YAMAHA CT-1000
NATURAL SOUND AM/FM STEREO TUNER
¥59,000
1976年にヤマハが発売したFM/AMチューナー。同社のプリメインアンプ
CA-1000Vや
CA-2000
等とのペアを想定したチューナーで,ヤマハらしいエレガントなデザインの中に,しっかりとした技術が投
入されたオーソドックスながら実力派のチューナーでした。
フロントエンドには,高精度ワイドエアギャップ5連バリコンが搭載され,高周波特性のすぐれた低雑音の
デュアルゲートMOS FETが高周波段とミキサ段に使用されるなど,妨害排除特性が高められていまし
た。CT-1000に搭載されたワイドエアギャップ5連バリコンは,エアギャップを従来の2倍にして湿度など
の変化による容量変化を小さくし,バリコンそのものの加工精度を高めて,製造工程で精密にキャリブレ
ーションされたもので,従来のようにトリマーコンデンサーを外付けする必要のないものとなっていました。
さらに,IFの10.7MHzを得るための局部発振回路には,定電圧電源・定電流電源を組み込んだ専用
ICが採用され,外乱などに対してきわめて安定度の高い設計となっていました。これらの結果,ドリフトが
きわめて少なく抑えられていました。
IF部には,新開発の6素子低損失低スプリアスセラミックフィルターが搭載され,さらにL・C・Rによるインピ
ーダンス変換型位相歪補償回路が加えられ,すぐれたオーディオ特性と妨害排除特性の両立が図られてい
ました。IFアンプには,IC化されたカレントリミッタつき差動増幅×2の6段増幅回路が採用され,すぐれた
選択度と低歪みが実現されていました。検波回路には,広帯域バランス形変形レシオディテクタが搭載され
ていました。
MPX回路には,歪みの少ないヤマハ独自の平均値復調回路とPLL ICを使用したサブキャリア発生回路に
NFBをかけたNFB・PLL・MPXが採用されていました。この回路では,フィードバックアンプのゲインを100%
負帰還に利用し,PLL IC内部で発生する歪やノイズを低減していました。パイロット信号の除去には,通常使
われるフィルターによらず,パイロットキャンセル回路が用いられていました。これは,パイロット信号をデコー
ダーの入口で同じ19kHzの逆相の正弦波(PLLで発生した方形波を正弦波に変換したもの)でキャンセルす
るもので,18kHzまでの広帯域再生が可能となっていました。
オーディオ系は,NFB・PLL・MPX回路のNFループには,入力と出力にそれぞれ一段のバッファアンプのみ
という構成として,信号が通る増幅素子を必要最小限としていました。入力バッファは広帯域DCアンプで,出
力バッファはLCアクティブローパスフィルターと組み合わせられたアクティブロードエミッタフォロアが採用され
低歪率・高SN比を実現し,ダイナミックマージンも大きく確保されていました。パイロットキャンセル回路の搭
載によりローパスフィルターの負担が減り,周波数特性的にゆとりを持ったものが搭載されていました。また
このローパスフィルターは正確なディエンファシス回路も兼ねたヤマハ独自のものでした。
周波数のずれを補正するAFCのON/OFFはチューニング操作と連動して自動的に行われ,同調操作時に
はOFF,局に同調するとONとなり,その動作状態をLEDによって表示する機能を持ったOTS(Optimum
Tuning System)が搭載されていました。OTSは,離調点検出アンプとエレクトロニックタッチスイッチに
LEDを使用したインジケーターを組み合わせたシステムで,選局時にチューニングツマミに手を触れるとエレ
クトロニックタッチスイッチの働きでAFCがOFFとなり,選局中に局と同調するとOTS/STATIONインジケー
ターが薄く点灯し,正確に同調するとOTS/STATIONインジケーターが明るく点灯し,最良の同調点を維持
するという仕組みになっていました。
シグナルメーターは,妨害検出フィルターとAGCアンプを2段にわたって設けよって3μV〜3mVという入力
レベルを指示する正確なもので,ヤマハ独自の妨害検出方式によって強入力まで飽和することなくマルチパ
ス,フェージングノイズなどからの妨害を指示値の低下やふらつきとして指示できるようになった妨害検出型
となっていました。
その他,機能的には,同調時と離調時の両方でポップノイズを防止する3μV−30μV切換式ミューティング
や録音レベルの基準信号を発信するREC CAL回路なども搭載されていました。
以上のように,CT-1000は,当時のヤマハの主力チューナーとして,受信性能と音質のバランスがとれた使
いやすいチューナーで,ヤマハらしいエレガントなデザインとそのデザインにマッチしたすっきりとしたヤマハトー
ンも魅力的でした。これ以降,ヤマハのチューナーは薄型の筐体のT-1桁シリーズに移行していくことになり,
デザイン的にはイメージを変えていくことになりました。