CDX-10000の写真
YAMAHA CDX-10000
NATURAL SOUND COMPACT DISC PLAYER ¥400,000

1986年にヤマハが発売したCDプレーヤー。フロントパネルの「Limited Centennial Edition」という
ロゴが示すように,楽器メーカーとして1887年に創業したヤマハが創業100年を迎える記念碑としての
限定生産モデルともいえるシリーズ「10000シリーズ」のCDプレーヤーとして発売されました。ヤマハが
持ち前の楽器用・音楽用の分野で培った高いデジタル技術,LSI技術を生かした先進的な設計のうえに
筐体やメカ部などに物量をしっかりと投入して作り上げられた高級CDデッキでした。

CDX-10000の最大の特徴は,「Hi-bit DIGITAL(ハイビット・デジタル)」テクノロジーを標榜した,マ
ルチビット方式で,デジタルの解像度ともいうべき精度を追求した設計にありました。
デジタルフィルタには,「ハイビット・デジタルフィルタ」と称した,演算次数225次+41次,係数語長最大
32ビットの,1986年当時,世界最高レベルの性能のデジタルフィルタを開発・搭載していました。この
デジタルフィルタは,はじめ225次で2倍オーバーサンプリングを実行し,続いて41次でそのさらに2倍オ
ーバーサンプリングを実行する,2段継続式の4倍オーバーサンプリング・デジタルフィルタで,サンプリン
グ周波数が176.4kHz±20kHzまで押し上げられ,次段のアナログ・ローパスフィルターの負担を大き
く軽減して,位相特性を大きく改善していました。また,CDX-10000に搭載された「ハイビット・デジタル
フィルタ」は,帯域外ノイズ,帯域内リップル(特性のうねり)においても大幅に優れた特性を実現していま
した。帯域外ノイズは,当時の一般的な4倍オーバーサンプリング・デジタルフィルタが通常−65dB前後
従来最も良いものでも−85dBであるのに対して,−100dB以下と,16ビットの理論データー範囲である
97.8dBをも超える超低ノイズに抑えられていました。また,帯域内リップルにおいても,当時のデジタル
フィルタの一般的なリップルが±0.01dB,最も良いものでも±0.003dBであるのに対して,これも16
ビットの分解能では表現できない±0.0001dB以内という高特性が実現されていました。

「ハイビットD/A変換システム」は,L・R独立・ツイン構成グリッチレスD/Aコンバータと,その前段にデ
ジタルボリュームコントローラを組み込んだハイビットプロセッサDVC,そしてD/Aコンバータ後段にフロ
ーティング動作のハイビットサンプルホールドIC FSHから構成されていました。
ハイビット・デジタルフィルタからは,16ビットを超える18ビットの高分解能でD/A変換部に出力され,そ
の18ビットの出力を受けて,DVCがそのレベルを検出し,上位2ビットが使われていない大半の信号レ
ベルで2ビット分シフトアップしてD/Aコンバータに出力,後段のFSHで1/4にゲインを下げて18ビット
のD/A変換を実現していました。この結果,微少レベルの再現性を大きく向上させていました。

「ハイビット・デジタルフィルタ」の4倍オーバーサンプリングにより時間軸で4倍の精度を,さらに「ハイビッ
トD/A変換システム」で振幅軸状に4倍(2ビット分=2の2乗)の精度が確保され,通常の16ビットD/A
変換システムに比べ,4倍×4倍=16倍の分解能を実現し,S/N比115dB,ダイナミックレンジ100dB
歪率0.002%のすぐれた性能を達成していました。
また,「ハイビットD/A変換システム」には,20ビット演算による,純デジタルコントロール式のデジタルボ
リュームが搭載されていました。このデジタルボリュームは,120dBのダイナミックレンジを実現し,0.4dB
ステップで240ポイント,−∞〜0dB間を対数変化でコントロールし,高音質・高精度のアッテネーションを
実現していました。
ハイビットD/A変換システム後段のローパスフィルタには,ゆるやかなカットオフ特性を持つ5次ニューア
クティブ型が搭載され,出力バッファには,完全DCアンプが採用されていました。

CDX-10000のメカ部

ピックアップメカには,リニアモーター採用の新開発のリニアトラッキング方式の新メカユニットを搭載してい
ました。この新メカユニットでは,8ビットマイコンが各曲の頭の位置をポテンショメータの位置に置き換える
ことで記憶し,光ヘッドをリニアモーターで高速移動させて高速アクセスを実現したものでした。ディスクドラ
イブには,高磁束サマリウムコバルトマグネットを使用した高トルクFGサーボコアレスモーターを採用し,放
送局仕様の4.5ミリ径の精密・極太スピンドルとあわせ,高耐久性・高信頼性を誇る安定したディスクドライ
ブを実現していました。
トレイのドライブ用にはハイトルクDCモーター,ディスクスタビライザ用にはDCモーターを採用したトレイメカ
を搭載していました。トレイドライブ用モーターは不要振動をトレイに伝えないように,ギア駆動に代えてタイ
ミングベルト駆動を採用し,ガイドローラーのゴム製アイドラにより静粛でスムーズなトレイの開閉を実現して
いました。ディスクスタビライザモーターでリフトされるスタビライザにはマグネットチャッキング方式が採用さ
れていました。また,トレイ素材にはアルミ押し出し材をふんだんに使用していました。

高剛性2BOX2重シャーシ構造
CDX-10000の内部

シャーシ/キャビネット構造も,高剛性を追求したものとなっていました。フロントパネル9mm厚〜トップ&
ボトムシャーシ5mm厚〜リアパネル3mm厚の外装シャーシの中に,さらにもう一つの内部シャーシをそっ
くり組み込んだ高剛性2BOX2重シャーシという異例の構造がとられていました。内部シャーシは,デジタ
ル・サーボ・メカ部とオーディオ部に2分割され,独立のBOXを構成し,徹底した剛構造設計として外部振
動の影響をカットするとともに,デジタル・サーボ部からのノイズをカットするシールドの効果も持った,セパ
レート型CDプレーヤーを一体化したとでもいえるような構造となっていました。また,光ヘッドメカ,トレイメ
カ等の内部振動に対しては,ラバーダンパーによる光ヘッドシャーシのフローティング,ゴムブッシュによる
トレイシャーシのフローティング,さらに焼結合金製の大型ヘビーインシュレーターによる本体のフローティ
ングなど,要所にフローティング構造も採用して,振動への剛柔両面からの対策がとられていました。

電源部は,デジタル・サーボ部とオーディオ部の相互干渉を防ぐために,電源トランスから独立させた,2ト
ランス電源構成とされ,オーディオ部には,常時負荷変動以上の電流を流しておくシャントレギュレーター
電源を採用していました。
さらに,デジタル・サーボ部からのオーディオ部へのノイズ混入を防ぐために,10Mビット/秒の伝送速度
を持つ高速フォトカプラを7個使用して電気的なループを断つ,光伝送方式によるフォトアイソレーションが
採用されていました。

パーツの面でも物量が投入され,回路間の電気的・機械的振動による干渉をなくすため,デジタルサーボ
部からオーディオ部まで,デジタル回路,オーディオ回路,電源回路を独立の基板で構成したセパレートシ
ート構成とし,オーディオ基板にはガラスエポキシ基板を使用し,回路の低インピーダンス化を図るために
純銅製バスバーを埋め込んでいました。オーディオ部,電源回路には,低倍率箔・高音質のオーディオ用
ケミコン3,300μF×2を搭載し,基板上の要所にローノイズ特性を誇るオーディオ用ケミコン,ローパスフ
ィルタにマイラーコンデンサなどを使用していました。また,アナログ及びデジタルの出力端子には,金メッ
キ処理の真鍮削り出しピンジャックを搭載し,AC電源コードには,OFC線による10ミリ径の極太ケーブル
を使用しいました。

以上のように,CDX-10000は,10000シリーズのCDプレーヤーとして各部に贅を尽くした作りがなさ
れ,あえて一体型の筐体にこだわったヤマハのプレステージモデルとして,同じ年に発売されたアキュフ
ェーズのセパレート型CDプレーヤーDP-80+DC81とともに高い評価を得ました。チタンカラーの繊細で
重厚な外観から響かせる,中高域が驚くほど繊細で美しい音は,新しいヤマハトーンを感じさせる素晴らし
いものでした。
 
 

以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。
 
 


劇的なる進化。コンパクトディスク再生の
すべてを究め,完熟ぶりを示します。

デジタルオーディオの本質に切り込むことから始めた。
ヤマハ先進の《Hi-bit DIGITAL》テクノロジー。

◎16ビット性能の制覇へ,
 ”デジタルの裸特性”を追求した,
 ハイビットデジタル技術。
4倍オーバーサンプリングと18ビット動作のD/A変換。
”16倍の分解能”が微少レベルの音を克明に再現します。
◎帯域内リップル,帯域外ノイズを
 16ビット分解能以下に抑圧した
 ハイビットデジタルフィルタ
◎微少レベルの音を克明に再現する,
 高分解能・18ビット動作の
 ハイビットD/A変換システム。
◎4倍オーバーサンプリングと
 18ビットで実現した”16倍の分解能”
 4(4fs)×4(18bit)ハイビットデジタル
◎0.4dBステップの高精度。
 20ビット演算,Dレンジ120dBの
 デジタルボリューム。
◎放送局仕様の極太スピンドル。
 リニアモーター搭載,
 高速アクセスメカ。
◎高級感あふれるアルミ材使用。
 タイミングベルト駆動による,
 高静粛・高品位トレイメカ。
2BOX構成。2トランス構成,光伝送,独立回路基板。
デジタル部とアナログ部の共存の中に見いだす真のセパレート。
◎総重量25.5kg。左右2分割
 セパレート構造の
 高剛性2BOX2重シャーシ。
◎A級動作のクリーンな電力供給。
 独立2トランス搭載,
 シャントレギュレータ電源。
◎高速フォトカプラ7個による
 光伝送方式採用。
◎回路基板の分離・独立。
 セパレートシート構成。
◎DC〜20kHzの高忠実波形伝送。
 5次ニューアクティブ型フィルタ+
 完全DCアンプ構成。
◎プログラム操作も自在。
 全44キー・フルモード仕様
 リモートコントロールユニット。
◎デジタルtoデジタルによる
 オーディオシステム構成に応える
 デジタルアウト端子。
 
 
 
●SPECIFICATIONS●

 
レーザーピックアップ 3ビームレーザー・光ピックアップヘッド
リニアモーター・リニアトラッキングメカニズム
デジタルフィルタ 18ビット4倍オーバーサンプリング
ハイビットデジタルフィルタ
D/Aコンバータ 18ビット動作・ハイビットD/A変換システム
(LR独立ツインD/Aコンバータ構成)
アナログフィルタ 5次ニューアクティブ型ローパスフィルタ
周波数特性 DC〜20,000Hz±0.3dB
高調波歪率+雑音 0.002%(1kHz,EIAJ)
S/N比 115dB(EIAJ)
ダイナミックレンジ 100dB(EIAJ)
ワウフラッタ 測定限界以下
最大出力電圧 2Vrms
デジタル出力電圧/インピーダンス 0.5Vp-p/75Ω
電源電圧・消費電力 AC100V 50/60Hz・25W
外形寸法 475W×157H×406Dmm
重量 25.5kg
※本ページに掲載したCDX-10000の写真,仕様表等は1987年9月のYAMAHA
 のカタログより抜粋したもので,日本楽器製造株式会社に著作権があります。
 したがってこれらの写真等を無断で転載,引用等をすることは法律で禁じられて
 いますのでご注意ください。
 
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