1980年に,ビクターが発売したカセットデッキ。1978年にメタル対応デッキの「KD-A1桁シリーズ」をいち早く発
売し,メタル対応カセットデッキで高い評価を得ていたビクターは,1980年代に入り,新たにDD方式によるすぐれ
た走行系を採用した「DD-1桁シリーズ」を発売しました。そのシリーズの中のトップモデルがDD-9でした。
DD-9の走行系は,シングルキャプスタン方式でしたが,高い回転精度をめざして新開発のパルス・サーボDDモー
ターを搭載していました。このモーターは,同社のすぐれたDDフォノモーターの技術をベースに開発されたカセットデッ
キ用のDDモーターで,基本形状は,4相8極平面対向ブラシレス・スロットレス・コアレス・FGサーボ・ダイレクト・ドラ
イブとなっていました。ブラシレスとすることでノイズや火花の原因となる機械的接点をなくし,ビクター中央研究所で
開発されたホール素子が,極性のスイッチングを行うようになっていました。さらに,コア,スロットを取り去り,コッキン
グなどの回転ムラやノイズの低減を行っていました。そして,高精度なFG(周波数発電機)サーボにより高い回転精
度が確保されていました。204極102パルスの全周積分方式となっており,FGマグネットはキャプスタンと同軸,基
盤のセンターを保持してから着磁する方式がとられ,位置的なズレを抑えた高精度な構造となっていました。また,
温度上昇によるトルクムラを防ぐために,温度特性にすぐれ,きわめて精度が高く,駆動力を一定に保つようバランス
させるダブル差動コンバート回路によるオートバランス回路が搭載されていました。これに加え,水晶発振の高い精
度を利用したクォーツロック制御が採用され,サーボ回路の精度が高められていました。フライホイールには,変調ノ
イズに有効な複合材質が採用され,鳴き(振動)によるフラッター成分や高域のにごりが低減されていました。
以上のような,高精度な走行系により,ワウ・フラッター0.019%(WRMS)という,当時,カセットデッキでは世界最
高の数値が実現されていました。
ヘッドは,ビクターが誇るセンダスト合金ヘッド「センアロイヘッド」を録音,再生,消去用すべてに採用していました。
ビクターは早くからセンダスト合金ヘッドに注目して,メタルテープの市販化前から「センアロイヘッド」として実用化し
て自社のデッキに搭載し,磁束密度の高いこのヘッドのおかげで,デッキのメタル対応も最も早かったメーカーとな
りました。
録再ヘッドは,独立した録音ヘッド・再生ヘッドが同じハウジングに入っているタイプで,それぞれ専用のギャップ幅を
設定して優れた特性を実現していました。構造的には,パーマロイ6層ラミネートコアのテープ摺動面にセンアロイ・チッ
プを高温接着した複合構造で,最大磁束密度が高く,耐摩耗性,耐食性,コア損失などにも優れた特性を持っていま
した。さらに,再生ヘッドは,低域特性を高めるためにセンアロイ・チップを斜めにカット(X-cut)し,形状効果=コンター
エフェクト)をなくした,X-cutSA(X-カット・センアロイ)録再ヘッドとしていました。
消去ヘッドには,2ギャップセンアロイ消去ヘッドを搭載していました。構造的にはバックコアにフェライトを用い,前面
コアにセンアロイ・チップを用いることで,フェライトの優れた高周波での特性と,センアロイの高い最大磁束密度耐摩
耗性を兼ね備えた優れた性能を持っていました。
ヘッドアンプは,ダブル差動アンプを使用したダイレクトカップリングとされ,マイクアンプ,録音アンプ等も±2電源によ
るDC構成アンプとされていました。音声信号の通るアンプは極力DC構成とされ,コンデンサーによって発生する歪や
ノイズ,位相の変化を減少させ,過渡特性も改善されていました。
ノイズリダクションとして,ビクター独自のANRSとスーパーANRSが搭載されていました。ANRS(アンルス)は(Auto-
matic Noise Reduction System)の略で,ビクターが4チャンネルシステムCD-4の開発時にディスクの中高域ノ
イズを抑える目的で開発したもので,高域ノイズを最大10dB低減する効果があり,ドルビー(Bタイプ)とよく似た動作を
するため,ドルビーとの互換性もあるというものでした。スーパーANRSは,このANRSをさらに発展させたもので,高域
リニアリティ,ダイナミックレンジ等の向上効果ももたせたものでした。反面,ドルビーとの互換性はありませんでした。
テープセレクターは,NORMAL,CrO2,METALの3ポジションが装備され,さらに,テープ1本1本にジャストチューニン
グするマイクロ・コンピューターによるB・E・S(Bias=バイアス Equalizer=イコライザー Sensitivity=感度)tuning
が搭載されていました。
レベルメーターは,DDシリーズを機に新開発された2色FLデジタル・レベル・メーターが搭載されていました。L・Rそれぞ
れ18セグメント,1セグメント20ドットの蛍光表示板で,明るい表示が実現されていました。ピーク・VU切替が可能で,ピ
ーク表示時には,立ち上がり・立ち下がり時間に制動をかけて見やすくし,オートマチックに最大2秒間のピークホールド
されるようになっていました。そして,録音レベルボリュームは,当時として斬新な回転ノブやスライドボリュームのない,
モータードライブによるタッチ式となっていました。
テープカウンターは,4桁電子カウンターで,通常のカウンター表示に加え,ストップウォッチに切り替えると,走行経過時
間表示にもできるようになっていました。このテープカウンターは2点のメモリー機構が装備され,オートリワインド機構との
併用で2点間リピートが可能となっていました。
以上のように,DD-9は,新しいDDシリーズのトップモデルとして,走行系,ヘッド,操作系等,新開発の技術を投入し,す
ぐれた性能と機能性を確保していました。デザイン的にも,それまでの同社のカセットデッキとはイメージを一新したすっき
りと洗練されたものとなっていました。前モデルのKD-Aシリーズに比べ,よりレンジが広がりながらも,低域から中域のしっ
かりした充実した音が実現されていました。
Victor DD-7
STEREO CASSETTE DECK ¥89,800
また,DD-9には弟機DD-7が発売されていました。DD-9と基本メカニズム,構成等は同一で,基本性能も同一ながら,
機能的には,B・E・Sチューニングが省略されてRECイコライザー微調整となり,4桁電子カウンターは通常の3桁メカニ
カルカウンターとなり,メモリー機構が2点から1点になるなどいくつかの部分が簡略化されていましたが,コストパフォー
マンスにすぐれた中級デッキとなっていました。
あくまで基本性能。
そのうえ多機能。
デッキの歴史をつくる
ビクターの先進技術。
●主な仕様●
|
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トラック方式 | コンパクトカセット・ステレオ | コンパクトカセット・ステレオ |
ヘッド | (消去用)2ギャップSA(センアロイ)×1 (録音用)SA(センアロイ) (再生用)X-cutSA(センアロイ) コンビネーション×1 |
(消去用)2ギャップSA(センアロイ)×1 (録音用)SA(センアロイ) (再生用)X-cutSA(センアロイ) コンビネーション×1 |
モーター | (キャプスタン用)クォーツロックパルスサーボ
DDモーター×1 (リール用)DCモーター×1 |
(キャプスタン用)クォーツロックパルスサーボ
DDモーター×1 (リール用)DCモーター×1 |
ワウ・フラッター | 0.019%(WRMS)当社テストテープによる | 0.021%(WRMS)当社テストテープによる |
周波数特性
(メタル) |
(−20VU録音)15〜20,000Hz 25Hz〜18,000Hz±3dB (0VU録音) 25Hz〜12,500Hz±3dB |
(−20VU録音)15〜20,000Hz
25Hz〜18,000Hz±3dB (0VU録音) 25Hz〜12,500Hz±3dB |
SN比 | (ANRS-OFF)60dB(WTD,1kHz,3%3次高調波歪率,メタル) (ANRS-ON)1kHzで5dB,10kHzで10dB向上 |
(ANRS-OFF)60dB(WTD,1kHz,3%3次高調波歪率,メタル) (ANRS-ON)1kHzで5dB,10kHzで10dB向上 |
電源 | 100V AC,50/60Hz | 100V AC,50/60Hz |
寸法 | 450W×110H×325Dmm | 450W×110H×330Dmm |
重量 | 7.6kg | 7.0kg |
1980年に,DDシリーズに新たに最上位機種としてDD-10が追加されました。DD-9をベースにしたモデルで,基本
的には同一で,ノイズリダクションがANRS/SuperANRSの組み合わせからANRS/DOLBY C-NRへと変更され
たモデルでした。DD-9の輸出モデルは,ANRS/DOLBY C-NRであったことから,この輸出モデルをベースにした
モデルであったようです。デザイン的には,フロントパネルの下側がグレーになり,ツートンカラーに変更されていまし
た。
よりクリアに,よりダイナミックに。
ドルビーCシステムを加えて
さらに多彩になったビクターの先進技術
世界最小のワウ・フラッター0.019%
を実現したパルス・サーボDDなど,
最新技術のすべてを投入
●DD-10型の主な仕様●
トラック方式 | コンパクトカセット・ステレオ |
ヘッド | (消去用)2ギャップSA×1
(録音用)SA(再生用)X-cutSA のコンビネーション×1 |
モーター | (キャプスタン用)クォーツロックパルスサーボDDモーター×1 (リール用)DCモーター×1 |
ワウ・フラッター | ±0.045%(W・Peak)
0.019%(WRMS)当社テストテープによる |
周波数特性 | メタル: 25Hz〜18,000Hz±3dB(−20VU録音) 25Hz〜12,500Hz±3dB(0VU録音) VX/クローム:25Hz〜18,000Hz±3dB(−20VU録音) 25Hz〜8,000Hz±3dB(0VU録音) ノーマル: 25Hz〜17,000Hz±3dB(−20VU録音) 25Hz〜8,000Hz±3dB(0VU録音) コンピューターB・E・Sチューニングによる周波数特性(−20VU録音) メタル: 40〜12,500Hz(±1dB) VX/クローム:40〜12,500Hz(±1dB) SF/ノーマル:40〜12,500Hz(±1dB) コンピューターB・E・Sチューニングにより,ほとんどのテープに対し ほぼ上記の範囲内に入ります。 |
周波数範囲 | メタル: 15Hz〜20,000Hz(−20VU録音) VX/クローム:15Hz〜20,000Hz(−20VU録音) ノーマル :15Hz〜19,000Hz(−20VU録音) |
SN比 | 55dB(メタルテープ) 60dB(WTD,1kHz,3%3次高調波歪率,メタルテープ) (ANRS/DOLBY B-NR ON時) 1kHzで5dB,5kHz以上で10dB向上 (DOLBY C-NR ON時) 500Hzで15dB,1kHz〜10kHzで最大20dB向上 MOL改善効果10kHzで4dB向上 |
ひずみ率 | 0.4%(1kHz,3次高調波歪率,メタルテープ) |
チャンネルセパレーション | 40dB(1kHz) |
クロストーク | 65dB(250Hz) |
入力端子 | マイク(×2):0.2mV(適合インピーダンス600Ω〜10kΩ) ライン(×2):90mV(入力インピーダンス65kΩ) |
出力端子 | ライン(×2):0〜0.5V(出力インピーダンス5kΩ) ヘッドホン(×1):0〜0.6mW/8Ω(適合インピーダンス8Ω〜1kΩ) |
電源 | 100V AC,50/60Hz切り換え |
最大外形寸法 | 450W×110H×325Dmm(ゴム足,つまみを含む) |
重量 | 約8.4kg |
※本ページに掲載したDD-9,DD-7,DD-10の写真,仕様表等は
1981年6月,1981年7月のVictorのカタログより抜粋したもので,
日本ビクター株式会社に著作権があります。したがって,これらの
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