Victor DD-V9
STEREO CASSETTE DECK ¥128,000ビクターが1982年に発売した3ヘッドカセットデッキ。ちょうどAKAI,TEACなどデッキの有力メーカー
各社が3ヘッドデッキのリバース化に取り組んでいた時期で,ビクターも3ヘッドデッキの一連のシリーズ
のリバース化を実現して発売しました。そのシリーズの中での最上級機がDD-V9でした。DD-V9のリバース機構は,ヘッドそのものが回転するロータリーヘッド方式で,ビクターは「FINE AXIS
REVERSE SYSTEM(ファイン・アクシス・リバース・システム)」と呼んでいました。このリバース機構
は,アジマスをはじめとする初期性能を長期間安定維持できる耐久性を考えた設計が行われていました。
構造的には,ヘッドマウントベースと,回転部分のヘッドホルダーに大きく分かれ,ヘッドホルダーを受け
るアジマス調整スクリューの先端にルビーを圧入した「ジュエルロック」として,狂いを防いでいました。ま
た,ヘッドホルダーのルビーの当たる部分にステンレス製のクランププレートが巻き込まれており耐摩耗
性を高めていました。部品精度はすべてダイカスト精度としては最高度の精密加工の10ミクロンオーダ
ーとなっていました。
回転部分は,すべりがよく,温度特性の優れた特殊フッ素コーティングが施され,オイルやグリースと異な
り,安定した摩擦係数を確保し,長期間の使用にもガタがなくスムーズな回転が確保されていました。
ヘッドはヘッドクランプに入れてからヘッドホルダーの圧入された構造になっていました。この構造により,
フォワード方向,リバース方向とも各々独立したアジマス調整,ヘッド高さ調整が可能になり,両方向とも
ヘッドとテープの位置関係を正確にとることができるようになっていました。ヘッドはビクター自慢のセンダ
スト合金ヘッド・SA(センアロイ)コンビネーション・3ヘッドが搭載されていました。A面からB面へのテープ反転は,テープのガイドピン埋め込んだ赤外線センサーによってテープのリーダー
部を検出して反転する方式で,0.4秒のクイックリバースを実現していました。メカニズムは,2モーター・
フルロジック+メカ駆動用モーターのサイレント・メカが採用され,マイコン+カム駆動による確実で静かな
動作が実現されていました。
走行系は,ビクターの上級機伝統の高精度なサーボ系を持つ「パルス・サーボDDモーター」が搭載されて
いました。160極80パルスの全周積分型のFGサーボで,位置的なズレが起きないようにFGマグネットは
キャプスタンと同軸とされ,センターを保持してから着磁されていました。温度変化や部品のバラツキによる
回転精度への影響を吸収するマルチ・プライド・ブリッジ回路も搭載され,複雑なリバースデッキの走行系と
して精度と信頼性を高めていました。
DD-V9には,コンピュータでテープごとにバイアス,イコライザー,録再感度を自動調整する「B・E・Sチュー
ニングシステム」が搭載されていました。スタートボタンを押すだけで約15秒でチューニングができるように
なっていました。
そのほか機能的には,多機能な4桁表示のデジタルカウンター,「4デジカウンター」が搭載されていました。
このカウンターは,4桁のデジタル表示によるテープ走行の表示以外に,A面からB面にリバースすると自動
的にB面の表示に切り替わるテープ残量時間表示,A,B両面にまたがってテープ走行時間が加算されるス
トップウォッチ表示,さらに前後20曲の飛び越し選曲機能の4つの機能を持っていました。また,曲の頭の部
分を10秒間ずつ再生しながらA面,B面にわたって走査するインデックス・スキャン,途中まで録音してあるテ
ープの12秒以上ある無録音部分(ブランク)を探し,自動的に曲の終わりまで戻ってブランク部分を4秒間送
って止まるブランク・リサーチ,REC状態で押すと無音スペースを4〜5秒自動的に設定してRECポーズ状
態になるオートREC MUTE,通常のSTOPメモリー,PLAYメモリーの他にSTOP,PLAYの両メモリーを併
用しての2点間のブロック・リピートなど,便利な機能を装備していました。ノイズリダクションとしては,DOLBY
-Bと互換性のあるANRSとDOLBY-Cを搭載していました。
以上のように多機能ながら,スライディング・コントロールパネル内にスイッチ類が格納され,すっきりしたデザ
インと多機能を両立させていました。DD-V9は,新開発の「FINE AXIS REVERSE SYSTEM」により,それまでの同社の一連のデッキのシ
リーズで培ってきた技術(SAヘッド,メタル対応,パルスサーボDD・・・)にリバース機能を加えた3ヘッドリバ
ースデッキでした。そして,当時各社が取り組んでいた3ヘッドデッキのリバース化への挑戦の中の1台でも
ありました。ビクターらしい明るい音を持つ,使いやすい高性能デッキでした。
以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。
◎ファインアクシス・リバース・システムによる
3ヘッド録再クイック・リバース
◎シンプルデザインを実現した
スライディング・コントロールパネル
◎高性能走行系を実現した
パルス・サーボDDモーター
◎SA(センアロイ)コンビネーション3ヘッド
◎4デジ・カウンター(テープ残量時間直読,20曲選曲
ストップ・ウォッチ,4桁電子カウンター)
◎テープ1本1本の個性に対応する
コンピューターB・E・Sチューニング
◎WドルビーB-C NRシステム
◎オートREC MUTE
◎曲のイントロを10秒間ずつ連続再生する
インデックス・スキャン
◎テープのブランク部分をさがすブランク・サーチ
◎2点メモリー,ブロックリピート
◎リモートコントロール端子(前面)
◎ピークホールド付2色FLピーク・メーター
◎セーフティ・ロック付タイマー・スタート
◎オート・テープ・セレクト
トラック方式 | コンパクトカセット・ステレオ |
ヘッド | 消去(2ギャップフェライト)×2
録音(SA),再生(フェライト)コンビネーション×1 |
モーター | キャプスタン用パルスサーボDD×1
リール用DCモーター×1 メカニズム駆動用DC×1 |
ワウ・フラッター | ±0.07% W・Peak
0.035% WRMS |
早巻時間 | 約90秒(C-60) |
周波数特性 | メタル 25Hz〜18,000Hz±3dB(−20dB録音)
25Hz〜12,500Hz±3dB (0dB録音) クローム25Hz〜18,000Hz±3dB(−20dB録音) 25Hz〜 8,000Hz±3dB (0dB録音) ノーマル25Hz〜17,000Hz±3dB(−20dB録音) 25Hz〜 8,000Hz±3dB (0dB録音) |
周波数範囲 | メタル 15Hz〜20,000Hz(−20dB録音)
クローム 15Hz〜20,000Hz(−20dB録音) ノーマル 15Hz〜19,000Hz(−20dB録音) |
SN比 | 55dB(メタルテープ)
60dB(WTD,1kHz,3%3次高調波ひずみ率,メタルテープ) ANRS DOLBY B-NR ON時1kHzで5dB,5kHz以上で10dB向上 DOLBY C-NR ON時500Hzで約15dB,1kHz〜10kHzで最大20dB向上 MOL改善効果10kHzで4dB向上 |
ひずみ率 | 0.4%(1kHz,3次高調波ひずみ率,メタルテープ) |
チャンネル
セパレーション |
40dB(1kHz) |
クロストーク | 65dB(250Hz) |
入力端子 | ライン(×2):80mV(入力インピーダンス80kΩ) |
出力端子 | ライン(×2):0〜0.5V(出力インピーダンス5kΩ)
ヘッドホン(×1):0〜0.6mW/8Ω(適合インピーダンス8Ω〜1kΩ) |
電源 | 100V AC,50/60Hz |
消費電力 | 32W |
リモコン端子 | ミニホーン・ジャック |
最大外形寸法 | 435W×110H×277Dmm(足,つまみを含む) |
重量 | 約6.5kg |
※本ページに掲載したDD-V9の写真,仕様表等は1982年12月
のVictorのカタログより抜粋したもので,日本ビクター株式会社に
著作権があります。したがって,これらの写真等を無断で転載・引
用等することは法律で禁じられていますのでご注意ください。
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