DCD-S1の写真
DENON DCD-S1
COMPACT DISC PLAYER ¥500,000

1994年にデンオン(現デノン)が発売したCDプレーヤー。このころデンオンは「Sensitive」を頭文字と
し「S1」を型番に入れた「S1シリーズ」を展開していました。そして,セパレートアンプ,プリメインアンプ
カートリッジ,昇圧トランス等高級機を発売していきました。そうした中,発売されたのが「S1」の名を持
つDCD-S1でした。デンオンは伝統的に一体型CDプレーヤーを展開してきたブランドでしたが,1993
年にセパレート型CDプレーヤーDP-S1,DA-S1を発売し,高評価を得ていました。DCD-S1は,これ
を一体化したともいえる内容を持った力作でした。

DCD-S1の大きな特徴は,振動対策を徹底したシャーシ,筐体,ピックアップメカなどで,そのため,全
体の重量はCDプレーヤーながら,重量級プリメインアンプ並の20kgに達していました。

DCD-S1の内部

ダイカストに比べ,ストレスが少なく振動の減衰が速い砂型鋳物がボトムシャーシに採用され,
シャーシフレームの両脇には厚さ平均6mmのアルミ押出材が用いられ,振動に非常に強い筐
体構造となっていました。
ボトムシャーシを支え,床と接するインシュレーター部には,焼結合金とアルミニウムの異種金
属の複合材を採用することで,振動を熱に変換し,外部振動の音質への影響を排除するように
なっていました。

複合材使用のインシュレーター

ピックアップ部を支えるピックアップベースにも砂型鋳物が使用され,オイルダンパーとスプリン
グによる2重構造でフローティングされ,揺れ戻しも吸収されるようになっていました。ピックアッ
プメカを支えるメカプレートもシャーシからフローティングされ,3重にフローティングした防振構
造となっていました。

振動しやすいトレイを排除するために,上部のドアを開けてCDをセットするトップローディング
機構が採用されていました。重量物である電源トランスとメカユニットを中央に配置したセンター
メカ構造により,重量バランスがとれた筐体となっていました。基板も電源部,オーディオ部,デ
ジタル部がそれぞれ分離され,相互干渉を抑えた理想的な配置がされていました。
また,トップにあるピックアップ部のドア開口部には特殊エアシールドが施され,ドアには重厚な
アルミ押出材が使用され,空気の侵入や外来光の侵入をシャットアウトすることで,スピーカー
などからの音圧の影響や外光の影響も極限まで抑えられ,ピックアップ部の安定した動作が確
保されていました。

DCD-S1のトップローディング部大口径スタビライザー

さらに,DCD-S1の ディスクドライブ部はターンテーブル方式ではありませんでしたが,ディスク
全面に圧着する大口径のスタビライザーを装着する形になっていました。このスタビライザーは
アルミ削り出しのもので,ディスク全面をホールドすることで,共振を抑え,読み取り信号のジッター
の発生を防ぐとともに,スタビライザーが生み出す慣性により回転の安定性を確保し,読み取りジ
ッターマージンを向上させる働きをしていました。

ディスクをスタビライザーごと回転させるスピンドルシャフトは,直径6mmの極太タイプで,新開発
の強力な高トルク・コギングレス・モーターにより駆動されるようになっていました。また,その軸座
には,摩擦係数の少ないルビーの板が採用されていました。
光ピックアップの駆動はギアを用いず,無接触で浮動するリニアモーター駆動で,高精度で高品位
な読み取り精度が実現されていました。

D/Aコンバーター部には,デンオン自慢の「ALPHAプロセッサー」が搭載されていました。これは
「Adaptive Line Pattern Harmonized Algorithm」を略した名称で,16ビットデータを20ビットク
オリティで再現しようとするアナログ波形再現技術で,CDなどに記録されているデジタルデータを手
がかりに,下位4ビットを演算合成して自然なアナログ波形に近づくように補間を行い上位に加算す
る技術でした。この「ALPHAプロセッサー」は,また同時に,記録方法が異なるCDをかけた場合に
おいても,入力信号を判断して,遮断帯域を自動的に可変する世界初の適応型デジタルフィルター
(Automatic Low Pass filter Harmonic Adjustment)としても機能するようになっていました。

D/Aコンバーターには,「アドバンスド・サインコードΛ S.L..C.」が搭載されていました。「Λ S.L..C.」
は,「ラムダ・スーパー・リニア・コンバーター」の略で,デンオンによるマルチビット方式の改良型でし
た。マルチビット方式で問題になるゼロクロス歪みを解消するため,D/Aコンバーターチップ内部に,
超高精度20ビット電流加算型DACを2個差動配置する(Λ=LAMBDA=Ladder-form Multiple Bias
 D/Aプロセッサー)ことで原理的にゼロクロス歪みの発生を抑えていました。具体的には,入力の正
負に応じて規定のゼロレベルをわずかに移動させ(符号値でずらすためデジタルバイアスと呼ぶ),
ゼロクロス歪みの影響の大きい小振幅では,規定0ラインを横断させないような動作になっていまし
た。また,ゼロを±に変位させた2種類のデータをD/A変換後に加算すれば,±のシフト分はキャン
セルされ,部分的に発生している歪みが打ち消される効果もありました。さらに,S/N,T.H.D.,リニ
アリティの3点で選別されたD/AコンバーターLSIを採用するとともに,微分直線性の調整による波形
上下のゲイン誤差発生を解決する差動構成電流加算回路を搭載し,高純度な変換が実現されてい
ました。

DCD-S1はCDプレーヤーとしてだけでなく,トランスポートとしても,D/Aコンバーターとしても使える
ように,デジタル入力端子をTOS-Link,COAXIALの2系統,デジタル出力端子をTOS-Link,BNC
平衡型ライン(AES/EBUバランス伝送)XLRの3系統搭載していました。

以上のように,DCD-S1は,トップモデルであるセパレート型CDプレーヤー・DP-S1,DA-S1を一体
化したような,高度で贅沢な内容を持ち,厚みのある堂々とした音を聴かせる実力派の1台でした。


以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。



世界に先駆けた
アナログ波形再現テクノロジー
”ALPHAプロセッサー”。
防振の極限をめざした
”砂型鋳物製極厚シャーシ”。
すべてに至上をもとめた情熱が,
かつてないCD再生の真髄を
究める。


◎”ALPHAプロセッサー”搭載。
 アナログ信号に迫る波形再現テクノロジー
◎音の透明度を究め尽くすために。
 アドバンスド・サインコードΛS.L.C.。
◎砂型鋳物製極厚シャーシにより,
 振動伝播を徹底抑止。
◎アルミニウム・焼結合金の複合材を
 採用したインシュレーター。
◎内部振動と,外乱光の侵入を防ぐ
 トップローディング機構。
◎全身に無共振思想が息づく
 3重構造フローティング。
◎振動の追放を徹底して究める
 ウェイトバランス。
◎特殊エアシールドによって
 音圧の影響を排除。
◎安定した回転をもたらす
 削り出しスタビライザー。
◎正確無比な読み取り精度へ。
 リニアモーター駆動。
◎モーター,軸座,シャフトのすべてに
 読み取りエラーの徹底低減設計。
◎発展性を秘めたデジタル入出力端子。
◎より深く,より自在に愉しむ
 ワイヤレスリモコン装備。




●仕様●

D/A変換部方式名 リアル20bit ラムダ スーパーリニア・コンバーター
フィルター 8倍オーバーサンプリングデジタルフィルター+GIC3次アナログフィルター
周波数特性 2Hz〜20kHz
SN比 120dB
ダイナミックレンジ 100dB以上
全高調波歪率 0.0015%(1kHz)
チャンネルセパレーション 110dB(1kHz)
チャンネル間位相差 3°以内
アナログ出力電圧 10kΩ負荷時2.5V±0.3V(UNBALANCE/BALANCE)
外形寸法 W434×H164.5×D395mm
重量 20kg
電源・消費電力 AC100V 50/60Hz,27W


※本ページに掲載したDCD-S1の写真・仕様表等は
 1994年9月のDENONのカタログより抜粋したもので
 デノン株式会社に著作権があります。したがって,こ
 れらの写真等を無断で転載,引用等をすることは法律
 で禁じられていますので,ご注意ください。

★メニューにもどる         
     
   
★CDプレーヤー3のページにもどる

 

現在もご使用中の方,また,かつて使っていた方。あるいは,思い出や印象のある方
そのほか,ご意見ご感想などをお寄せください。
                       

メールはこちらへk-nisi@niji.or.jp
inserted by FC2 system