D-80の写真
PIONEER D-80
DIGITAL AUDIO TAPE DECK ¥150,000

1991年に,パイオニアが発売したDATデッキ。パイオニアは,1987年のDATデッキの商品化のスタートから
DATに熱心なブランドで,数多くのモデルを発売していきました。そうした中,同社としては初めて中央にメカニズ
ム部をレイアウトした「ミッドシップマウントメカニズム」を採用したのがD-80でした。

D-80の最大の特徴は,上述のように「ミッドシップマウントメカニズム」の採用でした。オーディオ系,デジタル系
を明確に左右に分離し,メカニズム部を中央にレイアウトすることで各部の干渉による音質への影響を抑えてい
ました。この当時,CDプレーヤーやカセットデッキにおいてもこのようなレイアウトが見られるようになっていまし
た。筐体の重量バランスなどの点でもメリットがあったと考えられます。

D-80の内部

A/Dコンバーター,D/Aコンバーターとも,抵抗器の誤差による変換誤差の発生といった問題がなく,非直線性
歪やゼロクロス歪の発生が原理的にない1ビット方式のコンバーターが搭載されていました。A/Dコンバーター
には,ΔΣ方式1ビットコンバーターが搭載されていました。D/Aコンバーターには,256fsという極めて高いオ
ーバーサンプリングで動作し,よりきめ細かく滑らかな出力が得られる,パイオニア自社開発のハイスピード・パ
ルスフローD/AコンバーターがL・R独立でツインで搭載されていました。

A/Dコンバーター,D/Aコンバーター,デジタルフィルタークリーンクロックU

1ビット方式の中枢にあたるシステムクロックの信号の揺れは音質劣化につながるため,クロック信号の揺れを
排除するために,信号処理部とオーディオ部のそれぞれに専用のクロックを搭載し,信号処理部からオーディオ
部伝送されるデータと伝送クロックを,オーディオ部の専用クロックで取り込むクロックジッターサプレッサー回路
と,高精度・高安定のリチウムタンタレート発振子を組み合わせたクリーンクロックU回路を新開発・搭載していま
した。

D-80のヘッドドラムD-80のメカニズム部

ヘッドとしては,高出力ATヘッドが搭載されていました。トラックのトレース方向に対して20μmの均一なトラック
加工をした(ALL TRACK)構造が特徴のヘッドで,パイオニアの精密加工技術が生かされたものでした。耐摩
耗性を向上させるために,ガラスをヘッド両側に溶着し,ギャップには特殊なポリシング加工を施すなど,安定した
テープタッチを実現するための高度な加工が行われていました。また,再生出力レベルを従来の2〜6dB高くする
ことで,エラーレートも低く抑えられていました。
ヘッドを搭載したドラムの振動がテープに伝わることによるヘッドタッチの不安定=読み取りや記録の不安定を抑
えるため,メカニズム部に1.6mm厚の鋼板製高剛性フラットシャーシが採用され,振動源に防振効果の高い樹脂
系の部材を使用し,振動を抑え,安定したドラム回転とテープ走行が実現されていました。さらに,カセットの確実
なホールドのために,特殊ゴムでカセットハーフを上下からはさみ,左右からも樹脂ではさんで固定して振動を効果
的に吸収する構造のカセットスタビライザーが搭載されていました。また,高精度・高剛性のメカニズムをベースに
したクィックレスポンスメカニズムにより,カセットを入れてから再生開始までの時間など,メカニズムの動作時間が
大幅に短縮されていました。
また,外部からの振動や内部で発生する振動の音質への影響を抑えるため,筐体全体にも対策が行われていま
した。底面パネルに2mm厚の高剛性極厚シャーシが採用され,大型インシュレーターが底部に装備されていまし
た。さらに,フロントパネル周辺の振動を抑えるために,防振ゴムを使用したパネルスタビライザーが採用されてい
ました。

DATであるD-80では,録音時に記録されたTOC(TABLE OF CONTENTS)情報により,ソースのトータル曲
数とトータル時間,各曲の演奏時間,各曲の開始時間,記録部分の残量時間など,ソースの管理と,ランダムに
選曲する(ランダムプレイ),現在位置から希望する時間だけ前後にスキップする(タイムスキップ),ボタンを押した
時間のテープ上のポイントをマイコンが記憶し,そのポイントをワンタッチで再生する(ワンポイントメモリー)など,
手軽で多彩なプレイが可能となっていました。
テープのTOC情報を活用したAIサーチは,最速時で300倍(LP時は600倍)と,通常のサーチをはるかに上回る
ハイスピードでのサーチが可能となっていました。さらに,TOC情報の記録されていないテープでも,テープを走行
(PLAY/FF/REWなど)させることでプログラムナンバーを読み取り,それらの位置をマイコンが記憶することで
TOC情報によるサーチと同様の高速AIサーチが可能となっていました。

以上のように,D-80は,DAT発売から4年後の製品だけあって,操作性,メカニズム,音質など,より完成度が高
まっていました。パイオニアのDATにかける意気込みが表れた1台だったと思います。


以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。



音の純度を高め,音楽の繊細な
ニュアンスを表情豊かに再現。
ミッドシップマウントメカニズム採用
リファレンスDAT,パイオニアD-80。

相互干渉を排除した
ミッドシップマウントメカニズム採用。
ハイスピード・パルスフローD/Aコン
バーターをツイン搭載。
高音質と多彩な機能が魅力の
リファレンスDAT。


◎オーディオ系とデジタル系を分離し,メカ
  ニズム部を中央にレイアウトした<ミッドシッ
 プマウントメカニズム>を採用。
◎ツイン搭載のオリジナル・ハイスピード・
 パルスフローD/Aコンバーター。
◎高S/N比,低歪率を実現したクリーン
  クロックU。
◎高精度な信号読み取りを実現した,高
  出力ATヘッド。
◎確実なテープタッチを実現した低振動の
  回転ドラムとカセットスタビライザー。
◎音楽の楽しみを拡げるTOC記録/再生
  機能を搭載。
◎スピーディな頭出しを実現した高速AI
  サーチ。
◎多彩なテープオペレーション機能。
◎最長4時間の連続録音/再生が可能な
  LPモードに対応。
◎エアチェックなど録音時に威力を発揮
  するデジタルメーターを採用。
◎低重心,高剛性シャーシの採用で,振
  動による悪影響を排除。
◎高音質を支える選び抜かれたパーツ。




●D-80の主な仕様●

型式 回転ヘッド方式デジタルオーディオテープレコーダー
テープスピード 8.15mm/s(標準)
4.075mm/s(LP)
録音時間
(標準120分テープ使用時)

SP:最大120分,LP:最大240分(120分テープ使用時)
量子化ビット数 16ビット・リニア,12ビット・ノンリニア(LP)
サンプリング周波数
(SCMS搭載)
48kHz(録音・再生)
44.1kHz(デジタル入力のみ録音・再生)
32kHz(SP:デジタル入力のみ録音・再生)
32kHz(LP:録音・再生)
録再周波数特性 SP:2Hz〜22kHz (±0.5dB)
LP:2Hz〜14.5kHz (±0.5dB)
S/N 92dB以上
ダイナミックレンジ 93dB以上
全高調波歪率 0.0038%以下
ワウ・フラッター 測定限界(±0.001%W・PEAK)以下
アナログ入出力端子 ライン入力端子 RCA PIN1系統 500mV
ライン出力端子 RCA PIN1系統 500mV
デジタル入出力端子 同軸入力端子 RCA PIN×1 0.5Vp-p
同軸出力端子 RCA PIN×1 0.5Vp-p
光入力端子×1
光出力端子×1
寸法 440W×152H×359.4Dmm
重量 9.8kg
消費電力 26W
電源 AC100V 50/60Hz


※本ページに掲載したD-80の写真,仕様表等は1991年11月のPIONEERの
カタログより抜粋したもので,パイオニア株式会社に著作権があります。したが
ってこれらの写真等を無断で転載・引用等することは法律で禁じられていますの
でご注意ください。 
       
  
 
 
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