DENON DCD-S10
COMPACT DISC PLAYER ¥180,000
1994年に,デンオン(現デノン)が発売したCDプレーヤー。同年に発売された「S1シリーズ」の一体型高級機
DCD-S1の弟機で,DCD-3500シリーズの技術を継承しつつ,新しい技術が投入された新世代の中核機でし
た。
D/Aコンバーター部には,新開発の「ALPHAプロセッサー」が搭載されていました。これは「Adaptive Line
Pattern Harmonized Algorithm」を略した名称で,16ビットデータを20ビットクオリティで再現しようとするア
ナログ波形再現技術で,CDなどに記録されているデジタルデータを手がかりに,下位4ビットを演算合成して自
然なアナログ波形に近づくように補間を行い上位に加算する技術でした。この「ALPHAプロセッサー」は,また
同時に,記録方法が異なるCDをかけた場合においても,入力信号を判断して,遮断帯域を自動的に可変する
世界初の適応型デジタルフィルター(Automatic Low Pass filter Harmonic Adjustment)としても機能す
るようになっていました。
「ALPHAプロセッサー」により20ビットで再現された信号を,D/A変換するD/Aコンバーターは,デンオン自慢
の「Λ S.L..C.」による駆動で歪を抑えS/Nを向上させ,特にローレベルの音質を改善していました。 「Λ S.L..C.」
は,「ラムダ・スーパー・リニア・コンバーター」の略で,デンオンによるマルチビット方式の改良型でした。マルチ
ビット方式で問題になるゼロクロス歪みを解消するため,D/Aコンバーターチップ内部に,超高精度20ビット電流
加算型DACを差動配置する(Λ=LAMBDA=Ladder-form Multiple Bias D/Aプロセッサー)ことで,原理的にゼ
ロクロス歪の発生を抑えていました。具体的には,入力の正負に応じて規定のゼロレベルをわずかに移動させ
(符号値でずらすためデジタルバイアスと呼ぶ),ゼロクロス歪みの影響の大きい小振幅では,規定0ラインを横
断させないような動作になっていました。また,ゼロを±に変位させた2種類のデータをD/A変換後に加算すれ
ば,±のシフト分はキャンセルされ,部分的に発生している歪みが打ち消される効果もありました。
また,「Λ S.L..C.」を「ALPHAプロセッサー」を含めて1チップ化し,回路の引き回しを減らし,不要ノイズを低減
するとともに,最新のICテクノロジーを駆使して回路を高速化し,動作の安定性とデータ転送の精度の向上を両
立させていました。
CDプレーヤーにとって音質に影響の大きいデジタル部のアナログ部への干渉を抑えるために,D・A(デジタル・
アナログ)分離構造が採用されていました。電源トランス,整流・平滑回路などの電源供給系において,デジタル
回路とアナログ回路を完全に分離し,さらに,オーディオ回路とサーボ/デジタル回路を別ユニットの独立したレイ
アウトとし,信号の流れをクリーンなものとして,相互干渉を防止していました。



内部レイアウトにおいては,CDプレーヤーで唯一の機械的駆動部であるピックアップメカニズムをシャーシ中央に
配置したセンターメカレイアウトを採用し,ボディの最適な重量バランスを確保し,シャーシに加わるモーター駆動時
の振動・共振を最小限に抑えていました。
そして,このピックアップ駆動メカニズムのローダー部,およびベースシャーシ部は新開発のものが搭載されていま
した。さらに,銅メッキ鋼板によるシールドカバーの採用により剛性をアップさせ,振動を排除するとともに,電磁気
性ノイズの防止を図っていました。ピックアップのサーボ系は,従来のアナログサーボに代えて,ディスクごとのコン
ディションを検出するデジタルサーボを開発・搭載していました。演奏する1枚1枚のサーボ量の的確な調整が可能
で,プレイアビリティも高まっていました。ディスクトレイには,新たに振動伝送を阻止するコラーゲンを配合した特殊
塗料をコーティングし,ディスクへの振動を抑えていました。
シャーシは,振動を排除するために重量級のシャーシが採用され,シャーシ全体も低重心化されていました。シャー
シ全体を支えるインシュレーター部には,焼結合金とアルミニウムの異種金属の複合材を採用し,振動を熱に交換
し,振動の影響を抑えていました。
機能的には,デジタル3系統(同軸2,光1)・アナログ2系統(固定出力,可変出力)の出力端子に加え,光と同軸の
2系統のデジタル入力端子を装備し,これにより,DCD-S10をDACとしても使用可能となっていました。ディスプレ
イは,4段切換可能なディスプレイディマーが装備されていました。通常の前後の選曲以外に,リモコンの10キーに
よるダイレクト選曲,最大20曲まで可能なプログラムプレイ,インデックスサーチが装備されていました。リピートは,
1曲,全曲(プログラム曲),A-B間の3種類が装備されていました。その他,ディスクの総演奏時間の1/2に最も
近い曲番の頭で前半・後半に分けるオートエディット,曲のピーク部分を探しその前後をくり返し演奏するピークサー
チが装備されていました。
以上のように,DCD-S10は,DCD-S1の弟機として,各部にしっかりと物量を投入し,先進的なデジタル技術を注
ぎ込んだ力作でした。より高級なCDプレーヤーにも負けないほどの堂々たる再生音を実現したコストパフォーマンス
にすぐれた1台でした。


以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。



THE CD REFERENCE

現在到達しうる至高の
ALPHAプロセッシング&
リアル20ビット
4DAC Λ S.L.C.搭載。
「音楽」のすべてを引きだす,
CDリファレンス機の
新しい指標,ここに誕生。

◎世界独創。アナログ信号に極限まで迫る波形
 再現テクノロジー”ALPHAプロセッサー”搭載。
◎リアル20ビット4DAC ΛS.L.C.による
 至高の高忠実再生。
◎デジタル部がアナログ部に及ぼす悪影響をシャット
 アウト。徹底したデジタル/アナログ分離構造を採用。
◎新開発ローダメカとコラーゲン塗装のディスクトレイ
◎重量級シャーシによる無共振設計を貫くとともに,
 振動を寄せつけない独創のインシュレーターを搭載。
◎センターメカマウントとし,
 さらに無共振思想を徹底。
◎1枚1枚のディスクのコンディションに合わせて
 サーボ量の調整が可能なデジタルサーボを搭載。
◎デジタルオーディオシステム構築への発展性
 を秘めたデジタルインプット端子。
◎CD再生をより楽しくする豊富な機能を装備




●DCD-S10の主な仕様●

D/A変換部方式名 リアル20bit 4DAC ラムダスーパーリニア・コンバーター
フィルター 20ビット8倍オーバーサンプリング・デジタルフィルター+GIC3次アナログフィルター
周波数特性 2Hz〜20kHz
SN比 118dB
ダイナミックレンジ 100dB
全高調波歪率 0.0018%
チャンネルセパレーション 110dB(1kHz)
チャンネル間位相差 3°以内
アナログ出力電圧 (固定)10kΩ負荷時2.0V±0.3V
(可変)10kΩ負荷時0〜2V
外形寸法 W434×H120×D340mm
重量 14kg
電源・消費電力 AC100V 50/60Hz,20W


DENON DCD-S10UーN
COMPACT DISC PLAYER ¥190,000
1997年に,DCD-S10はモデルチェンジされ,DCD-S10Uが登場しました。内部構造,パーツなど各部に改良が
施されていました。
DCD-S10Uでは,特に,不要な振動を排除する対策が徹底されていました。ピックアップ駆動メカニズムのローダー
部は,新たにS.V.H.(Suppress Vibration Hybrid)ローダーメカユニットが搭載されていました。トレイには,プロテ
イン配合で高い防振性を発揮する塗料の採用により不要な振動が抑えられ,さらに振動の防止に効果が高い軽量・
高剛性のアルミダイカストシャフト受けが採用されていました。トレイ下部にプレートが装着され,ディスクの回転によ
るトレイの微妙な変形も抑え,安定した回転の確保と,振動の吸収を実現していました。また,トレイレールの本体軸
受け部にベアリングを使用し,スムーズなトレイ駆動を確保することで,正確なトレイ収納と,トレイの確実なホールド
で振動による音質への影響を抑えていました。
筐体は,15mm厚のフロントパネル,2重構造のボトムカバー,トップカバーなど内部・外部からの振動による影響を排
除する防振構造がとられ,筐体を支える焼結合金インシュレーターには,新たに吸振素材エクセーヌを貼り,振動の伝
播をさらに抑制する構造となっていました。

その他,ピックアップには,シンプルな構造ながら高い性能を発揮する新開発のピックアップを採用し,信号の読み
取りの精度を高めていました。また,パーツの点数の削減により,トレース精度の向上に加え,耐久性,信頼性を
高めていました。また,OFC線材を使用した着脱タイプのACコードの採用をはじめ,IC,抵抗,コンデンサー,配線
材にいたるまでパーツの1点1点の見直しが行われ,厳選使用されていました。
以上のように,DCD-S10Uは,メカニズム部を中心に,各部を強化,改良したモデルで,音質的にも力強いクリア
な音を実現し,当時,より上級のCDプレーヤーにも負けないといわれるほどの高い評価を得ていました。


以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。



新防振メカニズムを採用。
アナログに迫る信号波形再現技術
ALPHAプロセッシングの音は,
よりクリアな音の体感ステージへ。

◎不要な振動を徹底排除。
◎高性能ハイブリッド構造ローダー。
◎トレイレール受け部にベアリングを使用。
◎高音質テクノロジーALPHAプロセッサーを搭載。
◎高精度D/Aコンバーターを搭載。
◎デジタルセレクターとしても活用が可能。
◎高性能ピックアップを採用。
◎デジタル部とアナログ部を徹底分離。
◎デジタルサーボを搭載。
◎厳選された高音質パーツを使用。




●DCD-S10U-Nの主な仕様●

D/A変換部方式名 リアル20bit 4DAC ラムダスーパーリニア・コンバーター
フィルター 20ビット8倍オーバーサンプリング・デジタルフィルター+GIC3次アナログフィルター
周波数特性 2Hz〜20kHz
SN比 118dB
ダイナミックレンジ 100dB
全高調波歪率 0.0018%
チャンネルセパレーション 110dB(1kHz)
チャンネル間位相差 3°以内
アナログ出力電圧 (固定)10kΩ負荷時2.0V
(可変)10kΩ負荷時0〜2.0V
外形寸法 W434×H135×D350mm(含むフット,ツマミ,端子)
質量 14.0kg
電源・消費電力 AC100V 50/60Hz,20W


DENON DCD-S10V-N
COMPACT DISC PLAYER ¥220,000
1999年に,DCD-S10UはDCD-S10Vへとモデルチェンジされました。デジタル部が大幅に改良されたほか
振動対策もさらに徹底されていました。
DCD-S10Vでは,これまでのALPHA processingを継承し,新たにAL24 processingが搭載されていま
した。AL24 processing技術は,より量子化歪みを軽減し,次世代のハイビット化,ハイサンプリング化に対
応して開発されたもので,演算処理速度を大幅に向上させ,入力された16ビットのデジタルデータを24ビットの
クオリティで再現しようとするもので,下位データ生成部の演算回路を2倍に設け,内部演算処理することで下
位8ビットのデータを生成し,上位16ビットを加算して24ビットクオリティの出力を得るようになっていました。さ
らに96kHzのサンプリング周波数,16ビットだけでなく,18,20,24ビットの入力にも対応していました。
AL24 processingにより得られた24ビットのデータに対応してD/A変換においてもマルチ24ビット D/Aコン
バーターが搭載されていました。マルチ24ビット D/Aコンバーターは,電源電圧(電流)による影響を受けにく
く,また,帯域内量子化歪みレベルが周波数に関わりなく一定しているため,ノイズの少ないクリアな音が実現
される可能性を持つものでした。DCD-S10Vでは,このD/Aコンバーターを片チャンネルに2個ずつ差動動作
で使用する4DAC構成にすることで,原理的にゼロクロス歪みをなくすΛ S.L..C.とも相まってすぐれた変換性能
を実現していました。
さらに,新たに,従来のCDフォーマットと互換性を保ちつつデジタルレコーディング時に起こる歪みを大幅に低減
させる技術HDCD(High Definition Compatible Digital)採用のHDCDのディスクに対応したHDCDデコー
ダーを搭載していました。
防振対策においては,新たにメカ部とトランス部に振動減衰特性にすぐれた鋳物ベースを採用していました。センター
メカマウント,銅メッキ高剛性シャーシ,15mm厚のフロントパネル,三重構造のボトムカバー,二重構造のトップカバー
振動吸収材を貼り付けた焼結合金製の大型インシュレーターとも相まって,外部振動,内部振動や高周波ノイズの干
渉を防いでいました。
以上のように,DCD-S10Vは,DCD-S10シリーズの第3世代モデルとして,デジタル部や振動対策を中心に各部を
さらに大きく強化した内容を持ち,力強くクリアな音はさらに磨きがかけられていました。


以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。



新開発AL24プロセッシングと
鋳物メカ&トランスベースを搭載。
妥協を許さない音質への情熱が,
比類のないCD再生の真髄を究める。

◎優れたアナログ波形再現技術AL24Processingを搭載
◎高精度マルチ24bit D/Aコンバーターを搭載
◎鋳物メカベース・トランスベースとS.V.H.ローダーにより
 振動を徹底排除

●メカベース,トランスベースに鋳物を採用し防振性を向上
●高性能ハイブリッド構造”S.V.H.ローダー”

◎HDCD(High Definition Compatible Digital)
 デコーダーを搭載
◎96kHz/24bitのD/Aコンバーターとしても使える
 外部モニター機能を搭載
◎構成のピックアップを採用
◎デジタル部とアナログ部を徹底分離
◎デジタルサーボを搭載
◎厳選された高音質パーツを採用




●DCD-S10V-Nの主な仕様●

D/A変換部方式名 リアル24bit ラムダS.L.C.(4DAC)
フィルター 24ビット8倍オーバーサンプリング・デジタルフィルター+GIC3次アナログフィルター
周波数特性 2Hz〜20kHz
SN比 118dB
ダイナミックレンジ 100dB
全高調波歪率 0.0018%
チャンネルセパレーション 110dB
アナログ出力電圧 FIXED:2.0V±0.3V(10kΩ)
VARIABLE:0〜2.0V(10kΩ)
外形寸法 W434×H135×D350mm
質量 14.5kg
電源・消費電力 AC100V 50/60Hz,23W


DENON DCD-S10VL-N
COMPACT DISC PLAYER ¥250,000
2001年に,DCD-S10VLが発売されました。この年10月,デンオンは,リップルウッドホールディングのもとで
DENONのアルファベット表記は同じながらデノンブランドとなり,そうした新生デノンとなってからのDCD-S10シ
リーズがDCD-S10VLでした。LはLimitedの意味で,デノンブランドに変わった記念モデルといった意味合いが
あったようです。
デジタル部は,AL 24Processingが,AL 24Processing Plusへとバージョンアップされていました。これによ
より192kHzにも対応し,高精度な演算処理を行えるようになったことで,その性能は,ハイビット化,ハイサンプ
リング化にも対応することはもちろん,量子化歪みをさらに低減していました。また,パルスデータでは,通過帯域
を広げリンギングのないインパルス応答の再現を可能とし,遮断帯域を自動的に可変する適応型デジタルフィル
ターが継承されていました。
防振対策では,メカ部とトランス部の振動減衰特性にすぐれたアルミ砂型鋳物ベースに加え,新たにトランスの
ケース自体にもアルミ鋳物を採用し,振動源であるメカ部,トランス部からの振動による音質への影響を抑えて
いました。
アナログ部では,2チャンネル・ステレオ出力のさらなる高音質化を図るため,あえて出力部の負荷となるヘッド
ホン回路を排除するとともに,オーディオ出力も可変出力を排除して固定出力のみとしていました。
パーツの面でも,大型削り出しピンジャックの採用をはじめ,一点一点に見直しが行われ,厳選されていました。
以上のように,DCD-S10VLは,DCD-S10シリーズの4世代目のモデルとして,各部にしっかりと物量が投入
され,完成度が高められていました。そして,同社のSACDに対応しないCD専用の高級機としては最後のモデ
ルとなりました。


以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。



進化したアナログ波形再現技術
AL 24Processing Plus。
CDプレーヤーの無限の可能性を
実感させるテクノロジーを凝縮。

◎さらに進化したアナログ波形再現技術
 AL 24Processing Plusを搭載
◎鋳物トランスケースとS.V.H.ローダーにより
 音質に与える振動の影響を徹底排除

●メカベース,トランスベースおよびトランスケースに
 鋳物を採用し防振性をさらに向上
●高性能ハイブリッド構造S.V.H.ローダー

◎高精度マルチ24bit D/Aコンバーターを搭載
◎徹底した高音質化を実現
◎HDCD(High Definition Compatible Digital)
 デコーダーを搭載
◎外部モニター機能を搭載
◎高性能ピックアップを採用
◎デジタル部とアナログ部を徹底分離
◎デジタルサーボを搭載
◎厳選された高音質パーツを採用




●DCD-S10VL-Nの主な仕様●

D/A変換部方式 リアル24bit ラムダS.L.C.(4DAC)
フィルター 24bit 8倍オーバーサンプリング・デジタルフィルター+GIC3次アナログフィルター
周波数特性 2Hz〜20kHz
SN比 118dB
ダイナミックレンジ 100dB
全高調波歪率 0.0018%
チャンネルセパレーション 110dB
アナログ出力電圧 FIXED:2.0V±0.3V(10kΩ)
外形寸法 W434×H135×D350mm
質量 14.7kg
消費電力 23W
※本ページに掲載したDCD-S10,DCD-S10U-N,DCD-S10V-N
 DCD-S10VL-Nの写真仕様表等は1994年9月,1997年10月
 1999年10月,2001年11月DENONのカタログより抜粋したもので,
 デノン株式会社に著作権があります。したがってこれらの写真等を無断
 で転載,引用等をすることは法律で禁じられていますので,ご注意くださ
 い。

★メニューにもどる 
     
   
★CDプレーヤー5のページにもどる

 

現在もご使用中の方,また,かつて使っていた方。あるいは,思い出や印象のある方
そのほか,ご意見ご感想などをお寄せください。
メールはこちらへk-nisi@niji.or.jp
inserted by FC2 system