプションのポジションを設け,音質の違いを楽しめるような
設計とし,ソニーの特徴を出していました。このような可変型フィルターは,その後の同社のCD
プレーヤーにも搭載されていきました。

DAS-R10のブロックダイアグラム

DAS-R10では,カレントパルスD/Aコンバーターを含むアナログ信号経路の全てが,ICなどの
集路を用いずにディスクリートの部品で組まれていました。これにより,IC化の制約なくアナログ
回路の性能が高められ,ICでは避けられないシリコンサブストレート(シリコン基板)を通じた電
気系統からのノイズの混入も抑えられていました。
アナログ系の増幅回路は,アルミ合金製のメタルコア(金属基板)に耐熱絶縁処理を施したうえ
で,銅の回路パターンを形成し,そこに部品を表面実装したメタルコア・モジュールが用いられ
ていました。メタルコアモジュールは,基板自体が金属で熱伝導性がよいため回路全体の熱バ
ランスがよく,さらにモジュール分割したことで外部からの振動にも強いという特徴をもっていま
した。また,表面実装用の部品にはリード線がなく,リード線と部品との接点が省略でき,リード
線そのものからの不要な振動も排除できるなどのメリットもありました。

メタルコアモジュール4層構造基板

デジタル部とD/Aコンバーター部は,信号を最短距離で結び,しかも電源とグランドを全面に展
開することができる4層基板をマザーボードに採用していました。マザーボードへの部品の取付
けにも表面実装が積極的に用いられ,信号経路の短縮,部品実装密度の向上により,シャーシ
内でのレイアウトも無理のないものとなっていました。


以上のように,DAS-R10は,ペアとなるCDP-R10同様に,CDのオリジネーターであるソニー
らしい高度なデジタル技術としっかりしたアナログ系の作り込みにより,精度の高い再生を実現
していました。

CDP-R10の背面
DAS-R10の背面

CDP-R10,DAS-R10とも豊富で多彩な出力端子・入力端子を装備していました。
CDP-R10には,ST光,TOS光,TWIN LINK光,BNC同軸,RCA同軸,AES/EBU(XLR)
各1系統の出力が装備され,当時の殆どのフォーマットに対応していました。DAS-R10には,
ST光,TOS光(3系統),TWIN LINK光,BNC同軸,RCA同軸,AES/EBU(XLR)の6種類
8系統の入力が装備され,アナログ出力はバランス/アンバランス各1系統が装備されていました。
これらの多彩な入出力系統により,両者の組み合わせで,多様な使い方が可能となっていました。
通常の同軸あるいは光による接続はもちろん,ソニー独自のTWIN LINK光接続,さらに,同期
信号と音楽信号の伝送に,BNCケーブル×2,あるいはBNCケーブルとバランスケーブルを用
いての2線式同期駆動も可能となっていました。

CDP-R10とDAS-R10の純正組み合わせでは,ニュートラルで低音域から高音域までしっか
りと音が行き渡ったような,音場感の豊かな音が聴かれ,国産のCDプレーヤーとして最高級機
らしい高性能なペアでした。


以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。



CDP-R10

時間軸はアナログであるという
本質への深い理解が
重量級メカニズムを生み出しました。


◎かつてない静寂なディスクの読み取りを実現する
 光学系固定方式メカニズム。
◎ディスクの不要振動を抑える
 ターンテーブル支持&チャッキング機構。
◎間欠動作により静粛性を高めた
 ノンサーボ・スレッド機構。
◎ディスクの正確な移動を司る
 5点支持&磁気吸着の軸受けブロック。



DAS-R10

D/A変換に用いる物理量を
電圧から電流に
変更することによって
音に自然なエネルギー感が
加わりました。


◎電圧から電流への転換,
  カレント・パルスD/Aコンバーター。
◎一気に8倍の補間データを作り出す
  高精度DSP方式FIR型デジタルフィルター。
◎リファレンス機だからこそなし得た
  ディスクリート構成のアナログ信号系。
◎ディスクリート構成に磨きをかける
  メタルコア・モジュールと4層プリント基板。
◎DSP方式を生かした
  外部ROMによるマルチプログラム方式。




●主な仕様●



■CDP-R10■

形式
コンパク・トディスク デジタルオーディオシステム
ディスク
コンパクトディスク
読み取り方式
非接触光学式読み取り(半導体レーザー使用)
レーザー
GaAlAsダブルへテロダイオード λ=780nm
回転数
約500〜200rpm(CLV)
エラー訂正方式
ソニースーパーストラテジー 
クロスインターリーブ・リードソロモンコード
チャンネル数
2チャンネル(ステレオ)
出力端子
電気系統
 COAXIAL(ピンジャック):0.5Vp-p/適合接続インピーダンス75Ω
 BALANCED(XLR-3相当):2.5V/適合接続インピーダンス110Ω
 BNC(BNCコネクター):2.5V/適合接続インピーダンス75Ω
光系統
 OPT1(トスリンクタイプ):−18dBm(発光波長660nm)
 OPT2(STリンクタイプ):−18dBm(発光波長800nm)
 TWIN LINK:−18dBm(発光波長800nm)
入力端子
SYNC IN(BNCコネクター):入力インピーダンス75Ω
電源
AC100V,50/60Hz
消費電力
30W
大きさ
475W×145H×410Dmm
ディスクコンパートメントオープン時,高さ295mm
質量
約30kg



■DAS-R10■

チャンネル数
2チャンネル(ステレオ)
同期信号出力
44.1kHz
入力端子

(DIGITAL AUDIO INTERFACE デジタル入力)
 電気系統
  COAXIAL(ピンジャック):0.5Vp-p±10%/適合接続インピーダンス75Ω
  BALANCED(XLR-3相当):0.5V〜5.0Vp-p/適合接続インピーダンス110Ω
  BNC(BNCコネクター):0.5V〜5.0Vp-p/適合接続インピーダンス75Ω
 光系統
  OPT 1,2,3(トスリンクタイプ):−18dBm(発光波長660nm)
  OPT 4(STリンクタイプ)  :−18dBm(発光波長850nm)
  TWIN LINK         :−18dBm(発光波長800nm)    
出力端子
(アナログ出力)
  UNBALANCED(ピンジャック):2.5V(50kΩ)/負荷インピーダンス1kΩ以上
  BALANCED(XLR-3-32相当):5V/負荷インピーダンス600Ω以上
周波数特性
2〜20,000Hz±0.5dB
(入力デジタル信号のサンプリング周波数:44.1kHz)(FILER:NORMAL)
SN比
110dB以上(EIAJ)
ダイナミックレンジ
100dB以上(EIAJ)
高調波ひずみ率
0.003%以下(EIAJ)
チャンネルセパレーション
100dB以上(EIAJ)
電源
AC100V,50/60Hz
消費電力
53W
大きさ
475W×140H×425Dmm
質量
約25kg


※本ページに掲載したCDP-R10とDAS-R10の写真・仕様表等
 は1995年8月のSONYのカタログより抜粋したもので,ソニー
 株式会社に著作権があります。したがってこれらの写真等を無断
 で転載,引用等をすることは法律で禁じられていますので,ご注意
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