YAMAHA CDX-993
NATURAL SOUND COMPACT DISC PLAYER 
                           ¥66,000
1998年に,ヤマハが発売したCDプレーヤー。ヤマハは,1982年のCD黎明期から
すぐれたCDプレーヤーを自社開発して送り出し,高級機にはセパレート型が登場して
きた中でも,一体型にしっかり技術と物量を投入した意欲作を送り出していきました。
マルチビット方式のD/Aコンバーターの時代,分解能を上げるためにハイビット化,ハ
イサンプリング化の動きの中でもトップグループを走っていました。そして,1989年の
CDX-1030より1ビット方式へとシフトしていきました。しかし,1990年代に入り,超
弩級機GT-CD1GT-CD2を発売しましたが,それ以降は,比較的手頃な価格なモ
デルが中心になっていきました。そうした中,中級機ながら当時の同社のフラッグシッ
プモデルとして発売されたのがCDX-993でした。

D/Aコンバーターには,1990年のCDX-1050より採用している自社開発の1ビット
系DACの「I-PDM(Independent Pulse Density Modulation)方式」のDACが
搭載されていました。一般的なPDMやPWM方式の1ビットDACでは,出力パルス列
の幅で変換を行うため,瞬時に立ち上がり,立ち下がる形が理想的な出力パルス波
形(図3)となりますが,実際には,0から1へ,または反対に変化するとき,瞬時に変
化できず傾斜ができてしまい(図4),出力パルスの面積比が保てず,歪みが発生して
しまう恐れがあります。I-PDM方式では,個々の出力パルスをインディペンデント(独
立)化し,出力パルスの形が理想的でなくとも,独立したパルスの面積が同じであれば
出力パルス列の比率関係を正確に保つことができ(図5),正確なアナログ波形に変
換できるため,原理的に歪みが発生しないというものでした。



さらに,「PRO-BIT」技術が搭載され,より高精度なD/A変換を可能にしていました。
「PRO-BIT=Precise Reproduction of Original Bit」は,ヤマハが持つ2万
件の録音データに基づく推測により,CDの16ビット信号を20ビット精度のデジタル
信号へと変換するというもので,特に再生の微小信号の再生時に,20ビット8倍オー
バーサンプリングにより,原信号に近いアナログ出力を得ることが可能となっていまし
た。そして,こうしたPRO-BIT回路に加え,I-PDM方式DAC,8倍オーバーサンプリ
ングデジタルフィルターは,YAC514-Fに1チップ化されて搭載されていました。



有害な共振や外部振動が音質に与える影響を抑えるために,しっかりとした高剛性
の重量級の筐体が採用されていました。ボトムカバーは,1.7mm厚と1mm厚の鋼
板を貼り合わせた二重構造で,底部には樹脂製の大型のインシュレーターが装着さ
れていました。トップカバーは,1mm厚の制振鋼板と1mm厚の鋼板の二重構造で,
こちらには,ゴム製の衝撃吸収ダンパーが間に挟まれていました。
CDドライブメカは,3mm厚の鋼板に樹脂製のメカベース本体が載った重量級のメカ
ベースに支えられた構造で,ドライブメカのトップには,振動を吸収するアルミ製のカ
バーが取り付けられ,このトップカバーの裏側には,ディスクの振動を抑え静粛に保
ち,読み取り精度を高めるためのディスクスタビライザーが装着されていました。
ピックアップのサーボ系は,ソニー製のLSI・CXD2545Qによるデジタルサーボが
搭載されていました。



オーディオ部は,オペアンプではなく,全段ディスクリートのA級アンプを搭載していま
した。オーディオ専用コンデンサーや高精密抵抗など,それぞれの構成部品も厳選さ
れたものとなっていました。さらに,出力部には,出力インピーダンスがきわめて低い
カレントバッファ出力回路が採用されていました。
電源回路は,同社のアンプにも採用されていた「LiD(Low-impedance Drivabilty)
電源」と称する強力な電源部が搭載されていました。これは,その名の通り,低負荷時
のドライブ能力を高めたもので,きわめて正攻法に設計され,ノイズ対策のためにアナ
ログ・デジタル独立の2つの電源トランスと大型の電解コンデンサー4本が核として搭
載されていました。こうしたオーディオ部と電源部により,接続するアンプからの影響を
受けにくい安定したドライブ能力を実現していました。

デジタル回路からのアナログ回路への悪影響を防ぐために,アナログ回路とデジタル
回路は分離して配置され,上述のように電源トランスから電源回路も分離して設けて
いました。アナログ回路の基板パターンは伝送ロスが生じないように太く,デジタル回
路のパターンはノイズの放射を最小限に留めるように細く設計し,デジタル回路基板
そのものも極小化するなど,アナログ回路をデジタルノイズから守る設計となっていま
した。さらに,CD演奏中にディスプレイを自動消灯するオートディスプレイオフ機能に
より,表示系からのノイズもカットするようになっていました。



シャープでクリーンなデザインは,ヤマハらしさを感じるもので,シーリングパネルの採
用により,パネル上には,最少限の操作ボタンだけで,よりすっきりしたイメージになっ
ていました。シーリングパネル内には,10キーや出力ボリューム,ヘッドホン端子など
その他の主要な機能が収められていました。
オーディオ出力は,固定/可変の2系統装備され,デジタル出力は,光2/同軸1の3系
統が装備されていました。2系統の光のうち1つはフロントのシーリングパネル内に装
備され,ポータブルDATやMDなどの光デジタル入力を備えたデジタルレコーダーと接
続しての録音が容易にできるようになっていました。



以上のように,CDX-993は,比較的手ごろな価格ながら,当時のヤマハの最上級機
として,しっかりと物量が投入され,すっきりした外観デザインに通じる,中高域の美し
いヤマハらしい音,いわゆるヤマハビューティの音をもっていました。また,ヤマハ独特
のグレーがかったシルバー=チタンカラーも特徴でしたが,他社製の機器とも合わせ
やすいゴールドパネルのモデルも発売されていました。


以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。



特別仕様の高剛性・重量級ボディに
独自の高音質デジタル技術を
結集したヤマハCDプレーヤの
プレステージ機。

◎特別仕様の高剛性・重量級ボディ
◎ヤマハ独自のD/A変換技術
 PRO-BIT&I-PDM方式DACを搭載
◎全段ディスクリートA級回路など
 高品位なオーディオセクション
◎透明感あふれるサウンドのための
 アナログ/デジタル分離設計

●オーディオ出力2系統(可変/固定)
●ヤマハカセットデッキと組み合わせての
 オリジナルテープづくりに威力を発揮する
 シンクロ録音/テーププログラム/オート
 スペース機能
●ディスプレイの明るさが選べるディマー機能




●Specifications●

D/A変換方式 PRO-BIT,I-PDM方式 
周波数特性 2Hz~20kHz±0.3dB 
高調波歪率(1kHz)  0.002% 
ダイナミックレンジ  100dB 
SN比(EIAJ)  118dB 
出力電圧  2.0±0.5Vrms 
アナログ出力端子  可変1(金メッキ),固定1(金メッキ) 
デジタル出力端子  光2,同軸1(金メッキ) 
プログラム曲数 40
主な機能  ランダム演奏,リピート演奏,
テープエディット(オート/マニュアル/ランダム)
オートスペース,ピークレベルサーチ,シンクロ録音
タイマー演奏,オートディスプレイオフ,ヘッドホン端子(金メッキ)
リモコンボリューム(モータードライブ) 
消費電力  13W 
外形寸法  435W×117H×388Dmm 
重量  9.6kg 
※ 本ページに掲載したCDX-993の写真・仕様表等
 は1998年4月のYAMAHAのカタログより抜粋した
 もので,ヤマハ株式会社に著作権があります。した
 がってこれらの写真等を無断で転載,引用等をする
 ことは法律で禁じられていますので,ご注意ください。

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