YAMAHA CDX-1050
NATURAL SOUND COMPACT DISC PLAYER ¥89,800
1990年に,ヤマハが発売したCDプレーヤー。ヤマハは,1982年のCD黎明期からすぐれたCDプレーヤー
を自社開発して送り出し,高級機にはセパレート型が登場してきた中でも,通常の一体型にしっかり技術と物
量を投入した意欲作を送り出していきました。マルチビット方式のD/Aコンバーターの時代,分解能を上げるた
めにハイビット化,ハイサンプリング化の動きが出ていました。ヤマハは1986年には,18ビット・4倍オーバー
サンプリングのCDX-2200,1987年には,18ビット・8倍オーバーサンプリングのCDX-2000,CDX-1000
1988年には,22ビット・8倍オーバーサンプリングのCDX-2020,CDX-1020を発売するなど,その動きの
中でもトップグループを走っていました。しかし,1989年のCDX-1030より1ビット方式へとシフトしていきました。
そうした中,発売されたのがCDX-1050でした。
CDX-1050の最大の特徴は,新しい方式のD/Aコンバーターでした。前モデルCDX-1030では,NTTと松下
電器が共同開発したMASHが搭載されていたのに対して,CDX-1050では,ヤマハが開発した1ビット方式
のD/Aコンバーターである「I-PDM(Independent Pulse Density Modulation)方式」のDACが搭載され
ていました。一般的なPDMやPWM方式の1ビットDACでは,出力パルス列の幅で変換を行うため,瞬時に立
ち上がり,立ち下がる形が理想的な出力パルス波形(図3)となりますが,実際には,0から1へ,または反対に
変化するとき,瞬時に変化できず傾斜ができてしまい(図4),出力パルスの面積比が保てず,歪みが発生して
しまう恐れがあります。I-PDM方式では,個々の出力パルスをインディペンデント(独立)化し,出力パルスの形
が理想的でなくとも,独立したパルスの面積が同じであれば,出力パルス列の比率関係を正確に保つことがで
き(図5),正確なアナログ波形に変換できるため,原理的に歪みが発生しないというものでした。こうしたI-PDM
方式は,自社開発DACチップとして搭載されていました。
1ビットDACに不可欠のノイズシェイピングには,100kHz〜500kHzのノイズを低減する2次ノイズシェイピング
が採用されていました。一般的にノイズシェイピングは,3次,4次と次数の高い方が良いとされていますが,実際
には,次数に合わせて量子化器(比較器)のビット数を増やさない限り,次数によって演算周波数が変わり,再量
子化ノイズの分布も大きく変わるため,オーディオ帯域内では,高次の方がノイズが低くなるものの,100kHz〜
500kHzのHi-bit帯域でのノイズ量が増え,後に続くローパスフィルターなどの問題から音質へ逆に悪影響が出
ることになります。これらのことを踏まえ,CDX-1050では,2次のノイズシェイピングが採用され,140dB以上の
理論S/N比が確保されていました。
上記の2次ノイズシェイピングにより,ローパスフィルター(LPF)の負担は軽くなり,基本的に音質への影響が少
ない,なだらかな特性のフィルターの使用が可能となっていました。しかし,帯域内の量子化ノイズをなくしたわけ
ではなく,帯域外へ追い出しているわけで,ローパスフィルターの役割は重要となります。そのため,一般的なア
クティブ型に対して良好な音質が得られるパッシブ型ハイマス・ローパスフィルターが採用されていました。このフィ
ルターは,コア材,銅線,コイルの巻き方向までを含めて,じっくりと試作・試聴を重ね,通常使用されるコア材の
数倍の容量を持つコア材を使用し,磁気飽和までのいわばダイナミックレンジの広いフィルターとして,音質の向
上が図られていました。
また,このヤマハオリジナルのDAC ICでは,多くの回路を通過する中で発生するジッターによる混変調歪を防ぐた
め,アナログ変換直前の出力バッファアンプにおいて,クロックにより改めてサンプリングを行い,デジタル域で発生
したジッターを最終的に取り除くTBC(タイム・ベース・コレクタ)が搭載されていました。
アナログオーディオ部では,必要とされるアンプはすべてA級動作固定出力のものが搭載され,高品位な信号の伝
送を実現していました。オーディオ部のパーツが実装されるメイン基板には,伝送ロスを低減するとともに,高周波ノ
イズを減少させ,オーディオ部への悪影響を抑える,両面銅箔基板が採用されていました。
電源部は,デジタル部とオーディオ部との干渉による歪やノイズの発生を防ぐために,しっかりと各部の分離がなさ
れていました。大型の電源トランスは,デジタル/メカ/ディスプレイ部用とオーディオ部用は別巻線としたうえで,電
源回路も独立基板構成としていました。
さらに,メカ部やコンストラクションにおいて,しっかりした防振対策が行われていました。シャーシとボディ部では,重
量のある無共振・高剛性のつくりとなっていました。さらに,トップカバーは,厚さ1mmの鋼板2枚重ねで二重にし,間
に防振ゴムのダンパーを配したダブルトップ,底板も1.2mmと2.4mmの鋼板による二重構造というダブルコンストラ
クションシャーシが採用され,内・外の振動の影響を抑えていました。
また,外来振動に対してプレーヤーを安定に動作させるために,脚部にはヤマハ独自のGPレッグが採用されていま
した。GPレッグは,逆円錐型のピンポイントレッグと大型の防振レッグで構成され,防振レッグを外した状態でピンポ
イントで荷重を支持することはもちろん,防振レッグの中でもピンポイントレッグが働き,プレーヤーの荷重は常に点
で支持されるようになっており,外来振動をシャットアウトする構造となっていました。防振レッグの高さは可変で,調
整できるようになっていました。
ディスクを保持するメカニズム部は,必要な部分だけを最小単位でフローティングする,アンチバイブレーション・フロー
ティングメカを採用するとともに,マグネットクランプによってしっかりとディスクを抑え,安定したドライブを実現していまし
た。また,トレイにも高剛性アルミ押し出し材に,GTプレーヤーで培われた技術を生かした制振・高音質対応のディスク
マットを付加したGTトレイが採用されていました。
ディスク駆動部には,直径4mmの極太シャフトと制振ブラシレスモーターが搭載され,ディスクを安定してドライブすると
ともに,振動の発生も抑えていました。また,3ビーム方式のピックアップは,高速リニアモーターで駆動され,静かでス
ムーズなサーチが実現されていました。
比較的シンプルに見える外観ながら,選曲機能を中心に,多彩な機能が搭載されていました。まず,一度プログラムする
とディスクごとのプログラムを最大100枚分(10曲プログラム時)まで記憶し,同じディスクを再生する場合自動的にプログ
ラム再生ができるプログラムファイル機能が特徴的な機能として搭載されていました。プログラムプレイとしては,ランダム
プログラムプレイ,テープの長さに合わせてプログラムするテープエディット,25曲プログラムプレイ,演奏しない曲番を指定
するデリートプログラムプレイが搭載されていました。選曲は,本体やリモコンに装備された10キーでのダイレクト選曲,前
後スキップ,さらにインデックス付きディスクに対応したインデックスサーチが装備されていました。リピート機能は,1曲,全
曲,プログラム曲,A−B間,インデックス間の5種類が装備されていました。その他,リモコンで音量が操作できるリモコン
ボリュームも搭載されていました。
また,CDX-1050には,ヤマハらしいチタンカラーのモデルに加え,ブラックのモデルもあり,ヤマハらしいデザインも魅力の
一つでした。前モデルCDX-1030とはデザイン的に非常によく似ていましたが,サイドウッドが付いてより落ち着いたイメー
ジとなっていました。
以上のように,CDX-1050は,ヤマハのCDプレーヤーとして新しい方向に進み始めた1台でした。前モデルのMASH搭載の
CDX-1030が,音の面等でも今ひとつヤマハらしい特徴を打ち出せず,地味な存在になっていたのに対し,自社開発の新しい
1ビットDACをベースに,各部を見直したしっかりした作りなどもあり,繊細かつ穏やかでバランスのとれた音は人気を得ること
となりました。また本モデルの技術は,超弩級機GT-CD1にもつながっていくこととなりました。


以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。



CDプレーヤの音とは
本来こうだったのかもしれない。
I-PDM方式DAC出力をピュア伝送する
高品位設計。

◎美しいアナログ=音のために
 極限までつきつめた,高品位設計。
◎音=アナログのために誕生した
 ヤマハ独自のI-PDM方式1bit D/Aコンバータ。

●出力パルス波形を独立化するヤマハI-PDM方式。
●良質なアナログ部のための2次ノイズシェイピング。

◎DAC出力のクオリティを忠実伝送する
 ピュア&クリーンなアナログ信号回路。

●高精度・大容量パッシブ型ハイマスLPF採用。
●全段A級動作固定出力アンプ採用。
●両面銅箔メイン基板採用。
●デジタル/オーディオ別巻線・独立給電方式。

◎揺るぎない安定感,徹底した防振対策の
 コンストラクション&メカ構成。

●高音質ダブルコンストラクションシャーシ。
●外来振動をシャットアウトするGPレッグ。
●ディスクを安定に保持するメカユニット。
●極太シャフトブラシレスモータ採用。

◎プログラムファイルをはじめ
 CDの楽しさを存分に引き出す多彩な機能。

●プログラムファイル
●10キー・ダイレクトアクセス
●インデックスサーチ
●5モード・リピート
●ランダム・プログラムプレイ
●テープエディット
●25曲プログラムプレイ
●デリート・プログラムプレイ
●オートスペース
●ディスプレイ切換え
●タイマープレイ
●リモコンボリューム
●34キー・フルモードリモコン装備。





●CDX-1050主な規格●

周波数特性 2Hz〜20,000Hz±0.5dB
高調波歪率 0.0018%(EIAJ)
S/N比 118dB(EIAJ)
ダイナミックレンジ 98dB(EIAJ)
チャンネルセパレーション 98dB(EIAJ・FIX)
出力インピーダンス 600Ω
ヘッドホン出力 640mV±120mV
電源電圧 100V・50/60Hz
消費電力 17W
外形寸法 473W×111.5H×346Dmm
重量 10.5kg
※ 本ページに掲載したCDX-1050の写真・仕様表等
 は1990年11月のYAMAHAのカタログよ り抜粋した
 もので,ヤマハ株式会社に著作権があります。したがっ
 てこれらの写真等を無断で転載,引用等をすることは
 法律で禁じられていますので,ご注意ください。

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