OTTO DCC-3001
STEREO PRE AMPLIFIER ¥200,000
1975年に,オットー(三洋電機,現在はパナソニックに吸収される)が発売したプリアンプ。三洋電機は,1966年
に,OTTO(オットー)のブランド名でモジュラーステレオ・DC-434を発売し,オーディオブランド・オットーをスタート
しました。ブランド名のOTTOは”Orthophonic Transistorised Technical Operation”の略で,「トランジスタ技
術を駆使し,真の音を追求した音響装置」という意味で,当時の三洋電機のオーディオにかける熱意が感じられる
ブランド名でした。そんなオットーが発売したプリアンプがDCC-3001で,同ブランドの中でも最上級機でした。

イコライザの回路構成は,差動増幅二段,カレントミラー型位相反転A級プッシュプルの全段直結方式となっていま
した。チャンネルあたり10トランジスター,2ダイオードで,DC~AC負帰還を同一にした完全DCアンプで,TID=過
渡混変調歪の根絶を徹底した回路構成となっており,高性能のパワーアンプ回路をそのまま移植したかのような形
になっていました。

イコライザ段の増幅度は40dB(1kHz)で,許容入力500mVを実現していました。通常の36dB程度の増幅度で
あれば1000mVの許容入力を達成するほどのもので,定格入力に対する過入力マージンは48dBという性能に
あたり,SEPPの出力段に8mAという大きな電流を流して出力インピーダンスを下げ,イコライザ素子のインピーダ
ンスを高くしたことで,10kHzを越えて高い許容入力が維持されるようになっていました。ノイズレベルも,入力換算
で,トランジスターの物性的なノイズレベルである1.5V以下という値に抑えられ,使用トランジスターは,経年変化
によるノイズ増加を避けるため,すべてキャンシールタイプとなっていました。
また,500mVという大きな許容入力は,入手しうる最高耐圧級のトランジスターを用いて±75Vもの高電源電圧を
かけたこと,二段目の差動アンプを初段の差動アンプと同極性のPNP構成としたことによって,この間の電圧配分を
全くフリーに決められるようにしかこと,初段でかなりのローカル負帰還をかけて増幅度を下げていることなどにより
支えられていました。

DCC-3001の大きな特徴として,当時多くのアンプがとっていたオーバーオールに多量の深い負帰還をかけて特
性の改善を図るという方法から離れ,裸特性を改善し,浅い負帰還として,実使用時のダイナミックな特性に注目し
て設計されていたことでした。
初段差動アンプの両エミッタに挿入された高抵抗はローカル負帰還で,初段でのダイナミックレンジを拡大しており
同時にこの段に挿入された進み位相補正回路の効果と相乗して,裸特性を周波数特性,歪率とも大きく改善してい
ました。終段まで,それぞれのステージでローカル負帰還をかけるなどして裸特性を改善し,これをカスケードにつ
ないで,最少のオーバーオールの負帰還ですぐれたオーバーオールの特性を実現し,過渡混変調歪も抑えられて
いました。浅い負帰還とすることで,深いオーバーオール負帰還をかけるアンプでは不可欠の発振防止用の位相
補正回路=ベースコレクタ間に挿入される裸特性ハイカット用のコンデンサーが完全に廃止され,スルーレイトが
大きく改善されていました。

終段は,通常2石程度で,抵抗負荷が定電流負荷といった構成であるのに対し,4石を使った電流ポンピング回
路とも呼ぶべきカレントミラー位相反転回路付きA級プッシュプル回路で,高い電源電圧がかけられていることと
あいまって大きな増幅度が確保され,これにローカル負帰還をかけて,完全対称性でもともと少ない歪みをさらに
低減していました。また,電源電圧の変動によるバイアスの変動を防ぐために,初段と2段目の差動アンプともに
トランジスタによる定電流回路が設けられ,完全対称のカレントミラー回路により中点電位の変動は徹底的に抑え
られていました。これにより,初段の差動アンプのベースに抵抗と直列に挿入されている100%DC帰還用のコン
デンサーも不要となり,完全に排除され,ACからDCまで同一の負帰還となり,低域の過渡特性が改善されてい
ました。
RIAA偏差は,Dランク(0.5%超精度)のNiCr蒸着抵抗とスチロールコンデンサーを使い,30Hz~15kHzで
±0.1dB以下に収められていました。この値は,はるかに高価な機種でもなかなか見られないもので(当時は
皆無),オットーは絶対精密のイコライズと称していました。

さらに,DCC-3001には,アメリカのマッキントッシュのコントロールアンプに見られるような小出力のメインアン
プが搭載されていました。完全A級,初段差動増幅,2段エミッタ接地ドライバ,出力段ダーリントン・エミッタ・フォ
ロアによるコンプリメンタリーSEPP方式の1W出力のモニターアンプでした。電源電圧はドライバに±35V,出
力段に6Vと真空管アンプ風のやりかたで印加され,チャンネルあたり7トランジスター,5ダイオードの構成となっ
ていました。35W級のトランジスターに高い電源電圧をかけて十二分のアイドリング電流を流し,本当にリニアな
動作範囲だけを使って1W出力を取り出し,裸の状態ですぐれた特性を実現しようとした構成になっていました。
A級動作のためクロスオーバー歪もノッチ歪も存在せず,定格出力時でDC~300kHzに対して0.1%以下を保
証していました。100%DC帰還のためのコンデンサーや高域カットのコンデンサーも皆無で,DC~AC同一帰還
のDCアンプ構成となっており,過渡混変調歪もしっかり抑えられていました。このモニターアンプを使うことで,控
えめな音量で精聴することや,高能率のスピーカーでの再生など,小出力プリメインアンプのような使い方が可能
となっていました。

DCC-3001には,BASS,TREBLE独立,さらにL・R独立のトーンコントロールが搭載されていました。トーンア
ンプはNF型完全A級で,初段はトランジスタ定電流回路を有する差動アンプ,次いでトランジスター定電流負荷を
備えたエミッタ接地ドライバ,終段はコンプリメンタリーSEPP方式で,±2電源を使用して,増幅度20dB,トーンコ
ントロール素子も厳選されたものを使用し,誘導やクロストークを考慮して低インピーダンス設計になっていました。
7トランジスタ-,5ダイオードによる基本回路はモニターアンプとほぼ同一という贅沢な構成となっていました。2dB
クリックで精密な2dBステップのコントロールが可能で,イコライザ同様に,トーンコントロール素子をNFループに挿
入する回路で,すべてのカーブに独立のCRを使って時定数を変えており,精密で美しいコントロール特性のカーブ
を実現していました。BASS,TREBLEとも中央位置ではCが外れRだけになって完全にフラットになるようになっ
ており,さらにディフィートスイッチも装備されていました。

フィルターは,各々2段階の周波数のハイとローのフィルターが搭載されていました。ハイ・ローともPNP-NPNの二
段直結型で,DC~AC100%負帰還による0dB増幅度のアンプで,通常のエミッタフォロア一段型に比べて大振幅
時でも歪まず,定格出力2.0Vまで0.01%の歪率を保証し,ほぼ無歪みのフィルターともいえるほどでした。
チャンネルあたり8トランジスターという構成で,カットオフ周波数は,ハイ:7kHz,16kHz,ロー:30Hz,15Hzとい
が設定されていました。

その他,機能的には,ラウドネス,オーディオミューティングも装備されていました。ラウドネスは,トーンアンプ同様
に,4dBステップ11段階のツマミになっており,各段階のすべてに独立したディスクリート素子を使用し,ボリューム
指示値と実際の減衰量の偏差は±0.1dBの精度内に収まっており,ボリュームの指示値で正確な減衰量を直読
できるようになっていました。ラウドネスのボリュームは,メインボリュームと完全独立で,好みや部屋の音響特性
に合わせた最適音量から連続的に絞り込めるコンティニュアスタイプで,日本における日常の音楽鑑賞の最大音
量の平均レベル80ホンを基準にフレッチャーマンのラウドネスカーブを書き直したもので設定していました。また,
メインボリュームと独立とすることで,指示値と実際の値の偏差が±0.1dB以内という超精密級ディテントボリュー
ム使用のメインボリュームの精度を落とさないようにしていました。ラウドネスボリュームはCR素子のみの構成に
よって歪の発生は抑えられていました。
オーディオミューティングは,20dBで,増幅度20dBのトーンアンプをバイパスする方式になっており,フィルタ回路
をOFFにした状態でオーディオミューティングをONにするとイコライザの出力がダイレクトに出力されることになり
このために,イコライザの40dBという大きな増幅度が設定されていました。
以上機能面においても,各ファンクションやツマミなど各部の歪みを最低限に抑えるための,精度を追求した精密
な設計が特徴となっていました。

入力は,PHONO2系統,TUNER,AUX2系統が装備され,PHONO 1には,33kΩ/47kΩ/100kΩの3段階
のインピーダンス切換が背面に装備されていました。TAPE端子は,3系統装備され,TAPE 1,2にはDIN端子も
装備されていました。1→2・3,2→1・3という相互ダビングも可能となっていました。
出力は,2系統装備され,1系統は前面パネルに設けられていました。




以上のように,DC-3001は,オットーブランドの最上級のプリアンプとして,機能面も音質面もしっかりと技術と物
量が投入され,各部の精度を徹底的に高めた設計は,三洋電機がオットーブランドに込めた熱意のひとつの到達
点ともいえるものでした。大型のプリメインアンプかパワーアンプのような巨大な筐体にも,その熱意が表れていた
と思います。その見た目のごつさとは異なり,癖の少ない,むしろ温かい音をもつ1台でした。


以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。



絶対精密に挑むコントロールアンプ
きよらかの絶対精密

◎パワーアンプ風イコライザ
◎ゲイン40dBで許容入力500mV
◎内からのダイナミックレンジ
◎ローカル負帰還と進み位相補正
◎DCアンプでゆさぶりなし
◎RIAA偏差±0.1dB以下
◎本当はプリメインアンプ
◎A級1Wモニターアンプ
◎イコライザ風トーンアンプ
◎無歪フィルタ
◎オーティオ的ラウドネス
◎絶対精密そして絶対精密




●SPECIFICATIONS●


■PRE AMP SECTION■

回路方式  a.イコライザ
 差動二段カレントミラ方式 A級SEPP出力
b.トーンコントロール
 差動一段 SEPP出力
c.フィルタ
 コンプリメンタリ直結二段フィルタ方式 
入力感度 a.PHONO 1
 2mV/33,47,100kΩ
b.PHONO 2
 2mV/47kΩ
c.TUNER,AUX1-2
 200mV/47kΩ
d.TAPE1,2,3
 200mV/47kΩ 
PHONO RIAA偏差 ±0.1dB 
PHONO D-レンジ  a.R.M.S.
 500mV/1kHz
b.P・P
 1400mV/1kHz 
出力レベル/インピーダンス  a.TAPE 1,2
 100mV/47kΩ
b.TAPE 3
 200mV/1kΩ以下
c.OUT 1,2
 2000mV/50kΩ 
周波数特性
(TUNER,AUX,TAPE) 
10~100kHz +0,-1dB 
SN比  a.PHONO 1,2
 -120dB 入力換算
b.TUNER,AUX,TAPE
 -120dB 入力換算 
全高調波歪率(定格出力時) 0.02%
トーンコントロール  a.BASS
 ±10dB 2dBステップ
b.TREBLE
 ±10dB 2dBステップ 
ラウドネス  コンティニュアス方式4dBステップ11ポジション 
フィルタ  a.サブソニック
 15Hz・18dB/oct
b.ロー
 30Hz・18dB/oct
c.ハイ
 7kHz・12dB/oct
d.スーパーソニック
 16kHz・12dB/oct 
オーディオミューティング  -20dB(トーンアンプ・バイパス方式) 



■MONITOR AMP SECTION■

回路方式 RF差動一段A級SEPP OCL方式出力 
実効出力  a.2ch動作,8Ω負荷
 1.0W
b.1ch動作,8Ω負荷
 1.0W 
実効連続出力  a.2ch動作,8Ω負荷
 1.0W 
全高調波歪率(定格出力時) 0.05% 
混変調歪率(定格出力時)  0.05% 
出力帯域幅  DC~300kHz 0.1%以下THD 
周波数特性  DC~1MHz +0,-1dB 
残留ハム&ノイズ  0.2mV 
スルーレイト  15V/μs 
ダンピングファクタ  20 
推奨負荷インピーダンス  4~16Ω 



■GENERAL■

寸法  186H×470W×400Dmm 
重量  15kg 
使用半導体  トランジスタ80,ダイオード41 
※本ページに掲載したDCC-3001の写真,仕様表等は1975年のOTTOの
 カタログより抜粋したもので,パナソニック株式会社に著作権があります。
 したがって,これらの写真等を無断で転載・引用等することは法律で禁じら
 れていますのでご注意ください。

  
 
 
★メニューにもどる


★セパレートアンプPART9にもどる
 
 

現在もご使用中の方,また,かつて使っていた方。あるいは,思い出や印象のある方
そのほか,ご意見ご感想などをお寄せください。


メールはこちらへk-nisi@niji.or.jp

inserted by FC2 system