SONY CDP-X7ESD
COMPACT DISC PLAYER ¥200,000
1988年に,ソニーが発売したCDプレーヤー。CDP-557ESDのモデルチェンジで登場した,当時の「ESシリーズ」のCDプレー
ヤーの最上級機でした。下位モデルがCDP-338ESD(¥89,800),CDP-228ESD(¥59,800)となっていたように,本来
なら型番もCDP-558ESDとなるはずですが,この後の「ESシリーズ」のCDプレーヤーにつながるかのようなCDP-X7ESDと
7番台の型番で登場しました。そして,デザイン的にも,下位モデルが前モデルと類似していたのに対し,上級機のCDP-R1に通
じるデザインになっていました。
CDP-X7ESDでは,前モデルCDP-X557ESDからデジタルフィルターを中心としてD/Aコンバーター部が大きく改良されてい
ました。デジタルフィルターは,8倍オーバーサンプリング・45ビット演算・ノイズシェイピング採用のCXD-1244が搭載されてい
ました。サンプリング周波数を8倍の352.8kHzで再標本化し,オーディオ信号と不要高域成分との距離を拡大することで,アナ
ログ部でのローパスフィルターへの負担を大きく低減していました。そして,デジタルフィルター内部では量子化誤差の少ないき
わめて高精度な45ビット演算が行われていますが,続くD/Aコンバーターは有限のビット数しか持ち得ないため,丸め誤差が生
じ,量子化雑音が発生してしまいます。これを解消するために,四捨五入によって,通常丸め誤差として失われてしまう下位のビッ
ト情報を,8倍オーバーサンプリングによるきめ細かな時間間隔を生かして上位のデータに取り込むノイズシェイピングの手法を導
入し,D/Aコンバーター単独では変換不可能な端数データの表現を可能としていました。
これにより45ビットの情報を生かした音質改善が図られていました。また,従来アナログ回路で構成していたディエンファシス回
路を,デジタルフィルター内部のデジタル処理で実現し,パーツや回路による音質劣化が避けられ,すぐれたゲイン・位相特性が
確保されていました。
デジタルフィルターとD/Aコンバーターの間には新開発のデジタルシンクICが搭載されていました。ディスクから読み取られたビッ
ト情報が信号処理LSIによりデジタル信号となったパルス列として伝送される間に,多くの回路を通過することで不規則に揺れ動
き,結果としてクロックがジッターを持ち,信号の時間軸精度を低下させてしまうという現象を防ぐためのものでした。信号処理LSI
で一度生成されたデジタル信号を,D/Aコンバーターの直前で再びマスタークロックの精度にタイミングを整えるもので,信号の
時間軸精度を決定づけるマスタークロックをD/Aコンバーターに直結し,ジッターを含んでいないクリーンなマスタークロックの精
度にタイミングを合わせて,再度デジタル信号をきれいに整頓し,D/Aコンバーターに出力するようになっていました。この結果
ジッターの影響がD/Aコンバーター以降に及ぶことがなくなり,位相が正確で忠実なD/A変換が可能となっていました。
D/Aコンバーターは,バーブラウン社製の18ビットD/AコンバーターPCM58Pを搭載していました。このD/Aコンバーターは,変
換動作の安定性が高い1チップ構成のICで,最上位ビットから最下位ビットまでリニアな動作が実現されており,ゲイン切換など
の付加回路も不要で,アナログ回路のシンプル化に寄与していました。さらに,L・R独立のデュアル構成で,チャンネル間の位
相ズレの問題も排除していました。このような,CDのオリジネーターのソニーらしい高度なD/Aコンバーター部は,「ハイプレシジョ
ンリニアD/Aコンバーター」と称されていました。
メカニズム系は,CDP-557ESDから継承され,光学系メカニズムの土台となるベースユニットには,共振モードが低く,かつ極め
て高い強度と加工精度が得られるアルミダイキャスト・ベースユニットが搭載され,不要振動を抑え,トレースの安定性を高めてい
ました。また,ベースユニット全体を,振動の吸収性に富む高粘弾性ゲル入りダブルサスペンションによるフローティング構造として
外部振動の影響も排除していました。ギアなどの伝達機構をもたず,極めて静粛で高速な動作が可能なリニアモーター・トラッキン
グメカニズムともあいまってメカブロックでの無振動・無共振設計が徹底されていました。さらに,スピーカーから放射される音圧の
影響も抑えるため,ディスクトレイが収納されるフロントパネルの開口部に特殊ゴム材によるダンパーを設け,トレイ収納時の気密
性を高めてわずかな空気振動も遮断するアコースティックシールド構造も継承されていました。
内部コンストラクションにおいては,構造強度をより高めるために,CDP-R1の流れをくむFBシャーシが採用されていました。十分
な厚みと強度をもつ部材を選定したうえ,外周を取り囲むフレームと,フロントとリアを結ぶビームによってシャーシ全体を強固にジョ
イントし,天板には,厚さ2mmのアルミプレートを採用して,全体の剛性を高めていました。
さらに,振動・ノイズ源となりやすい電源トランスをオーディオ基板から最も遠い左側面に配置し,床からの振動の影響を受けやす
いメカデッキをインシュレーターから遠ざけたセンター寄りに配置していました。そして,高周波ノイズの対策としてシールド板による
デジタル基板とオーディオ基板の分離,FLディスプレイのメカデッキ下部への配置,内部シャーシの全面的な銅メッキなどが行われ
ていました。脚部には,特殊ゴムとファイセラミックを使用したインシュレーターを採用し,筐体全体の安定性を高めていました。

リニアモーターによるトラッキングメカニズムの制御には,前モデルの「SサーボU」を改良・強化した「SサーボV」が搭載されてい
ました。「SサーボV」では,ディスクの状態によって生じるサーボ電流の急激な変動や乱れ,サーボ帯域外の高周波ノイズなど,
電源部を介して発生するアナログ部への影響をさらに抑えるため,サーボ電流の悪影響を及ぼすノイズ成分をローパスフィルター
を通して除去し,滑らかなサーボ電流が送られるように強化され,オーディオ回路への影響を抑え,あわせて光学系の不要振動も
抑えていました。
電源部は,デジタル・アナログ分離の原則に基づき,デジタル/サーボ部とオーディオ部を独立給電する,大型で大容量のトランスを
2個搭載し,電源を介しての干渉を断つとともに,高効率で漏れ磁束の少ない,重量級パワートランスを採用していました。また,大
容量・極太電源コードが搭載されていました。
L・R独立のデュアルD/Aコンバーターからの出力を受けるアナログ系オーディオ回路も信号の流れに沿ったツインモノ構成として,
チャンネル間の位相ズレや相互干渉を抑え,ガラスエポキシ製のES基板に高音質オペアンプ,オーディオ信号系にはOFC線材な
ど厳選したパーツを使用していました。
出力は,可変/固定の2系統のピンジャックのラインアウト端子に加え,新たにバランス出力のキャノン端子が装備されていました。
デジタルアウト端子も同軸とオプチカル(光伝送)の2系統が装備されていました。同軸デジタルアウトには,新たに時間軸補正用の
ラッチ回路が設けられ,微細なジッター成分を排除するようになっていました。また,デジタル/アナログ出力切替えスイッチを装備し
デジタル出力時はアナログ出力を,アナログ出力時はデジタル出力をカットして相互干渉を排除する方式となっていました。
機能的には,20キーによるダイレクト選曲,6モード(1曲/全曲/部分/プログラム/シャッフル/カスタム・インデックス)のリピート機
能,最大20曲までのランダムメモリー機能,テープ録音時に便利なプログラムエディット機能,99曲までのデリートシャッフル機能
がそのまま継承されていました。また,ディスク1枚ごとにリスナーがインプットしたメッセージや演奏情報を最大227タイトル分まで
記憶させることができるカスタムファイル機能も継承されていました。その他,曲中の好きな場所からボタン一つで約5秒でフェード
アウト/フェードインができるマニュアルフェード機能が新たに追加されていました。
このように,非常に多機能ながら,主な機能はリモコンでの操作とされ,上級機のCDP-R1に通じるようなパネル面のシンプル化
が行われ,伝統の20曲ミュージックカレンダー表示も廃止され,20キーも本体からは廃止されていました。また,必要のないとき
に音質重視でFLディスプレイを消灯できるディスプレイON/OFF機能も新たに装備されていました。
以上のように,CDP-X7ESDは,当時の「ESシリーズ」の最上級機として,ソニーならではの技術,機能を投入した1台でした。そし
て,これ以降,ソニーもマルチビット系のDACから1ビット系のDACへ移行することになるため,最後のマルチビット系の高級機とな
りました。それだけに,完成度も高く,音質的にも繊細さと力強さが両立した,ある意味完成形となっており,高い評価を受けました。


以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。



セパレートの思想が,
新しい「インテグレーテッド」を生んだ。
FBシャーシを採用した独自のコストラクション,
限界に迫る45ビット演算・
ノイズシェイピングによるD/A変換。
情感こまやかに,音楽の感動を深めます。

デジタル信号をクリーンなままで伝送する。
ジッターレス再生を実現したデジタルシンクIC。

◎デジタルシンクIC
無限大の分解能に限りなく迫る。
8fs45bitノイズシェイピング・デジタルフィルター。

◎8fs(8倍オーバーサンプリング)
◎45ビット演算・ノイズシェイピング
◎デジタルディエンファシス

非線形要素を持たない高精度なD/A変換。
ハイプレシジョンリニアD/Aコンバーター。

◎ハイプレシジョンリニアD/Aコンバーター
サーボ量を適切に制御し,サーボ電流のノイズを除去。
アナログ系への影響をなくした「SサーボV」。

◎ローノイズで静粛な動作を実現したSサーボV
CDプレーヤー内部,そして外部からの振動も排除。
すみずみまで徹底した無振動・無共振設計。

◎アルミダイキャスト・ベースユニット
◎アコースティックシールド構造
◎振動・ノイズを徹底排除した新コンストラクション

信号回路から,電源部,出力端子に至るまで,
ハイフィデリティを追求した音質重視設計。

◎デジタル・アナログ分離の強力な電源部
◎L・Rch独立のツインモノ構成オーディオ回路
◎光/同軸デジタルアウト端子
◎バランスアウト端子




●主な仕様●

形式 コンパクト・ディスク・デジタル・オーディオシステム
読取り方式 非接触光学読取り(半導体レーザー使用)
レーザー GaAlAsダブルへテロダイオード
回転数 200〜500rpm(CLV)
演奏速度 1.2m/s〜1.4m/s(一定)
エラー訂正方式 ソニースーパーストラテジー 
(クロスインターリーブ・リードソロモンコード)
チャンネル数 2チャンネル
周波数特性 2Hz〜20kHz±0.3dB
全高調波ひずみ率 0.0015%以下(EIAJ)
SN比  115dB以上(EIAJ)
ダイナミックレンジ 100dB以上(EIAJ)
チャンネルセパレーション  115dB以上(EIAJ) 
ワウ・フラッター 測定限界(±0.001%W・Peak)以下
出力レベル 2Vrms(FIXED),MAX 2Vrms〜0V(VARIABLE)
2Vrms(BALANCED OUT,FIXED)
デジタル出力レベル コアキシャル:0.5Vp-p(75Ω),オプチカル:−18dBm(発光波長660nm)
ヘッドホン出力レベル 28mW(32Ω)
大きさ 470(幅)×125(高さ)×375(奥行)mm
サイドウッド取外し時:4300(幅)mm
重さ 17.0kg(サイドウッド含む)
消費電力 22W
※本ページに掲載したCDP-X7ESDの写真・仕様表等は1988年9月
 のSONYのカタログより抜粋したもので,ソニー株式会社に著作権
 あります。したがってこれらの写真等を無断で転載,引用等をす
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