SONY CDP-X77ES
COMPACT DISC PLAYER ¥180,000
1989年に,ソニーが発売したCDプレーヤー。ソニーはCDのオリジネーターのブランドとして,
初代のCDP-101以来,多くのCDプレーヤーを作ってきました。そうした中,超高級機の「Rシ
リーズ」は別とすると,オーディオファン向けの主力モデルとして「ESシリーズ」を展開していまし
た。その中でソニーの伝統で,7あるいは77,777の型番を持つ機種が最上級機として存在し
ていました。このCDP-77ESには,弟機としてCDP-X55ES(¥89,800),CDP-X33ES
(¥59,800)が存在し,この世代から,1ビット系のD/Aコンバーターへと移行していくことと
なりました。
CDP-X77ESで新たに搭載されたのが「ハイデンシティ・リニアコンバーター・システム」でした。
この「ハイデンシティリニアコンバーター・システム」は,1ビットタイプの「パルスD/Aコンバーター」
の前段に「45ビットノイズシェイピングデジタルフィルター」を組み合わせたもので,それまでの
「ESシリーズ」のマルチビット方式とは大きく異なるものでした。
搭載された「パルスD/Aコンバーター」は,マスタークロックの最高動作周波数50MHz,つまり
パルスの数にして毎秒5000万,1個の電子スイッチを毎秒5000万回もの高速でON/OFFさ
せることで発生するパルス波形の密度の変化で音楽を表現し,PLM(Pulse Length Modu-
lation)方式によってD/A変換を行う「CXD-2552」で,微小レベル再現性に優れた1ビット方式
となっていました。また,パルスのハイとローの現れ方を決める内蔵の演算回路には,新たに開
発した「Sony Extended Noise Shapingデジタル演算方式」を採用し,高密度なパルス列
を実現していました。この「パルスD/Aコンバーター」を2個パラレルで使用し,コンプリメンタリー・
モードで使用することで,正相と逆相の相補的な出力関係で高調波歪みを打ち消すとともに,出
力電流値を2倍にすることで,S/N比を高めるという贅沢な構成となっていました。
オーバーサンプリング演算とSony Extended Noise Shaping演算方式の2ステージ構成の
「ハイデンシティ・リニアコンバーター・システム」では,入力となるオーバーサンプリング演算が高
精度であればあるほど「パルスD/Aコンバーター」の能力を生かせるため,オーバーサンプリング
演算に45ビットノイズシェイピング・デジタルフィルター「CXD-1244」を搭載し,全ステージにわ
たるフルノイズシェイピングと十分に大きい演算レンジを実現していました。
さらに,パルスD/Aコンバーター上に,データを整え直す「ダイレクト・デジタル・シンク回路」を搭
載していました。この「ダイレクト・デジタル・シンク回路」は,デジタル信号の揺らぎ・ジッターの除
去をパルスD/Aコンバーターの最終段である電子スイッチの直前で行うもので,デジタル回路と
アナログ回路の境界エリアにこの回路を置くことで,ジッター発生の要素を原理的になくしていま
した。
光ピックアップには,新開発のRFアンプ内蔵の光ピックアップを搭載し,低インピーダンスの信号
出力を可能にしていました。さらに,ソニーとしては第4世代にあたる新世代LSI「CXD-2500」を
搭載していました。このLSIは,従来は外付け構成となっていたRAMを,容量32Kビットにアップ
したうえで内蔵し,1チップ化したもので,デジタルデータの交換をLSI内部で行うため,不要な輻
射ノイズを大幅に低減し,エラー訂正能力も向上させていました。こうして,シンプル&ストレート
な信号伝送を推し進め,ローノイズ,高安定化を図っていました。
リニアモーターによるトラッキングメカニズムの制御には,「SサーボⅢ」が継承し,搭載されていま
した。「SサーボⅢ」は,ディスクの状態によって生じるサーボ電流の急激な変動や乱れ,サーボ帯
域外の高周波ノイズなど,電源部を介して発生するアナログ部への影響をさらに抑えるため,サー
ボ電流の悪影響を及ぼすノイズ成分をローパスフィルターを通して除去し,滑らかなサーボ電流が
送られるように強化され,オーディオ回路への影響を抑え,あわせて光学系の不要振動も抑えて
いました。
メカニズム系は,CDP-X7ESDから継承され,光学系メカニズムの土台となるベースユニットには,
共振モードが低く,かつ極めて高い強度と加工精度が得られるアルミダイキャスト・ベースユニットが
搭載され,不要振動を抑え,トレースの安定性を高めていました。また,ベースユニット全体を,振
動の吸収性に富む高粘弾性ゲル入りダブルサスペンションによるフローティング構造として,外部振
動の影響も排除していました。ギアなどの伝達機構をもたず,極めて静粛で高速な動作が可能なリ
ニアモーター・トラッキングメカニズムともあいまってメカブロックでの無振動・無共振設計が徹底され
ていました。さらに,スピーカーから放射される音圧の影響も抑えるため,ディスクトレイが収納され
るフロントパネルの開口部に特殊ゴム材によるダンパーを設け,トレイ収納時の気密性を高めてわ
ずかな空気振動も遮断するアコースティックシールド構造も継承されていました。
内部コンストラクションにおいては,構造強度をより高めるために,FBシャーシが採用されていました。
十分な厚みと強度をもつ部材を選定したうえ,外周を取り囲むフレームと,フロントとリアを結ぶビーム
によってシャーシ全体を強固にジョイントし,天板には,厚さ2mmのアルミプレートを採用して,全体の
剛性を高めていました。さらに,振動・ノイズ源となりやすい電源トランスをオーディオ基板から最も遠い
左側面に配置し,床からの振動の影響を受けやすいメカデッキをインシュレーターから遠ざけたセンター
寄りに配置していました。そして,高周波ノイズの対策としてシールド板によるデジタル基板とオーディオ
基板の分離,FLディスプレイのメカデッキ下部への配置,内部シャーシの全面的な銅メッキ,アルミ製
トッププレートなど,非磁性化が徹底されていました。脚部には,特殊ゴムとファイセラミックを使用した
インシュレーターを採用し,筐体全体の安定性を高めていました。
電源部は,デジタル/サーボ部とオーディオ部を独立給電する,大型で大容量のトランスを2個搭載し,
電源を介しての干渉を断つとともに,高効率で漏れ磁束の少ない,重量級パワートランスを採用してい
ました。また,トランスの振動をオーディオ回路各部に伝えないように,4ヶ所にゴムダンパーを使用して
フローティング設置し,さらに,シールドケース入りの重量級トランスは,トランスコア全体をポリブタジエ
ン樹脂に珪砂を効果充填剤で固め,微細なトランスの鳴きも抑えていました。そして,電源コードには,
大容量・極太電源コードが搭載されていました。
L・R独立のデュアルD/Aコンバーターからの出力を受けるアナログ系オーディオ回路も信号の流れに
沿ったツインモノ構成として,チャンネル間の位相ズレや相互干渉を抑え,ガラスエポキシ製のES基板
に高音質オペアンプ,オーディオ信号系にはOFC線材など厳選したパーツを使用していました。
出力は,可変/固定の2系統のピンジャックのラインアウト端子に加え,XLRタイプのバランス出力端子
が装備されていました。デジタルアウト端子も同軸とオプチカル(光伝送)の2系統が装備されていました。
同軸デジタルアウトに,時間軸補正用のラッチ回路が設けられ,微細なジッター成分を排除するようになっ
ていました。また,デジタル出力端子には,ON/OFFスイッチを装備し,アナログ出力時はデジタル出力
をカットして相互干渉を排除する方式となっていました。
機能的には,20キーによるダイレクト選曲,6モード(1曲/全曲/部分/プログラム/シャッフル/カスタム・
インデックス)のリピート機能,最大20曲までのランダムメモリー機能,テープ録音時に便利なプログラム
エディット機能,99曲までのデリートシャッフル機能がそのまま継承されていました。その他,曲中の好き
な場所からボタン一つで約5秒でフェードアウト/フェードインができるマニュアルフェード機能も装備されて
いました。
このように,非常に多機能ながら,主な機能はリモコンでの操作とされ,上級機のCDP-R1aに通じるよう
なパネル面のシンプル化が継承され,弟機とは異なり,伝統の20曲ミュージックカレンダー表示も,20
キーも本体には装備されていませんでした。また,必要のないときに音質重視でFLディスプレイを消灯で
きるディスプレイON/OFF機能も装備されていました。
以上のように,CDP-X77ESは,当時の「ESシリーズ」の最上級機として,ソニーならではの技術,機能
を投入した1台でした。新たに1ビット系のD/Aコンバーター「ハイデンシティ・リニアコンバーター・システム」
へと移行した1世代目にあたり,それまでのマルチビット系と比較して,音質的には,当時評価が分かると
ころもあったものの,物量に裏付けられた厚みのある安定感のある音をもっていました。
以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。
CDの新しい扉をひらく次世代D/A
変換方式「ハイデンシティ・リニアコ
ンバーター・システム」。
柔らかく,みずみずしい。生命感
あふれる自然な音を聴かせます。
◎従来のD/Aコンバーターの限界を打ち破る
ハイデンシティ・リニアコンバーター・システム。
●パルスD/Aコンバーター
●45ビットノイズシェイピング・デジタルフィルター
◎ジッターレス再生を実現したダイレクト・デジタル・
シンク
●ダイレクト・デジタル・シンク
◎CDプレーヤーのベーシックな再生能力を高めた
新世代LSI&新開発光ピックアップ,SサーボⅢ
●新世代LSI,新開発・光ピックアップ
●SサーボⅢ
◎音質を濁らせる内外の振動をシャットアウト。
FBシャーシをはじめとする無振動・無共振設計。
●FBシャーシ
●アルミダイキャスト・ベースユニット
●アコースティック・シールド
●振動・ノイズを徹底排除したコンストラクション
◎電源部,回路部から出力端子まで,クオリティーを
徹底重視したハイフィデリティー設計。
●フローティング・2トランス電源
●L・Rch独立のツインモノ構成オーディオ回路
●光デジタルアウト端子
●バランスアウト端子
●主な仕様●
形式 | コンパクト・ディスク・デジタル・オーディオシステム |
読取り方式 | 非接触光学読取り(半導体レーザー使用) |
レーザー | GaAlAsダブルへテロダイオード |
回転数 | 200~500rpm(CLV) |
演奏速度 | 1.2m/s~1.4m/s(一定) |
エラー訂正方式 | ソニースーパーストラテジー (クロスインターリーブ・リードソロモンコード) |
チャンネル数 | 2チャンネル |
周波数特性 | 2Hz~20kHz±0.3dB |
高調波ひずみ率 | 0.0015%以下(EIAJ) |
SN比 | 117dB以上(EIAJ) |
ダイナミックレンジ | 100dB以上(EIAJ) |
チャンネルセパレーション | 110dB以上(EIAJ) |
ワウ・フラッター | 測定限界(±0.001%W・Peak)以下(EIAJ) |
出力レベル | 2Vrms(FIXED),MAX 2Vrms~0V(VARIABLE) 2Vrms(BALANCED OUT,FIXED) |
デジタル出力レベル | コアキシャル:0.5Vp-p(75Ω) オプチカル:-18dBm(発光波長660nm) |
ヘッドホン出力レベル | 40mW(32Ω) |
大きさ | 470(幅)×125(高さ)×375(奥行)mm サイドウッド取外し時:430(幅)mm |
重さ | 17.0kg(サイドウッド含む) |
消費電力 | 22W |
※本ページに掲載したCDP-X77ESの写真・仕様表等は1990年
2月SONYのカタログより抜粋したもので,ソニー株式会社に著作
権があります。したがってこれらの写真等を無断で転載,引用等を
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