CT-970の写真
PIONEER CT-970
STEREO CASSETTE TAPE DECK ¥115,000

パイオニアが1980年に発売したカセットデッキ。最高級機CT-A1の設計を受け継ぎ,さらに操作性や走行系など各部の
リファインが行われた高性能デッキでした。ユニークなデザインが目をひきますが,実は非常に優れた走行系を持った知る
人ぞ知る隠れた名機的な高性能デッキでした。

CT-970の大きな特徴の一つは「リボンセンダストヘッド」の搭載にありました。「リボンセンダストヘッド」は,パイオニア自
慢の高性能ヘッドで,優れた高域特性,高SN比,広ダイナミックレンジなどの優れた特性を誇りました。従来のセンダスト
ヘッドがセンダストの固まりをスライス加工した0.2〜0.3mm程度の薄さのものを2〜3枚ラミネートしたものであったのに
対し,「リボンセンダストヘッド」は,溶融状態のセンダストをノズルより噴出させ,直接ロールを通してわずか50ミクロンに
薄帯化し,11枚もラミネートしたものでした。このような薄膜化と多層ラミネートにより,センダストの持つ透磁率の高さを十
分に生かすことが可能になり,渦電流の発生を抑え,バイアス効率は従来のセンダストヘッドの約2倍に達するなど優れた
特性を実現していました。

リボンセンダストヘッドリボンセンダストヘッドの構造

CT-970では,このリボンセンダストという基本構造を生かしたコンビネーション録音・再生ヘッドを搭載した3ヘッド構成に
なっていました。再生ヘッドは,リボンセンダストの透磁率が高くコアロスが少ない特性を生かして感度を低下させることなく
0.8ミクロン幅のナローギャップが実現され,優れた高域再生能力が実現していました。また,録音ヘッドには2.5ミクロン
幅のワイドギャップが採用され,リボンセンダストの優れた特性による高飽和磁束密度,高感度を生かして高域補償量を低
く抑えることが可能になり,録音時の歪み感の低減と広ダイナミックレンジが実現していました。
さらに,チャンネル間のクロストークを抑えるため,左右チャンネル間のコアスペーサーとして,静電シールド効果の高い非
磁性高電導材料と,磁気シールド効果が優れたパーマロイによるシールド板を使用した二重のシールドを行っていました。
高い周波数に対して効果のある静電シールドと低い周波数に効果のある磁気シールドの二重シールドとさらに,精度の高
いコア加工技術により両チャンネル間に適度な振り分け角度をもたせ,ギャップを深くとることによってチャンネルセパレーシ
ョンを高めていました。

CT-970では,CT-A1と同じく「Auto BLEシステム」が搭載されていました。「Auto BLEシステム」は,4ビットのマイ
クロプロセッサーの制御により,録音バイアス,録音レベル(テープ感度)。録音イコライザーを個々のテープに自動的に合
わせるいわゆるオートチューニングシステムで,スイッチ一つで,バイアス,レベル,イコライザーが基準信号をもとに各16
ステップの中から最適値に設定され,約10秒でチューニングが完了し,録音スタンバイ状態になるというものでした。また
バイアスについてはマニュアルでの調整機能もあり,音質の調整が可能になっていました。

走行系は,2モーター・クローズドループデュアルキャプスタン方式で,テープ走行の安定化を図っていました。キャプスタン
はクォーツPLL D.D.モーターにより駆動され,リール駆動用のコアレスモーターとのコンビネーションにより,ワウ・フラッター
0.023%以下という優れた回転性能を実現していました。

個性的なデザインも特徴の一つでした。各種操作ボタンをパネル右側に集中させ,パネル中央には集中表示ボードが配置
された同時期の同社の機器に共通する特徴あるデザインでした。特に,中央の集中表示ボードには,レベルメーター,4桁
電子カウンター,信号ルート,Auto BLE動作,テープの種類,ドルビーNRシステムのON/OFF,テープの走行状態,テ
ープ残量の表示が行われる多機能なものでした。このデザインと操作系は他の機器とのマッチングが難しいなど,好みが
分かれる部分もありましたが,実は意外に見やすく使いやすいものでした。

以上のように,CT-970は,個性的な外観デザインの中に,優れた基本性能と操作性を備えた,使いやすく高性能なカセ
ットデッキでした。そのデザイン故か広く人気を得るまでには至りませんでしたが,知る人ぞ知る隠れた名機だったと思って
います。
 
 

以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。
 

音質のために新技術を投入。
操作性は感覚重視。
リボンセンダストヘッド,
Auto BLEシステム,
LED集中表示ボード採用。

◎テープの音をいっきょに高めた世界初の
 リボンセンダストコンビネーション3ヘッド。
◎わずか10秒であらゆるテープの特性にジャストフィット。
 ベスト録音のためのAuto BLE(オート・バイアス・レベル
 ・イコライザー)システム。
◎2モーター・クローズドループデュアルキャプスタンにより,
 安定したテープ走行を実現。
◎カセットデッキの新しいカタチを提示する
 イルミネーションインジケーションと操作性。
 
●CT-970の仕様●

 
トラック形式 4トラック2チャンネルステレオ
ヘッド リボンセンダスト再生ヘッド
リボンセンダスト録音ヘッド コンビネーション型×1
特殊合金消去ヘッド×1
モーター 定速ドライブ用 クォーツPLL DDキャプスタンモーター×1
リールドライブ用     コアレスモーター×1
ワウ・フラッター 0.023%(WRMS)
早巻速度 90秒以内(C−60)
周波数特性) ノーマルテープ−20dB録音 20〜20,000Hz
                  25〜18,000Hz±3dB
クロームテープ−20dB録音 20〜22,000Hz
                  25〜20,000Hz±3dB
クロームテープ0dB録音    20〜12,000Hz
メタルテープ−20dB録音   20〜22,000Hz
                      25〜20,000Hz±3dB
メタルテープ0dB録音      20〜15,000Hz
Auto BLE使用時(−20dB録音) 30〜16,000Hz±1.5dB
SN比  ドルビーOFF  60dB以上
 ドルビーON  70dB以上(5kHz以上)
  ※第3次高調波歪率3%,聴感補正
歪率 1.2%以下(0dB)
操作部 フェザータッチ式ダイレクトチェンジ
入力
(感度/最大許容入力/インピーダンス)
マイク×2 0.3mV/100mV/10kΩ,6mmφジャック
       (適合マイクインピーダンス250Ω〜30kΩ)
ライン×2 65mV/15V/65kΩ,ピンジャック
出力
(基準レベル/最大レベル/負荷インピーダンス)
ライン×2 450mV/640mV/50kΩ,ピンジャック
ヘッドホン  70mV/90mV/8Ω,6mmφステレオジャック
外形寸法 420W×130H×358Dmm
重量 9.2kg
付属機能 ●Auto BLEシステム(自動バイアス・レベル・イコライザー調整)
●ドルビーシステム(LED表示付)
●ピークホールド機能付2色LEDレベルメーター(−30〜+10dB)
●4桁LEDテープカウンター
●バイアス微調整用ボリューム
●メモリーストップ/プレイ
●タイマースタンバイ機構
●自動テープたるみ除去装置/ATLC
●RECミュート
●カセット背面照明
●パワーイジェクト機構
●テープ走行インジケーター
●テープ残量インジケーター
※本ページに掲載したCT-970の写真,仕様表等は1980年9月のパイオニアのカタログ
 より抜粋したもので,パイオニア株式会社に著作権があります。したがって,これらの写
 真等を無断で転載・引用等することは法律で禁じられていますのでご注意ください  
    

 
★メニューにもどる        
 
 

★テープデッキPART2にもどる
 
 
 
 
 

現在もご使用中の方,また,かつて使っていた方。あるいは,思い出や印象のある方
そのほか,ご意見ご感想などをお寄せください。                      


メールはこちらへk-nisi@niji.or.jp

 
 
 
 
inserted by FC2 system