PIONEER
CT-980
STEREO CASSTTE DECK ¥109,800
パイオニアが1981年に発売したカセットデッキ。前年に発売された
CT-970に非常によく似てい
ますが,
実際,そのCT-970をベースにオートリバース機能を搭載し,多機能化を図ったモデルで,当時のパイオ
ニアのオーディオ機器に共通したユニークなデザインが目を引きますが,すぐれた性能と機能をもったモ
デルでした。
CT-980の最大の特徴は,3ヘッドカセットデッキとして,再生のみではありましたが,初めてオートリバー
ス機能を実現していたことでした。そのために,新たに3DDメカニズムが搭載されていました。カセットデッ
キの走行メカニズムには,テープを定速で走行させるためのキャプスタン機構と,カセットテープの2つの
ハブを回転させ,テープの送り出しと巻き取りをするリール軸回転機構の3つの回転系があり,通常カセッ
トデッキでは,いずれかを兼用することで,2つまたは1つのモーターで駆動していました。CT-980の3DD
メカニズムでは,キャプスタン駆動,2つのリール駆動をすべて専用のモーターによるDD(ダイレクトドライブ)
方式で行うようになっており,ベルトやアイドラーなどの伝達機構が省略され,回転精度をはじめとする基本
性能が高められていました。さらに,この3つのモーターを専用のマイクロプロセッサーで制御することで,俊
敏な走行系の動作と多機能化が実現されていました。
キャプスタンモーターには,コアレス&スロットレス構造のクォーツPLLブラシレスホールモーターが採用
され,キャプスタンの駆動はフォワード時にはモーターの回転数がそのままキャプスタンの回転数となる
ダイレクトドライブ,リバース時にはキャプスタンモーターの駆動力をリバースキャプスタン側のフライホ
イールに伝えるという,精度の高い方式が高精度なテープ走行を実現していました。リール台駆動用モー
ターには,微振動の少ないコアレス&スロットレスのDCサーボホールモーターが採用され,ローター自
体がリール台となるダイレクトドライブ方式により,すぐれた耐久性と安定したテープトランスポートを実
現していました。
CT-980には,再生オートリバース機構が搭載されていました。LEDセンサーによりリーダーテープ部
を検出してすばやくリバースさせるクイックリバース方式が採用されており,スピーディーなリバースが
可能となっていました。また,ヘッドの切り換えは,ヘッドが回転するロータリー方式が採用され,フォワー
ド時,リバース時ともに同じヘッドによる再生が行われるようになっていました。
再生オートリバースに加え,3DD方式+マイクロプロセッサー制御による多彩な機能が搭載されてい
ました。
(1)自動的にテープの未録音部分を探して4秒間の曲間を設定してストップする「ブランクサーチ」
(2)早送りと再生を繰り返し,曲のイントロ(約7秒間)を次々と再生していく「インデックススキャン」
(3)8秒間以上の無録音部分を自動的に早送り,次の曲頭より再生する「スキップ再生」
(4)片面の曲が終わった後,残りの無録音部分を早送りで飛ばし,自動的にリバースする「スキップリバー
ス」
(5)前後の曲の頭出しができる「クィックミュージックサーチ」
(6)同じ曲を8回まで繰り返して再生できる「ミュージックリピート機構」
など,それまでのパイオニア製デッキにはなかった,新しい便利な機能が満載され,当時,新鮮な感じが
しました。
CT-980には,CT-970より引き継いだ「リボンセンダストヘッド」が搭載されていました。「リボン
センダス
トヘッド」は,パイオニア自慢の高性能ヘッドで,優れた高域特性,高SN比,広ダイナミックレンジなどの優
れた特性を誇りました。従来のセンダストヘッドがセンダストの固まりをスライス加工した0.2〜0.3mm程
度の薄さのものを2〜3枚ラミネートしたものであったのに 対し,「リボンセンダストヘッド」は,溶融状態の
センダストをノズルより噴出させ,直接ロールを通してわずか50ミクロンに薄帯化し,11枚もラミネートした
ものでした。このような薄膜化と多層ラミネートにより,センダストの持つ透磁率の高さを十分に生かすことが
可能になり,渦電流の発生を抑え,バイアス効率は従来のセンダストヘッドの約2倍に達するなど優れた特
性を実現していました。
CT-980では,このリボンセンダストという基本構造を生かしたコンビネーション録音・再生ヘッドを搭載した
3ヘッド構成になっていました。リボンセンダストの優れた特性による高飽和磁束密度,高感度を生かして高
域補償量を低く抑えることが可能になり,録音時の歪み感の低減と広ダイナミックレンジが実現していました。
さらに,チャンネル間のクロストークを抑えるため,左右チャンネル間のコアスペーサーとして,静電シールド
効果の高い非磁性高電導材料と,磁気シールド効果が優れたパーマロイによるシールド板を使用した二重の
シールドを行っていました。高い周波数に対して効果のある静電シールドと低い周波数に効果のある磁気シー
ルドの二重シールドとさらに,精度の高いコア加工技術により両チャンネル間に適度な振り分け角度をもたせ,
ギャップを深くとることによってチャンネルセパレーションを高めていました。
CT-980では,CT-970と同じく「Auto BLEシステム」が搭載されていました。「Auto BLEシステム」は,4
ビットのマイクロプロセッサーの制御により,録音バイアス,録音レベル(テープ感度)。録音イコライザーを個々
のテープに自動的に合わせるいわゆるオートチューニングシステムで,スイッチ一つで,バイアス,レベル,イコ
ライザーが基準信号をもとに各16ステップの中から最適値に設定され,約8秒でチューニングが完了し,録音
スタンバイ状態になるというものでした。このシステムは,留守録音時にもはたらくようになっていました。
ノイズリダクションとして,ドルビーBタイプに加え,新たにドルビーCタイプが搭載され,ダイナミックレンジの拡
大が図られていました。ワイドレンジ化に対応して,レベルメーターも−30dB〜+10dBの2色LEDピークレベ
ルメーターが搭載されていました。また,4桁の電子カウンターは,リアルタイムカウンターになっており,左右リー
ルの回転数を直接ホール素子で検出し,マイクロプロセッサーで演算する高精度な残量検出が可能となってい
ました。定速時は,秒単位で,FF/REW時には10秒単位でテープ残量を表示でき,通常の4桁デジタルカウン
ターにも切り換えられるようになっていました。
CT-980はCT-970と同様に,個性的なデザインも特徴の一つでした。各種操作ボタンをパネル右側に集中さ
せ,パネル中央には集中表示ボードが配置された同時期の同社の機器に共通する特徴あるデザインでした。特
に,中央の集中表示ボードには,上述のレベルメーターの他,4桁電子カウンター,信号ルート,Auto BLE動作
テープの種類,ドルビーNRシステムのON/OFF,テープの走行状態,テープ残量の表示が行われる多機能なも
のでした。このデザインと操作系は他の機器とのマッチングが難しいなど,好みが分かれる部分もありましたが,
実は意外に見やすく使いやすいものでした。
以上のように,CT-980は,前モデルCT-970をベースとしながらも,思い切った多機能化が図られ,カセットデッ
キに対するパイオニアの熱意が表れていた1台でした。そして,ここでの基本設計は,次モデルCT-90R等に受
け継がれていきました。