Ｄ-９７０

ＳＡＮＳＵＩ　Ｄ-９７０
ＳＴＥＲＥＯ　３-ＨＥＡＤ　ＣＡＳＳＥＴＴＥ　ＤＥＣＫ　￥９９，８００

１９８２年にサンスイが発売したカセットデッキ。サンスイはアンプ，スピーカーなどの分野では
メジャーなブランドでしたが，テープデッキではあまり注目されていませんでした。そんなサンス
イが発売した数少ない３ヘッドデッキがＤ-９７０で，当時の，サンスイの最上級機にあたる，本
格的な内容を持ったカセットデッキでした。

走行系は，キャプスタン用，リール駆動用にそれぞれ専用のモーターを搭載した２モーター構
成で，キャプスタン用モーターには，コギングの非常に少ないＦＧサーボコアレスモーターを搭
載し，ダイレクトドライブによる駆動メカニズムがとられていました。リール用にはトルクの大き
なＤＣモーターが搭載されていました。キャプスタン表面には，滑り止めとなる微細なディンプ
ルを設け，テープにかかるテンション安定化して走行性を高める「マイクログレイン加工」が施
されていました。

Ｄ-９７０の駆動部

さらに，音を濁らせる変調ノイズを低減するためにサンスイ独自の「アドバンスドＳＡＳＦ（Ｓａｎ
-ｓｕｉ　ａｕｔｏ　Ｓｃｒａｐｅ　Ｆｉｌｔｅｒ）」が搭載されていました。これは，弾性ベルトによりキャプスタン
に連動して回転するスクレープフィルターがテープの微細な振動をキャンセルするもので，スク
レープフィルターはキャプスタンと同径のフライホイールでテープ走行速度と一致して回転して
おり，より安定した効果が得られるようになっていました。また，テープテンションは，検出アー
ムを用いたテンションサーボを併用して一定に保たれ，ＳＡＳＦローラーへの接触も安定化さ
れていました。これらの結果，変調ノイズは１０dB以上低減され，走行系全体では，ワウ・フラ
ッター０．０２５％と高精度なテープ走行を実現していました。

Ｄ-９７０のヘッド周り

Ｄ-９７０は，サンスイでは数少ない（初？）の３ヘッド構成をとったデッキで，録音ヘッドと再生
ヘッドは，１パックに収められたコンビネーション型となっていました。録音ヘッド，再生ヘッドと
もＨｉｇｈ-ＢＳ（高飽和磁束密度）フェライトを使用したフェライトヘッドで，すぐれた高域特性と耐
摩耗性を実現していました。消去ヘッドもフェライト製のダブルギャップフェライトヘッドが搭載さ
れていました。
３ヘッド構成により，録音同時モニターが可能なこともちろん，テープモニタースイッチがＴＡＰＥ
になっていても，録音ポーズ時には自動的にＳＯＵＲＣＥに切り替わるオート機構ハンドオフモニ
ターが搭載されていました。

録・再アンプ回路には，サンスイ自慢のダイアモンド差動回路が搭載されていました。これは，
動特性の改善のためにサンスイが開発した回路で，ＮＰＮ-ＰＮＰトランジスターで構成した差動
増幅回路２組をシンメトリカルに配し，それぞれを対称の入力信号で駆動させるもので，強力な
ドライブ能力を持った差動回路構成でした。これにより，過渡的な入力信号に対しても十分な電
流余裕が確保され，しっかりとした信号増幅が得られるようになっていました。さらに，アンプ，メ
カニズム，コンピューター，それぞれを独立巻線の専用電源とし，±２電源ドライブ，ＤＣ構成と
単体アンプ並の構成としていました。

テープポジションは，ＮＯＲＭＡＬ，ＨＩＧＨ，ＭＥＴＡＬの３ポジションが備えられ，さらに，テープ１本
ごとに異なる特性に合わせるためのＣＯＭＰＵ-ＴＲＥＣ（Ｃｏｍｐｕｔｅｒｉｚｅｄ　Ｔａｐｅ　Ｒｅｓｐｏｎｓｅ　
Ｃｏｎｔｒｏｌ）が搭載されていました。ＣＯＭＰＵ-ＴＲＥＣスタートをＯＮにすると，３種のテスト信号を媒
介に，バイアス，基準録音レベル，イコライザーが専用マイコンにより自動的に調整され，記憶設
定されるというもので，約５秒で調整完了し，テープは調整開始部分の直前まで巻き戻されるよう
になっていました。

ノイズリダクションとしては，ドルビーＢタイプの他に新たにドルビーＣタイプが搭載され，新開発の
ドルビーＢ/Ｃ専用ＩＣ（日立製：ＨＡ-１２０３８）が採用され，これに±２電源をかけＤＣ構成として低
ノイズですぐれた音質を実現していました。
その他，機能的には，デュアルモード電子カウンターが搭載されていました。テープ走行時間とカウ
ンター表示の２ウェイ表示で，リアルタイムカウンターは，電源周波数同期のタイムベースにより時
間誤差を追い詰めたストップウォッチ方式が採用されていました。また，この電子カウンターのカウ
ンター表示で，パートのスタート時の数字とストップの数字を記憶させ，その間を連続再生できる
デュアル・メモリーリピートも装備されていました。
その他，４秒オートＲＥＣ　ＭＵＴＥ，リードテープ部分を瞬間に送るテープリードイン，１２ドットＬＥＤ
ピークレベルメーターなども装備されていました。

以上のように，Ｄ-９７０は，サンスイが作り上げた正攻法の音質重視型３ヘッドデッキでした。デッ
キの分野ではマイナーなブランド故あまり話題にはなりませんでしたが，もっと評価されても良かっ
た１台かと思います。

また，Ｄ-９７０からＣＯＭＰＵ-ＴＲＥＣを省き，バイアス調整機構を搭載，さらにアンプ系のダイアモ
ンド差動回路等の簡略化，そして，１５曲自動頭出し機構ＡＭＰＳを含むテープ走行のマイコンコン
トロール機構ＤＡＣＳ８を搭載したコストパフォーマンスに勝る弟機，Ｄ-５７０も発売されていました。

ＳＡＮＳＵＩ　Ｄ-５７０
ＳＴＥＲＥＯ　３-ＨＥＡＤ　ＣＡＳＳＥＴＴＥ　ＤＥＣＫ　￥７７，０００

◎ わずか５秒で，専用コンピューターがテープ別の
　レスポンス調整，記憶，設定するＣＯＭＰＵ-ＴＲＥＣ。
◎カセットデッキの宿命”変調ノイズ”の発生を
　おさえるメカニズム，アドバンスドＳＡＳＦ。
◎動特性改善の決め手ダイアモンド差動回路搭載，
　 ±２電源ドライブＤＣイコライザー。
◎音楽が精彩を放つノイズ・リダクション・システム。
　ダブルドルビーＣＮＲ搭載。
◎素材，構造の両面から高解像度を実現した
　クローズギャップ・フェライトコンビネーションの
　３ヘッドシステム。
◎３ヘッド特有の複雑な操作を解消。スムーズオペ
　レーションのハンドオフモニター。
◎確実でスムーズな回転，アドバンスドＳＡＳＦの
　効果も高めるＦＧサーボＤ.Ｄ.コアレスモーター。
◎ストップウォッチの精度をテープ走行時間表示
　に求めたデュアルモード電子カウンター。
◎自由な位置で曲をスタート，ストップできる２点間
　メモリー，デュアル・メモリー・リピート。
●理想の曲間を作り出す，４秒オートＲＥＣ　ＭＵＴＥ
●リードテープ部分を瞬間に送るテープリードイン
●留守録音に欠かせないタイマー録音/再生機能
●１２ドットＬＥＤピークレベルメーター
●出力レベルボリューム

●主要規格●

	Ｄ-９７０	Ｄ-５７０
トラック形式	４トラック２ｃｈステレオ	４トラック２ｃｈステレオ
ヘッド	録音＆再生：フェライト・コンビネーションヘッド消去：ダブルギャップ・フェライトヘッド	録音＆再生：フェライト・コンビネーションヘッド消去：ダブルギャップ・フェライトヘッド
モーター	キャプスタン用：ＦＧサーボＤ.Ｄ.コアレス・モーターリール用：ＤＣモーター	キャプスタン用：ＦＧサーボＤ.Ｄ.コアレス・モーターリール用：ＤＣモーター
ワウ・フラッター	０．０２５％以内（ＷＲＭＳ） ±０．０５％（Ｗ・Ｐｅａｋ　ＥＩＡＪ）	０．０３％以内（ＷＲＭＳ） ±０．０６％（Ｗ・Ｐｅａｋ　ＥＩＡＪ）
早巻き時間	約８０秒（Ｃ-６０）	約８０秒（Ｃ-６０）
周波数特性（－２０ＶＵ）	メタルテープ　２０～２３，０００Ｈｚ（３０～２２，０００Ｈｚ±３dB）ハイバイアステープ（ＣrO2) 　２０～２２，０００Ｈｚ（３０～２１，０００Ｈｚ±３dB）ノーマルテープ（ＬＨ）　２０～１９，０００Ｈｚ（３０～１８，０００Ｈｚ±３dB）	メタルテープ　２０～２２，０００Ｈｚ（３０～２１，０００Ｈｚ±３dB）ハイバイアステープ（ＣrO2) 　２０～１９，０００Ｈｚ（３０～１８，０００Ｈｚ±３dB）ノーマルテープ（ＬＨ）　２０～１７，０００Ｈｚ（３０～１６，０００Ｈｚ±３dB）
ＳＮ比（録音/再生，メタルテープ使用）（信号レベル：３％，　　　　　３次高調波歪，１ｋＨｚ）	ドルビーＯＦＦ：６１dB以上ドルビーＢ　ＯＮ：７１dB以上（５kHz以上）ドルビーＣ　ＯＮ：８１dB以上（１kHz以上）	ドルビーＯＦＦ：６１dB以上ドルビーＢ　ＯＮ：７１dB以上（５kHz以上）ドルビーＣ　ＯＮ：８１dB以上（１kHz以上）
入力感度/インピーダンス（１ｋＨｚ,０ＶＵ）	ＭＩＣ：０．４ｍＶ（２２０Ω～５ｋΩ）ＬＩＮＥ：７０ｍＶ（４７ｋΩ）	ＭＩＣ：０．４ｍＶ（２２０Ω～５ｋΩ）ＬＩＮＥ：７０ｍＶ（４７ｋΩ）
出力レベル（１ｋＨｚ，０ＶＵ）	ＬＩＮＥ：３５０ｍＶ（４７ｋΩ）ヘッドホン：２００ｍＶ（８Ω）	ＬＩＮＥ：３５０ｍＶ（４７ｋΩ）ヘッドホン：１００ｍＶ（８Ω）
消費電力	３５Ｗ	２５Ｗ
寸法	４３０Ｗ×１１１Ｈ×３２４Ｄmm	４３０Ｗ×１１１Ｈ×３２４Ｄmm
重量	７．１kg	６．５kg