OTTO DCP-3001
STEREO POWER AMPLIFIER ¥260,000
1975年に,オットー(三洋電機,現在はパナソニックに吸収される)が発売したパワーアンプ。1966年
に,OTTO(オットー)のブランドをスタートした三洋電機が,プリアンプDCC-3001とともに,同社の最高
級機として熱意を持って作り上げた意欲作がDCP-3001でした。

全体の回路構成は,初段差動→次段エミッタフォロア→二段直結ダーリントンプリドライブ→ドライバ段→
トリプル構成の出力段となっており,チャンネルあたり21トランジスタ,2ダイオードで,全段直結ピュアコ
ンプリメンタリーSEPP OCL方式というオーソドックスで充実した構成となっていました。
回路の基本構成は,中点電位の変動あるいは電源ON-OFF時のショックノイズを皆無にするために,+
-電源に対して完全対称なPNP-NPNによる全段コンプリメンタリー・プッシュプル方式となっていました。
初段差動増幅もプッシュプル,次の二段直結ダーリントンプリドライバもプッシュプルで,ここまではA級動
作となっており,ドライバとトリプルプッシュプルの出力段がB級動作となっていました。これにより,PNP-
NPNトランジスタの特性差にもごくわずかなドリフトがあるだけで,負帰還なしでも出力端の電圧変動は抑
えられていました。

初段の差動アンプは,コンプリメンタリー・プッシュプル方式の差動アンプとすることで充分な裸のゲインを
確保し,エミッタそれぞれに高抵抗を挿入してローカル負帰還をかけてゲインを下げ,1mAという十分に
大きな動作電流を流して,ダイナミックレンジを拡大していました。ローカル負帰還により直流安定度を実
現し,さらに進み位相補正回路を挿入して帯域を超高域まで伸ばしてオーバーオールの負帰還の安定度
も高めていました。

DCP-3001の大きな特徴として,当時多くのアンプがとっていたオーバーオールに多量の深い負帰還を
かけて特性の改善を図るという方法から離れ,DCC-3001と同様に,裸特性を改善し,浅い負帰還とし
て,実使用時のダイナミックな特性に注目して設計されていたことでした。実際にDCP-3001では,裸特
性を可能な限り伸ばし,これに25dB弱という最少のオーバーオール負帰還をかけて仕上げており,定格
出力まで,20kHzという高域においてもすぐれた特性を実現していました。

二段目のエミッタフォロアは,初段差動アンプの負担を軽くし,三段目のプリドライバを十分にドライブでき
るようにインピーダンスを下げ,これによって,初段のS/Nが改善され,ゲインも高め,インピーダンスマッ
チングが最適なものとなっていました。また,このエミッタフォロアによってミラー容量が全く存在しなくなり
電流値を3mVと十分に大きくして,三段目とのスルーレイトを問題のないものとしていました。この段にも
ローカル負帰還をかけ裸特性を改善していました。

三段目は,ダーリントン・エミッタ接地コンプリメンタリー・プッシュプルのプリドライブ段で十分なゲインと十
分なローカル負帰還を確保し,トランジスタ方式で安定化されたバイアス回路を備えていました。コンプリ
メンタリー回路のためお互いが負荷として定電流回路として動作し,そのため,プートストラップ回路の省
略が可能となっていました。そして,エミッタに高抵抗を2つに分割して挿入して55dBの裸ゲインに25dB
のローカル負帰還をかけてこの段での歪を抑えていました。この段には,抵抗とともに高速応答回路を構
成するスピードアップコンデンサが挿入し,ここのチャージがエミッタを通して逆向きに放充電されてスルー
レイトをさらに高めていました。

この3段目までがA級プッシュプルで,10mAという十分に余裕あるアイドリング電流の流されているドライ
ブ段がこれに続いていました。そして,その段間には進み位相補正回路が挿入されていました。位相が遅
れると周波数は落ち,逆に位相が進むと周波数は上がります。ドライバ段の前に挿入された進み位相補正
回路は,初段の差動アンプの場合と同じ動作で,ドライブ段での超高域の下降をその分だけ位相を進めて
上昇させる回路でした。当時一般的に使われていた,ベース・コレクタ間にコンデンサーを挿入して位相を
遅らせてハイカットするタイプの位相補正回路に比べ,スルーレイトの劣化等の音質への悪影響も少ないと
いうものでした。



出力段は,Pc100Wのパワートランジスターを用いたダーリントン・エミッタフォロアによるコンプリメンタリー
トリプルプッシュプル方式で,保護用ミューティングリレーを通して両ch・8Ω動作,20Hz~20kHzで150W
×2の大出力が実現されていました。200mAという大きなアイドリング電流を流すことで,約1WまでA級動
作し,実使用時の音量では,ほとんどA級プッシュプル回路としてはたらき,大出力アンプながら,小出力時の
歪率の悪化も認められないすぐれた特性を実現していました。
過電流に対する保護もかねてエミッタに挿入された抵抗は,初段と同じく中点電位のバランスをニュートラル
に保つことにも役立っており,全段プッシュプル構成によって,出力の中点電圧は,温度変化や±20%の電
圧変動に対しても,±10mV以内に収められていました。



電源部は,600VAの大型カットコアトランスと40,000μF・70WV×2の大容量コンデンサというクラス最
大の電源構成がとられ,両ch動作8Ω連続出力,両ch連続150W+150Wを余裕を持って実現し,瞬間
の実際的なミュージックパワーでは200Wを余裕を持ってクリアするほどでした。
電源回路は,3系統に分かれていて,1つは,600VAの大型カットコアトランス(励磁電流100mA以下)よ
り大容量ブリッジ整流ダイオードを通して,40,000μF・70WV×2の大容量コンデンサーで平滑される出
力段用の±55V電源回路,2つ目は,プリドライバ段に使用する±60V電源で,独立に巻かれた2次巻線よ
り整流される負荷電圧検出形式による定電圧回路,そして,もう一つは,サブソニックフィルターや保護回路
その他に使用する±30V電源回路で,9ダイオード,6トランジスタ使用という構成となっていました。

DCP-3001には,カットオフ周波数16Hz,18dB/octのサブソニックフィルターが搭載されていました。回路
形式は,通常のエミッタフォロアの代わりにPNP-NPNの二段直結型を採用し,トランジスターを片チャンネル
あたり3石構成で,100%のトーンアンプの負帰還によるゲイン0dBのアンプを用いたアクティブフィルターで
した。大振幅時にも歪の劣化がほとんどなく,出力電圧は15V以上となっていました。ONのままでも音質へ
の影響は抑えられており,OFFの時はバイパスされるようになっていました。

その他の機能としては,OFF/50W/100W/150Wの切換式のパワーリミッタが装備されており,設定のパ
ワーを越えてクリップが起きるとクリップインジケーターが点灯して知らせるようになっていました。
フロントパネルには,VU表示のレベルメーターが設けられ,測定器的な,業務用的な外観イメージを作って
いました。メーターはdB表示で,メーターレンジは,OFFと0dB/-10dB/-20dBの4段切換になっていまし
た。
保護回路は,アンプ自身に対して5重に,スピーカーに対して2重に設けられ,合計7重の保護回路が設けら
れていました。アンプに対しては,負荷がショートした状態でスイッチONにした場合にはリレーがOFFのまま
動作しないようになっており,使用中に負荷がショートした場合には電源ラインのヒューズが溶断するようにな
っていました。さらに,ヒューズが溶断しないか,あるいは溶断するまでの間にトランジスタのS/B破壊が起き
ないように電流リミッタが作動し,あるいは過電流検出回路が動作してリレーをOFFにするようになっていまし
た。そして,スピーカーのインピーダンスが2Ω以下になると専用検出回路によってリレーがOFFになるように
なっていました。スピーカーに対しては,出力端の直流電流が±2V以上変動するとリレーがOFFになり,また
電源ミューティング回路によってスイッチONから4秒間はリレーOFFの状態が続き,保護するようになってい
ました。

以上のように,DCP-3001は,三洋電機がオットーブランドの最高級パワーアンプを作ろうとした意欲作で,
負帰還のかけ方など,当時の多くのアンプの常識的な技術に対しても見直しが図られていました。金田式ア
ンプをメーカーがつくったとも言われた中身は,今見ても興味深いものがあるのではないかと思います。民生
用のアンプながら,測定器をも思わせる業務用機器的な機能的な外観にも,オットーブランドの当時の熱意
が表れていたと思います。


以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。



豊熟放射を希うハイパワーアンプ
ゆったりの豊熟放射

◎「思想的回路」と呼ぶべきです
◎全段完全対称 コンプリメンタリィ・プッシュプル
◎初段はダイナミックレンジ
◎負帰還への痛烈な反省
◎超スルーレイト・・・・60V/μs
◎二段目はエミッタフォロア
◎高速応答回路
◎進み位相補正回路
◎1Wまで純A級の超低歪300W
◎40,000μF・70WV×2
◎存在しないサブソニックフィルタ
◎7重の保護回路
◎裸で使えます,裸特性




●SPCIFICATIONS●

回路方式  差動増幅全段プッシュプル直結SEPP OCL方式 
実効出力
(20Hz~20kHz 歪率0.1%) 
a.2ch動作,8Ω負荷
 150W+150W
b.2ch動作,4Ω負荷
 250W+250W
c.1ch動作,8Ω負荷
 180W+180W
d.1ch動作,4Ω負荷
 300W+300W
全高調波歪率 a.両ch・定格出力時
 0.1%以下
b.1W出力時
 0.02% 
混変調歪率  a.両ch・定格出力時
 0.2%
b.両ch・1W出力時
 0.05% 
出力帯域幅(歪率0.1%) 10Hz~50kHz 
周波数特性  15Hz~100kHz(+0,-1dB)
SN比  105dB 
残留ハム&ノイズ  0.2mV 
入力感度/インピーダンス  1.2V/30kΩ 
スルーレイト  60V/μs 
ダンピングファクタ  80 
サブソニック・フィルタ  16Hz・18dB/oct 
使用半導体  トランジスタ87,ダイオード76 
寸法  470W×186H×400Dmm 
重量  23kg 
※本ページに掲載したDCP-3001の写真,仕様表等は1975年のOTTOの
 カタログより抜粋したもので,パナソニック株式会社に著作権があります。
 したがって,これらの写真等を無断で転載・引用等することは法律で禁じら
 れていますのでご注意ください。

  
 
 
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