LUXMAN CL-40
CONTROL AMPLIFIER ¥330,000
1983年に,ラックスが発売した管球式コントロールアンプ。ラックスは,歴史あるオーディオブランドで,特にアンプ
の分野で高い技術力を発揮してきました。真空管アンプの時代からすぐれたアンプを開発・発売し,トランジスターア
ンプの時代になっても,独自の魅力を持つアンプを作り,高い評価を得ていました。そして,トランジスターやICなど
の素子が中心になった時代においても,真空管の魅力を引き出したアンプを並行して作り続けたブランドでした。そ
うしたラックスが,CD時代になり発売した管球式コントロールアンプの最高級機がCL-40でした。
真空管という素子が日本ではすでに過去のものとなり,国内生産が中止されており,国内で安定供給を受ける道が
閉ざされていたこの時代において,良質な真空管の確保は重要な課題でした。実際,ラックス自身,真空管の安定
入手が難しくなったため,前年に企業としての真空管アンプの生産に終わりを告げると発表していました。しかし,そ
うした中,ラックスは,ソ連,中国,アメリカ,ヨーロッパなど全世界的なスケールで将来的に安定した真空管の供給を
受けられる道を探し,アメリカのGE(General Electoric)社に行き着いたということでした。当時GE社は,軍需用,
通信用を主体として民生用の真空管まで自社内で生産し,技術開発も行っているなど,高品質の真空管の確保が可
能となっていました。CL-40は,ラックスとして,このGE社製真空管を採用して開発された最初のコントロールアンプ
で真空管アンプの再スタートを切った製品でした。
イコライザー回路は,高増幅率の双3極管12AX7A/7025を使い,適切な回路の選択と動作点の設定を厳密に
行っていました。電流と電圧とロード(負荷条件)との兼ね合いの技術である動作点の設定にはラックスの管球アン
プにおける長年のノウハウが生かされていました。初段の電圧増幅回路では,負荷抵抗を大きくして,電流を思い
切って絞り込んだ,いわゆる飢餓回路と呼ばれる手法が採り入れられていました。出力段はSRPP(シャント・レギュ
レーテッド・プッシュプル)回路で構成され,初段とは逆に電流を十分に流して出力インピーダンスを低く保っていま
した。SRPP回路では,負荷抵抗の役目を球に負わせる動的ロードとなっており,負荷抵抗は極めて高い値が保た
れ,カソード・フォロアに比べ,高いリニアリティと低歪率を実現していました。
フラットアンプは,初段に中増幅率の双3極管6BK7B/7028,2段目に低増幅率の双3極管6CG/7026を使い,
2段直結差動アンプ回路を構成していました。フラットアンプで必要とされるゲイン(約16dB)に見合った裸ゲイン
(約50dB)が得られる回路になっており,比較的軽いNFBですませることが可能となっていました。真空管の動作
点は初段と2段目で歪み成分を互いに打ち消すように設定するなど,最適の動作点を選んでいました。また,この
回路は,直結で安定度が高く,さらに低域の時定数回路も排除しているため,DC領域までの増幅が可能で,混変
調歪の発生も抑えられていました。
トーンコントロール回路は,変化特性が素直で,思い通りの調整がしやすいラックス方式NF型で,トーンコントロー
ルのON/OFFでレベル変化が起きないように,フラットアンプ回路を利用していました。変化特性の調整は高域用
低域用ともスイッチ切替式(11ポイント,±7dB可変)として精度の高い変化を可能とし,使わないときは不要な回
路を通さないという意図から,標準位置をディフィートとし,トーンコントロールを使うときには,スイッチをONにする
形をとっていました。
電源回路に対して直列に挿入され,音質への影響も大きいレギュレータ回路は,12AU7/7030,12BH7/7032
の2本の双3極管で構成されていました。NFB回路で構成されているレギュレータ回路においてその量も音質に影
響が大きいため,適量NFBを厳密に決定していました。この適量NFBを決定するツェナダイオードとパラに入った
コンデンサーの値は,ヒヤリングにより大きな値が選ばれていました。そして,レギュレータは,12AN7/7030をカ
スコード増幅回路で働かせ,過剰なNFBを避けるための最適な裸利得を得ると同時にリニアリティの高い増幅系と
していました。また,真空管によるレギュレータは,ヒーターがあたたまり動作を始めないと電圧を増幅段に供給しな
いため,回路に無理をかけない利点を持ち,また,何よりも増幅回路とともに素子が真空管に統一されるため,応答
特性などの点で動作にミスマッチがなくなるということで,音質上も有利ということでした。
電源部は,捲き線数が極めて少なく,したがって電源インピーダンスの低い,高効率のサーキュラ・トランスを採用し
力強い中・低域再生を支えていました。電源部には,電源の極性を管理できるラインフェースセンサーも装備されて
いました。
入力系は,PHONO,TUNER,DAD,LINEの4系統とTAPEが2系統装備されていました。TAPEは相互ダビング
が可能で,音質への悪影響を避ける録音OFFも可能となっていました。PHONOは入力インピーダンス切替(50kΩ
100kΩ)が装備されていました。
機能的には,低域用フィルター(SUBSONIC:10Hz,LOWCUT:40Hz),モードスイッチ(REVERSE,STEREO
MONO),-20dBのアッテネータ,ヘッドホンジャックなどが装備されていました。
以上のように,CL-40は,ラックスの真空管アンプについての長年の経験が生かされた完成度の高さをもち,回路
的にも機能的にも,当時の最新のものに比肩する内容持っていました。5mm厚のアルミ押し出し材,ゴールド仕上げ
のパネル,すべてアルミ挽き物で作り上げられたレバースイッチ,ロータリースイッチ,ボリューム,木格子入りで高級
家具に使われるウレタン塗装仕上げのウッドケースなど,上品で高級感のある仕上げのデザインもラックスらしさを
感じさせるものでした。音の方も,優美でバランスのとれたデザインが示すとおり,過激さのないグッドバランスの音
でした。
以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。
星の数ほどの言葉より,「球だから」と,ひとこと
繊細でいて重厚。
音楽の不思議に,ひととき酔いしれる。
GE社との出会い・・・安定して,信頼性の高い真空管の名品を。
音楽の艶やかさ,生き生きと。・・・CL-40
◎シンプルさを狙った管球式プリアンプ
◎SRPP出力回路を採用したイコライザ回路
◎2段差動直結アンプによる
フラット・アンプ/トーンコントロール回路
◎真空管によるレギュレータ回路
●CL-40 SPECIFICATIONS●
使用真空管 | 12AX7A/7025(3),6BK7B/7028(2),6CG7/7026(2) 12AU7A/7030(1),12BH7A/7032(1) |
出力電圧 | pre out:定格2V,最大20V以上 |
出力インピーダンス | pre out:500Ω,rec out:500Ω |
全高調波歪率 | phono:0.05%以下(rec out:2V,1kHz) DAD・tuner・line:(pre out:2V,1kHz) monitor-1・-2:(pre out:2V,1kHz) |
周波数特性 | phono:20~20,000Hz(±0.3dB以内) DAD・tuner・line:1~50,000Hz(±0.5dB以内) monitor-1・-2:1~50,000Hz(±0.5dB以内) |
入力感度(出力1V) | phono:1.8mV DAD・tuner・line:170mV monitor-1・-2:170mV |
入力インピーダンス | phono:50kΩ,100kΩ(切替SW付) DAD・tuner・line:100kΩ monitor-1・-2:100kΩ |
SN比(IHF-A補正) | phono:81dB以上(5mV入力時) DAD・tuner・line:95dB以上 monitor-1・-2:95dB以上 |
トーンコントロール | LUX方式NF型 (低域,高域可変範囲:±7dB,レベル可変:11ポイントSW切替式) |
付属装置 | 低域用フィルター(subsonic:10Hz,lowcut:40Hz) モニタ・スイッチ(tape-1,tape-2) テープ・ダビング・スイッチ(1→2,2→1) レコーディング・スイッチ モード・スイッチ(reverse,stereo,mono) アッテネータ(-20dB) トーン・イン・スイッチ ヘッドホン・アンプおよびジャック(8Ω出力;40mW) PHONO用入力インピーダンス切替スイッチ(50kΩ,100kΩ) 電源の極性を管理できるライン・フェーズ・センサ |
電源電圧 | AC100V(50Hz/60Hz) |
消費電力 | 50W(電気用品取締法の規定による) |
寸法・重量 | 470W×168H×402Dmm・8.0kg |
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