CT-90Rの写真
PIONEER CT-90R
STEREO CASSETTE TAPE DECK ¥99,800

1983年に,パイオニアが発売したカセットデッキ。同社は,1981年に発売したCT-980で初の3ヘッドオートリ
バースのカセットデッキを発売し,多機能と高音質の両立を図りましたが,再生時のみのオートリバース機能でし
た。そこで,CT-980のメカニズム等を受け継ぎ,さらに発展させたのが,同社初の3ヘッド・録音再生オートリバ
ースを実現したCT-90Rでした。

ヘッドは,録音ヘッド,再生ヘッドを独立させた3ヘッド構成で,録音ヘッドと再生ヘッドを高精度に一体化したコン
ビネーションヘッドが搭載されていました。録音ヘッド,再生ヘッドには,パイオニア自慢のリボンセンダストヘッド
が採用されていました。この当時,多くのデッキのヘッドに採用されていたセンダストヘッドは飽和磁束密度が高
いというメリットがある反面,渦電流損失による高域劣化が問題視されていました。リボンセンダストヘッドは,パ
イオニアがセンダスト合金開発者である東北大学との共同研究により,加工が極めて困難なセンダストを世界で
初めて薄帯化して使用したもので,ヘッドコアを薄くして何枚も積層することで,渦電流の発生を抑え,すぐれた高
域特性を実現し,さらに,従来のセンダストヘッドに比べて,バイアス効率を約2倍として,歪みの低減も実現して
いました。そして,漏洩磁界に対するシールドも充分に行われ,クロストーク,チャンネルセパレーションの特性も
しっかりと確保されていました。
このようなコンビネーション録音・再生ヘッドにより,それぞれの特性がより追求され,高音質の録音・再生が実現
されていました。ただ,CT-90Rは,録音時の同時アフターモニターはできない仕様となっていました。


録再コンビネーションヘッド

オートリバース機構には,ヘッドが回転するロータリー方式が採用され,フォワード時,リバース時ともにヘッドや
録再アンプの切換えなしに録音・再生が行われるようになっていました。録音・再生コンビネーションヘッドを搭載
した高精度なヘッドベースが,ミクロンオーダーで精密加工されたヘッドホルダーの中で180度回転する仕組み
で,ホルダー内には特殊コーティングが施され,摩擦係数の低減と耐摩耗性の向上が図られ,スムーズなヘッド
の回転と高い信頼性・耐久性を実現していました。
さらに,LEDセンサーによりリーダーテープ部を検出してすばやくリバースさせるクイックリバース方式が採用され
ており,スピーディーなリバースが可能となっていました。

走行系は,CT-980以来の3DDメカニズムが継承されていました。カセットデッキの走行メカニズムには,テープ
を定速で走行させるためのキャプスタン機構と,カセットテープの2つのハブを回転させ,テープの送り出しと巻き
取りをするリール軸回転機構の3つの回転系があり,通常カセットデッキでは,いずれかを兼用することで,2つま
たは1つのモーターで駆動していました。3DDメカニズムでは,キャプスタン駆動,2つのリール駆動をすべて専用
のモーターによるDD(ダイレクトドライブ)方式で行うようになっており,ベルトやアイドラーなどの伝達機構が省略
され,回転精度をはじめとする基本性能が高められていました。さらに,この3つのモーターを専用のマイクロプロ
セッサーで制御することで,俊敏な走行系の動作と多機能化が実現されていました。
キャプスタンモーターには,コアレス&スロットレス構造のブラシレスホールモーターが採用され,キャプスタンの駆
動はフォワード時にはモーターの回転数がそのままキャプスタンの回転数となるダイレクトドライブ,リバース時には
キャプスタンモーターの駆動力をリバースキャプスタン側のフライホイールに伝えるという,精度の高い方式が高精
度なテープ走行を実現していました。リール台駆動用モーターには,微振動の少ないコアレス&スロットレスのDC
サーボホールモーターが採用され,ローター自体がリール台となるダイレクトドライブ方式により,すぐれた耐久性
とワウフラッター0.03%(WRMS)という安定したテープ走行を実現していました。

CT-90Rには,録音・再生オートリバースに加え,CT-980以来の3DD方式+マイクロプロセッサー制御により
以下のような多彩な機能が搭載されていました。
(1)自動的にテープの未録音部分を探して4秒間の曲間を設定してストップする「ブランクサーチ」
(2)早送りと再生を繰り返し,曲のイントロ(約7秒間)を次々と再生していく「インデックススキャン」
(3)8秒間以上の無録音部分を自動的に早送り,次の曲頭より再生する「スキップ再生」
(4)片面の曲が終わった後,残りの無録音部分を早送りで飛ばし,自動的にリバースする「スキップリバース」
(5)前後の曲の頭出しができる「ミュージックサーチ」
(6)同じ曲を8回まで繰り返して再生できる「ミュージックリピート機構」

CT-90Rでは,CT-980と同じく「Auto BLEシステム」が搭載されていました。「Auto BLEシステム」は,4ビッ
トのマイクロプロセッサーの制御により,録音バイアス,録音レベル(テープ感度)。録音イコライザーを個々のテー
プに自動的に合わせるいわゆるオートチューニングシステムで,スイッチ一つで,バイアス,レベル,イコライザー
が基準信号をもとに各16ステップの中から最適値に設定され,約8秒でチューニングが完了し,録音スタンバイ
状態になるというものでした。このシステムは,留守録音時にもはたらくようになっていました。

ノイズリダクションとして,ドルビーBタイプに加え,ドルビーCタイプが搭載され,ダイナミックレンジの拡大が図られ
ていました。ワイドレンジ化に対応して,レベルメーターも−30dB〜+10dBの2色LEDピークレベルメーターが搭
載されていました。また,4桁の電子カウンターは,リアルタイムカウンターになっており,左右リールの回転数を直
接ホール素子で検出し,マイクロプロセッサーで演算する高精度な残量検出が可能となっていました。定速時は,
秒単位で,FF/REW時には10秒単位でテープ残量を表示でき,通常の4桁デジタルカウンターにも切り換えられる
ようになっていました。

以上のように,CT-90Rは,前モデルCT-980の技術を継承し,3ヘッド&録音・再生オートリバースという多機能
と音質の両立を図ろうとした意欲作でした。デザインイメージも個性的な前モデルから大きく変え,オーソドックスな
シャープなイメージとなっていました。パイオニアらしい,バランスのとれた聴きやすい音は,多彩な機能とともに,
音楽を録音・再生する機器として使いやすいものでした。しかし,このころ,各社から3ヘッド+オートリバースのカ
セットデッキが数多く登場していったこともあり,個性をおさえたオーソドックスなデザインも災いしたか,その中に
埋もれた感じで,目立つ存在にはなりませんでした。(どうしてもデッキ専業メーカーの方が強いイメージがありまし
た。)そして,この後,パイオニアは,より質実剛健の高音質デッキの発売へと進んでいくことになりました。


以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。



クオリティの高い3ヘッド構成で,
長時間録音を実現。
録音・再生オートリバースのCT-90R。


  高品位な音質を実現した,
◎コンビネーション3ヘッド。
   3ヘッド構成の良さを生かす,
◎リボンセンダストヘッド。
   3ヘッド構成で,録音・再生オートリバースを実現。
◎ロータリー方式のリバース機構。
   俊敏な動作と安定したテープ走行。コンピュータが制御する
◎3DDメカニズム。
   デッキプレイに欠かせない,
◎先進の機能をフル装備。
   個々のテープの最適録音状態に自動セッティング,
◎オートBLEシステム。
   テープの残り時間を分/秒単位で表示する,
◎リアルタイムカウンター。



●CT-90Rの仕様●

トラック方式 コンパクトカセットステレオ
ヘッド リボンセンダスト再生ヘッド
リボンセンダスト録音ヘッド コンビネーション型×1
特殊合金消去ヘッド×1
モーター キャプスタンドライブ用 :DDブラシレス
               DCサーボホールモーター×1
リールドライブ用:DDブラシレス
           DCサーボホールモーター×2
ワウ・フラッター 0.03%(WRMS)・±0.08%(W・Peak,EIAJ)
早巻速度 約90秒(C−60)
周波数特性) メタルテープ・−20dB録音  20〜19,000Hz±3dB
メタルテープ・0dB録音     20〜15,000Hz±3dB
クロームテープ・−20dB録音 20〜18,000Hz±3dB
クロームテープ・0dB録音   20〜10,000Hz±3dB
ノーマルテープ・−20dB録音  20〜18,000Hz±3dB
ノーマルテープ・0dB録音    20〜9,000Hz±3dB
SN比 56dB(EIAJ/ピーク録音レベル,聴感補正)
(ドルビーOFF)               58dB以上
(ドルビーBタイプNR ON/5kHz)  10dB改善
(ドルビーCタイプNR ON/5kHz)  19dB改善
 ※第3次高調波歪率3%,聴感補正
歪率 0.8%(EIAJ/1kHz,第3次高調波歪率,メタルテープ)
入力
(感度/最大許容入力/インピーダンス)
マイク 0.325V(ソースインピーダンス600Ω)
ライン 70mV(入力インピーダンス50kΩ以上)
出力
(基準レベル/最大レベル/負荷インピーダンス)
ライン 0.7V(出力インピーダンス・10kΩ以上)
ヘッドホン  0.8mW(負荷インピーダンス8Ω)
電源
AC100V,50/60Hz
外形寸法 420W×120H×355Dmm
重量 7.2kg
付属機能 ●録再オートリバース(クイックリバース)
●オートBLE
●ドルビーBタイプ/CタイプNRシステム
●リアルタイムカウンター(残量表示)
●16セグメントLEDピークホールドレベルメーター
●ミュージックサーチ
●スキップ再生/スキップリバース
●インデックススキャン
●ブランクサーチ
●ミュージックリピート(連続8回)
●リモートコントロールユニット接続機構
●タイマースタンバイ
●アウトプットボリウム
●ワンタッチレコーディング
●RECミュート
●メモリーストップ

※本ページに掲載したCT-90Rの写真,仕様表等は1983年3月
 のPIONEERのカタログより抜粋したもので,パイオニア株式会社
 に著作権があります。したがって,これらの写真等を無断で 転載・
 引用等することは法律で禁じられていますのでご注意ください。

   
 
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