SONY CDP-X5000
COMPACT DISC PLAYER ¥120,000
1995年に,ソニーが発売したCDプレーヤー。ソニーは,1993年に超弩級CDトランスポートCDP-R10で業務用
機に搭載していた光学系固定メカニズムを搭載し,その性能の高さを示しました。翌年の1994年には,「ESシリーズ」
のCDプレーヤーCDP-XA7ES等にも光学系固定メカニズムを搭載していきました。そうした中,これらのハード志向
ともいえるモデルとは別に,音楽を聴く道具として,よりインテリアにも溶け込む小型の筐体をもつ新しいCDプレーヤー
として発売されたのが,CDP-X5000でした。
光学系固定メカニズムは,軽量な光学ピックアップを強固なベースに固定してしまい,逆にディスク側がメカベース上を
移動する機構になっており,光学ピックアップの受ける振動は大幅に減少し,サーボに必要な電流はディスクのゆがみ
や偏心に対する補正を行う比較的ゆっくりとした動きで済むようになります。このため,サーボ電流がグランド等に流れ
て音質に悪影響を与える度合いが抑えられていました。さらに,ディスクは,スタビライザーを使って,上からプレスする
仕組みになっており,ディスクの振動が抑えられ,ブレの少ない安定した回転が確保されていました。信号読み取り能
力を大きく高めたこの光学固定メカニズムを,小型の筐体に収めるために,CDP-X5000では,ディスクを上面パネル
の蓋を手でスライドさせて装着し,スタビライザーで固定するトップローディング方式を採用することで,機構をシンプル
化していました。そして,このメカニズムの内部にフローティング構造をもたせ,メカニズム全体を高剛性のシャーシに直
接マウントすることで安定したCDドライブを実現していました。
シャーシは,十分な厚みと強度をもったアルミとスチールを組み合わせ,一つの箱を形成するモノボックス構造が採
用され,もとより筐体自体が小型である上,内部をアルミ角材とスチール材のビームで補強したことにより,きわめて
高剛性な構造となっていました。また,アルミとスチールという固有振動数の異なる素材の組み合わせにより,互い
に共振を打ち消す制振効果も確保されていました。インシュレーターには,外部からの振動を打ち消すように吸収す
る偏心インシュレーターが採用されていました。フロントパネルには,厚さ10mmにもおよぶアルミ材を使用し,剛性
に加え,高級感のあるフロントパネルの質感が実現されていました。
ディスクから読み出した信号を処理するD/Aコンバーターには,「電圧」として出力されるパルスを,出力電圧の変動
や電圧性のノイズの影響を受けにくい「電流」に置き換えて伝送する「カレント・パルスD/Aコンバーター」が搭載され
ていました。これは,入ってきたデジタルデータを,きわめて高密度(毎秒5000万回の電子スイッチのON/OFFが行
われる)のパルス列に変換し,得られたパルス列をローパスフィルターを通すことでオーディオ信号に再現するという
1ビット系の「パルスD/Aコンバーター」をベースに改良されたもので,安定したきれいな電流源を用意し,パルス生
成器の出力を利用してスイッチングすることで電流パルスを生成していく仕組みになっていました。この転換により,
電圧変動の影響や演算回路のノイズの影響を受けないことになり,音質向上特に低音域の表現力の向上が図られ
ていました。
さらに,D/Aコンバーターの前に置かれ,変換データーをきめ細かくすることで再量子化ノイズを減らすデジタルフィル
ターには,「フル・フィードフォワード方式デジタルフィルター」が搭載されていました。ディスクから得られたデータとデー
タの中間点に最初の補間データを生成し,できたデータを使って次の補間データをつくるという,2倍型のデジタルフィ
ルターを3段階連結した方式で,その際に,生成された補間データには,元になったデータよりはるかに細かな値が含
まれており,回路の処理能力の関係で,通常は演算結果の下位ビットを四捨五入し上位ビットだけが次に送られるの
が通常ですが,「フル・フィードフォワード方式デジタルフィルター」では,四捨五入された下位ビットを別ルートで伝送し
メモリー,次段の演算結果と合成する「フル・フィードフォワード演算」が行われ,下位ビットを反映したオーバーサンプリ
ング演算が実現されていました。この結果,下位ビットの四捨五入の誤差等によって生じる可聴帯域内での再量子化
ノイズがほぼ完全に除去され,レベルの小さい信号のクオリティが大きく改善されていました。
CDP-X5000では,小型化を推し進めるために,回路基板の小型化も行われていました。そのために,1枚の基板
に4階層の配線パターンを持つ,4層構造のガラスエポキシ基板が採用されていました。配線パターンを立体的に形
成できるため,迂回配線が減らせ,信号経路を短くできるいことで,磁束や高周波成分に対して強くなっていました。
同時に,リード線のないパーツを基板に直接止める表面実装も積極的に採用され,リード線が省け,パーツが宙に
浮かないことにより,音圧などの振動に対しても強くなっていました。この技術は,同社のD/Aコンバーターの最上
級機DAS-R10で開発されたものでした。
Rコアトランス
電源部には,トランスの鉄芯(コア)を切れ目が無くしかも断面が円形のドーナツ型にすることで,通常の四角形であ
るコアに比べて線の巻き張力を上げ,磁束漏れと振動を大幅に減少させた「Rコアトランス」が搭載され,クリーンな電
源部が構成されていました。
デジタル出力は,同軸と光に加え,バランス型(XLR)も装備され,幅広い機器に対応していました。また,それぞれの
出力を個々にON/OFFが可能で,使用しない出力はOFFにすることで,アナログ出力等への影響を少なくしていまし
た。
CDP-X5000には,別売のアクセサリーとして,CDスタビライザー2種,CDリッド1種が発売されていました。これらを
使うことで,音の微妙な差異が生じ,チューニングが可能であり,CDプレーヤーとしてアナログ的な使いこなしがいのあ
る1台だったと言えるでしょう。また,下位モデルのCD-X3000が可変デジタルフィルターにより音の微妙な違いを楽し
むのとは異なる部分でもあり,CD-X5000をトランスポートとして使用した際(実際そういう方も多いようです。)にも,
音の違いが出るため,その意味でも使いこなしが楽しめる部分でした。
以上のように,CDP-X5000は,シンプルで洗練されたスタイルの小型の筐体に,上級機で開発された先進的な技術
をしっかり投入して作られたという形のCDプレーヤーでした。「#5000シリーズ」としてプリメインアンプ,TA-F5000,
スピーカーSS-AL5等と組み合わせると,大袈裟ではない音楽を聴く趣味のためのシステムとして完成できるようになっ
てもいました。そして,実は,当時のソニーの技術者が,超高級機CDP-R10を開発した際に,自分が使いやすい小型
で高品質のCDプレーヤーの試作機として作ったものが製品化されものと言われており,確かに,非常に魅力的で,しか
もこの価格でこれだけの内容を,と考えると,日本の大手メーカーならではと思われる1台でした。(海外メーカーであれ
ば,いったいいくらになっていたか。考えるだけで・・・・。)


以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。



設計者が
一度はつくりたかった
逸品です。

愛聴盤にそっと針をおろした
あの瞬間のときめきを,
CDで思い起こしてください。

◎トップローディング方式の採用で光学固定方式メカニズムの
 よさをそのままに小型化を実現しました。
◎先進のカレント・パルスDACとフル・フォワード方式
 デジタルフィルターで高度なD/A変換能力を獲得しています。
◎複合素材モノボックスシャーシと偏心インシュレーターにより
 振動に対してきわめて強い構造です。
◎リファレンス機CDP-R10で開発した4層構造基板と
 パーツの表面実装で回路基板の高集積化を図っています。
◎クリーンなエネルギーを供給するRコアトランスを採用しています。
◎幅広い機器に対応できるよう3系統のデジタル出力を装備しています。




●CDP-X5000の主な仕様●

形式 コンパクトディスクデジタルオーディオシステム
周波数特性 2〜20,000Hz±0.3dB
ダイナミックレンジ 100dB以上(EIAJ)
全高調波ひずみ率 0.003%以下(EIAJ)
チャンネルセパレーション 100dB以上(EIAJ)
アナログライン出力 端子形状:ピンジャック
最大出力レベル:2.5Vrms(50kΩ)
負荷インピーダンス:1kΩ
COAXIALデジタル出力 端子形状:同軸コネクター
最大出力レベル:0.5Vp-p(75Ω)
負荷インピーダンス:75Ω
OPTICALデジタル出力 端子形状:光出力コネクター
最大出力レベル:−18dBm
発光波長:660nm
BALANCEDデジタル出力 端子形状:XLR-3-32タイプ(平衡)
最大出力レベル:5V(50kΩ)
負荷インピーダンス:600Ω
電源 AC100V 50/60Hz
消費電力 18W
補助電源コンセント 連動2個(合計100W)
大きさ 280W×90H×370Dmm
質量 約6kg
付属品 スタビライザー×1
オーディオ接続コード(ピンプラグ×2−ピンプラグ×2)×1
ワイヤレスリモコンコマンダー×1
リモコン用単3乾電池×2
電源コード変換アダプター(3極−2極)×1
電源コード×1
※ 本ページに掲載したCDP-X5000写真・仕様表等は
 1995年11月のSONYのカタログよ り抜粋したもので,
 ソニー株式会社に著作権があります。したがってこれらの
 写真等を無断で転載,引用等をすることは法律で禁じられ
 ていますので,ご注意くださ い。

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