CX-10000の写真
YAMAHA CX-10000
NATURAL SOUND CNTROL AMPLIFIER ¥800,000

1986年にヤマハが発売したコントロールアンプ。フロントパネルの「Limited Centennial Edition」という
ロゴが示すように,楽器メーカーとして1887年に創業したヤマハが創業100年を迎える記念碑としての限
定生産モデルともいえるシリーズ「10000シリーズ」のコントロールアンプとして発売されました。デジタル
技術を駆使し,デジタル時代のコントロールアンプとして多機能と高性能を両立させたヤマハの野心作だっ
たと思います。

CX-10000の大きな特徴として,従来のD/Aコンバーターを内蔵したデジタル対応アンプから前進して,
デジタル技術を,音響補正・音場補正にも積極的に生かしていこうとする設計がありました。そのために,
DEQ(デジタル・パラメトリック・イコライザ)及び,DSP(デジタル・サウンドフィールド・プロセッサ)の2大
機能が搭載されていました。

DEQは,デジタル技術を生かしたいわゆるGEQ(グラフィック・イコライザ)で,DEQの大きな特徴として,素
子のばらつきによる特性の劣化がなく,デジタルならではの超多機能,高精度,高音質を誇るというもので
した。
CX-10000のDEQは,LOWバンド,MIDバンド,HIGHバンドの3バンド・パラメトリック構成のもので,さら
に,LOWカットフィルタ,HIGHカットフィルタが組み込まれていました。LOWバンドは20Hz〜500Hz,HIGH
バンドは2kHz〜20kHzをカバーし,MIDバンドはLOW・HIGH両バンドをまたがるように,LOW・HIGH各
バンドで設定された中心周波数間最大22Hz〜18kHzをカバーするようになっていました。これらを合わせ
て20Hz〜20kHz間,1/6オクターブステップ,61ポイントの中心周波数の中から選択できるようになって
いました。レベル調整は,3バンドともに0.1dBステップ,−12dB〜+6dBでの調整ができ,Qは標準的な
0.7からより急峻な1.4,3.0,6.0の4段階に変えられ,イコライジングカーブをブロードにもナローにも変
化させることができるようになっていました。
この3バンドの調整だけで,中心周波数,レベル,Qを組み合わせて得られるイコライジングカーブは約8兆
通りに達し,スロープ特性6dB/oct,12dB/oct,18dB/octの3段階,カットオフ周波数14Hz〜900Hz
間,37ポイントのローカットフィルタ,カットオフ周波数1kHz〜19kHz間,19ポイントのハイカットフィルタを
加えると実に約5京通りの調整が可能というすさまじいものでした。
このDEQの内部演算は32ビット,ダイナミックレンジは約200dBに達するもので,人間の耳の最大ダイナミ
ックレンジ140dBをも遙かに凌駕する広大なダイナミックレンジを誇りました。

DSPは,それまでのサラウンド技術や,デジタルディレイなどの技術をさらに進めたもので,同じ年に,ヤマハ
はDSP-1という形で,DSP(デジタル・サウンドフィールド・プロセッサ)をすでに発売していました。DSP-1
は,実測データに基づく音場空間特性をメモリーし,入力音楽信号との高速演算処理により360度全周方向
からの自然反射音を生成し,生の演奏会場に近い音場を創生しようとするもので,ヤマハの高いデジタル技
術を生かしたものでした。CX-10000にも,このDSP-1と同じDSPが搭載されていました。DSPの構成は,
キーデバイスとして,ヤマハオリジナルのCMOSタイプVLSI,高品位デジタルサウンドプロセッサDSP LSI
3個が搭載され,音楽信号データメモリー用としてDSP LSI1個につき256KビットのDRAM6個を直結,3
個のDSP LSIに対して合計18個のDRAMが割り付けられ,総メモリー576Kバイトが装備されていました。
また,コンサートホールや教会などで実測した反射音データに基づく音場空間特性のエコーパターンメモリー
用には256KビットROMが搭載されていました。このROMには,初期反射音データ,初期反射音データ+残
響音データ,残響音データの3タイプが集積されており,初期反射音データの場合では,1chあたり最大22本
4ch合計88本もの反射音データを格納されていました。これらは,ホール1からシアター3までの全16プログ
ラムとして用意され,各プログラム選択に応じて読み出されるようになっていました。パラメーターコントロール
は,1プログラムにつき6パラメーターの全96パラメーター,1msステップのディレイ制御,1%ステップの残響
レベル調整などができ,自由な音場アレンジができるようになっていました。
また,これらのDEQ,DSPでコントロールされた特性を記憶しておく機能も備え,16通りのサウンドメモリー機
能が装備されていました。このメモリー機能は,DEQ,DSPそれぞれ単独のメモリー,及びDEQとDSPを組
み合わせてのメモリーも可能という便利なものでした。

CX-10000は,デジタル時代,AV時代を見据え,アナログ,デジタル,ビデオなど様々なソースに積極的に
対応しようとする設計であったため,CD,DAT1・2,PHONO AMP,TUNER,TAPE1・2の7系統のハイ
レベルアナログ入力端子に加え,5系統のデジタル入出力端子,4系統のビジュアル入力,2系統の映像モ
ニター出力を装備していました。

デジタル入出力は,CD,DAT1,DAT2,VDP1,VDP2の5系統で,75Ω同軸ピンジャック仕様でした。
DAT1,DAT2は,相互ダビングも可能なデジタルREC OUT端子付きで,当時将来に想定されていたVDP
のデジタル音声出力に対応して,VDP音声入力2系統にもデジタルイン端子を装備していました。
D/Aコンバーターは,当時ヤマハが展開していたハイ・ビットD/A変換システムである18ビット動作のもの
を搭載し,メイン,フロント・プレゼンス信号,リア・プレゼンス信号ともにL・R独立・ツイン構成となっていました。
CX-10000は,さらにA/Dコンバーターを搭載し,内蔵したDEQ,DSPを,アナログソースに対しても使用
できるようになっていました。A/D変換は,サンプリング周波数48kHz,量子化16ビット直線の,DATと同
レベルのものを搭載していました。さらに,サンプリングした入力信号に対してディザ信号を重責し,D/A変
換後にディザ信号を減算することにより量子化エラーを大きく低減するディザ回路を搭載していました。A/D
コンバーターには,ヤマハ独自のADA LSIを使用し,L・R独立ツイン構成となっていました。

ボリュームには,アンプそのものの利得を可変させることで任意のボリュームレベルを得ることができるVCA
(Voltage Control Amplfier)を搭載していました。VCAはプロ用のミキサーなどで使用されているもので,
CX-10000では,さらにメカ式ボリュームを大きく上回るべく高性能・高品質な設計となっていました。VCA
のアンプ部には64個の超ローノイズ・トランジスタにより構成された1チップICを開発・搭載していました。この
VCA ICを片chにつき,アナログ入力直後のVCA1に対して3個,さらにアナログ出力直前のVCA2に対して
1個をそれぞれ搭載し,高域伝送特性300kHz,歪率0.003%以下の性能を得ていました。VCAの制御方
式は,ボリュームの回転角に対する制御電圧をA/Dコンバーターを介してデジタル信号に変換し,それを内蔵
のマイコンシステムデータテーブルを参照して減衰量を読み出し,VCA1,VCA2の2つのVCA,デジタル入
力直後のDEQに送り出すことで行うというものでした。VCA1,VCA2にはそれぞれ専用のデーターテーブル
が用意されていて,デジタル信号をD/Aコンバーターを介してコントロール電圧に変換し,VCA ICを動作,
VCA1が+20〜−6dB,VCA2が−6〜−∞dBの各ゲインを担当し,アナログインからのソースだけでなく,
デジタルインのソースも統括的に制御し,ボリューム自体は通常のアナログ感覚でありながら,高度な制御と
最低限の音質劣化,ガリなどのない高い耐久性,というすぐれた性能をもつものでした。
また,ボリュームプリセット機能により,入力ソースごとに異なる信号レベルをコントロールアンプ側で微調整で
きるようになっており,各入力11系統それぞれに対して,入力感度を0〜−6dBの範囲で設定でき,プログラ
ムソース間の温良さをゼロに調整できるようになっていました。
内部配線の引き回し,接点の酸化による伝送特性の経年変化を抑えるため,アナログ,デジタル,ビデオの
各入出力切換には,ディスクリート・トランジスタを使用した8ビットマイコン制御のオリジナル電子スイッチを
採用し,VCAとあわせて,入力から出力まで無接点コントロールを実現していました。また,高度なコントロー
ルが離れて操作できるワイヤレスリモコンを装備し,内部の信号経路にコントロール信号が関与しないオー
ル無接点電子コントロールの利点を生かし,高音質・高精度のリモートコントロールができるようになっていま
した。

CX-10000の内部CX-10000のユニットアンプ

これだけの大規模なコントロールアンプだけに,筐体の構造もしっかりしたものとされ,フロントパネル9mm厚
トップ&ボトムプレート5mm厚,リアパネル3mm厚の,いずれも高剛性の非磁性アルミ押し出し材を用いた
もので,剛体構造となっていました。また,アナログ部とデジタル部の相互干渉を抑えるために,アナログ部と
デジタル部を上下に2分割した高剛性2BOXシャーシ構造とされていました。センタープレートには,5mm厚
の非磁性アルミ押し出し材を使用し,アナログ部のマザーボード,デジタル部の基板,及びDEQ,DPS基板
は,10mm径の真鍮削り出しポストでこのセンタープレートに固定され,振動による悪影響を抑えていました。
振動や外来ノイズの影響を受けやすいアナログ回路は,セクションごとに基板を分割したユニットアンプ構成
を採用し,VCA1(L/R),VCA2(L/R,FL/FR,RL/RR),ローパスフィルター(L/R,FL/FR),ミューティ
ングドライブ回路の合計12個のユニット基板に分割し,さらに外来ノイズの影響を防ぐために高剛性のアルミ
押し出し材による6個のユニットハウジングに格納する構造となっていました。

電源部は,アナログ部,デジタル部,ビデオ部を電源回路も含めて分離した3トランス構成となっていました。
各トランスは高性能オリエントコアを使用し,リーケージフラックスを極小にするために低磁束密度で使用し,
さらに有害な振動を抑えるためにエポキシ樹脂を内部に充填した構造のものを搭載していました。

各パーツも高品質のものが採用されていました。アナログの各ユニットアンプ基板,及びマザーボード,デジ
タル部のデジタルコントロール基板及びデジタルプロセッシング基板には,耐久性,温湿度特性に優れた
ガラスエポキシ基板が採用され,両面スルーホールとして電気特性,パーツの実装信頼性を高めていまし
た。
電源部に使われたコンデンサーもCX-10000用に開発されたオーディオ用低倍率・高音質ケミカルコンデ
ンサーで,その他銅箔マイラーコンデンサーなど高品質なものが搭載されていました。ピンジャックは,真鍮
削り出し金メッキ処理のものが搭載され,AC電源コードには,無酸素銅線による10mm径の極太ケーブル
が搭載されていました。
その他,CX-10000のパワーON/OFFに連動してパワーアンプMX-10000のパワーON/OFFを可能に
する専用ケーブル接続端子も付いていました。この端子では,相互の干渉を防ぐために,パワーコントロール
信号の送り出しにフォトカプラを使用していました。

以上のように,アナログ技術,デジタル技術と,ヤマハがもてる技術をフルに動員したかのようなCX-10000
は,非常に先進的な内容を持ち,超多機能と高音質を両立したまさに記念碑的名機でした。絹目を思わせる
繊細かつ滑らかな音は,まさに新しいヤマハビューティーを感じさせるものでした。
 
 

以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。


未知への飛翔。
いま,コントロールアンプが
新たなはじまりの時を告げます。

音響補正の常識を超える,
未曾有の高精度,驚異の高音質。
DEQ(デジタル・パラメトリック・イコライザ)。

◎デジタルが本当にもたらすもの。
 DEQ・DSPが解き明かす,
 コントロールアンプの未来像。
◎1/6オクターブステップ,61ポイント。
 未曾有のデジタル音響補正へ,
 DEQコントロール機能。
「らしさ」から「そのもの」の表現へ,
独創のオムニサウンド。
DSP(デジタル・サウンドフィールド・プロセッサ)。
◎16プログラム,96パラメータ。
 未体験のデジタル音場創生へ
 DSPコントロール機能。
◎好みに合わせて16通り。
 DEQ・DSP複合
 サウンドメモリー機能。
◎デジタルインtoデジタルコントロール。
 情報劣化のない信号伝送を実現。
 5系統デジタルI/O(入出力端子)。
◎アナログインtoデジタルコントロール。
 DATクオリティの,
 ディザ回路搭載A/Dコンバータ。
◎S/N比115dB,Dレンジ100dB。
 微少レベルの再現性にすぐれた
 ハイビットD/A変換システム。
VCA,電子スイッチによる
無接点・入出力コントロール。
デジタル,アナログ,ビデオを統合する
高品位AVセンター機能。
◎アナログ高忠実増幅伝送。
 広帯域300kHz,低歪率0.003%の
 VCAボリュームコントロール。
◎入力ごとの音量差をゼロ調整。
 インプットレベル・ボリュームプリセット機能。
◎8ビットマイコン制御の
 無接点コントロール
 オリジナル電子スイッチ。
◎アナログ部とデジタル部を分離。
 非磁性アルミ押し出し・高剛性2BOXシャーシ。
◎振動,ノイズを遮断する,
 高剛性アルミハウジング収納
 ユニットアンプ。
◎4系統ビジュアル入力,2系統モニター出力。
 高品位AVセンター機能。
◎音質・精度に関わらない,
 真のコンビニエンス。
 リモートコントロールユニット。
◎高性能オリエントコア採用。
 アナログ/デジタル/ビデオ独立3トランス電源。
◎入力から出力に至るまで,
 すべてに高品位を主張する。
 クオリティ設計/クオリティパーツ。
 
●SPECIFICATIONS●


入力感度/インピーダンス アナログ 150mV/47kΩ
デジタル 0.5Vp-p/75Ω
ビデオ  1Vp-p/75Ω
全高調波歪率 0.003%(20Hz〜20kHz,アナログイン,DEQオフ)
最大出力電圧 3Vrms
S/N比 110dB(IHF-A補正)
周波数特性 15Hz〜100,000Hz(アナログイン,DEQオフ)
トーンコントロール特性 LOWバンド fo:20Hz〜500Hz
        レベル可変範囲:−12dB〜+6dB
        Q:0.7,1.4,3.0,6.0
MIDバンド  fo:22Hz〜18kHz
        レベル可変範囲:−12dB〜+6dB
        Q:0.7,1.4,3.0,6.0
HIGHバンド fo:2kHz〜20kHz
        レベル可変範囲:−12dB〜+6dB
        Q:0.7,1.4,3.0,6.0
LOWカットフィルタ fc:14Hz〜900Hz
            スロープ特性:6dB/oct,12dB/oct,16dB/oct
HIGHカットフィルタ fc:1kHz〜19kHz
            スロープ特性:6dB/oct,12dB/oct,16dB/oct
電源電圧・消費電力 AC100V 50/60Hz・70W
外形寸法 475W×177H×442Dmm
重量 25kg
※本ページに掲載したCX-10000の写真,仕様表等は1987年9月のYAMAHA
 のカタログより抜粋したもので,日本楽器製造株式会社に著作権があります。
 したがってこれらの写真等を無断で転載,引用等をすることは法律で禁じられて
 いますのでご注意ください。
 
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