パイオニアが1987年に発売した同社のDAT第1号機。なぜか各社のDAT1号機は1000番という型番が多かったの
ですが,このD-1000は後のDATでの同社の活躍を予感させるかのような力作となっていました。サイドウッドが付い
た光沢のあるブラックパネルのデザインは,同社の最高級LDプレーヤー等と共通するイメージを持ち,実に高級感があ
りました。ディスプレイが付いたメカニズム部全体がスライドして出てくるところもしゃれていました。D-1000の最大の特徴は,録音部にもデジタルフィルターを搭載した「ダブル・デジタルフィルター」になっていることで
した。当時,CDプレーヤーなどで一般的になっていたデジタルフィルターも,プロ用のPCMレコーダーでも録音側には
搭載されていませんでした。デジタルフィルターは,再生側では,D/Aコンバーターを,オーバサンプリングして動作さ
せることにより,後段のアナログローパスフィルターの負担を軽減し,周波数特性,歪率,群遅延特性を改善する効果
がありますが,録音時のA/D変換でも従来のアナログローパスフィルターだけを用いていた方式に比べ,アナログフィ
ルターの負担が軽減され,ローパスフィルターによる歪みや位相遅れの影響を受けにくくなるということでした。一般の抵抗ラダー型D/Aコンバーターでは,スイッチングの応答のバラツキなどによってアナログ出力が安定するのに
時間がかかることにより出力にグリッチと呼ばれるノイズが発生するため,デグリッチャーと呼ばれるノイズ除去のための
回路が設けられていました。D-1000では,D/Aコンバーターの動作を高速化することによりグリッチの発生そのものを
抑え,デグリッチャーを通さないシンプルな信号系路を実現して高音質を実現していました。D/Aコンバーターは左右独
立の2D/Aコンバーターとして,チャンネル間の位相差も排除していました。内部コンストラクションも高級機らしく凝ったものになっていました。オーディオ基板は,録/再,L/Rの回路を4分割し,
部品の配置,線材の長さまで対称型として,各回路ブロック間の干渉を排除してセパレーションの向上を図っていました。
さらに,オーディオ用基板は,片面をアースとしてノイズを低減し,また,基板上の電源ライン,グランドラインに1mm厚の
極厚無酸素銅板のバスバーを採用して,グランドの低インピーダンス化を図るとともに,基板自体の剛性も高めていました。
パーツも厳選された高品質のものを使用していました。カップリングコンデンサーには無誘導OFCリード線使用のメタライズ
ドポリエステル・フィルムコンデンサーを,また,信号系の抵抗類はOFCリード線,金メッキ黄銅キャップモールド型炭素皮
膜抵抗を採用していました。さらに,信号系の配線材には無酸素銅線を使用していました。フェーダーもプロ用のミキシング
コンソールに使用している高品質のスライドボリウムを採用していました。
さらに,装着したDATカセットテープの振動を抑えるために,カセットハーフを特殊な材質の樹脂で3点支持で上下から挟
み込むカセットスタビライザーを搭載していました。外部からの有害な振動に対しては真鍮ムクの重量級大型インシュレー
ターを採用し,このインシュレーターを無酸素銅ワッシャと銅ビスで高剛性二重シャーシにがっちりと固定して振動を排除す
る構造をとっていました。また,磁気歪みを低減するために銅メッキシャーシを使用し,パーツの非磁性体化も徹底していま
した。
電源部は,デジタル系とアナログ計を明確に分離した独立2トランス構成としてデジタル系からアナログ系への干渉を排除
していました。アナログ系のトランスには大きな負荷変動にも充分対応できるように巻線とリード線に無酸素銅線を使用した
2巻線構成とし,デジタル系のトランスも無酸素銅線使用の5巻線の電源構成で,あわせて7電源構成という強力な電源部
となっていました。電源回路全体を構成する電源基板には,通常の2倍ほどにあたる70μm厚の銅箔を使用した基板を搭
載し,電源インピーダンスの低減を図っていました。
D-1000はリニアスケーティング機構の中にデッキメカニズム部を組み込み,テープの走行状態を監視しながら操作できる
ようになっていました。このカセットトレイ部には,デジタル信号で直接ドライブされ,デジタル信号レベルを直接表示するデジ
タルドライブピークメーターが前面に付いており,デザイン的にも非常にしゃれていたように思います。メカニズム部には,ドラ
ム,キャプスタン,左右リールそれぞれに専用のモーターを配してDD(ダイレク・トドライブ)とした4DDメカニズムとしていまし
た。以上のように,D-1000は第1世代機の中でも最も高価な部類にはいるだけに,非常に凝った内容を持った高性能なDATデ
ッキでした。しかし,第1世代機に共通の問題点として,CDからのデジタル出力を録音できないという致命的な弱点を持って
いたことは実に残念でした。
以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。
パイオニアは主張します。
デジタルの音にも違いがある。録音/再生の限りない一致をめざし,
パイオニアのデジタルオーディオ技術の粋をここに集約。
「デジタルの音」に新しい基準を生み出した。◎入力と出力の波形を同一のものにするために,
録音側にデジタルフィルターを採用した
オーバーサンプリング・録/再独立ダブルデジタルフィルター。
◎わずかなスイッチングノイズも取り除き,
ダイナミックレンジを向上させる
オーバーサンプリング・グリッチレスD/Aコンバーター。
◎録/再,L/Rを4分割構成とし,
各回路ブロック間の干渉を排除した
ツイン・モノコンストラクション。
◎細部に至るまで徹底して歪と電気的な干渉をなくした
無誘導音質パーツ。
◎フィーリングのよいプロ仕様のフェーダーを採用。
◎カセットテープの振動を抑える新開発カセットスタビライザー。
◎外部からの有害な振動を回路に伝えない
重量級大型インシュレーター。
◎磁気歪みを大幅に低減した
銅メッキシャーシ&デジタル/アナログ分離構成。
◎安定した電源供給を実現し,ノイズを寄せつけない
2トランス7電源。
◎低ノイズ,低インピーダンスの銅箔厚70μm電源基板。
◎録/再中のテープの走行が直視できる
パイオニア独自のリニアスケーティング機構。
◎信頼性の高い4DDメカニズムと,
確実な高速サーチを可能にしたサーボ機構。
◎適正録音レベルを設定できるピークマージンインジケーター。
◎デジタル信号を直接バー表示する
デジタルドライブピークメーター。
◎実に多彩な機能で優れた操作性を発揮する
サブコード・イージーオペレーション。
●オートIDレコーディング機能
●オートリナンバー機能
●プログラムナンバーセッティング機能
●ガイディングオペレーション機能
●ブランクモニター機能
◎ソースによって好みで選べるエンファシスON/OFF機能。
◎将来のデジタルリンクに向けての可能性を秘めた
光ケーブル用入出力端子。
型式 | 回転ヘッド方式デジタルオーディオテープデッキ |
テープスピード | 8.15mm/s |
量子化ビット数 | 16ビットリニア |
サンプリング周波数 | 48kHz録音/再生
44.1kHz再生 32kHz再生 |
録再周波数特性 | 3〜22,000Hz±0.5dB(標準モード) |
S/N | 95dB以上 |
ダイナミックレンジ | 94dB以上 |
全高調波歪率 | 0.003%以下(1kHz) |
ワウ・フラッター | 測定限界(±0.001%W・PEAK)以下 |
アナログ入出力端子 | ライン入力端子 RCA PIN×2 250mV/470kΩ
ライン出力端子 RCA PIN×2 250mV/100Ω |
デジタル入出力端子 | 同軸入力端子 RCA PIN×1 0.5Vp-p/75Ω
同軸出力端子 RCA PIN×1 0.5Vp-p/75Ω 光入力端子×1 光出力端子×1 |
寸法 | 457W×108H×390Dmm(突起物は含みません) |
重量 | 13.2kg |
消費電力 | 39.5W |
電源 | AC100V 50/60Hz |
※本ページに掲載したD-1000の写真,仕様表等は1987年5月のPIONEERの
カタログより抜粋したもので,パイオニア株式会社に著作権があります。したがって
これらの写真等を無断で転載・引用等することは法律で禁じられていますのでご注
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