CT-920の写真
PIONEER  CT-920
STEREO CASSETTE DECK ¥104,800

1979年に,パイオニアが発売したカセットデッキ。1976年のCT-1000の流れを汲む高級デッキ
で,1978年のCT-910にメタル対応化を中心にした改良を施したマイナーチェンジモデルともいえ,
パネル高のある大振りな筐体とカセットハーフを直接はめ込む形のメカニズム部が外観上特徴的で
した。パイオニアは,このようなカセット装着方式を「フルオープンローディング方式」と称し,カセット
テープの視認性の良さやヘッド等のメインテナンスのしやすさを謳っていました。こうした方式のカセッ
トデッキは,当時,サンスイ,ヤマハなどいくつかのメーカーから出ていました。確実なカセット装着や
ヘッドクリーニングのしやすさなど良さもあったのですが,ほこりの入りそうなイメージや,テープリッド
のない違和感などからか,広く普及せずに消えていってしまいました。CT-920も同社の「フルオー
プンローディング方式」としては最終形となってしまいました。

CT-920は,3ヘッド構成で,録音ヘッドと再生ヘッドが組み合わされたコンビネーションヘッドが搭
載されていました。録音ヘッドには耐久力特性に優れた磁束密度の大きい特殊フェライトを,再生ヘッ
ドには,再生感度の良い透磁率の大きな特殊フェライトをそれぞれ採用していました。前モデルにあ
たるメタル非対応のCT-910や弟機のCT-720がセンダストヘッドであったのに対し,フェライトヘッ
ドを搭載していたことは興味深いことでした。録音ヘッドと再生ヘッドのギャップ幅はそれぞれ求めら
れる特性に合わせ,約4:1に設定し,優れた録音・再生特性を実現していました。形状が通常の録
音・再生兼用型ヘッドに近く,ヘッドタッチが安定して得られやすいコンビネーションヘッドの特性を生
かしつつ,カセットハーフのパッドの対向面に広いセンターマスクが組み込まれ,両ヘッドの磁気干渉
が抑えられるとともにヘッドタッチも向上していました。

消去ヘッドは,デュアルキャプスタンの3ヘッド方式の場合,カセットハーフの小窓を利用するため,2
ヘッド方式より小型化が必要になり,CT-920には,メタルテープに対応するための小型かつ強力な
消去性能をもつ特殊合金小窓用消去ヘッドが搭載されていました。飽和磁束密度が高く耐摩耗性に
優れた新開発の特殊合金をフロントコアにセミダブルギャップ構造で使用し,さらにフェライトバックコ
アと複合化することで小型かつ高性能化な消去ヘッドとしていました。また,特殊合金によるフロント
コアは,0.1mmの薄板21枚にラミネート加工されたもので,金属材料につきまといがちな渦電流損
失による温度上昇が少なく76dB(1kHz)という高い消去性能が安定して得られるようになっていまし
た。

CT-920のヘッド・走行系

走行系は,ヘッドブロックの左右にキャプスタンとピンチローラーを一組ずつ配置したクローズドルー
プデュアルキャプスタン方式で,テープ振動を大幅に低減していました。駆動系は,定速ドライブ用と
リール用を独立させた2モーターメカニズムとなっていました。定速ドライブ用は,ジェネレーター内蔵
電子制御DCサーボモーターが搭載され,高精度キャプスタンとダイナミックバランスにすぐれたフラ
イホイールを組み合わせ,ワウ・フラッター0.04%以下の高精度な定速走行を実現していました。
リールドライブ用には,回転トルクが大きくリップルの少ないDCハイトルクモーターが搭載されていま
した。また,同時にLSIを用いた電子コントロールにより,フェザータッチでの軽快で確実なテープ走
行の操作が可能となっていました。
さらに,マイクロプロセッサーの搭載により,カウンターを利用したメモリーストップ,メモリープレイ,
カウンターリピート,エンドリピートの4つのテーププレイが可能となっていました。

レベルメーターは,マイクロプロセッサーを利用した20セグメントのFLレベルメーターが搭載されて
いました。レンジは−20〜+7dBをカバーし,−4〜+7dBは1dBごとに1セグメントとし,0dBを境
にしてブルーとオレンジに色分けして,正確で確実なレベル監視ができるようになっていました。
さらに,このFLメーターは,アベレージ/ピーク/ピークホールドの3段に切換えができるようになって
いました。
また,テープカウンターも,マイクロプロセッサーにより,リール台の回転数をパルス検知する,3桁
のFLカウンターが搭載されていました。

テープセレクターはMETAL/CrO2/Fe- Cr/STDの4ポジションで,全てのタイプのテープに対応し
ていました。METALとCrO2はLEDで表示されるようになっていました。また,3ヘッド方式による
モニター機能を生かして,バイアス微調整ツマミも装備されていました。ノイズリダクションとしては
新開発IC採用のドルビー(Bタイプ)が搭載されていました。
入力系はLINEに加えMICも装備され,スイッチで切り替えるようになっていました。

以上のように,CT-920は,大型の筐体を持ち,当時の最新技術を導入しながら,正攻法で音質
を追求したカセットデッキで,すっきりとしたクリーンな音を持ち,使いやすい実力派の1台でした。


以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。



メタルテープと3ヘッドシステム。
Dレンジの広い録音/再生には,
どちらも欠かせない存在です。


 録音特性,再生特性をそれぞれシビアに追求しました
◎3ヘッド方式
 アジマスズレによる特性劣化を防ぎ
 安定した録音,再生特性が得られます

◎録音,再生コンビネーションヘッド
 3ヘッド方式に欠かせない
 安定したテープ走行を実現しています

◎クローズドループデュアルキャプスタン方式
 保磁力の高いメタルテープでも
 余裕をもって消去できます

◎特殊合金小窓用消去ヘッド
 メタルテープの性能をあざやかに引き出しました
◎特殊フェライト録音,再生ヘッド

いい音をどう聴くか。
電子化機能による多彩な
テーププレイが楽しめます。


 デュアルキャプスタン・3ヘッドシステムによる
 すぐれた音質を支える

◎高精度2モーターメカニズム
 メモリーオート機能など電子化されたテーププレイ
◎マイクロプロセッサー内蔵
 ソースに対応した確実なレベル監視ができる
◎2色FLレベルメーター
 シビアな録音モニター,バイアス調整ができる
◎モニタースイッチ

●FLカウンター採用。
●フルオープンローディング方式を採用。
●テープ走行切換え機構にLSIを用いた
  電子コントロール方式を導入。
●METAL/CrO2/Fe-Cr/STDの4段切換え
  テープセレクターを装備。
●新開発IC採用のドルビーシステム内蔵。
●規定再生レベルのチェックができる
  クリックストップ付出力調整ボリューム装備。
●LINE/MIC入力セレクター装備。
●別売のラックマウントアダプター(JA-R102・
  ¥3,600)の使用でEIA規格のラックにマウント
  可能。




●CT-920の仕様●

型式
コンパクトカセットテープデッキ(ステレオ/モノ)
録音ヘッド フェライトヘッド×1
再生ヘッド フェライトヘッド×1
消去ヘッド 特殊合金ヘッド×1
定速ドライブ用モーター 電子制御DCモーター(ジェネレーター内蔵)×1
早送り・巻戻し用モーター DCハイトルクモーター
早巻き時間
85秒以内(C-60にて)
回転ムラ 0.04%以下(WRMS)
周波数特性 (一般,LHテープ・−20dB録音)   20〜17,000Hz 
                       (25〜15,000Hz±3dB) 
(フェリクロームテープ・−20dB録音)20〜19,000Hz 
                       (25〜17,000Hz±3dB)
(クロームテープ・−20dB録音)    20〜19,000Hz 
                       (25〜17,000Hz±3dB)
            (0dB録音)     20〜11,000Hz
(メタルテープ・−20dB録音)      20〜19,000Hz 
                       (25〜18,000Hz±3dB)
            (0dB録音)     20〜14,000Hz
SN比 (ドルビーOFF) 59dB以上 
(ドルビーON)   69dB以上(5kHz以上)
(第3次高調波歪率3%,聴感補正) 
歪率 1.2%以下(0dB)
操作部
ソレノイド駆動,フェザータッチ式,ダイレクトチェンジ
入力 
(感度/最大許容入力/インピーダンス)
マイク×2:0.3mV/100mV/30kΩ 
       6mm径ジャック 
       (適合マイクインピーダンス250Ω〜30kΩ) 
ライン×2:60mV/25V/100kΩ 
       ピンジャック
出力 
(基準レベル/最大レベル/負荷インピーダンス)
ライン×2:450mV/640mV/50kΩ 
       ピンジャック
ヘッドホン×1:63mV/90mV/8Ω 
         6mm径ステレオジャック
使用半導体 IC×13,トランジスタ×76,ダイオード×84
(内ツェナーダイオード×7 LED×9)
他にモーター制御用としてトランジスター×3,ダイオード×3
付属機能 (1)ドルビーシステム(LED表示付)
(2)テープセレクター:METAL,Fe-Cr,CrO2, STD
   (クロームとメタルテープLED表示)
(3)2色FL表示式レベルメーター(−20〜+7dB,ピーク/ピークホールド
                            /アベレージ切換えスイッチ付) 
(4)FL表示式テープカウンター
(5)バイアス微調整用ボリウム
(6)メモリーストップ/プレイ機構(LED表示付)
(7)カウンターリピー/エンドリピート機構(LED表示付)    
(8)インプットセレクター
(9)自動テープたるみ除去機構(ALTC)
(10)カセット背面照明装置
(11)留守録音スタンバイ機構
(12)基準レベル指示クリック付再生ボリウム
電源 AC100V,50/60Hz
消費電力 45W
外形寸法 420(W)×187(H)×368.5(D)mm
480(W)×187(H)×368.5(D)mm・JA-R102装着時
重量 10.1kg

※本ページに掲載したCT-920の写真,仕様表等は1979年4月
 のPIONEERのカタログより抜粋したもので,パイオニア株式会社
 に著作権があります。したがって,これらの写真等を無断で転載・
 引用等することは法律で禁じられていますのでご注意ください。

   
 
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