Lo-D D-9
STEREO CASSETTE DECK ¥110,000
1982年に,ローディー(日立)が発売したカセットデッキ。日立はローディーブランドで数多くのすぐ
れたカセットデッキを出していました。昭和48年に世界初のコンビネーション3ヘッド搭載の3ヘッド
カセットデッキを発表した技術力は高く評価され,コンビネーション3ヘッド方式は,3ヘッドカセットデッ
キの標準的な方式ともなりました。
カセットデッキの分野では,ヘッドだけでなく,モーター,素材技術など各部にすぐれた基礎技術をも
つ日立ならではの高い技術が感じられる製品が発売され,その集大成的デッキとして,1981年に
D-2200MBが発売され,こちらも高い評価を得ました。その技術を全面的に継承した1台がD-9
でした。

D-9は,ローディーらしくコンビネーションヘッドによる3ヘッド構成で,録再ヘッドには,ローディー独
自の「ヒタセンライトR&Pヘッド」が搭載されていました。従来種々の技術的制約から不可能とされ
ていたセンダストとフェライトの同時加工に挑戦し,録音ヘッドにセンダストコア,再生ヘッドにフェライ
トコアを採用したR&Pコンビネーションヘッドとして完成させたものでした。
構造的にも多くの新技術が投入されていました。録音ヘッドでは,コイル部の磁芯(リアコア)にフェラ
イトを使用しテープ走行面ぎりぎりにまで出すという構造とし,渦電流損失の問題を解決していました。
また,センダストに高周波でSiO2(ガラスの主成分)をたたき出し付着させてギャップを作り,端部の
精度を大幅に向上させていました。これらの技術的アプローチにより,MML(中域のひずみ率3%の
記録レベル)を2.5dB,10kHzのMOL(最大出力レベル)を1.5dB改善していました。



ヒタセンライトR&Pヘッドは,コンビネーションヘッドの開発・発売10年の歴史の中で生まれたヘッド
として,これまでの技術をしっかり継承・進化させた内容を持っていました。ギャップ間隔1.4mmとい
う狭間隔でひとつのコンパクトなケースに納め,ハイパボリック(双曲線)形状,チタン溶射皮膜による
鏡のような滑らかなヘッド面とあいまって,2ヘッド機と変わらぬ滑らかなテープ走行および安定した
ヘッドタッチ,タイムラグが極少のアフターモニターを実現していました。
消去ヘッドには,フェライトガードダブルギャップメタル消去ヘッドが搭載されていました。また,ヘッド
部のクリーニング等がしやすいように,ヘッドメインテナンス専用ドアが設けられ,ヘッド部の前面が独
立して開くようになっていました。



キャプスタン用モーターには,ローディー自慢の「ユニトルクモーター」が使われていました。このユニト
ルクモーターは,8極に着磁された駆動用ドーナツ型マグネットと電気的に120度ずつずらした6枚の
8分割3相 コイルから発生するトルクが,相互に補完しあい,絶えず一定したトルクが発生し,安定し
た定速回転をするもので,同社のアナログプレーヤーなどにも使われていたモーターでした。このユニ
トルクモーターをキャプスタン駆動用にDDメカニズムで使用したユニトルクDDレッドモーターが搭載さ
れ,0.023%(WRMS)の優れたワウ・フラッター特性を実現していました。メカニズムはもちろんデュ
アルキャプスタン方式でした。さらに,モーター保持部シャーシにV.C.(バイブレーションカット)METAL
という,2枚の鋼板の間に薄い粘弾性高分子材料をサンドイッチした特殊な構造のパネルを採用し,フ
ラッター成分を遮断していました。

D-9には,D-5500で開発・初搭載され,D-3300Mで改良・強化されたオートチューニングシステム
ATRS(Automatic Tape Responce Search)がさらに改良されて搭載されていました。テープ1巻
ごとに,最適バイアス,最適録音感度,最適補償量をマイクロコンピュータが自動検出,録音回路をコン
トロールすることで,(1)バラツキの少ない平坦な周波数特性を獲得(2)各テープの感度補正を行うた
め,ドルビー録音感度補正が不要(3)バイアス不足による歪み悪化がない(4)不適当なバイアスによる
MOLの低下がないなどの効果が得られるシステムでした。ノーマル,クロム,フェリクロム,メタルの4つ
のテープポジションごとに1つずつデータのメモリーが可能となっていました。また,テストトーンの録音が
不可能なリーダーテープ部のとき,自動的に早送りして再びATRSテストを行う機構と,タイマー録音時
にもATRSとFIXEDが選べる,自動ATRS録音システムが搭載されていました。
そして,ATRSに加えて,テストトーンを用いて,録音感度をマニュアル調整するD.C.C.S.(ドルビーキャ
リブレーション・コントロール・システム)と録音イコライザーアンプの周波数を調整するイコライザーアジャ
ストも搭載されていました。

その他,機能的には,ノイズリダクションとしてドルビーB,Cを搭載,テープポジションが4ポジションで,
ノーマル,クローム,メタルに加え,フェリクロームポジションがあった数少ないカセットデッキとなりました。
(ソニー以外では珍しかったはずです。)レベルメーター,テープカウンターなどの表示系は,上級機の
D-2200MBとほぼ共通で,2色デジタル表示ピークメーター,テープ走行経過時間を分秒表示する
ELAPSED-TIMEと通常の3桁表示が並列したテープカウンターが搭載されていました。

以上のように,D-9は,ローディーのカセットデッキのプレステージモデルであるD-4桁シリーズの下に
位置するモデルの中で当時のトップとなるモデルで,上級機の技術をしっかり取り入れ,コストパフォー
マンスにすぐれた高性能高機能のカセットデッキとして完成されていました。クリアで明るい音は,音楽を
楽しく聴かせてくれる特性をもつものでした。


以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。



ATRS搭載・D.C.C.S&
EQマニュアル調整可能
ヒタセンライトR&Pヘッド採用の
3ヘッドDDデッキ。

◎録音ヘッドにセンダスト,再生ヘッドにフェライト
 素材を使用。余裕ある録音特性を実現した
 ヒタセンライトR&Pコンビネーションヘッド
◎録再独立ダブルドルビーB・C回路
◎テープ特性をコンピューターが自動検出する
 ATRSシステム
◎録音感度を調整するD.C.C.S
 (ドルビー・キャリブレーション・コントロール・システム)
 と録音イコライザーアンプの周波数を調整する
 イコライザーアジャストを装備。
 ATRS解除時にマニュアル調整が楽しめます。
◎ワウフラ0.023%を達成した
 ユニトルクDDレッドモーター
◎モーター保持部シャーシにV.C.METALを採用し
 音のにごりとなるフラッター成分を追放
◎ユニークなヘッドメインテナンス専用ドア
◎テープ走行経過時間分秒表示のELAPSED TIME
◎リーダーテープ早送りメカ
◎オートリワインド・プレイ&ストップ
◎コンピューターメモリーリワインド
◎ワンアクションタイマーON・OFFスイッチ
◎タイマーアラーム
◎ATRSテストデータバックアップ用リチウム電池内蔵
◎リモコン端子




●主な仕様●

録音再生ヘッド ヒタセンライト(センダスト・フェライト複合) 
R&Pコンビネーションヘッド×1
消去ヘッド フェライトガードダブルギャップ 
メタル消去ヘッド×1
モーター ユニトルクDDモーター(キャプスタン用)×1 
DCモーター(リール用)×1
ワウ・フラッター(WRMS) 0.023%  ±0.05%W・Peak
周波数特性 メタル   20~21,000Hz  30~20,000Hz±3dB(新EIAJ) 
クロム   20~20,000Hz  30~19,000Hz±3dB(新EIAJ) 
ノーマル 20~19,000Hz  30~18,000Hz±3dB(新EIAJ) 
フェリクロム  20~19,000Hz  30~18,000Hz±3dB(新EIAJ)
S/N メタルテープ 
     3%ひずみ 
     レベル聴感補正 
DOLBY・C・NR・ON 75dB  71dB(新EIAJ) 
DOLBY・B・NR・ON 69dB  65dB(新EIAJ) 
DOLBY・NR・OFF   61dB  57dB(新EIAJ)
入力インピーダンス/感度 LINE IN  50kΩ以上/100mV 
MIC(適合)300Ω~5kΩ/0.4mV
出力インピーダンス(負荷) LINE OUT   50kΩ以上 
HEADPHONE 8Ω~2kΩ
電源電圧 AC100V 50/60Hz(切換不要)
消費電力 26W
外形寸法 幅435×高さ115×奥行282mm
重量 6.3kg
※本ページに掲載したD-9の写真,仕様表等は1982年10月の
 Lo-Dのカタログより抜粋したもので,日立家電販売株式会社に
 著作権があります。したがって,これらの写真等を無断で 転載・
 引用等することは法律で禁じられていますのでご注意ください。

   
 
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