A&D DA-A9500
DIGITAL POWER AMPLIFIER ¥800,000
1988年に,A&Dが発売したパワーアンプ。A&DはAKAIとDIATONE(三菱)が共同で立ち上げた
オーディオブランドで,AKAI以来の伝統の高性能なデッキをはじめ,DAT,アンプなど魅力的な機器
を発売していました。そして,A&Dブランド初のセパレートアンプとしてDA-P9500とDA-A9500を
発売しました。1980年代に入り,オーディオへのデジタル技術の導入が進んでいき,そうした中でい
ろいろなオーディオの形が模索されていきました。そうした中,デジタル技術を積極的に導入して開発
されたパワーアンプがDA-A9500でした。

デジタル技術は,元来,人工衛星などの宇宙での通信など,伝送特性の向上,さらにいえば正確な信
号伝送を行うために研究が進められてきたものでした。音声などの信号を一度符号化して記録ないし
伝達し,符号を元に戻すことで信号を正確に再現しようとする技術で,通常のアナログ技術に比べ,信
号の再現性が高い,すなわち伝送ロスが少ないことがメリットであると考えられ,ここからオーディオの
世界でも,記録,伝送のために応用されるようになっていきました。アンプの世界では,プリメインアン
プの分野で,D/Aコンバーターを搭載し,CDなどのデジタル出力をダイレクトに受けようとしたモデル
が登場していました。
そして,パワーアンプであるDA-A9500は,プリアンプとパワーアンプとの間をデジタルで接続し,デ
ジタル伝送によりロスのない信号伝送を実現しようとして,D/Aコンバーターを搭載していたのが大き
な特徴でした。



D/Aコンバーターは,新開発の「18ビット・リニアゼロクロスD/Aコンバーター」が搭載されていました。
通常のマルチビット型D/Aコンバーターは,ゼロクロスポイントですべてのビットが反転するため,原理
的にゼロクロス歪みが発生するという問題点がありました。「18ビット・リニアゼロクロスD/Aコンバー
ター」では,L・R信号のプラス成分とマイナス成分を各々独立のプッシュプル構成とした4個のD/Aコ
ンバーターを搭載し,18ビット精度による105dB以上のダイナミックレンジを実現するとともに,ゼロ
クロスポイントでのビット反転が最小に抑えられるため,原理的にゼロクロス歪みやグリッジが抑えら
れていました。
デジタルフィルターは,256次FIR型4倍オーバーサンプリング・フィルターが搭載され,阻止帯域減衰
量100dB以上,通過帯域リップル0.0001という特性を実現していました。これにより,アナログフィ
ルターにはゆるやかな特性で低歪率の3次ベッセル型が搭載されていました。さらに,アナログフィル
ターはON/OFFが可能となっており,OFFにするとD/A部のアナログ増幅段がもっともシンプルな1段
構成となり,ダイレクトな伝送による高音質化が図れるようになっていました。



D/Aコーンバーターからのアナログ出力を増幅するパワーアンプは,アナログ増幅の強力なパワーア
ンプが搭載されていました。(この時代,まだ,純デジタルアンプというわけではありませんでした。)パ
ワー段は,4パラレルプッシュプル構成で,320W+320W(4Ω)の大出力を実現していました。
そして,DA-A9500のパワーアンプには新開発の「リニアカレント・ドライブ・サーキット」が採用されて
いました。スピーカーの逆起電力などでパワーアンプの出力電流が影響を受けると音質劣化が生じる
ことになります。そこで,この出力段の電流リニアリティを確保して,パワーアンプの動作をより理想的
なものにしようとした回路が「リニアカレント・ドライブ・サーキット」でした。負荷に流れる電流を検出し,
電流フィードバックをかけ,出力段のリニアリティを大きく向上させていました。その上で電圧NFBを施
し,回路の安定性を高めていました。また,パワーステージが電源変動の影響を受けにくくする効果も
あり,電源を約70dB(=10倍)強化したのと同等の効果があるものでした。さらに,電力増幅段は,フ
ローティング電源回路により常に出力電圧を基準に電源電圧が設定されるため,電圧信号と電流信
号の相互干渉が徹底的に排除されていました。

大出力を支える電源部は,大型のトロイダルトランスと大型の電解コンデンサー4本から構成された強
力なものが搭載されていました。そして,最大の振動源ともなる電源トランスからの振動の影響を抑え
るために,トランスを筐体から分離し,専用のペデスタル(=台座,柱脚)で接地させてフローティング
した構造となっており,トランスの振動が回路等に伝わらないようになっていました。さらに,電源は,
各増幅回路間の干渉を抑えるために,ハイスピードローカル電源が各増幅段ごとに独立して配置され
電源数は,D/A部で16個,ボリューム部12個,パワーアンプ部16個というすごい構成になっていま
した。

筐体全体も高剛性・無共振化が図られていました。筐体内部には,メカニカルグラウンドともいえる頑
丈なフレームを配し,大型のインシュレーターと直結し,ヒートシンクなどの各ブロックを強固に支持す
る構造になっていました。フレームはアルミに銅を混入した異種金属鋳造の強靱なダイキャスト製で,
振動減衰特性を高め,音の響きをコントロールしていました。

D/Aコンバーターとパワーアンプ部との間には,音量調整を可能にする「デジタルコントロール・ディス
クリートボリューム」が搭載されていました。これは,音響用抵抗を電子スイッチで切り換えるアッテネー
ター構成のボリュームで,シリーズに入る接点数を最少限に抑えるために,パラレル構成をとっていま
した。さらに,音質劣化が極少のアンプを一切用いないパッシブ型を採用していました。このボリューム
は,デジタルコントロールの名の通り,リモートコントロールが可能で,リモコンでの操作が可能なだけで
なく,プリアンプのDA-P9500からのデジタルコントロールが可能でした。

入力は,デジタル入力2系統(2系統とも光,同軸の入力端子を装備),アナログ入力2系統,出力は,
デジタル出力1系統(光と同軸)を装備し,パワーアンプ単体でもシステムとして使用可能となっていまし
た。そした,パワーアンプ単体として,アブソリュートフェイズ(位相)切り換えスイッチ,OFF可能なパワー
レベルインジケーター,ディスプレイOFFスイッチ,ヘッドホン出力端子などが装備されていました。さら
に,パワーアンプとしての基本機能(電源,入力切換,ボリューム,バランス,位相等)を操作できるリモ
コンも付属していました。



DA-A9500の大きな特徴は,上述のように,セパレートアンプにおいて,コントロールアンプとパワー
アンプの間の信号伝送をデジタル化しようとしたことでした。コントロールアンプDA-P9500との間では
光ケーブルでデジタル接続が行われ,ロスのない信号伝送が可能となっていました。その上でスピー
カーにいちばん近いところでD/A変換することがベストであるという考えのもとで設計されていました。
しかし,このときシステムとして問題となってくるのがボリューム・コントロールでした。ボリューム回路は
D/Aコンバーターとパワー段の間に配置する必要があるため,セパレートアンプというシステム構成の
場合,パワーアンプ側にボリュームが存在することになり,コントロールアンプ側のボリュームが使えず
パワーアンプに足を運んでボリューム調整をすることになります。コントロールアンプのボリュームで音
量調整する自然な形を実現するために,新開発の「デジタルコントロールバス」が搭載されていました。
これは,コントロールアンプとパワーアンプを結ぶ光伝送システムの光ファイバーは,音声デジタル信
号を乗せても容量にまだかなりの余裕があるため,ボリュームのコントロール信号を重畳させることが
十分に可能であることを利用したものでした。そこで,ボリューム・ツマミはコントロールアンプ側にあり
ボリュームの操作の情報をデジタル化し,デジタルオーディオ信号と重ね合わせて1本の光ファイバー
で伝送し,パワーアンプ側にあるデジタルコントロールディスクリートボリュームを遠隔操作する仕組み
になっていました。これにより,デジタル伝送のセパレートアンプというシステムが可能となっていました。
「ADOT(A&D Digital Data Optical Transfer Format)デジタルコントロールバス」と称する,
このA&D独自の新方式は,128×128=16,384種類もの制御が可能で,まだ余裕ある信号領域
を使って,プリとパワーの間に本格的なデジタル信号処理プロセッサーを挿入したり,デジタル伝送に
よるマルチアンプシステムなど様々な可能性が考えられていました。(実際には実現されませんでした
が・・・。)






以上のように,DA-A9500は,デジタルオーディオの技術を積極的に生かそうとした意欲的な設計の
パワーアンプでした。物量をしっかりと投入した正攻法の作りのアナログパワーアンプ部にどのように
デジタルオーディオのメリットをつなげていくかという命題に,まだ,純デジタル増幅のアンプが実用的
とはいえなかったこの時代での答えを出そうとした設計は画期的なものであったと思います。力強い
駆動力を持ち,音場感もしっかりともった音は,アカイあるいはA&D史上でも最強のアンプでした。


以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。



■デジタルの恩恵を100%生かす。
 D/Aコンバーターをパワーアンプ側に搭載する
 のは,そのための必然といえます。
■デジタル・セパレート・アンプ実現の問題は,
 ボリューム調整をどうするか。これを解決した
 A&D独自の「デジタル・コントロールバス」。
■ピュアオーディオはもちろん
 未来のピュアデジタルAVにも限りない
 可能性をもたらすことでしょう。



◎リニアカレント・ドライブ・サーキット(新回路)
◎18ビット・リニアゼロクロスD/Aコンバーター(新回路)
◎フローティング・トランスフォーマー
◎デジタルコントロール・ディスクリートボリューム(新回路)
◎徹底した高剛性・無共振コンストラクション




■DA-A9500の主な仕様■

●パワーアンプ部  
 定格出力  320W+320W(4Ω,20Hz~20kHz)
240W+240W(6Ω,20Hz~20kHz)
200W+200W(8Ω,20Hz~20kHz) 
 全高調波歪率 0.008%(8Ω,20Hz~20kHz 実効出力時)
0.002%(8Ω,1kHz 実効出力時) 
 周波数特性  2~100,000Hz(-1.5dB) 
 SN比  110dB(IHF-A補正) 
●セレクター部  
 アナログ  2系統 
 デジタル  2系統(同軸/光 切り換え可) 
●D/A部  
 歪率  0.0015%以下 
 ダイナミックレンジ  105dB以上 
 SN比  115dB以上 
●ボリューム部  
 可変範囲  0~-79dB 
電源  AC100V,50/60Hz 
消費電力  480W 
外形寸法  466W×214H×498Dmm 
重量  34.5kg 
備考  リモートコントロールユニット付属 
※本ページに掲載したDA-A9500の写真,仕様表等は1988年9月の
A&Dのカタ
ログより抜粋したもので,三菱電機株式会社,赤井電機株式
会社に著作権があり
ます。したがってこれらの写真等を無断で転載・引用
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