PIONEER D-50
DIGITAL AUDIO TAPE DECK ¥85,000 
1991年に,パイオニアが発売したDATデッキ。パイオニアは,1987年のDATデッキの商品化のスタート
からDATに熱心なブランドで,ソニーと並び,数多くのモデルを発売していきました。そして,この年,D-90
の弟機として,当時最も低価格の据え置き型DATデッキとして,発売されたのがD-50でした。

A/Dコンバーター,D/Aコンバーターとも,抵抗器の誤差による変換誤差の発生といった問題がなく,非直
線性歪やゼロクロス歪の発生が原理的にない1ビット方式のコンバーターが搭載されていました。A/Dコン
バーターには,ΔΣ方式1ビットコンバーターが搭載されていました。D/Aコンバーターには,フィリップス製
のビットストリームD/Aコンバーター・SAA7350が搭載されていました。SAA7350は,は,アナログ信号
の波形をパルスの粗密波に変換するPDM(Pulse Density Modulation)方式で,ビット圧縮に伴う再
量子化ノイズを低減するノイズシェイピングも行われるようになっていました。これ以降,多くの1ビット系
機器に多く搭載されたディバイスでした。



ヘッドとしては,高出力ATヘッドが搭載されていました。トラックのトレース方向に対して20μmの均一な
トラック加工をした(ALL TRACK)構造が特徴のヘッドで,パイオニアの精密加工技術が生かされたもの
でした。耐摩耗性を向上させるために,ガラスをヘッド両側に溶着し,信号の出入り口であるギャップには
特殊なポリシング加工を施すなど,安定したテープタッチを実現していました。また,再生出力レベルを従
来より2~6dB高くすることでエラーレートも低く抑え,高精度な信号読み取りを可能にしていました。
ヘッドドラムの不要な振動がテープに伝わると,ヘッドとテープのタッチが不安定になり,正しい電磁変換
が阻害されることがあり,また,振動によるモーターの負荷変動が電源の変動要因となりアナログ回路へ
の影響もあります。こうした振動の影響を低減するために,回転ドラムの構造を根本から見直し,低振動
低騒音構造を採用し,駆動回路も振動の発生しにくいメカニズムとして,静粛性も高めていました。

メカニズム部には,特殊加工を施したフラットな構造を持つ1.6mmの高剛性フラットシャーシを採用し,メ
カニズムで発生する不要な振動をやわらげ,精度の高い安定したテープ走行を可能にしていました。振動
源に防振効果の高い樹脂系の部材を採用したサイレントメカも,メカニズム音を大きく低減していました。
また,カセットハーフを上下の特殊ゴムではさみ込み,さらに左右2ヶ所の樹脂で押さえ込むことでカセット
ハーフをしっかりと固定し,カセットハーフの振動を効果的に抑え,二重の防振構造でテープの安定走行を
可能にしていました。さらに,外部からの有害な振動をメカニズムと各回路に伝えないために,振動減衰特
性にすぐれた大型のハニカムインシュレーターとハニカムシャーシを採用していました。



アナログ入力端子からの信号は最短距離で入力ボリュームへ入り,信号経路の引き回しによる音質の劣化
を最少限に抑えるダイレクトコンストラクションが採用されていました。パーツの面でも高音質パーツが投入
されていました。

SCMSが搭載されており,48kH,44.1kHz,32kHzの各サンプリング周波数でデジタル録音が可能と
なっており,CDからのデジタル録音も可能となっていました。32kHzでは,半速のLPモードでの録音も可能
となっており,120分テープで最長4時間の録音が可能となっていました。入/出力は,アナログ入/出力,デ
ジタル同軸入/出力,デジタル光入/出力が装備されていました。

DATデッキとして,テープに記録されるTOC(テーブル・オブ・コンテンツ)やA-Time(アブソリュートタイム=
絶対時間)を利用して,様々な操作が可能となっていました。
ランダムに選曲する(ランダムプレイ),現在位置から希望する時間だけ前後にスキップする(タイムスキップ)
ボタンを押した時間のテープ上のポイントをマイコンが記憶し,そのポイントをワンタッチで再生する(ワンポイ
ントメモリー)など,手軽で多彩なプレイが可能となっていました。
テープのTOC情報を活用したAIサーチは,最速時で300倍(LP時は600倍)と,通常のサーチをはるかに
上回るハイスピードでのサーチが可能となっていました。さらに,TOC情報の記録されていないテープでも,
A-Time情報により,テープの最初からの経過時間が示され,スムーズなつなぎ録音,各曲の頭からの経過
時間表示,録音の終了点の表示などが可能で,リナンバーした際に自動的にTOC情報が記録されるように
なっていました。

以上のように,D-50は,パイオニアがDATの普及をよりめざそうと,D-90をベースに各部を合理化しコスト
パフォーマンスを大きく高めた1台でした。10万円を大きく切る価格ながら,しっかりと作り上げられ,機能面
でも音質面でもバランスのとれたDATデッキでした。


以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。



New1ビットA/Dコンバーター,
ビットストリームD/Aコンバーター搭載。
際立つクオリティと多彩な機能で
デジタルの魅力をぐっと
身近にするDATです。

◎新開発1ビットA/Dコンバーター,ビット
 ストリームD/Aコンバーター搭載。
◎高S/N,低歪率を実現したクリーンクロック回路。
◎高出力ATヘッドで,安定したテープタッチ
 高精度の信号読み取りを実現。
◎最長4時間の録音を可能にする
 LPモードに対応。
◎CD感覚で楽しめる便利なTOC機能を搭載。
◎高速AIサーチとTOCで,快適,多彩な
 オペレーションを実現。
◎オペレーション効果を高める時間情報。
◎高音質と多彩な機能を支えるニューメカニズム
 搭載。徹底した防振設計。
◎新開発の低振動・低騒音回転ドラムを採用。
◎入力ボリウムにダイレクトコンストラクション採用。




●D-50の主な仕様●

型式 回転ヘッド方式デジタルオーディオテープレコーダー
テープスピード 8.15mm/s(標準)
4.075mm/s(LP)
録音時間
(標準120分テープ使用時)
SP:最大120分,LP:最大240分(120分テープ使用時)
量子化ビット数 16ビット・リニア,12ビット・ノンリニア(LP)
サンプリング周波数
(SCMS搭載)
48kHz(録音・再生)
44.1kHz(デジタル入力のみ録音・再生)
32kHz(SP:デジタル入力のみ録音・再生)
32kHz(LP:録音・再生)
録再周波数特性 SP:2Hz~22kHz (±0.5dB)
LP:2Hz~14.5kHz (±0.5dB)
SN比 91dB以上
ダイナミックレンジ 91dB以上
全高調波歪率 0.0045%以下
ワウ・フラッター 測定限界(±0.001%W・PEAK)以下
アナログ入出力端子 ライン入力端子 RCA PIN1系統 500mV
ライン出力端子 RCA PIN1系統 500mV
デジタル入出力端子 同軸入力端子 RCA PIN×1 0.5Vp-p
同軸出力端子 RCA PIN×1 0.5Vp-p
光入力端子×1
光出力端子×1
寸法 420W×133.5H×316.5Dmm
重量 5.4kg
消費電力 20W
電源 AC100V 50/60Hz


※本ページに掲載したD-50の写真,仕様表等は1991年11月の
PIONEERのカタログより抜粋したもので,パイオニア株式会社に
著作権があります。したがってこれらの写真等を無断で転載・引用等
することは法律で禁じられていますのでご注意ください。 
       
  
 
 
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