１９７３年に，パイオニアが発売したスピーカーシステム。パイオニアは，もともとスピーカーのメーカーとしてスタートし，
当初からユニット，スピーカーシステムと，海外製に負けないすぐれた製品を自社生産していました。そんなパイオニア
が１９７０年代に入ってフロア型のスピーカーシステムの一連のシリーズ，ＣＳ-８８０，ＣＳ-７７０，ＣＳ-５５０，ＣＳ-３３０
等を発売しました。その中で，最も大型のトップモデルがＣＳ-８８０で，大型のユニットを搭載した堂々たる３ウェイのフロ
ア型システムでした。

ウーファーは，３８ｃｍ口径のコーン型で，新開発のコーン紙に特殊な処理を施し，過渡特性を改善したものでした。エッ
ジには，温度・湿度変化に対し安定した制動剤が塗布され，２重スパイダー方式（ダンパーが２重になっているもの）とあ
いまって高いコンプライアンスが確保され，リニアリティが高められていました。
ボイスコイルは，アルミボビンに銅リボン線をエッジワイズ巻きしたロングタイプが搭載され，磁気回路は，直径１６０mm
の大型フェライトマグネットが採用され，純銅キャップの装着により，磁気回路センターポールから発生する非直線歪や
磁気歪が抑えられていました。また，スピーカーとパラレルにＣＲ補償回路が挿入され，インピーダンスの上昇が抑えら
れていました。

ミッドレンジは，２０cm口径のコーン型で，低音用ユニット同様にコーン紙表面に特殊処理が施されたものでした。ボイス
コイルもアルミボビンのロングタイプで，純銅キャップ装着のセンターポール，直径１２０mmの大型フェライトマグネットなど，
低音用ユニットにも匹敵するものが採用されていました。この中低音ユニットには，後部に４，８００cm³の完全密閉のバッ
クチャンバーが設けられ，低音部の強化と後方での音の干渉の抑制が図られていました。低音ユニット同様にＣＲ補償回
路が採用されていました

ミッドハイは，スピーカーユニットＰＤ-５０とセクトラルホーンＰＨ-５０を組み合わせたセクトラルホーンスピーカーユニットが
搭載されていました。
ＰＤ-５０は，８００〜２１，０００Ｈｚという特性をもつスピーカーユニットで，振動板には，厚さ２０μｍの超硬質チタン箔が使用
され，リニアリティの高いポリエステル系フィルムのコルゲーションエッジを貼り合わせたフリーエッジ方式が採用されていま
した。ギャップの利用効率の良いエッジワイズ巻きボイスコイル，直径１１０mmの大型フェライトマグネットの採用により高能
率が確保されていました。有孔ポールガイドには特殊な制動紙が貼り付けられて空気抵抗が抑えられ，振動板のエッジ表
面よりの反射は，チャンバーに高密度の吸音フェルトを用いて吸収し，周波数特性の平坦化と音質の改善が図られていまし
た。
ＰＨ-５０は，カットオフ周波数５００Ｈｚの本格的なセクトラルホーンで，十分な肉厚をもったアルミの使用により，共振が抑え
られ，トランジェントのすぐれたホーン臭の少ない音質が実現されていました。

エンクロージャーは，十分な板厚の強固な構造の重量級のもので，パイプダクトが２つ設けられた位相反転型式のものでし
た。中央部に吸音材による仕切りが設けられ，ウーファーのハイカットフィルターとしての働きと定在波の防止の働きをし，低
音の歯切れの良さを向上させていました。

以上のように，ＣＳ-８８０は，しっかりしたユニットとエンクロージャーを組み上げた本格派のフロア型システムで，今作るとこの
何倍もの価格になってしまうほどの内容をもっていました。レンジが広い音ではありませんが，音のまとまりのあるバランスの
とれたしっかりした再生音を聴くことができる１台でした。